魔訶不思議大冒険 作:一番好きなのは界王拳
ねじれには一人の幼馴染が居る。
二つ下の男の子。
個性届は“尻尾”として登録されてこそいるが、自分を“サイヤ人”だという変わった男の子。
その者の名前は“
天衣無縫とも呼ぶべき性格に純粋で清い心を持つ。
本人に邪念がないため嘘や悪意を見抜くのが苦手な半面、他人に対して偏見を持ったりせずに向き合い、突き抜けた明るさを持っている。
周りにどう思われてようとも気にすることなく自己中心的な生き方をしている人物だ。
遊ぶより修行。とにかく修行。
三度の飯より――は飯も好きなのでそうはならないし一人で大人顔負けの量を食べる大食漢だが。
とにかく、周りがどれだけ遊んでいても何を言われても生き方を曲げない、真っ直ぐな男の子。
ねじれにとって彼は“特別”だった。
幼馴染で、家族ぐるみの付き合いというのもあるだろう。それを抜きにしても、きっと特別だったのだとねじれは思う。
色んなことに興味があって、知らないことを知りたくなって、ねじれ自身は気づいてなかったが周りに面倒そうにされることは多い。
質問に答えてくれなくなった時もある。だが彼だけは違う。
いつもいつも、どんな質問だって答えてくれるのだ。知らないことは知らないと言うが色んなことを知っていて、どこか大人のようで、でも子供っぽいところがたくさんあるような人物。
受け入れてくれる彼の隣が、ねじれにとって心地よかった。
「ビートくーん!」
「ねじれちゃん」
「今日はなにしてるの?」
「気の練習かな。ほら、やっと出せるようになったんだ。ふっふっ、かめはめ波までもう少しだ……!! 念願の、ずっと使いたかった技がようやく目の前に……!」
「わあ、キレイ! 私もそれ、できるよ!」
「へ?」
黄色い玉を手のひらに生み出して喜ぶ龍星に対し、ねじれは自分の手のひらに意識を集中させて、むむむと生み出す。
すると、丸っこいのではなく、ねじれた丸いエネルギーが生み出される。
「おぉ! でもそれ“気”じゃないね」
エネルギーの形を変えるのは簡単に見えて簡単では無い。
だからこそ驚いたが、龍星はそれを否定した。
彼は気の感知が1mなら出来るようになった。
故に感じられるものが違うのだ。
「ちがうの?」
「うん、それはねじれちゃんの波動の形が変わってるだけだよ。ねじれる性質は使えるけど、速度は速くしたいなぁ。形は変えていくのはいいね、それによって威力や速度も変わる。そこは今度考えておくとして、もしかして使いたい?」
「うん! 私もね、ビートくんと同じことを出来るようになってね、いっしょに歩んでいきたいの!」
「じゃあ一緒に習得しよっか。ねじれちゃんの個性なら相性良いと思うんだよね。ファイナルかめはめ波とかビックバンかめはめ波みたいにねじれちゃん自身の波動を合わせたら出来るかもだし……くぅぅ……! ワクワクしてきたッ!!」
目を輝かせて喜ぶ龍星の姿にねじれも自然と笑顔になる。
ねじれが言ったことは全部本当のことだ。
ファイナルかめはめ波とかビックバンかめはめ波とかは何なのかねじれには分からないが、喜んでくれるのは嬉しくなる。
ちなみに気とは誰でも使える力。人の生命力をエネルギーとして放出するのが“気”。
それによって身体能力を強化したりエネルギー波を放ったり、はたまた超能力を使ったり。
誰だって強くなれるし誰だって何にだってなれる。
そんな万能な力ではあるが、周知されていない。
誰も知らずに生きている。
だが子供でしかない彼が気は実在するだの言ったって誰も聞かないし信じない。
そもそも自覚したところで習得の難易度は高い。
「ビートくんはよくワクワクするっていうよね? なんで?」
「だって自分より強い人見たり自分より強い存在がいるって考えたらワクワクしない? 自分より強いんだから自分もそこまで行けるって思えるじゃん。俺はさ、もっともっと強くなって孫悟空って人にみたいになりたいんだ! その人はそれはもう宇宙一強くてかっこよくて! でも優しくてね。戦うことが大好きなんだ。だけど今の俺じゃ足元にも及ばないから。だからもっと強くなる!」
自分の目的を定めた、憧れに満ちた強い光を宿す眼差し。
いつも修行しているのは強くなるためでしかない。
周りと遊ぶことすら捨ててまで。
