恵まれた血筋と才能をネタ職業でふいにするクズ   作:ひよこ鑑定士

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最後にモノを言うのは権力

 現れた妙齢の美女に生唾を飲む俺だったが、脳内にオーナーの元の顔がチラつくせいで流石に勃ち上がることは無かった。

 煩悩を振り払った俺はそのまま【女体鑑定士】としての能力を起動した。

 

「女体ウォッチャー!」

 

 適当につけた技名だ。意味はない。

 

──────────

ヴィル

 

職業:【宿屋マスター】Lv.64

年齢:51歳

 

tips:帝都の宿屋業界を牛耳っている宿屋グローカスのオーナー。実は童貞。

幼少期から青年期まで我欲を捨てて宿屋の経営を学んでいたが、その反動で中年を迎えた今、性欲に頭が支配されたエロ親父と化す。

人一倍プライドが高く、自身に与えられた職業が【宿屋王】の下位職だったことがコンプレックスで、先代の【宿屋王】を暗殺ギルドに依頼し殺害した。

先代【宿屋王】の娘に【宿屋王】が与えられたことを確認したヴィルは、今現在その娘を手籠めにすることで自身のコンプレックスの解消を目論んでいる。

 

グローカスを繁栄させるために後ろ暗いことを多くやってきたが、貴族のパトロンの虎の威を借りることで全て揉み消した。

直近の犯罪履歴は以下の通り。

 

・帝国法143条『独占禁止法』に抵触。

・帝国法64条『恐喝罪』に抵触。

・帝国法171条『課税権の侵害』に抵触。

・帝国法38条『殺人罪』に抵触。

・帝国法44条『暴力罪』に抵触。

・帝国法311条『違法認識阻害術の行使』に抵触。

・帝国法202条『禁止薬物の所持』に抵触。

・帝国法145条『偽計業務妨害罪』に抵触。

・帝国法22条『窃盗罪』に抵触。

・帝国法196条『贈収賄罪』に抵触。

・帝国法85条『詐欺罪』に抵触。

・帝国法55条『違法労働罪』に抵触。

 

【証拠が残っている物】

・自宅地下室の金庫に裏帳簿、偽造された魔法契約書あり。

・自宅書庫の隠し部屋に禁止薬物あり。

・私室に高価贈答品の領収書複数。

・自宅地下2階に認識阻害術を行使した魔石あり。

 

『未解禁情報』

スリーサイズ:B[?]W[?]H[?]

性癖:??????

現在のあなたへの好感度:???

 

※鑑定者の好みではないため閲覧できません。

──────────

 

 トントントンとリズミカルにベッドの縁の木盤を叩きながら俺は叫んだ。

  

「思ったよりドス黒いじゃねーか!!!」

 

 犯罪!!! 犯罪!!! 犯罪のオンパレード!!

 黒いどころじゃねぇ!! アイリスの親父さん殺してんじゃねーかお前!!! 流石に人間のクズを超えたクズだろ!!

 

 ……ふぅ、実は童貞とかいう強エピソードが霞む犯罪履歴だった……。

 

「コンプレックスで人を殺してんじゃねぇよ」

「な、なにを……」

 

 どう声をかけようか迷った。

 だが自分で思うよりドスの効いた声が出ていた。

 

「どれだけ辛くても、どれだけ差があっても、諦めずに正しく前に進むべきだった。そのコンプレックスは、正しく努力をした人間にしか解消できないんだよ」

「お、お前に何が分かる……!!」

 

 悪事がバレたことよりも、オーナーはコンプレックスを指摘されたことが怒りの要因になった。

 

 ──バツンっ!!!

 

 思い切り立ち上がったことが原因で、オーナーの上半身の服が消し飛んだ。

 ばるんっ、と途轍もなくデカいおっぱいが現れる中で、俺はシリアスな空気を保ったまま話し続けた。

 

「嫉妬で罪の無い人間を殺すクズのことが分かるかよ」

「私は……私の人生が間違っていたとは思わん!」

「正しい努力をした時期だってあっただろうよ。だが、一度道を踏み外して"楽"を憶えると、途端に人は堕落する。さぞかし楽だっただろうな。短絡的にライバルを消す手段があることは」

 

 流石に怒ってる最中に興奮するほどバカじゃない。

 早く仕舞えよその汚い胸をよ。

 

