魔訶不思議大冒険 作:一番好きなのは界王拳
超で比べたら、ゴッド覚醒はエンハンスド版より旧超の方が好き
ついに迎えた、雄英体育祭当日。
巨大な雄英スタジアムは、早朝から押し寄せた満員の観客と日本中から集まった報道陣の熱気で文字通り沸き返っていた。
無論プロヒーローもどんな生徒がいるのか期待している者も多く、普段は卒業間近の3年生が注目されるのが恒例だが、ヴィランの襲撃を入学したばかりだというのに乗り越えたという実績から1年生が注目されていた。
そして龍星たちのクラスである、1年A組の控え室。
体操服に身を包んだ生徒たちは、各々のやり方で迫る本番に向けて精神を研ぎ澄ませていた。
その部屋の隅で、龍星はやることがないので瞑想していた。
残念ながら重りはサポートアイテムという扱いになってしまうため、今は身に着けていない。
そんな中、飯田がドアの前で腕を直角に振り回しながら大声を張り上げた。
「みんな、準備は出来ているか!? もうすぐ入場だぞ!」
その号令に生徒たちがそれぞれ気持ちを切り替えようとした――まさにその時だった。
部屋の空気が、ふっと凍りつくように冷たくなった。
自然とクラス内の視線が1点に集まる。
「緑谷」
それは轟だった。
彼は緑谷の前に立つと、オッドアイの冷徹な視線を緑谷に真っ直ぐ向けている。
「客観的に見て、俺の方が上だと思う。だが……お前、オールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこを詮索する気はねぇが……お前には勝つぞ」
「……っ」
息を呑む緑谷。
それは宣戦布告。
今まで緑谷を明確に敵として捉えたのはクラス内では居ない。爆豪はまぁ、昔からなので入ってないだけ。
「おいおい、急に喧嘩腰でどうした!? 直前だぞ、やめとけって」
「仲良しごっこじゃねぇんだ。別にいいだろ」
切島が慌てて割って入るが、轟はその制止に聞く耳を持たず冷たくあしらう。
部屋の中の空気は重く、重圧感に息を呑むほど。
「轟君が……轟君が何を思って僕に勝つって言ってるのは分かんないけど……皆、本気でトップを獲りに来てる。僕だって遅れを取る訳にはいかない。僕に夢に向かっていける切符をくれた人のためにも、僕に力を貸してくれた人のためにも、僕だって本気で獲りにいく!!」
しかし、そんな轟に緑谷は負けじとその宣戦布告に応えて見せる。
特に反応するのが、二人。
一人は爆豪。
もう一人は龍星。
「おお……それと」
返事したのち、轟の視線がスライドされる。
その視線の先には、口角を上げて楽しそうな表情を浮かべる龍星だった。
「龍星。お前のことは人として嫌いじゃないが……お前はこのクラスで1番強え。だから俺はお前にも勝つぞ」
「だったら全力で来いよ、轟。今日、体育祭では友達じゃない。ライバルだ」
「――ああ」
龍星はいつも轟を引っ張って輪に入れていた。
一匹狼である轟を気にかけてではなく、席が近いからという純粋な理由だが。
少なくとも龍星に関わっていくうちに、轟は自身の中にあった炎が揺らいでいるのを自覚していた。
だからこそ、今回の宣言は、決意が必要だったのだ。
再びその炎を燃やすためにも、絆されている自分ではダメだと思ったから。
それを察してるのかしてないのか、龍星は正面から受け止めた。
奇しくもそれは、A組の意識を変えることにも繋がり、彼らの表情が引き締まる。
だが爆豪だけは、自分を無視して踵を返して扉の方に向かう轟に対して激しい怒りを覚えていた。
『雄英体育祭!! ヒーローの卵達が我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!! どうせてめーらアレだろこいつらだろ!!? 敵ヴィランの襲撃を受けたにも拘らず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!』
会場中どころか会場の外まで響くプレゼント・マイクのアナウンス。
タイミングで観客の待ち望んでるであろう言葉が響く。
『ヒーロー科!! 1年!!! A組だろぉぉ!!?』
タイミングが完璧すぎるのは流石プロと言うべきか。