ただその憧憬を宿す瞳は何処までも燃え上がっている。
「そっかぁ、私もいっしょにがんばるね! いつかビートくんとヒーローになるから!」
「うん!」
「今日はやすむ?」
「昼寝の時間だからね。よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休む。それがモットーだから!」
「じゃあわたしも一緒にねよっ! しっぽ、もふらせてね?」
「いつもしてるよね?」
「えへへ」
――尻尾が気に入ったなら嬉しい、かな。
いくら個性がある世界とはいえ、サイヤ人ということは龍星は異形型に分類される。異形型は中には差別され、排斥される場合があるのだ。
人ではないとする過激な連中も中にはいるらしい。
だからこそ、龍星は強く思った。
気をつけなきゃな、と。
大猿になんてなってしまえば目も当てられない。
サイヤ人になれたことに喜びを感じるのと同時に人間ではなくなったという事実が改めて突きつけられ、龍星は少し怖く感じた。
大猿の力は、それほどまでに危険なのである。制御出来るかどうかなんて分からない。もしそれで暴走しようものなら、戦闘力は低くても体格という差。ヒーロー社会。
それらの現実が彼の命を奪う危険性もある。もしくは他人の命。
龍星は目の前の女の子の笑顔だけは奪いたくないと不思議と強く思っていた。
――小学生に上がった頃、修行の成果は着々と出てきている。
サイヤ人という地球人より才能のある身体だ。
気の放出を身につけたあと、今度は気を集中させる特訓が始まった。
「かめはめ――波ァッ!!」
両手を合わせた後、腰部で気を集中させて前方に突き出す有名な技。
ぽすっ、と音を立てるだけで何かが放出されるわけではなく、龍星は肩を落とした。
彼の個性がもし“気”であったなら撃てたかもしれないが、そっちはただ本人が自覚してる力なだけ。
気の第1段階目は、“気の集中”である。
幼い孫悟空のように見様見真似でやった龍星だったが、ある程度の修練は山で生活してたお陰でされていた孫悟空と違う。
秋田県在住の龍星は当然簡単な筋トレしかしてないというのもあるだろう。山には登りにいくが。
いくら感謝の千回かめはめ波をしていても気を集中させねば結果は変わらない。
「波ッ! 波ッ! 波ッ! かめはめ波ぁああああっ!!」
そうして、庭でかめはめ波を叫ぶ変人の完成である。かれこれ8時間。
そんな龍星を縁側で足をぶらぶらさせながらねじれはずっと見ていた。
「そ、そんな……かめはめ波が、撃てない……だと……?」
何度もやりすぎて疲れたのか、ついに両膝を着いた龍星の尻尾すら彼の感情に応えるようにビターンと地面にくっついていた。
「ば……ばぁかぁなぁぁぁぁ!!」
何処ぞの伝説の超サイヤ人のように叫び声を挙げた龍星は、倒れ伏した。
サイヤ人になった男。
まさかの敗北。
いくらサイヤ人でも、才能の差というものはあるわけで。
そもそも生まれながら戦闘力がゴミな彼は、ドラゴンボールで言えば言うまでもなく下級戦士である。
「俺には、才能がなかった……ッ!!」
「ビートくん……」
「だったら努力! もっと努力! うぉおおおお!! 諦めるか! かめはめ波は! かめはめ波だけは絶対撃ってみせるッ!!」
そのことに絶望するのではなく、むしろ燃え上がった龍星はより一層かめはめ波を撃とうと何度も何度も繰り返した。
何故なら今世では前世と違い、チャンスがあるのだから。
そうして、1週間。
「かめはめ波ァッ!!」
夜になると、『波』と叫んでいる謎の存在がいると近所で怪談扱いされてしまっているが、その元凶たる本人は気にすることなく練習を繰り返し。
そして今日、渾身の突き出しから、青色に変化した気の塊が放出される。
「!! 撃てた! やった、やったぞ!! 念願のかめはめ波を! 俺はついに――」
喜びのあまり舞い上がるような感情の昂りを感じる龍星だが、そんな彼は興奮のあまり忘れていた。
かめはめ波というのは、一種の破壊光線である。
まだ年齢が6歳であっても、かめはめ波は気を集中させた技。
しかも放った先にある木は龍星は石投げに使い続けた結果、酷く劣化している。
つまり、だ。
破壊のエネルギーが宿る気功波が木に直撃すればどうなるか。
子供時代の悟空ですら無線車を大破する威力を誇り、彼より圧倒的に弱い龍星ですら――。