「ふんっ、貴様が何を知っているのか知らんが、証拠はあるのか証拠は。ハッ、もし仮にそんなものがあったとしても揉み消すことは容易いだろうがな!! 私を女体化した目的はどうであれ、時間経過で戻る薬物だろう! 戻った暁にはお前に地獄を見せてやる!! あのアイリスとかいう小娘もだ!!」

 

 よく吠えるおっぱいだなまったく。

 ようやく自分の知られるはずの無い情報が握られていることを自覚したか。

 自覚した上で吐く言葉がそれなら救いようは無い。

 

 

 ──さて、と。

 ア(・)イ(・)ツ(・)の持つ【影移動】ならもう終わってるかな?

 

「ムメイ」

「ハッ。証拠を集めてまいり──ブフォッ、ました。く、くく……あ、こちらはコピーです……フッ。原本はすでに上に提出してあります……なんですかこの状況」

「仕事が速いにもほどがある」

 

 呼ぶとムメイが現れた。

 なぜか俺とオーナーを見て肩を震わせている。流石の所業にムメイといえども怒りを覚えているのだろうか。

 

 まあ、それはさておき、俺は鑑定結果を音信号を打ちながら読んでいた。それは俺の影(・)に潜むムメイにリアルタイムで共有され、恐らく聴いてすぐに仕事を始めたのだろう。

 にしても証拠を集めてコピーして原本を上に提出して……って有能すぎて怖い。なんでまだ俺の護衛してんの。幻滅してないの。怖い。

 

 謎だし怖すぎて【女体鑑定】を使う気にならない。

 使ったら殺されそうな気がして。

 

「なっ……なっ……」

「チェックメイトだな」

 

 口をパクパクと驚きから何も言えなくなるオーナー。

 だがすぐに半笑いで反撃してきた。

 

「そ、そんなものがあろうと私と懇(・)意(・)に(・)し(・)て(・)い(・)る(・)方々が揉み消してくれる!! お前のような何の権力もない小娘が私を陥れると思うな!!!」

 

 ま、その通りっちゃその通りだな。

 貴族全員が腐っているわけではないが、一部が終わってるのもまた事実。ただの平民が証拠を提出したところで揉み消されて終わりだ。

 

 ……追放されてっからあんまり肩書き使って父上に迷惑をかけたくないんだがな。

 こればかりは見逃せない。力の使い所はここにある。

 

「なあオーナー。なぜ俺が性転換薬を飲んでも性別が変わってないと思う?」

「なに…………? ──ハッ」

 

 俺の言葉に訝しげに眉を顰める。

 そして一つの可能性に思い至ったのか目を見開く。

 

 ──そして丁度良いタイミングで、俺の体から煙が迸る。

 まさしくスケジュール通りではあるけども。

 

 

「──やあ、久しぶりだね。オーナー」

 

 

「ら、ライズ殿下……ッ!!!」

 

 

 

 煙が晴れて明らかになった俺の素顔を見たオーナーは、目ん玉が飛び出るくらい驚愕に表情を染めながら膝をついた。

 どうしようもないことが分かり、絶望したのだろう。

 

 

「くっ……し、死ねええええ!!!」

 

 

 突如叫び声をあげたオーナーが、懐に忍ばせていたナイフを手に襲いかかってきた。

 短絡的手段に今まで頼ってきて、最後に頼るものもそれか。

 

「部屋が綺麗だ、って言ったのは本音だったよ」

 

 振りかざした凶刃を難なく躱し素早く懐に入った俺は、肘で手に持つナイフを弾き飛ばし、最小限の動きで鳩尾を加減しながら殴った。

 

「ぐぁっ……あぁぁぁぁあっ!」

 

 腹を押さえながら苦しむオーナーを見下ろした俺は、息を吐いて踵を返した。

 

「もう呼んでるんだろ、憲兵。あとは国家権力に任せるぜ」

「ですね」

 

 もう用は無い。

 見つかった証拠が証拠なだけに死刑を免れることはできないだろうが、それもこれも全て身から出た錆に過ぎない。

 罪を償うにはもう、人を傷つけすぎている。

 

「くそっ……童貞のまま死ぬわけには……!!」

「山とセックスでもしておけカス」

 

 呆れ果てた俺はそう言い残して部屋を去った。

 ……俺の辞世の句もそうならないよな?

 

 

 

 

 

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