魔訶不思議大冒険 作:一番好きなのは界王拳
――雄英体育祭まで残り二週間。
翌日の休みに龍星は一人中庭で突っ立っていた。
「はぁあああああ……!!」
両拳を腰に。
丹田に力を入れ、気を一気に放出させる。
体を前のめりに屈め、限界まで気を高めるが、白い炎を纏うだけで変化はなく、次第に炎が消えるように消失する。
やはり超サイヤ人にはなれない。
脳無のような存在があれで終わりだったらいいが、ヴィラン連合とやらに備えるならば龍星は更なるレベルアップをする必要があった。
今回勝てたのだって、擬似超サイヤ人を発動出来たから。
奇跡は2度も起こらない。もう一度起こせる自信もない。そんなものを切り札に出来るはずもなく。
いっその事、孫悟空が初めて身勝手の極意を発動させた時のように、元気玉を自分に当てて抗って身勝手の極意を習得しようかとも考えたが、あれも偶発的に起きたもので孫悟空だってやりたくてやったわけではない。
むしろ元気玉で自分が死ぬ可能性も考えれば、それは出来そうになかった。
限界を超えた末に辿り着く領域。
超サイヤ人ブルーと界王拳の20倍の気と元気玉のぶつかり合いによって生まれたのだから、今の龍星がしたって無駄に死にかけるだけかもしれないのもあるだろう。
「となると習得すべき技はやはり切り札に使えるアレか……今の今まで習得出来てなかったけど、本格的に習得しなきゃ。体育祭までには間に合わせよう」
「今度は何の修行?」
当然のように縁側にいるねじれの疑問に龍星はなんというべきか悩み、言葉にして説明する。
「簡単に言えば、自分の
「そうなんだ。結構危なそうだね。私も使えるやつ?」
「出来るけど体に負担がかかるからおすすめ出来ないなぁ。ねじれちゃんが今より強くなりたいなら覚えてもいいと思うけど……でも俺と違って個性があるから、もしかしたら負荷を軽減出来るかもね」
「うん、じゃあ習得する。だってビート君と並び立ちたいからね。これからも」
「そっか、じゃあ一緒に身につけよっか! ただし無理だと思ったら使わないこと! この技は俺の憧れの人が使ってた技だから地球人が使ってた技じゃないからね」
龍星は危険である技ということを知ってるため、おすすめは出来ないと言ったがねじれが決めたならば龍星は断ることはしない。
彼女の意思が大切なのだから。ただ注意だけはする。
龍星がこれから身につける技は、北の界王様考案の、元気玉に並ぶとされる奥義。その名を、“界王拳”。
体中のすべての気をコントロールして瞬間的に増幅させる技であり、上手くいけば火力・スピード・パワー・防御力が全部何倍にもなる。
ただし、その代わりに肉体に対する負荷は恐ろしいほどに凄まじい。
倍率を無理なく上げるには肉体の地力そのものを底上げするしかなく、神の気を持つ超サイヤ人ブルーであれば強さを併せ持つため、20倍の使用すら可能にすることから気である程度のカバーは可能だと思われる。
しかしそれでも大幅な体力消耗を強いられるため、龍星が身につけても高倍率を使うならば短期決戦になるだろう。
気のコントロールが重要視される力。コントロールを誤れば己の身を壊すことになるが、逆に言えばコントロールを極めれば絶大な力になるのが界王拳。
限界を越える力を発揮出来るならば、超サイヤ人になれない龍星には習得するに相応しい技でもある。まぁそんな彼も今の今まで優先度が低かったとはいえ会得できなかったのだが。
理論上は人間でも使用可能であり、事実ゲームでは地球人であるクリリンやヤムチャも使用したことはある。
まぁ本編で孫悟空以外に使ったことがないことから習得難易度は習得が容易ではないことがうかがえる。
体育祭が近づいているからといって、学校が休みになるわけではない。