「いっっ!? あぶ――ギャッ!?」
ぐらぐらと揺れて、内側に倒れる木を咄嗟に両手を伸ばして受け止めようとした龍星は重量と速度によってあっさりと負け、その身が下敷きになった。
「ビートくん!?」
“合鍵”で家に上がっていたねじれが慌てて庭に出てくると、そこには下敷きになっている龍星の姿。
明らかに事件でしかない状態に青ざめて。
「や、やっと……かめはめ波が、撃てた……!」
龍星は下敷きになったままサムズアップした。いい笑顔。
そう、彼の肉体はサイヤ人である。
戦闘民族サイヤ人が木に潰されて死ぬほど脆いのであれば、宇宙最強の一族として自称するはずもなく。
ぶっちゃけサイヤ人でなければ死んでいた。死んでなくても大怪我間違いなしである。
「ま、待ってて! 今助けるよ!」
無事だと分かってほっとするも束の間。
急いで駆け出したねじれはまだ小さな波動でしかないが、必死に木を持ち上げる。
彼女に負担が掛かるからか龍星も急いで出てくると、木が音を立てながら地面に落ちる。
それと同時に息を切らすねじれに、龍星は自分の背中を擦りながらその手を取る。
「ありがとう! 俺からもお返し……!」
“気”の譲渡。
生命力を他人に分け与えるようなものであり、分け与えるということ自体はそんなに難しい技術ではない。放出が出来るならそれを与えるだけなのだ。
当然死人に対しては効果はないが、瀕死であれば延命を。体力を使い切った者には体力の回復を。
他の者には難しいが、ねじれの個性が“波動”というのもあって彼女にだけは龍星はスムーズに分け与えることが出来る。
「ごめん、俺のせいで……」
「う……ううん。無事でよかった。ビートくんは私が守るよ!」
「……! そっか」
誰かに守ってもらうなどと考えたことはない。
龍星はサイヤ人になった時点で、自分が何処までも強くなるつもりだったからだ。
だけど不思議と、悪くない感情を抱いていた。
守るだけではなく、守られる。
強くなればそれは、言われない言葉なのだから。
「私はビートくんはビートくんらしいほうが好き!」
「そっか!」
恋愛感情がない、ただ純粋な好意を向けるねじれに龍星は笑う。
例え何を言われても自分を曲げることはしない。しかし、自分を認めてくれるのは誰だって嬉しいものだ。
次の年、2年生になった龍星はようやく目を閉じて動けるようになった。
習得まで3年。
これだけしていたわけではないため時間が掛かったが、そもそもこれらは達人の域に出て会得できる能力のようなものだ。素人が自力で身につけるのは難しいが、そこはドラゴンボール知識様々。それっぽいことをしてたら身につけた。
それまでは満月の夜はそれはもう引きこもっていた。
出掛ける際には自ら尻尾を千切るという激痛に涙を流すことすらあった。
正直自分の一部なので捨てたり燃やすのも気持ち的に宜しくなかったので 悩んだのだが、ねじれに欲しいとせがまれてしまった龍星は彼女が尻尾が好きだったのを知ってるため、大人しく渡した。
尻尾が無くなってバランスが悪くなってしまったため、慣れるまで時間は掛かってしまったがやはりそのうち勝手に生えてきていた。
龍星の尻尾が無くなってショックを受けていたねじれも、これには思わず喜んで強く握ってしまうほど。
案の定龍星が動けなくなってしまったのだが、彼女は既に小学4年生である。
そろそろ性知識が本格的に得られる歳なので、そうやって触れ合うのがどういう意味なのか分かってくるはずなのだが。
何はともあれ、これでようやく龍星は満月の夜でも自由に動けるようになったということ。
たからこそ、龍星が発展させたのは、“気配”である。
その先にある技術、『気を探知』、『気を消す』という技術の前にこれを身につけなければならなかった。だからこそ、目を閉じたまま動くというのも優先していたのもある。
感じると消す。
これらは密接した関係にあり、まず気を感じるには自分の“気を広げる”ことで周囲の“周囲の気を掴む”。それに伴って“気を感じる”ことができる。五感に頼らない、第六感とも呼ぶべき能力だ。
どうやるのか。
それは心を無にすることで精神を研ぎ澄まし、自分の“気”を周囲に広げることで探知を可能とする。
ならば気を消すとはなんなのか。
