魔訶不思議大冒険 作:一番好きなのは界王拳
中学に上がった頃。
ねじれと同じ中学であるため、一緒に登校することが多くなった。
今ではねじれは中学三年生。
すっかりと女の子らしい体つきになってきており、髪も伸ばしてロングになっている。
大して龍星は身長はそれほど高い訳ではなく、身長も140台。
これはサイヤ人の特性故のものであり、サイヤ人は相手を油断させる為に子供の状態が長く続くとされている。
その後、一気に戦闘に向いた体形に成長し、以後ほとんど老化しない。
そのため、15歳後半くらいになるまでは龍星は小さいままだ。
隣に並ぶねじれの身長は160を超えてるため、小学生と登校してる図にしか見えないだろう。
ただ本人たちは気にしてないのか手を繋いだ状態で歩いている。
「あとは尻尾だよなぁ……」
「また切っちゃうの?」
「いや、慣らす予定。自分の一部を千切るのってやっぱりちょっと忌避感がね」
ゆらゆらと揺れる尻尾にねじれの視線が釘付けになっている。
子供の頃から尻尾が好きな姿が変わらないことに苦笑いを浮かべていた。
「そんなに尻尾気に入ってる?」
「そりゃあ……ビート君の一部だからね。今も大切に保管してあるんだよ? それに力が抜け切ってるビート君の姿がかわ――んん。珍しいからね」
「もう結構経つのに腐ったりしないよね、尻尾。何らかの不思議な力があるのかな、いやサイヤ人の一部だし腐らないか。力が抜ける件に関しては基本的には起こらないからね、そりゃ珍しいよ」
龍星は自分がサイヤ人だと自覚してから満月の夜に尻尾を千切まくってたため、その度に欲しいとせがまれて渡してたことがある。
目を閉じても問題なくなってからは千切ることはなくなった。
しかし中学になっても変わらず尻尾は握られてしまう。
と言っても流石に2人っきりの時くらいにしかしないが、時折ねじれの目がやばい光を宿す時があるのもふと思い出す。
なんというかこう、力が抜けきった後に獣のような目になる時があるのだ。
別に特に何も起きてないので龍星も気にしてはいないが。
それはそうと実力に関してもかなり上がってきているだろう。
もうすぐねじれは高校受験。
また離れてしまうことに寂しがるねじれの姿は印象に深く残っているが、以前ほど元気がないわけではない。
と言っても、実は龍星の前だけでクラスでは他を寄せ付けない雰囲気を纏ってたりするのだがそれは龍星が知る由もなく。
少しずつ、しかし着実に彼らの時は進み続けている。
「雄英高校かぁ……」
雄英高校ヒーロー科。
倍率のヤバい、日本最難関校とされるヒーロー育成学校。
ヒーロー科の他に普通科、サポート科、経営科が存在し、入学するだけでも十分すごいとされる高校だ。
秋田県出身の彼らでは流石に遠いため、近々家族ぐるみで静岡辺りに引越し予定。
「ビート君も同じでしょ?」
「まぁね。1番凄いところに行けば強い人達にも会えるから」
「ビート君らしいね。それでね……私、合格したらビート君に伝えたいことがあるの」
「俺に?」
「私の覚悟って言えばいいのかな。ビート君はサイヤ人というのもあるけど、きっともっともっと強くなる。君の隣に立って居たいと思うなら、私はもっと強くならなくちゃダメなんだ」
実力面で言えば、龍星はまだまだ弱い。
実際の戦闘はしたことがないからだ。
せいぜい両親にボコボコにされた程度。
だけど努力はたくさんしてきた。
高校受験前にはプロヒーロー顔負けの実力になることをねじれは確信している。
ずっと昔から隣で見てきたからこそ、今まで通りじゃ置いていかれることをねじれは気づいてるのだ。
本人は才能がないと思っているようだが、龍星は確かに“努力の天才”であり、“戦いの天才”とも言うべき才覚が備わっている。
それは幾度か手合わせをしてきたからねじれには分かるのだ。
「ねじれちゃん……」
「だから私、首席で合格する。そうしたらきっと、ビート君に伝えたいことを伝えられると思う」
「……そっか、じゃあそれまで待っとく。修行も付き合うよ!」
「……うんっ。ビート君ならそう言ってくれると思った。じゃあ、その前にモフらせてっ!」
「わっ!?」
そのねじれの覚悟を、龍星は応援することはしない。もう頑張ってる彼女に応援はするべきではないからだ。
なら口じゃなくて行動で。
まぁその前に押し倒されて尻尾を弄られたせいで力が抜けきってしまったが。
――“特別”になりたい。
ずっとずっと思ってきたことだった。
小さい頃からずっと、彼の隣が居心地がよかった。
毎日楽しくて温かくて、自然と笑顔になれる場所。