その放課後に訓練のために施設を借りたりする生徒も多く居り、龍星もまた訓練場を借りに来ていた。
家では結局全力は出せないため、だいたい山に籠るくらいしか出来ないのだ。その山も私有地でないため破壊し尽くすわけにはいかないため、周りや自然に配慮しつつだが。
無論雄英はそういうの大歓迎であるため、あっさり訓練場の許可はもらった。
自分以外にも訓練場を使う人も居るらしく、そこは周りに気をつけるように言われてしまったが。
そうして訓練場を求めて歩いてると、後ろから声がかかった。
「龍星君!」
気の接近には気づいていても自分だとは思わない。
振り返った先にいるのは、やはり緑谷の姿。
「よ、よかった。まだ、帰ってなかった……!」
「どうした、緑谷。あっ、そうだ。USJの脳無の時はありがとう。お陰で助かったよ」
「いや、そんな。僕の方こそ助けるつもりが助けられたし……じゃなくてってね!」
お礼をまだ言ってなかったと龍星は感謝すると、ブンブンと首を横に振って遠慮しているのを見て、この前葉隠たちが言ってたのはこういうことかと今更ながら納得する。
しかし要件はこのことではなかったらしく、他に何かあった記憶もない龍星は“はて?”と首を傾げていた。
「そ、その……厚かましいお願いだって言うのは分かってるんだけど……龍星君にお願いがあるというか……も、もちろん無理なら断ってくれてもいいから! ただきっと……僕一人じゃダメなんだ。あの時、君が一人で戦う姿を見て僕は自分がまだスタートラインに立っただけなんだって改めて思い知った」
何かを語り出した緑谷の様子から、どうやら真面目な話らしいと察した龍星は、表情を引き締めて向き合う。
続きを促すような様子を見せる龍星に、緑谷は語り続ける。
「僕は脳無相手にやっと個性のコントロールが出来るようになった。でもまだ全然使えるとは思ってないんだ。このままじゃ僕はきっと出遅れたまま追いつけなくなってしまう。オーr……僕の師匠にも言われたんだ。体育祭ではクラスメイトたちに、君に勝って、僕が来たと世の中に知らしめて欲しいって。言われた当初は現実感がなかったけど、普通科の人の宣戦布告を聞いて、かっちゃんや麗日さん、飯田君、相澤先生の言葉を思い出して実感が湧いた……だから思ったんだ。今のままじゃ僕は勝てない。自分本位だって分かってるし龍星君にメリットなんてない。だけど……僕を鍛えて欲しいんだ! 誰よりも強くて、あの平和の象徴に対抗するための脳無を打ち倒した龍星君に鍛えてもらったらきっと強くなれると思うから。だからお願いします!!」
「緑谷……」
頭を深く下げて龍星に懇願する緑谷を見て、龍星は緑谷の名前を呼ぶと、ビクッと肩を震わせていた。
緑谷の言う通り、メリットなんてない。むしろ邪魔にすらなる。だからこそ断られる可能性も考えているのだろう。
しかしあまりにも必死なその姿を見て、龍星は思わず笑みを浮かべた。
そして――
「長いっ!! 長すぎる! 一言でまとめろ!!」
「ええっ!?」
本気で文句を言った。
ダラダラと本題に入らずに自分のことを語ったかと思えば余計な言葉が入りすぎて何が言いたいのか龍星は途中で聞くのを投げ出していた。
ぱぱっと要点だけ言えば良いのだ。誰も彼の語りが聞きたいとは言っていない。
しかしまさか断られるのではなく文句を言われるとは到底思わなかった緑谷が思わず顔を上げてしまったのは無理もないだろう。
「だ、だからね。その……僕を鍛えて欲しいんだ」
「おっけー」
「そうだよね、龍星君にメリットなんて全くないからむり――ええええええぇぇぇっ!?」
緑谷自身は真剣に、断られる覚悟すらして藁にもすがる思いで頼みに来たというのに、返答がまさかのあっけらかんとした一言。