心を無にすることで、己の存在を=0にする技術である。
簡単に言えば周囲に溶け込む、存在感を無くす、空気になるとでも言えばいいか。
身近なもので例えると、消すというのは電気のオフである。そして抑制。それはコントロールであり、電気の明るさ調整だ。
だがビートは“気”の抑制に関しては可能にしている。
抑制は抑制で重要で、消費を抑えて効率的に戦える術。
かめはめ波を習得するに当たって全開で撃つ訳にもいかないので身につけていた。
そして気を消す。それを得るにはある人の言葉が浮かぶ。
「空のように静かに構え、雷より素早く動く……」
「ねービート君。それってどういうこと?」
「えっと……気配を絶つだけじゃなくって、無駄を減らして早く動く、的な感じ? 心を無にすることで自分が世界に溶け込むことで気配を探らせないようにするんだ」
「難しそうだね〜私も出来るかな?」
「気の技術の一つだから出来ると思うよ! ねじれちゃん、だんだんと気を使えるようになってるし。探知はより俺より出来るじゃん。やっぱり個性に使うのが活力だから、相性がいいのかな?」
「そうかも! あとね、ビート君の教えがよかったり、ビート君が傍にいてくれるから頑張れるんだよ?」
「俺は大したことしてないよ。でもそう言ってもらえると教え甲斐があるね!」
小学2年生になった龍星と違い、ねじれは既に4年生だ。
一緒に登校したりはするが、クラスも学年も違う。
だからこそ、こうやって休みの日は一緒に居たり下校時や帰ったあと時間を共にする機会は去年からより増えていた。成長に連れて、思考がだんだんと出来るようになってきて、会話も出来るようになっているからだ。
ただ一緒にいるわけではない。
強い相手と戦いたいとしか願ってない龍星でも両親や家族みたいな存在のねじれと彼女の両親は大切な存在である。
彼女が一緒にヒーローになるというなら強いことに越したことはなく、龍星は自分の知識を活かした。
やったことは、何故か“ねじれる”波動のエネルギーの改善である。
ねじれるなら、それこそ螺旋状に回転力を増せば威力も速度も上がるのでは、と。
何より“気”さえ付与すればその性質は大きく変わる。
真っ直ぐに飛ばし、尚且つ速度と威力も上げられた。
まぁねじれが似た力を使ってるからであって、他の人物が気を使うとなると難しいだろう。
個性とは異なる力だ。個性がそれを邪魔をする。
龍星が扱えたのは亀仙流の修行を覚えていたこと、気を知っていたこと、サイヤ人という特性故に使えているだけに過ぎない。
まぁ逆に言えば龍星の力をコピーでもすれば気を使えたりするのだが。
3年生になり、気の殆どを身につけた龍星。
気の探知の発展系、気を探るまでも手に入れた。
気を探るというのは気を抑えた者の潜在パワーを感じられる他、気を消した相手の気を感じ取ることが出来るのだ。
デメリットとしては近くの者にしか効果はないということ。
フリーザの力を見破ったベジータやメガキャノンΣ時の孫悟空のように。
そうして始まる、気の段階、2段階目。
集中というのは一部に集めること。
ならば次は、“気の爆発”である。
集中して増幅した気を、全身レベルの気の開放にする技術。爆発的に能力を引き上げるもの。
つまり攻撃や防御の瞬間にだけ能力を高めることで、消費を大きく減らすものだ。
気を抑える技術さえ身につけてしまえば反対のことをするだけでそんなに難しくは無い。
故に最終段階に到達させる。
それは“気の解放”。
体内の一点に集中し増幅した気を、全身レベルの戦闘力上昇として定着・持続させる技術のこと。爆発した戦闘力を常時維持するという術。
気を高める、気を大きくするといえば分かりやすいか。
これを行うことで龍星は気の完全習得に至る。
「はぁああああああ……!!」
腰を下げて両手を握りこぶしに。
丹田に力を込め、腰に添えた状態で力む。
体内の気を循環させ、その力が溢れるように白いオーラが龍星を覆い尽くす。
大した力もない子供が、大人に匹敵するほどの爆発力。
だが。
「っ、くっ!」
白いオーラが消失し、地面に手を着く。
Z戦士ですらサイヤ人襲来の1年間で身につけた技術。
それも同じサイヤ人である孫悟空ですら一瞬で出来たわけではない。
当然龍星もすぐに出来るわけじゃなかった。
