恵まれた血筋と才能をネタ職業でふいにするクズ 作:ひよこ鑑定士
「こんなとこか」
俺はムメイから貰った性転換薬を服用した。
事前に買った赤色のドレスを着て、ちょちょいと化粧をすれば──うん、どこからどう見ても恥ずかしくないエロい令嬢の完成である。
ドレスの生地は少し安っぽく見えるようにした。
派手な装飾品は付けず、化粧も素の顔の良さを活かすようなナチュラルメイクに留め──
おまけに肌の露出は最低限に抑えるが、胸元だけは屈めばしっかり谷間が見える仕様だ。
「立場はあくまであっちが上にして優位に立たせる。貴族令嬢が相手だと多分警戒しちまうからな」
平民には手が届かないが高級宿屋のオーナーたる自分ならもしや……と思わせることが最大の狙いだ。
誘惑とは美しさだけでは足りない。
自分ならイケるかも、と男心と性欲を刺激することが大事なのだ。
「全部自分の性欲に置き換えたらポンポン考えが浮かんでビックリしたよね」
あとはもう一つの性転換薬をワインのボトルにジョボジョボと入れてしまえば……これで準備は万端だ。
おっさんをおばさんにする準備がな。
☆☆☆
「ようこそ宿屋グローカスへ。ご宿泊ですかな?」
「ごきげんよう。オーナーのヴィル様ですね? 本日は商談に来ましたの」
出迎えたのは運が良いことに件のオーナー、ヴィルだった。
給仕服を着た清潔感のある初老の男性に見える。
にこやかな人の良さそうな笑顔を浮かべているその姿からは、とてもアイリスに嫌がらせをしている人間とは思えない。
だがこういった人間こそ内側に闇を抱えてるものだ。
「ふむ商談とな。事前にアポを取ってもらわないと困りますな」
「あらやだ、そうだったのね!? ……父のワイナリー引き継いだばかりなのだけれど、今一勝手が分からなくって……」
俺はわざと大袈裟に驚いて、どうしようと言わんばかりにその場にしゃがみ込む。
そしてそのまま上目遣いでオーナーを見ながら「それじゃあ出直すとします……」と言ったところ──
「それは仕方ないですな。丁度今日は暇だったんです。ぜひ商談をしましょう」
──と、思いっきり俺の胸元をガン見してニヤけるオーナーがそんなことを言った。
へっへっへ……飛んで火に入る夏の虫とはお前のことだ。
男なら誰しも上から見える谷間に逆らうことはできやしない。
「本当ですか!? 私、このまま断られたらどうしようって……アポも知らなかった私に……お優しいのですね」
「ほっ、ほほ、この業界は助け合いですからな。困っているお嬢さんを冷たく突き放すほど非常にはなれませんよ!」
瞳をうるわせて両手で優しくオーナーの手を握ると、目に見えて動揺しながら早口で綺麗事を吐いていく。
うーん、思ったより女耐性がねぇなコイツ。
普段取引してるのが貴族ばかりだからか、純粋に立場が下の美人と接することが無いんだな。それも最初から好感度が高い状態で。
アイリスに嫌がらせという陰湿で遠回りな手段を取ってるのも、自分の力で女性を手にする成功体験を積んでいないからっぽい。
仲間になれそう。
「それではこちらにどうぞ。……あ、そ、そうでした、応接室は清掃中なので、空いている客室でも構いませんな?」
おいおいおい露骨すぎるだろおい。
このままぶち込む気満々じゃねぇか。隠せよ。
とはいえ俺にとっても好都合。
高級宿屋は客室に消音魔法がかけられていることが多いからな。オーナーにとっても従業員に犯行がバレずに済むし、俺にとってもドキドキ女体化作戦が他の人にバレずに済む。
これはお互いに利のある取引だな!!
「もちろんですわ。押しかけたのは私ですもの」
「ふ、ふふ、それは助かります」
『ベッドの上でもどこでも構いませんわよ……』などと、ここでわざと誘惑するような真似はしない。
今の俺は世間知らずで懐……いや、谷間に甘い天然えちち美人だ。
変に男慣れした感じを出すとガッカリされることだろう。
オーナーも取引という体を取っているから、初っ端から襲ってくることは無いはず。情報を抜き取りながら上手く性転換薬を飲ませたいところだ。
「こちらです。少々手狭で申し訳ない」
「いえ、綺麗な客室ですわ」
「そう言っていただけるとオーナー冥利に尽きますな。──おっと、椅子が無い……しまったな……」
わざとらしすぎるだろ。童貞か?