ぶっちゃけ断れると思っていた緑谷は大声で叫んでしまい、流石に煩くて龍星は両耳を押さえていた。
「そ、そんなあっさり……! 龍星君にメリットなんてないんじゃ……!?」
「そう? 俺はあると思うよ」
「……へ?」
メリットなんてないはずなのにあると答える龍星に理解出来ない様子の緑谷。
龍星は指を1本立てて口を開く。
「俺が鍛えるとして緑谷が強くなるとするだろ?」
「う、うん」
まず可能性から話す。
それには納得のようで頷いていたため、龍星は2本目の指を立ててピースサインの形を作る。
「強くなった緑谷が体育祭で俺と戦うだろ?」
「そ、そうなるかな……?」
既に決定事項のように話されているが、曖昧な返事をする緑谷に対し、ピースサインのまま話を終わらせる。
「俺が楽しい。緑谷強くなる。ウィンウィンじゃん」
「えぇ……?」
果たして今のどこにウィンウィンである要素があったのか、緑谷は理解できなかった。
残念ながらサイヤ人になって修行バカになったせいで知能が低下しているのが龍星だったりするので、納得して貰うしかなかったりするのだが、大半はサイヤ人の本能のせいである。
孫悟空がウーブを鍛えて、強くなったあとに戦いたいと願ったように、龍星もまた同様の気持ちなのだ。
緑谷の個性は使えさえすれば化ける。緑谷の個性は譲渡可能なOFAと呼ばれる特殊な力。オールマイトから受け継ぎ、何世代にも渡って強化された個性である。
それは龍星は知らないが、ぶっちゃけ宝の持ち腐れなので今のままだと龍星が使った方が有効的に使えるレベルなのである。
まぁサイヤ人である龍星が他人から貰う力を喜んで受け取るはずもないので、むしろ全力で拒否するだろうが。
それこそ孫悟空たちがそうするしかないとポタラで合体した時のように、自分たちが死ねば地球が破滅するなど緊急時でもない限り。
「緑谷には助けられた恩もあるしな。ぶっちゃけ今の俺と緑谷が戦ったら俺が絶対に勝つからね。戦わなくても分かる」
「うっ……」
「だからこそ強くなって見せてよ。俺をワクワクさせるくらいにさ」
「龍星君……うん! ありがとう!!」
「ま、二週間で何処まで強くなれるかは緑谷次第だよ」
「そうだよね……でもどんな訓練でも乗り越えてみせるよ!」
「そっか、じゃあ申請はもう貰ってるんだ、相澤先生も言ってたけど時間は有限。早く行こうぜ、俺も付きっきりでずっと居られるわけじゃないから」
「うんっ!」
心意気は買うが、龍星はとりあえずどんな修行をさせようか考えていたが、まぁひとつしかないかと緑谷と一緒に訓練場に向かう――
「じゃあ脱げ」
「なんでっ!?」
と、着いて早々いきなり爆弾発言をかました。
無論龍星にそんな気は全くない。
そもそも意味無く脱げとも言わず。
「いや、上脱いで欲しいなと。どれだけ鍛えてるのか改めて見ないと考えられないよ」
「ああ、そういう……龍星君って結構天然だよね」
「そうかなぁ?」
割と空気を読めない発言もしがちであるため、基本理解ある幼馴染とばかりしか関わってない龍星は一切自覚がない。
まぁ幼馴染の彼女が龍星を甘やかしてしまうのもあるだろう。
とりあえず上を脱がせた龍星は改めてじっくりと見る。
基本他人の筋肉など興味が無くて見ないが、まだまだ発展途上といった肉体だった。
言うまでもなくサイヤ人からすれば下の下である。
「とりあえず肉体鍛えないとな。あっ、着ていいよ」
「ぐっ……や、やっぱりそこからか……!」
緑谷自身も自覚してるのだろう。
服を着ながらも痛いところを突かれたといった様子。
龍星は知らないが、緑谷の肉体はOFAというオールマイトの力のある個性を継承すべく、4月から1年間で鍛えられた急造品の器である。
龍星も急造品であることくらいは見抜けている。