息を整えながら、それでもビートは笑う。
自分の可能性はまだまだこれほどではない。
いずれは超サイヤ人になると心に決めてる彼にとって、この程度の壁は屁の河童だ。
「うぉおおおおおおおおッ!!」
その日、龍星はぶっ倒れるまで続けた。
自分の家のように入ってきたねじれに拾われるまでがワンセットである。
残念ながら一長一短で出来るものではないと、龍星はもうひとつと並行してやることを決めた。
「次は舞空術、か」
体内の気をコントロールし放出して浮遊、飛行する技。
「舞空術?」
「そう、浮遊する技だよ」
「こんな感じ?」
波動を足から出して浮くねじれだが、龍星は無言で目を逸らした。
理由は明確単純で、スカートを履く女の子が上空に浮けば下にいる龍星には何が見えてしまうというのか。
「ビート君……? あっ!?」
遅れて気づいたのか顔を赤くしてスカートを押さえたねじれはゆっくりと着地し、微妙な空気が生まれた。
これが幼少の頃なら二人とも気にしてなかったかもしれない。
しかしもう5年生のねじれは、だんだんと女の子らしさが増してきており、対する龍星はまだ3年生とはいえ前世の影響で子供ではない。
「み、見た?」
「……水色、かな」
「っ〜!」
気を重点的に鍛えてるとはいえ、亀仙流の修行をしている龍星は動体視力が良い。
すぐに目を逸らしたとはいえ一瞬でも見えてしまった。
嘘をつけばいいのに素直に答えた龍星に顔を真っ赤にしたねじれはスカートを押さえたまま恥じらいを見せつつ――。
「えっち……」
中々に破壊力のある一撃を繰り出した。
思わず胸を押さえる龍星はダメージを明確に受けている。多分、生まれてきて一番のダメージ。
空気を変えるように、コホンと龍星は咳を入れた。
「そ、それより俺もねじれちゃんみたいに飛ぶことは出来るんだ。こうやって!」
実践するように跳躍した龍星の足からかめはめ波が放出される。
足かめはめ波。
気功波というのは体内にあるものを集め、それぞれの部位から放てる。
当然足や口からも可能。
「それじゃダメなの?」
「うん、これだとずっと消耗しちゃうじゃん。ねじれちゃんも足から波動を使ってるから、移動だけで活力が減っていく。でも舞空術は全体的な消費が驚くくらい少ないんだ。しかも小回りも効くし高速で動くことも出来る。極めたら速すぎて消える、擬似的な瞬間移動もね。こんな個性がある世界なら空中戦を必要とする戦いもあるかもしれない。だから身につけないとね」
足かめはめ波を消して高いところから着地してもダメージはない。
その時点で龍星が肉体も鍛えてるのが分かる。
だが足かめはめ波だと小回りは効くとは言えない。現時点では龍星はかめはめ波を用いて空中機動を可能にするが、それだと強敵相手だと先に気が尽きてしまう。
ゆえに、舞空術が必要なのだ。
移動に関連する瞬間移動はまあ、孫悟空ですら1年かけた上に習得方法が不明なので追々になるだろうが。
「本当によく考えてるね、ビート君。強くなることに一切妥協がないというか……いっつも努力してる。 未来を見据えてるというか、私でもそこまで考えたことないよ? しかも私より二つ下で、まだ小学3年生なのに」
「そうかなぁ? 俺は才能がないから、むしろ何倍も努力しなきゃ。本当は重力室で100倍のトレーニングとか服と両腕と両足にそれぞれ20kgの重りをつけて生活したいし重力室の中で2tの重りをそれぞれつけたりとか色々やりたいんだけどね」
「そ、それは死んじゃわない!?」
「大丈夫大丈夫。俺の憧れの人はそれやってたし! 成長していく自分は楽しいしさ、傍にはねじれちゃんが居てくれる。だから俺、もっと強くなろうと思えるんだよ。両親も、ねじれちゃんやねじれちゃんの両親も。俺は守りたいから」
「ビート君……」
長年共に居ればサイヤ人の本能だけで強くなりたいだの憧れだけで強くなろうだの思えなくなってくるものだ。
それに彼が強くなる理由は自身の力もある。
サイヤ人の血というのは強力な力があるのだ。
ドラゴンボールでサイヤ人の細胞を使った存在が強敵として立ちはだかったように、サイヤ人の肉体にはそれほどの価値がある。
可能性だけでいえば、龍星の細胞を取り込んだナニカが超サイヤ人のような覚醒を果たした時、果たして誰が止められるだろうか?