内心で呆れつつ、俺は全力で演技を続ける。
「わ、私はベッドに座る形でも構いませんわ。……その、殿方と二人でというのは少々恥ずかしいですけれど……あっ、ご、ごめんなさい。神聖な商談ですのに……」
頬を染め、チラチラと横目でオーナーを見る。
モジモジと指を動かすのもワンポイントである。
「は、はははっ、いや私もこんな綺麗なお嬢さんと二人というのは緊張しますよ。ですが気にせずフランクにお話しましょう。さ、座って」
「はい。失礼します」
さらっと腰に手を回してきた。
演技のためなら我慢できるが、あからさまに下心を向けられるというのも中々に気色悪い体験である。俺もエロい令嬢相手にしたらこんなんなるから気持ちは分かるけどな?
はい、というわけでベッドで二人で腰掛けました。
商談って場なら絶対向かい合ったほうが良いのに。
「それで、君が持ってきたのは……その籠に入ってるものですかな」
「はい。父の代から受け継いだワインですわ。品質も味も確かだという自負があります!」
「ふむ……確かに見たことないラベルだが……色味は美しい」
一瞬だけオーナーは性欲を消し、経営者として純粋に値踏みするような目をしてワインを手に取りしげしげと眺める。
このために俺はわざわざワインを買ってラベルを張り替えたんだからな。流石にグローカスのオーナーともなれば、大体のワインの銘柄は頭に入ってるだろうし。
「ぜひお飲みになっていただけると父も喜びますわ。あのグローカスのヴィル様にうちのワインが! って……うふふ」
「ほほ、では飲んでみましょうか」
俺の言葉に再び性欲スイッチが起動したオーナーは、近くの戸棚からグラスを二つ取り出すと、感心できるほどの美しい所作で二人分のワインを注いだ。
「疑っているわけではありませんが……これでも高級宿屋のオーナーです。先に飲んでいただいても?」
……まあ、流石の警戒心か。
俺の演技は完璧だ。疑っているわけではないというのは本心だろうが、念の為毒物を警戒しておくのは恨みを買いやすい立場であること自覚があるからだろう。
ふふふ、だから俺は男の姿で商談に挑まなかったんだ。
女体のほうが事をうまく運ばせやすいってのはあるが、一番大きな理由は──性転換薬を飲んでいる間は、もう一度飲んでも男の姿に戻ることは無いからな!!
性転換薬は一度飲むと効果が切れるまでそのままだ。
男が女になると、女になった後に性転換薬を飲んでも戻らない。そのまた逆も然りだ。
「ええ、もちろんですわ」
俺はワインをグビッと飲んだ。
性転換薬は無味無臭だから普通に美味しい。
俺が飲んだことを確認したオーナーは、安堵したように自分もワインに口をつけた。
「……ふむ、これは──ヴァイテルワイナリーの46年産ですな? なぜ私を騙すような真似を?」
オーナーはワインを飲んだ瞬間、一気に警戒心を顔に滲ませて立ち上がる。
「流石に長年この業界を牛耳ってるだけあるな。一口で気づくとはね」
「貴様は……誰だ!! もしやこのワインに毒物が……!!」
焦りと怒り、それを滲ませたオーナーはチラリと部屋の扉を見てグッと歯噛みした。位置取り的に俺の方が扉に近いからな。
消音魔法のせいで助けを呼んでも意味がないし、俺が刺客だった場合は力で押し通すこともできないと考えているのだろう。
自分の性欲が仇になったな。バカめ(盛大な自虐)。
「安心しな。毒じゃない。それは薬だ」
「薬、だと……?」
俺はここで明らかにする。性転換薬の起源を。
「俺が混入した薬は性転換薬。
「なっ……せ、性転換薬だと……!? なんのために……!」
「それはこれから分かることさ」
──チェックメイト。
そろそろかなとパチンと指を鳴らすと、オーナーは自分の体の変化に気づいたのか、不意に股間を右手で押さえた。
「な、無い!! 私の23cmが!! ムスコが!! そ、それに体がなんかおかしく──ん、んおおおおぉぉ♡」
ぷしゅ〜〜と体から煙が噴き始めた。
何とも聞きたくないおっさんの喘ぎ声を聞くこと数十秒。
現れたのは死ぬほどおっぱいがデカい妙齢の美女だった。
ごくり……抜ける……。
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