「肉体は……そうだな、道具が家にあるから今持ってるのしか渡せない。明日家から持ってくるとして、日常で使えるやつなら俺のお古でいいなら貸すよ。とりあえずはそれを身に着けて鍛えることかな」
「お古? 身に着ける?」
「そう。あったあった。ほら」
ひょい、と軽々と投げて渡されたのはリストバンド。
緑谷は投げ出されるのを不思議に思いながらも両手でキャッチすると、ずっしりとした重みが一気に来た。
「うわぁ!?」
咄嗟に両足に力を入れて垂れ下がる両腕に力を注ぐ緑谷は地面に縫い付けられることは避けられたが、ぐぐ、と体を起こしながら口を開く。
「な、なにこれ……重っ……!」
「それぞれ10kgの重みがあるリストバンドだよ。最初は背中に重りを着けることから始めたかったけど今手元にそれしかなかったから。俺はそれを日常の中でも身に着けて生活してたからね、小さい頃」
「10kg……ってことは20kg!? 小さい頃から……これを身に着けて生活!?」
「両親が元プロヒーローでね、その伝手で作ってもらった。正気かと疑われたよ、アハハ」
笑い飛ばす龍星と違い、緑谷は一筋の汗が流れる。
いや元プロヒーローという点でどんなヒーローだったか気になって質問したい気持ちはあったが、それを抑えられるレベルの衝撃。
緑谷はこの1年間死ぬ気で鍛えたつもりだった。
その中でも冷蔵庫を運んだり、テレビを運んだりして来たが、それはあくまで引っ張ったりしていただけ。
しかし龍星は中学3年の自分でも運ぶのがしんどかったレベルの重量を幼少の頃から、日常からしていたなど緑谷は想像もしてなかった。
緑谷にとって龍星は、幼馴染と同等かそれ以上の天才だとしか思ってなかったからだ。
それがまさか、本当はただ努力だけでのし上がってきたなど思ってすらいなかった。
自分の目指すべき目標。辿り着くべき領域。
それが、龍星弥斗の世界。
「ち、ちなみに龍星君は……今、何kg?」
「残念ながら60kg。今もずっと60kg着てるよ。リストバンドとインナー。ブーツは無理だったからパワーアンクルだけど。それぞれ10kgずつ。100kgはさすがに両親が許可してくれなくてね……あっ、でもコスチュームは100kg以上に出来るようにしたよ。要望出したとき、本当にいいのか電話来たけど」
緑谷に今度は滝汗が流れた。
今も平然としている龍星が実は60kgの重りを身に着けてるなど誰が想像出来るだろうか。
60kg身に着けてるくせに緑谷より速いのが龍星だ。はっきり言ってバケモノだが、重りなしとはいえ50mを0.01秒で走るバケモノなので今更だった。
なおこれでも龍星は自分が弱いと思ってるし事実まだまだ弱いのでどれだけ彼の憧れが遠いのか分かりやすいだろう。
ちなみに家ではさらに40kgの亀の甲羅を背負うため、実質100kg以上を身につけることになるのが龍星なのだが、言わなかった。
しかしオールマイトも重い荷物を運ばせていたように、重りというのはそれだけで十分鍛えるのに最適だ。
物によって使う筋肉も異なる。
緑谷は実際に経験してるため、重りを着けることに異論はなかった。
むしろ自分はまだまだ甘かったんだと思い知らされたほど。
「ひとまずは重りを外したときと変わらない感覚で日常生活が問題なく過ごせるようになること。ただし自分で無理だと思ったら外すこと。それで怪我したら強くなるどころか却って弱くなるからね。緑谷なんか無理しそうだし。今より弱くなるよ」
「わ、分かったよ」
龍星の幼馴染であるねじれや両親が聞いたらどの口が言うんだと思う発言だが、オーバーワークしていた緑谷には見事突き刺さっていた。
ただでさえ出遅れてるのにこれ以上弱くなっては追いつけないものも追いつけなくなる。
ガチの顔で言われたので、緑谷は思わず唾を飲み込みながら大人しく頷く。