それにもしかしたら、孫悟空のように龍星自身が強敵を引き寄せてしまうかもしれない。
弱いままでは、居られないのだ。
「私も……私も頑張るよ。今よりもっと、強くなる!」
「うん! じゃあ舞空術も一緒に覚えちゃおうか! ねじれちゃんなら舞空術と波動を組み合わせたら俺より速く動けるだろうし!」
「いいの? 邪魔にならない?」
「全然! なんなら教える側も勉強になるから。それに……いつも勉強教えてもらってるし」
「そっか、じゃあ一緒に頑張ろうね!」
龍星とねじれの関係性は、ライバルではない。
本当は二人がライバルとして切磋琢磨した方が強くなれるのかもしれないが、ライバルではなく互いが互いを守りたいと願う関係性だ。
だからこそ教え合うし、進む道も一緒に進んでいく。
置いていくことなく、互いに一歩ずつ、歩幅を共にして――
年月が過ぎ、舞空術や気の開放も身につけていった龍星。
高学年になったとき、本格的に武術を重点的に鍛え始めた。
いつものように修行したり休んだり、動きの無駄を減らしたり、瞑想したり、仮想の相手を脳内で生み出して修行したり、相手の動きを予測したりと数々をこなしながら時に気弾の練習。
それらは両親がヒーローだった時のツテで作ってもらった重りを身につけて。
今日は学校終わりに早速体作りしており、重りをつけながら筋トレをしていた。
彼の脳裏には師匠たちの言葉が何度も何度も過ぎる。
それは忘れないように、魂に刻むように。
『武道を習得するのは、ケンカに勝つためではなく、ギャルにウッフーンといわれるためでもない。武道を学ぶことによって心身ともに健康となり、それによって生まれた余裕で、人生をおもしろおかしく、はりきって過ごしてしまおうというものじゃ!』
『武術は勝つ為に励むのではない、己に負けない為に励むのじゃ』
『おまえは相手の動きをぜんぜん読んでおらん。ただガムシャラじゃ』
『おぬしは動きにムダか多すぎるからすぐに息切れしてしまうのじゃ』
『空のように静かに構え、雷より素早く動く』
『宇宙一を目指すなら肉体だけではなく心も鍛えねばならん』
孫悟空にとって成長のきっかけとなった言葉。
それは龍星の心にも深く、深く刻まれていて。
「ふぅ……っし!」
筋トレを終え龍星は重りを外すと、少し休憩を挟む。
スマホの電源をつけると、まぁまぁな時間だ。
「……?」
ねじれは既に中学生だが、もう学校は終わってる時間だ。
いつもなら速攻で来るかメッセージを飛ばすというのに中々来ないため、珍しいなと思いながら龍星は衣服を着替えて家を出た。
中学に行くまでの道のり。登校する場所とは違うため、物珍しさを感じながら歩いてるとねじれたツインテールのような髪をした、分かりやすい姿が見える。
「ねじれちゃん!」
いつもの天真爛漫さは嘘のように、俯く彼女を不思議に思いながらも龍星は明るく声をかける。
すると龍星に気づいたのかねじれは手に持っていたカバンを落とした。
「ビート君……?」
明らかに暗く、しかし驚いているねじれの瞳は大きく揺れており、龍星がここに居ることが幻覚でも気の所為でも無いと理解した瞬間、ねじれは龍星に抱きつくように抱きしめた。
「ビート君っ……!」
「ねじれちゃん……?」
突然の行動に驚きながらも様子がおかしいため龍星は彼女の背中に手を回して、落ち着かせるようにぽんぽんと叩いていた。
ついでに彼女が好きな尻尾を彼女の腰に回して、少しでも落ち着けるように。
「歩ける? 場所、変えよっか」
「……うん」
ある程度落ち着いたのを見て、龍星は離れようとしたら裾を掴まれてしまった。
そのため手を差し伸べると、恐る恐る置かれた手は何か怖がってるようにも感じられる。