入場と同時に会場中から歓声が沸き起こり、大勢の視線と注目を全て掻っ攫っていく。
ヴィランの襲撃を戦い抜いた彼らはまさしく今年の目玉だった。
「わあああ……人がすごい……」
「大人数に見られる中で最大のパフォーマンスを発揮できるか……! これもまたヒーローとしての素養を身につける一環なんだな」
その声援の数々に緊張を覚える者もいたが、A組は指定の位置まで歩いていく。
『B組に続いて普通科C・D・E組……!! サポート科F・G・H組も来たぞー! そして経営科……』
「俺らって完全に引き立て役だよなぁ」
「マジだるい……」
他の人たちも入場を終えると、全員が整列していた。
何人かやる気のなさそうな声が聞こえたがヒーロー科以外の他の科も入り混じっての総当たり戦だ。
当然乗り気でない生徒もいるのだろう。
話題が全てA組に持っていかれてるのもあるかもしれないが。
「選手宣誓!!」
「おお、今年の1年主審は18禁ヒーロー『ミッドナイト』か!」
「校長は?」
「校長は例年3年ステージだよ」
1年生ステージの主審であるミッドナイト先生が鞭を振りながら選手宣誓を宣言する。
「18禁なのに高校にいてもいいものか?」
「いい」
「静かにしなさい!! 選手代表!!」
「1-A組! 龍星弥斗!」
入試1位だった者が選手代表に選ばれる。
当然今回の入試においては龍星が圧倒的だったため、龍星だった。
特に緊張とした面もせず、堂々と、あくまで自然体で歩いていく龍星には無数の視線が突き刺さる。
それどころかカメラのレンズまで向けられている。
マイクの前に立った龍星は、居住まいを正し、右手をまっすぐに高く掲げた。
「――宣誓」
マイクを通じて静かでありながらも、確かに力強い龍星の声がスタジアム中に響く。
「我々選手一同はヒーローシップにのっとり、積み重ねた努力を活かし、夢や憧れに恥じず、胸を張れるように全身全霊を賭けて戦い抜くことをここに宣言します!」
龍星の宣言に拍手が沸き起こり、A組の者たちも安心する。
特に関わりの深い葉隠と耳郎と上鳴、最近増えた緑谷は龍星の性格を理解している。
戦い大好きな彼は、やらかすのでは、と実は思っていた。
全然普通に終えた彼に申し訳なく思ったのはここだけの話。
「龍星君?」
しかし手は下ろしたがマイクの前から動かない龍星にミッドナイトが呼びかけ、なんだなんだとスタジアムがざわつく。
龍星が振り向くと、そこには闘志を燃やすA組の仲間たちだけでなく、悔しさと野心を秘めたB組、席を奪おうと睨みつける普通科、ヒーローをサポートする為日々努力しているサポート科、未来のプロデュースを狙う経営科――それぞれの想いを胸に抱えた、すべての生徒たちの姿があった。
龍星は深く息を吸うと、ありのままの自分を曝け出す。いつものように。
「最後に一つだけ」
ないはずのアドリブ。
ざわつきが静まり、何を言うのかと皆が耳を貸していた。
「俺たちA組は確かにヴィランの襲撃に遭いました。それで注目されてます。でもここに立つのはA組だけでも、ましては1年生だけでもありません」
龍星の黒い瞳が生徒一人一人を見るように見渡される。
もっともっと、やる気を出してもらわねば困る。
しかしやりたいのは殺し合いでも何でもなく、試合だ。
せっかくのこの機会、楽しみたいと思ってしまうのはサイヤ人の本能か。
龍星弥斗だからこそか。
「みんなそれぞれ“成りたい自分”になるために毎日たくさん努力してここに立っています。皆それぞれ、誰もが主人公なんです。だからどうか、ここにいる全員の頑張りを見てください。俺も誰が相手だろうと驕ったりしません。正々堂々と、本気で勝ちに行きます。最後の最後まで楽しもう!!」
そう締め括った龍星は、最後に深く頭を下げる。
一瞬の静寂。
A組だけに向けられたスポットライトを、今の発言で龍星は全員に分け与えた。
龍星としても1年が注目されて3年にいる大切な人達が注目されないのは困るため、その想いがなかったわけでもない。
だが全力で戦って貰いたいと願う龍星にとっては、やる気を出してくれる方が助かるのだ。そのために使えるものは使った。
名声に興味がないのもあるだろう。
しかし。
ワァァァァァァァァァァッッッ!!!!