「じゃ、肉体は筋トレするしかないからいいとして、次の問題に入ろうか。緑谷の個性について教えてくれる? 見ただけで分かったつもりで居たら誤った鍛え方をしたらなかなか修正出来なくなるからね」
「あ、うん。僕の個性はわ……超パワー。最近発現したばかりだから自分でも自壊するほどのパワーを出しちゃうんだ。体が出力に耐え切れないんだよね」
個性について聞くと、龍星もやはり違和感を覚える。
超パワーについては別に違和感はない。そういう個性はいくらでもある。
しかし――
「個性の発現が遅かった、は珍しいにしても、肉体が耐えきれないってのはちょっと違和感があるな」
「そっ、そうかな?」
「そりゃ幼い頃から無意識に抑えてたとしても個性が使える段階になった時点で個性に耐えられる肉体になってなければ使える段階になったとは言い難いでしょ? なのにも関わらず発現したってのは妙だ。ま、そこんとこ詮索はしないけど」
あからさまにホッとする緑谷だが、よっぽど明かしたくない理由があるのだろう。
まぁ龍星も前世という存在を隠してる身なので秘密があるのはお互い様だ。
「それより緑谷は個性をどういう意識で扱ってるの?」
「えっと、それは電子レンジの中で卵が割れないようにイメージして、それを凝縮した力を放つような……」
「……えぇ」
流石の龍星もちょっとドン引きした。
今のを簡単に説明するならば、制御出来ないレベルの気を溜めてそれを無理矢理扱える段階まで押さえ込んで使用しているというもの。
そんなもの暴発するに決まっている。
「緑谷はさ、発現してなかったから仕方ないけど個性って必殺技か何かだと思ってるでしょ」
「え? それってどういう……」
「個性は身体機能の一つだよ。俺の尻尾だって身体機能のひとつとして存在してる。だから動くし自由自在に操れるわけ」
さながら猫のように尻尾を振る龍星に対し、緑谷の視線は尻尾に向かい、その意味を考える。
「でもいちいち俺は尻尾を動かすために右に動かすとか左に動かすとか考えない。緑谷だってご飯を食べる時にわざわざ右手を動かして、とか考えないじゃん」
「それは……確かに」
「緑谷は個性を使うことに拘りすぎてるし、“失敗する自分”をイメージして動いてる。そんなことしたら身構えて成功するものもしない」
“爆発”するというイメージは失敗して骨をバキバキにしたり出力調整をミスって想定以上の力を出してしまった時のことを言っている。
事実緑谷の100%は容易に人を殺せる力になってしまうだろう。
「でも……だからそうならないように抑え込んで」
「そこだよ」
「え?」
「まぁ見ててよ」
実戦した方が早い、と龍星は腰部に両手首をくっつけて持っていく。
そのポーズは龍星が得意とするかめはめ波の構え。
そこから気を集めていく。
小さい青い光が、徐々に、徐々に集うように形を作っていき、円形の光を生み出すとゆっくりとまた消えていく。
「どうだった?」
「どうって、ちょっとずつ大きくなっていって形を作ってた……?」
「うん、そうだね。でも緑谷は逆だろ。俺は0から段階を踏んで大きくしていくけど、緑谷は100の力を減らしていってる。それじゃ抑え込む方が大変だよ。ふとした時に100%の力が出ちゃうんだから。緑谷のイメージで言うと、電子レンジで卵が爆発すると分かってるのに
「……そうか! 100から減らしていくってことは100を前提に発動させてる。それだと龍星君の言う通り爆発するイメージを抑え込もうとするから失敗する自分すら思い浮かんじゃうんだ! 100から99、98と減らしていくのは細かい制御が出来ない僕には当然難しくて力みすぎて100%の力を出してしまう。でも反対ならどうだ!? 僕がやるのは逆だった! オールマイトに囚われすぎてたんだ! 僕に必要なのは絞り出すイメージ! 例えば電子レンジで冷えた物を温めていくイメージ……!」