龍星の中で、感じたことの無い激情に近い感情が芽生えそうになって、呼吸を挟んで落ち着かせる。
とにかく話を聞かねば分からないため、龍星は包み込むように手を握りしめるとねじれのカバンを手に取って近くの公園に彼女を導いた。
昔と違って、鍛えられたゴツゴツとした手。
柔らかく、華奢と思える手。
互いが互いに、成長を改めて感じられる。
公園に着いた龍星はねじれをベンチに座らせると、隣に座った。
離れることを恐れるように腕を抱きしめるようにくっつくねじれに対し、やっぱり何かあったのだと思いながらも龍星は自ら踏み込むことはしなかった。
聞けば話してくれると分かっている。幼馴染としてどれだけ長く一緒に居たか。
でも彼女が話してくれることに、意味があるのだから。
「……今日ね」
それからしばらく無言の空間が続いた時。
そんな龍星の気遣いに気づいていたねじれは、ぽつぽつと語り始めた。
今日中学で起きたこと。
好奇心旺盛な彼女は中学でも同じように気になったことを次々と質問していた。
しかし彼女の実力も容姿も個性も他の人にとっては羨望の対象となるもの。
それが顰蹙を買い、嫉妬から様々な事を言われたり心無い言いがかりをつけられたと。
デリカシーのない嫌な奴だとクラスメイトたちからは判断されたのだろう。
ねじれ本人に悪気はなく、ただその人のことを知りたかった、それだけなのに。
「知りたいと思ったらみんな離れちゃう……。だから私、もう知ろうとしない方がいいのかも……誰かと一緒にいることなく私は一人で生きていくべきなのかも……」
「ねじれちゃん……」
人によっては彼女の性格が嫌な思いをすることを知っている。
龍星はこう見えて鈍感ではない。小学生までは龍星が間に挟まることで、緩衝材のような役目を果たしていたのは事実だ。
ねじれを悪意から守るためにフォローしていたのは龍星である。
間違っていたんだと、龍星は自分を怒った。
その怒りを表に出すことはせず、冷静を努める。
「俺はね、ねじれちゃんの天真爛漫で怖気付くことなく聞ける性格に救われたんだよ」
「え……?」
救われた、と告げた龍星にねじれは反応して、見つめていた。
龍星は優しい瞳を向けながら、自分が思っていることを。感じてることを。
ただありのままの自分を曝け出す。
龍星に出来るのは、それだけ。
「俺はサイヤ人だから。満月なんて見たら怪物になる化け物。でもそんな俺に対してもねじれちゃんは受け入れてくれてたくさん知ろうとしてくれた。一緒にたくさん知って頑張って、強くなってきた」
憧れの存在を目指す龍星にとって、傍で支えてくれて共に歩んでくれたねじれはどれほど救いになったか。
才能という壁にぶち当たる度に、心が折れそうにならなかったのは龍星にとっていつも笑顔で居てくれた彼女がいてくれたから。
「だから、上手く言えないけど……俺は、俺だけはねじれちゃんから離れていったりしないよ! ずっと傍にいる! だから諦めないで欲しいんだ、変わらないで欲しいんだ。俺がねじれちゃんに救われたように、俺以外にも救われる人がいるかもしれない。ねじれちゃんの輝きはねじれちゃんだけのもので、それがきっと俺以外にも受け入れられる日が来るから! いつも何かに興味を持って楽しそうに、笑顔で明るいねじれちゃんはとっても魅力的だから!」
龍星自身何が言いたいのか分かってないといえば分かっていない。
ただ龍星は、普段のねじれが好きなのだ。
憧れの人にどこか似ていて、だけど違う女の子。
壁なんてないというようにグイグイと来て、知りたいことを知れた時に浮かべる笑顔。何かに興味を持って引っ張ってくれる姿。彼女が彼女の言葉で話すからこそ、龍星はねじれと過ごす日々を大切に思うようになった。