いつも前を向いて、ただ目的のために自分がどれだけボロボロになっても修行をやめないでいて、言葉の数々には穢れすらない純粋な言葉。
ビート君だけは私を受け入れてくれた。
今思えば、昔は気づかなかったけど、小さい頃からずっとずっと。
私の性格に嫌な顔ひとつせず受け入れてくれて。大切だと言ってくれて。
年下の男の子だけど、そんなの関係ない。
私にとっては同年代の男の子よりも頼りになるし、かっこいいって思ってた。
見た目も、その綺麗な心も。
自分の心が汚れてると自覚したのはきっと、周りから否定されたときだった。
――彼が欲しい。独り占めしたい。私だけを見て欲しい。他の人に目を向けないで欲しい。触らないで欲しい。彼の言葉も感触も全部全部――なんて、黒い感情が一気に溢れた。
それは今も変わらない。
純粋な私を好む彼には、申し訳ないと思ってるけれど。私はもう、本当の意味で純粋ではないんだと思う。
だって、今も彼のことを思いながら、写真を見ながら、時に尻尾を使って――――時があるから。
こんなこと流石に恥ずかしくて言えないから、私だけの秘密。
彼の特徴の一つだから、彼の尻尾も好きだった。
柔らかくてふわふわしてて気持ちいいのもある。
でも1番の理由はビート君を感じられるから。
変態的だと思われるかもしれないけれど、お家には今までビート君が大猿化という、暴走を避けるために彼自身が切った彼の尻尾がある。
触れてるとビート君が傍に居てくれてる気がして、匂いが残ってる気がして。
彼が近くに居ない時はいつも尻尾を抱いていた。
彼のことを好きだと自覚したのはいつだろう。
小学生の頃? 中学1年生? 2年生?
ううん、性について、異性について、知り始めた時からきっと私は彼に惹かれていた。
真っ直ぐなところ。優しいところ。諦めないところ。いつも明るいところ。純粋なところ。誠実なところ。無邪気なところ。誰に対しても偏見なく接し、損得勘定とは無縁な行動するところ。
昔から努力で積み上げてきた高い腕っ節にどんな相手にも物怖じしない姿。
全部が私の目には、輝いて見えた。
彼のことを考えたら胸が苦しくなった。他の女が出来たらと思ったら締め付けられるような痛みがあって。
許せなくて。
彼の笑顔を思い浮かべたら、熱が収まらなくなる。
思わず、純粋な彼に手を出しそうになった時もあった。
あまりに無防備で、まだ弱点もあるくせに私にだけは隙を見せて。
嫌われたくないから我慢したけど、もし他の誰かが関わる機会が増えたらきっと、あっという間に彼の隣には誰かが居るんだと思う。
純粋で強くて、優しくてかっこいい。そんな人、放っておくはずがない。
そんなの、嫌だ。
ずっとずっと傍に居た。努力してきたところを見てきた。修行してきた。
だからわかる。
ビート君は必ず“強く”なる。何処までも駆けて翔けて、駆け上がっていく。走るその背中はいつか遠のいちゃう。
でも私が望むのは守られる形ではなく、支え合う関係性になりたい。
だから決めたんだ。
雄英で1番になる。1番になって、もっと強くなって、いつか名を馳せるプロヒーローになって、彼と“これから”を歩む。
私の覚悟はそれを示すもの。首席で合格出来なければ“好き”と伝えられない。
仮に伝えても私の好意に応えてくれるかなんて分からない。
だとしても私は、彼と共になりたい。生涯を生きていきたいと思ったから。
行動しなきゃ、何も始まらないんだ。
私はそれをよく知ってる。ずっとビート君を見てきたから。
だから私は、
入試までの間、ずっと付き合ってくれたビート君。前日は休むように言われたから休んだ。
入試前にもふもふして脱力する彼を見てゾクゾクした感覚に襲われつつ充電して、パフォーマンスは完璧。いや正直手を出さなかった自分を褒めたいくらいやばかったけど。
だけど彼との時間が嘘ではなかったと、意味があったんだと証明するためにも、私は負けちゃダメだと改めて強い覚悟を胸に入試を受けた。
試験内容はロボットを壊すだけ。でも私が望むのはヒーローだから、人助けもした。
気も、波動も、フル稼働して。
私にはロボットを倒しながらも人を助けられる力があったから。ビート君と紡いできた、強くなった私を全て曝け出した。
結果は救助ポイントもあって歴代1位を獲得した。
2位の人とは60ポイント以上も離す圧倒的差で合格。
勉学は流石に、1位じゃなかったけど。
言える。
話せる。
私の思いを、私の想いを、今まで抱いてきた感情を。
今回ばかりは、許されると思う。