まるで答えを見つけたように、確かに緑谷の腕に収束する力がいつもと違ってオーバーでないことに気づいた龍星は手を向けた。
「打ち込んで来るといいよ。心配しなくてもバリアは貼ってる。殺す気で来なきゃダメージすら入らないかもね。それに脳無の攻撃に耐えられる俺にやった方が体育祭でも安心して使えるでしょ?」
「う、ん。お言葉に、甘えて……!!」
長時間保つのは厳しいのだろう。
龍星はすぐさま気の膜を覆い、それを目視した緑谷は腕を引き絞ると。
「SMASH!!」
風圧を撒き散らすほどの一撃が、龍星に襲いかかった。
しかし緑谷は理解していた。
自分の一撃が、受け止められていることを。
そして龍星は涼しい顔をしていることを。
残念ながらバリアは貫通出来なかったようだ。
それでも。
「で、きた……! やった、やったよ龍星君!!」
「うん。いい一撃だったよ、緑谷。だいたい5%ってとこかな。あとは1週間ほどはスイッチを切り替える特訓。それが終わったら次の段階に進もっか」
「うん! ありがとう、本当に! これなら個性を使える……!!」
5%。たったの5%だが、それでも十分すぎるほどの力を発揮していた緑谷の力に龍星の口角が上がる。
そんな龍星に気づかず、緑谷は成長した実感があって喜んでいる。
「それが間違ってるんだけど……まぁ今はいっか」
まだまだ実戦レベルではないのだが、今言うのは違うと龍星は黙っていることにした。
だが制御できるのとできないのでは天と地程の差がある。今まで不安定で使えるかどうかも不安だった個性が、ようやく使える、本当のスタートラインに立てたのだから。
これでも龍星はねじれに気の説明をして習得させるほどには教えるのが上手いのである。
逆に言えばどっかの誰かさんが全く師匠らしいことが出来てない、緑谷任せというのもあるのだが。
師匠を交代すべきなのではないだろうか。
それから4日後。
「龍星!! 俺を鍛えてくれ!!」
何故か龍星は上鳴にまで頭を下げられてお願いされていた。
緑谷は反復練習させてるだけなので別に無理なことではないのだが。
「一応、理由を聞いてもいい?」
「ああ……最近よく緑谷と一緒に訓練場に行ってただろ? それを見てたら俺もやっぱ誰かに教わった方がいいと思ったのと……」
「うん」
「あの時USJで耳郎たちを危険な目に遭わせちまったのは俺の力不足だ。それに俺がもっと強けりゃ龍星の元に駆けつけることが出来たかもしれねぇ。 だから強くなりてぇんだ!!」
力不足。
龍星は聞いたことしか知らないが、個性の限界まで放電した結果、何も出来なくなって人質にされたという。
結局すぐに轟が瞬殺したらしいのだが。
「なんで俺なんだ?」
「……俺はバカだからさ、何すりゃいいか分からないんだ。でも龍星はすげぇ強え。ならそんな龍星を頼ったら俺も強くなれると思ったんだ。お前の迷惑になるってことはわかってる! 俺に出来ることならなんだってやる! だから頼む!!」
必死に、頭を下げることすら簡単にしてみせて。なんなら土下座すらしかねない勢いだ。
「いいよ」
「だよな……さすがに――いいのか!?」
「それこの前やったんだよなぁ」
この流れ、流行ってるのだろうか? などと思わず龍星は考えてしまったが、普通に考えてライバルに塩を送ることなどしないのだからこうなっても仕方ないだろう。
「ま、残り1週間近くしかないから何処まで成長するかは分かんないし俺も自信はない。それでもいいならね」
「あ、あぁ。構わねぇ。少なくとも俺一人でやるよりかは強くなれると思うしさ!」
「じゃ、その前に条件だ」
先程の言葉を龍星は忘れておらず、どんな条件が来るのかと上鳴は身構える。