日常の象徴であった彼女との日々は、龍星を冷酷なサイヤ人にしなかった要因でもある。
「ええっと、つまり……えーっと!!」
「ビート君は……」
「ねじれちゃん……?」
分かりやすく言おうとして、お世辞にも頭が良くない龍星はあたふたしてると、抱かれる腕が強まるのを感じる。
そうしてる間に名前を呼ばれたので、龍星は彼女の言葉に耳を傾ける。
「ビート君は私が私でも……居なくなったりしない? 本当に居てくれる? 私、まだまだ気になることたくさんあるよ。ビート君に対して興味が尽きないことばかりで、君のことばかり考えることもあるし……すぐに君に聞いちゃうかもしれない。私を鬱陶しく思ったり、邪魔だと思ったり、面倒臭い女とか……思ったりしない?」
拒絶されることに怯えながらもねじれは恐らく今日言われてきたことをそのまま龍星に聞いてるのだろう。
その言葉を呑み込むように龍星は目を閉じて、明るく口を開く。
「思わないよ! というか思ったことなんて一度もない! 俺が答えられることなら何でも答えるし……昔のように、たくさん聞いてよ。俺はねじれちゃんが離れて一人になる方がきっと耐えられない……!」
「そっか……そっか……。よかった、ビート君だけはいつものままだ。ビート君だけは私を変わらず私で居させてくれる。我慢しなくていいんだ……そっかぁ」
安心したように、龍星の言葉を思い出すように寄り添うねじれは覗き込むように顔を近づける。
「ね、ビート君」
「ねじれちゃん?」
「ビート君だけは私から離れないでね。ずっとずっと一緒に居てね?」
その言葉には果たしてどういう意味が込められていたのだろうか。
クラスメイトのように離れないで欲しいということか。
それともはたまた、別の意味か。
「それはもちろん! なにか辛いことあったら聞くくらいは出来るから、俺を頼ってよ」
「うん、そうするね。ビート君、ずっと一緒だよ。絶対に、逃がさないからね」
「え、逃げないよ?」
「ビート君はそういう人だったね、えへへ。元気出てきたよ。私にはビート君が居てくれるなら、もう大丈夫っ!」
だが龍星は一切迷うことすらなく答え、そんな彼にねじれは元気を貰ったのかねじれらしさを取り戻している。
ただ少し、龍星に向ける視線の中に濁った感情が宿っていた。
「本当に? 無理してない?」
「本当! だってビート君が居てくれるだもん。君が居てくれるなら私は何にだってなれると思うんだ。それに一緒にヒーローになりたいから、ビート君に守られるだけの私でいたくないのっ」
「覚えてたんだね、ねじれちゃん」
「忘れたことなんてないよ?」
「そうなんだ、一緒だ! じゃあ……もう大丈夫なら、帰ろっか。暗くなっちゃうし、お母さんやお父さんに何も言わずに出てきちゃったから」
「……私の為に?」
「うん、心配だったからね。来て正解だったから、よかった」
そう笑顔を向ける龍星にねじれはじっと見つめて、龍星の頬に手をやるとそっと撫でた。
突然の行動にキョトンとする龍星だが、ねじれは微笑むと勢いよく足を伸ばして跳ぶように立ち上がる。
「帰ろっか、ビート君。そろそろお腹空いてるんじゃない?」
「うん。でもまだお腹はだい――」
丈夫、と言うより早くお腹が鳴る。
思わず自分の腹に目を向け、空気を読まない体だな、と抗議の目を向ける龍星にねじれはくすくすと笑い、その手を取った。
今度は指と指の間を絡めて、ぎっちりと握るように。
離さないように。
「帰ろっ!」
天真爛漫な笑顔を浮かべながら手を引っ張っていくねじれに龍星も自然と笑顔になりながら足を動かしていく。
夕陽は沈み、世界は暗くなっていく。
そんな中でも二人の周囲だけは明るかった。