だってそのために頑張ってきた。そのために強くなってきた。
これからももっともっと強くなる。
でも日に日に強くなるこの想いだけは、我慢出来なくって。
「首席合格おめでとう、ねじれちゃん!!」
あの日、君と出会った初めての公園。
あの日、たくさん遊んだ公園。
あの日、無茶をする君を見てきた公園。
あの日、受け入れてくれた公園。
様々な思い出が詰まったこの場所は私にとっても宝物で。
夜に呼び出したというにも関わらず、眩い笑顔で言葉を投げかけてくれる。
それだけで私の努力は、頑張りは報われたんだと感じられた。
「ありがとう、ビート君。でも私だけの力だけじゃなくて、今までビート君が居てくれたからだよ?」
「そうかな?」
「うん、私は気の存在も知らなかったし使えなかった。舞空術も使えなかった。残像拳も遠距離型の私にとっては使える技だし、波動だってビート君と会えなかったらここまで成長してなかったと思う。近距離で戦えるようになったのも手とり足とり教えてくれた君のお陰。未来のことは分からないけれど、少なくとも今の時点でここまで強くはなれなかったと思うんだ」
私の波動は私も分からないけど、何故かねじれる。
だから速度が出ない。
でも出来るようになった。ねじれる性質を利用することも、速度を上げることも、威力を上げることも。形を変えることも。
ビート君が一緒に考えてくれて、精密な操作まで出来るようになって。
技のレパートリーもたくさん生まれて。
「俺がねじれちゃんの力になれたならよかった。俺も嬉しくなるよ! それに首席合格って凄いもん! ねじれちゃんが今まで頑張ってきたからこそ、取れた1位だし!」
眩しい笑顔。光のような、そんな純粋な笑み。
自分のことのように喜んでくれる。
彼が嬉しいと私も嬉しい。
笑顔だと私も笑顔になれる。
でも、このまま居たらいつか離れ離れになっちゃう。雄英に入ったらきっと今までより余裕は無くなる。会える時間も減ってしまう。それにプロヒーローになってから付き合うとかしても面倒なことになるのは目を見えて分かる。
でもデビュー前から付き合ってたなら、まだマシだ。
何より私がもう、我慢できない。
もし私が離れたあと、彼の傍にもう大切な誰かが居たら。
そんなの嫌だから。
ずっとずっと傍に居たい。居させて欲しい。年上の女の子じゃなくって。幼馴染の女の子じゃなくって。
私を君の“特別”にして欲しい……!
「だからずっと、言いたかった。伝えたかった。ビート君――ううん、龍星弥斗君」
滅多に呼ばない、フルネーム。
でも今日はちゃんとしなきゃだから。
胸が五月蝿い。心臓が張り裂けそう。
顔が熱くて、唇が今でも震えてしまいそうになる。
だけどこの想いは、気持ちは本物だから。
私の全部を伝えたい――
「――貴方の事が好きです。私と付き合ってください」
だから私は、自分の想いを告げた。
夜の街灯に照らされる暗闇の世界の中で、私とビート君だけしかいない世界で。
顔が熱くなる感覚に陥りながらも私はビート君の返事を待つ。
断られても責めるつもりもないし、諦めはしないけど納得する。
これは私だけの感情。言ってしまえば私の自分勝手な気持ちを彼に押し付けてるだけ。邪魔になるなら、迷惑になるなら我慢する。
でも言わなくちゃ。伝えなきゃ。
私の気持ちは届かない。誰かに盗られるくらいなら、玉砕したってこの気持ちを伝えたかった。
「ねじれちゃん……」
私の名前を呼ぶ声。
いつもなら安心するように今日だけは違くて。
関係性が壊れる可能性も考えなかったわけじゃなかった。
だけどずっと隠してても辛いだけで、誰かに盗られたらなんて考えたら耐えきれないから。
でも怖いものは怖くて、肩が無意識に震えた。
こればかりは、冬の寒さじゃない。
「俺、ねじれちゃんのことが大切なんだ」
「うん……」
それはずっと分かってた。
普通は大切じゃない人を守りたいなんて真っ直ぐ言わないし、合鍵を持つ私をそのままにしたり、部屋に入っても文句を言ったりしないから。
でもそれは、“幼馴染”として。
幼馴染だから……? と言葉に出そうになるのを堪える。
最後まで聞かないと、聞かなくちゃダメだ。
告白したのは私なんだから。一時の感情に任せちゃダメ。それはずっと一緒に修行してきたから、一時の感情に任せすぎちゃダメなのは分かってる。
時にそれは力になるけど、今は違う。
「俺はねじれちゃんを守りたいしずっと傍に居たいと思う。ねじれちゃんならきっと、誰にも話したことない俺の“秘密”も受け入れてくれる。だって俺がサイヤ人で、何らかの事故で大猿になるかもしれない俺の事だって受け入れてくれたから」