1度言った以上、男に二言は無いといった様子だが、それはそうとして無理な条件ならどうしようかと上鳴は緊張する。
「雄英体育祭、最終種目まで出場すること。それが約束出来るなら俺は上鳴の力になるよ。相手がどれだけ強大でも最後の最後まで足掻いて、目指すことを諦めないこと。仮に勝てなくてもね。上鳴は――それを誓える?」
「……ああ! もちろん! 優勝だって狙ってるからな!」
「そっか、じゃあ期待してるよ上鳴」
龍星としては戦いたいという欲しかない。鍛える以上は、自分と戦ってもらわねば龍星が困るのだ。
だからこその条件。優勝にしなかったのは尻込みしないようにだったが、杞憂だったかな、と思っていた。
「早速だけどよ、どう鍛えたらいいと思う?」
「上鳴は個性だね。肉体よりも個性。出力の強化、維持、使い方の模索、考えることはいっぱいだけど無差別放電を無くすようにしようか。そもそも誤解されがちだけど、雷は高い所から低い所に落ちるじゃなくて、低いい所から高い所に落ちる。そのことを頭に入れながら電気を与えたいポイントんとこにプラスの電荷を付与できるようにしていこう。それだけでも上鳴は今とは比べ物にならないくらい成長出来るから」
龍星がイメージするのは、やはりサンダーフラッシュ――は名前にサンダーがついてるだけの炎の技なので別として。
萬国驚天掌と超電圧爆裂斬、ドラゴンサンダー、電気スライム辺りだろう。
「なんか聞いてるだけで難しそうだな……」
「努力次第だよ。俺だって努力してここまで強くなっただけで落ちこぼれだし」
「龍星が? いやいや」
この世界の住人は知らないだけで、龍星は実際に落ちこぼれだろう。
だけど『落ちこぼれだって必死で努力すりゃエリートを超えることがあるかもよ』と孫悟空だって言っていた。
まぁ今の龍星を見たら信じられないのも仕方ないので、龍星もそれ以上何かを言うつもりはなかった。
「とにかく体育祭までにやれるのはひとつのことだと思う。俺が言ったことをやっていこう」
「そうだな……っし、頑張るぜ!!」
気合いは十分。
あとは上鳴が頑張るしかない。
龍星に出来るのは個性や戦い方が違う以上、アドバイスや提案程度なのだから。
それからさらに日は過ぎ、緑谷を鍛えることになった日からちょうど1週間後が経った。つまり、上鳴が教えを乞うてから3日後になる。
緑谷は完全に5%の制御をものとしていた。
元々一度制御に成功してから上手くいくようになってたのもあるが、イメージの変化が大きい。
5%を制御して何度も何度も殴り掛かる緑谷は見事龍星に捌かれ続け、腹パンでワンパンKOされていた。
「それじゃ優勝は間違いなく無理」
そして龍星は問答無用でぶった切った。
緑谷は蹲ったまま思わず固まってしまい、表情が固定されていた。
「た、確かに龍星君には勝てないかもだけどこうやって使えるように……」
「で? 緑谷。君以外は個性を呼吸するように使えるんだ。緑谷は結局、ようやく扱えなかった必殺技を身につけただけ。俺もそうだけどさ、憧れの人が居ても戦い方は異なるんだよ」
「個性は必殺技じゃない……? 異なる戦い方……」
「そう、緑谷は制御が出来ないからこそ、いちいちイメージして個性を発動させなくちゃならない。だから必殺技のように考えてる。俺との組手はどうだ? 緑谷は足に個性を使っても1度の移動が速いだけ。そこから次の一手にいけない。腕を強化したところで所詮一般人の身体能力。そんなの敵はわざわざ当たってくれないよ。今の自分がどう使ってたのか考えて、どうやるべきだと思う?」
「それは……今よりも正確に、より早く必要な時に必要な箇所にスイッチを切り替えるようにして……きり、かえるように……?」
緑谷の目が見開かれ、龍星をじっと見つめる。