スタジアムを揺るがすほどの、温かく凄まじい大歓声と拍手の嵐が巻き起こった。
「よく言ったァァァ!!」
「応援してるぞーーッ!!」
「他の科も見てるからな! 頑張れよーーッ!」
龍星の発言で観客たちもハッとしたのか反省している空気がうっすらと見える。
その中で、勝手なアドリブで時間を使ってしまっため、優しく笑みを浮かべながら拍手を送ってくるミッドナイトに軽くお辞儀をして龍星は戻っていくと、戻った先で切島と上鳴に揉まれた。
「さーて、早速第1種目行きましょう!!! 所謂予選よ! 毎年ここで多くの者が
『障害物競走!!』
「計11クラスでの総当たりレースよ! コースはこのスタジアムの外周約4キロ! わが校は自由さが売り文句! ウフフフ……コースさえ守れば
説明しながらミッドナイトがムチを向ける場所。そこには一つのゲートがあり、スタート側にある外へのゲートが大きな物音を立てながら開く。
それは会場へ出る為の狭き門。
我先にと指示に従ってスタートラインに並ぶ中、龍星は1番後ろに陣取って準備体操していた。
というのもどうせ前に居たところで動きづらい上、準備体操も出来ないため、後ろ一択なのだ。
龍星が呑気に準備体操している最中、ランプの光が点灯し、カウント共に消える。
そして。
『スターーーーート!!!』
雄英体育祭。
障害物競走がついに始まった。
その瞬間。
「悪いな」
轟が個性を発動させた。
通路全体が一瞬で氷漬けとなり、大半の生徒たちが足止めを食らう。
だが。
「甘いわ轟さん!」
「そう上手くいかせねぇよ半分野郎!!」
A組は当然の如く抜け出していた。
その中でも突出したのが、やはりと言うべきか龍星だった。
彼は最後尾から普通に壁を走って着地し、そのまま他を追い抜かして迫っている。
ちなみに走ってる理由は、単純に地上戦の方が龍星が得意だからである。孫悟空も地上戦の方が得意だとフリーザに言ってたりする。
(お前は止まらねえってのは分かってた……!!)
轟は1番に来るのは龍星だと分かっていたため、前へと滑りながら後方に分厚い壁を生成する。
突然現れた氷に目を瞬きさせる龍星は面白いと言わんばかりに笑みを浮かべ。
「おりゃああぁぁ!!」
勢いを殺さずに突き出した拳がヒビを入れ、一気に崩壊していく。
分厚いだけでは無理だと轟は幾つも道を妨げるように氷を生成すると、龍星は破壊するのではなく、むしろ氷の壁に対して加速するように次々と蹴って素早い身のこなしで動いていた。
『いきなりとんでもねぇことになってるが! ここにきて第1関門が登場!! 最初にして最大の壁、ロボ・インフェルノだァァァッ!!』
目の前に立ち塞がるのは、ビルのように巨大な仮想ヴィラン。
入試の時に現れた0ポイントヴィランだ。
一度足を止める轟と違い、龍星は白い炎を纏うと一気に加速する。
「だぁあああァァァッ!!」
一瞬にして0ポイントヴィランの顔面に辿り着いた龍星は足を突き出し、白い炎と共に顔面を貫く。
入試では出来なかった、蹴りでの撃破。
龍星は今度はちゃんと撃破出来たことに満足しつつ、ついでに蹴り飛ばす。
そのまま素早く地面に着地すると即座に走っていった。
その影響で他のロボットを巻き込んで大破したのだが、突破した彼には関係のない話だろう。
『ろ、ロボ・インフェルノ! 登場からたったの数秒で撃沈!! 時間稼ぎにもならなかったぁ!! 入試でもそうだったが、一体幾ら掛かってると思ってる――とパワーローダーも言ってたのにぃ!!』
『知らねぇよ』
轟は龍星がロボ・インフェルノを攻略する隙を狙って独走しようかと考えていたが、ロボ・インフェルノでは足止めにすらならなかった。