そう、緑谷はようやく気づいたのだ。
目の前に、それはもう間近くに参考にすべきだった人物がいたことを。
龍星はやっと気づいた緑谷に対して、優しげな目で見つめていた。
「何言っているんだ僕は! こんな近くに答えそのものがあったじゃないか!! 僕のやり方だとスイッチを切り替えるまでに時間がかかる。それだと二手目三手目で反応に遅れが出て、今みたいに龍星君に捌かれたり避けられたあとの行動で個性が間に合わない! そもそも龍星君のあの白い炎だってそうだ。一部だけに纏うことはあっても基本的に纏っているのは全身! つまりあれは全身を常に強化して身体能力を底上げしているってこと。龍星君だって気というもので強化してるって言ってたのを聞いてたのに! 簡単な話だったんだ! 僕も同じように、龍星君のように常に全身に個性を張り巡らせておけばよかった! スイッチを一から一に切り替えるんじゃなくて!!」
ブツブツと次々と語り始める緑谷に、流石の龍星も呆れ返っていると、緑谷はバッと顔を上げて龍星が普段気を溜める時同様、握り拳を作って丹田に力を入れる。
「初めからスイッチを全部付けておけばよかったんだ! 冷やした物だって一部だけ温まってても意味がない。全て温かくしなきゃダメなんだ! だからこそ、一部にしかなかった熱が満遍なく伝わるイメージ……!!」
緑谷の個性が一部から全身に宿り始め、次第に緑色の稲妻が発生する。
それはオールマイトのように一部に個性を使って切り替えるのではなく、龍星同様全身を強化する――
「全身常時5%……名付けるなら、フルカウル!!」
ワン・フォー・オール・フルカウル。
緑谷出久がスタートラインを飛び越え、答えを見つけ、辿り着いた緑谷出久なりの戦い方。
オールマイトとは異なる、憧れとは別の道を行く力。
「――いいね、合格だ」
「でも、これ……キツイ……!」
「あとは体に慣らすしかないね。俺も最初は全開を維持するのは無理だったし」
「う、ん。維持と、すぐに解けないように特訓を――」
「いや、ここまでだ」
「え?」
思わずと言った感じで緑谷の強化が解ける。
このまま実戦をする気だったのだろう。
珍しく龍星が自ら引いていた。
その理由は。
「ここから先は俺と組手なんてしたら楽しみが減るだろ。それは本番に取っておくよ」
これである。
今の緑谷より体育祭での緑谷と戦うことを龍星は望んでいる。
ぶっちゃけ今からでも戦いたい気持ちがないわけではないが。
「龍星君……」
「残り1週間、それを身に着けることに集中するんだ。そうすれば緑谷はUSJの時から一線を画した存在になる。ただし体育祭前の前日は休むこと。本当はもっと休んだ方がいいけど緑谷は休まないでしょ。だから前日だけは絶対に休むんだ。じゃなきゃ本番で力が出せなくなるからね」
ビートは残り3日は休む気満々でねじれと出掛ける予定を作ったが、緑谷の性格をこの短期間で理解している龍星は釘を刺した。
彼の言ってるのも間違いではなく、追い込みすぎて体のどこかを悪くしてしまえば結局結果は出せなくなってしまう。
練習を全力でやっても本番が無理ならば本末転倒。
「分かった……本当にありがとう、龍星君。僕は必ずフルカウルを身に着けてみせる!」
「ん。じゃ、そういうわけで頑張って。俺は帰る」
「うん! 気をつけてね!」
背を向けて手を振りながら龍星は去っていき、緑谷はその姿を見送る。
(僕を鍛えても敵を作るだけなのに力を貸してくれた。オールマイトの期待に応えるためにも、龍星君に恩返しするためにも、もっともっと強くならなきゃ)
改めてそう決意した緑谷は、全身にOFAを纏うと体を動かしていく。
雄英体育祭まで残り1週間を切った。
フルカウルをどこまでものに出来るか、あとは緑谷次第である。