龍星の性格上自分で攻略すると轟は思っていたため、ロボ・インフェルノを凍結させて妨害するという選択は最初からなかった。
ロボットは使えないため、氷結の壁を作って再び妨害しようとするも、すでに龍星は轟を抜いている。
「クソッ!!」
轟を抜いた先に待っていたのは、第2関門のザ・フォール。
島間に渡してあるロープを辿って向こう岸まで渡る、大げさな綱渡りゾーン。
勿論落ちても大丈夫なように、下の方にはクッションが敷かれているのだが。
『第二関門、ザ・フォール……しかし、意味を成していなかったァ!!』
『アイツ、わざわざ渡る必要ないからな』
そう、龍星は舞空術で飛べてしまうため、そもそも競技の意味がない。
『しかしそれも対策済みよ!!』
『で、どれが?』
その対策もしてたようだが、無惨にもドローンは龍星の舞空術で発生する風圧で吹き飛んで大破していた。
『何やっても何やっても龍星が止めれない!』
『急に歌うな山田』
『本名やめろ相澤ァ!!』
勝手にエアーマンが倒せないの替え歌を歌い始めたプレゼント・マイクにツッコミを入れる相澤だが本名で止めつつ、漫才してる間に龍星は最終関門に辿り着いていた。
『早くも最終関門!! かくしてその実態は、一面地雷原!! 怒りのアフガンだ!! が、これも意味がねぇ!!』
しかし舞空術を使える龍星にはやはり関係なく、そのまま超えようとしたその時。
「尻尾野郎ォオオオオオオ!!」
「おっ!?」
頭上から猛烈な推進力とともに爆豪が降ってきた、
思わず止まって見上げた龍星に対し、爆豪は両掌を龍星の顔面めがけて突き出した。
「死ねやァァァッ!!」
至近距離での爆破。黒煙と爆炎が龍星の視界を覆い尽くす。
だが、爆風が晴れた後にそこにいたのは腕を交差して防御していた龍星の姿。
「悪いが、ここで止まってもらうぞ龍星」
さらに爆豪の攻撃に合わせ、地上から猛追してきた轟が個性を使い龍星に向けて氷結を放つ。さらに爆豪も連続攻撃を仕掛ける。
『ここで轟と爆豪! 龍星一人に猛攻撃だぁ! 流石にこれは龍星もマズイか!? 今まで競技のギミックでは止まらなかった龍星も足を止めて――』
「――いいね。でも」
龍星はガードしながらググッと体を縮こませると、勢いよく全身を広げる。
「はぁあああああっ!!」
すると龍星を中心に黄色い球体が発生すると氷が崩壊し、爆豪の爆発が届かなくなる。
それは『爆発波』。
己の体内の気を一気に解放して文字通り爆発させる技。
さらに、その状態から無数の気弾が広範囲に生み出され、轟と爆豪は防御と回避に専念せざるを得なくなる。
『ブラスターメテオ』。
気弾が消えた瞬間には体勢を整えた二人は急いで前へと出る。
だが、それはもう遅かった。
二人が防いでる間に、龍星は舞空術で加速済み。
地雷原を越えて地面に着地した龍星は地上で一気に加速し――
『まさしく圧倒的! 雄英体育祭1年ステージ、他と大きく差をつけて圧倒的な破壊力とスピードでスタジアムに1番早く戻ってきたのはこの男だ!! 龍星弥斗ォォォォォ!!』
トンネルを抜けた瞬間、頭上から降り注ぐ万雷の大歓声と割れんばかりの拍手。
それは龍星の勝利を意味していた。
ゴールの先で止まった龍星は息を吐くだけで特別疲れた様子はなかった。
龍星に続いて、今度は地雷原を集めて爆発させた緑谷がロボットの破片にフルカウルを発動しながら捕まり、勢いが消える前にフルカウル状態で破片を蹴り捨てて超加速。
そのまま轟と爆豪を超えて走り去り、2位でゴール。
その次に轟、その次に爆豪だった。
こうして、雄英体育祭第1種目は、龍星の勝利で幕を閉じる。
多分この作品で一番チートな技は元気玉でも界王拳でも超サイヤ人でもなく舞空術です。