秘密。
ビート君の秘密はサイヤ人であること。満月を見たら大猿になること。それは自分で制御出来るわけじゃなくて、満月が消えるまで目に見えるもの全てを破壊し尽くすらしい。すぐに戻すには尻尾を切るか、満月を壊すか。それとも殺すか。
彼の秘密はそれだけだと思ってたから、それ以外にもあったことに驚かなかったわけではない。
その秘密というのは気になる。だけどそれ以上に今は答えが知りたい。
でも怖い。これ以上は聞きたくない。でも聞かなくちゃ。
そんな思考が何度も何度も生まれては消える。
ただこの告白が仮に断られても、前に進むにはそうするしかないから。
諦めるつもりは、ないから。
「だから最後まで聞いて欲しい。ごめん。俺がもっと早くに、覚悟決めるべきだったんだ」
酷い顔だった。
彼にしては珍しく自分に怒ってるようで。
同時に申し訳なさそうで。
悔やんでるように思える。
だけど深呼吸した後、彼が見せるのは誠実さに満ちた表情だった。
「ねじれちゃん。俺もねじれちゃんが好きだ。俺から言わせて欲しいんだ、俺と付き合って欲しい。きっと俺はこれから無茶もするしたくさん心配を掛けるようなことをするかもしれない。だけど必ず君を、君の周りを守ってみせる。俺の人生全部を使って、ねじれちゃんを俺が幸せにするって約束する!」
足を1歩動かして服が皺になることも気にせず胸を強く握りしめながら、真剣な顔でそう宣言するビート君に、少しして理解が追いつく。
私の目頭が熱くなって、涙が溢れてくる。
――ああ、そうだったんだ。
私だけじゃなかったんだ。
ずっと私の片想いだと思ってたのに。本当は同じ気持ちで。ずっと傍に居たいって願うのは私だけじゃなくって――。
「はい……っ。私を、ビート君の彼女にして……! 何があっても、どんなビート君も私は、私だって生涯愛するから。大好き……っ!!」
「っ……うん。俺も、大好きだよねじれちゃん」
抱きついた私を受け止めてくれたビート君は、やっぱりいつもと変わらず暖かくて。
私にとってとっても安心出来る温もりだった。
まだ真冬の寒い時期。
夜となれば冷えるけど、冬の寒さなんて嘘のように。
私の心と体は冷め切ることなく。お日様に照らされてるように暑く、それ以上に彼に対する“好き”が火山のように噴火していた。
しばらく包容して落ち着きを取り戻してきた頃、顔の熱だけは消えなくて。
ビート君と見つめ合う。
心臓がバクバクと鳴る音が体内から聴こえるくらい緊張する。
「ビート君……。その……」
「……うん」
想いを確かめあって、両想いになれた。
そしてその想いを本当の意味で確かめ合うように。
目を閉じた私の唇に、彼の唇がそっと触れる。
初めてのキス。
大好きな人に捧げるファーストキス。
頬や額には昔にしたことあるけれど、成長していくにつれてキスはしなくなってスキンシップ程度になっていった。
そんなに長くもない、短なキス。
でも想いを確かめあった後にしたキスは特別で。
永遠のように感じられた。
「なんか……恥ずかしいね」
「うん……でも、嬉しいな」
互いに照れながらも公園のベンチに座った私とビート君は手を繋ぎながら暫く夜空を眺めていた。
今日は満月ではない。だからビート君も安心して外出出来る。
それでも月光に照らされた今日の公園は、見慣れてるはずなのに異世界のような、特別な世界に居るように思えた。
付き合い始めてから龍星は自分が“別の世界で生きていた人間”ということをねじれに話した。
それが龍星のねじれに対する誠意で、同時に龍星の覚悟でもあるとねじれも理解していた。
信じられないことだったが、そもそも小さい頃から色んなことを知っていたこと。“気”という誰も認識してない力を知ってたこと。まず個性に溢れる世の中なのでそういう現象が起きてもおかしくないというのもあって、龍星の心配も杞憂に終わり、受け入れられた。
そもそも他人として生きてきた人生があったとしても、ねじれが好きなのは今の龍星である。
つまり“龍星弥斗として生きてきた全部”を受け入れてるのだから、今更受け入れないはずもなく。
それら引っ括めて好きだと告げたねじれに、流石の龍星も泣きそうになった。
彼にとってはある意味1番の爆弾だったのだから、致し方ないだろうが。
互いの両親にも家族ぐるみの仲というのもあって報告することになったのだが、こちらはこちらでむしろ焦れったく思ってたらしく、やっと付き合ったことに安堵と喜びを隠し切れてなかった。
どうやらねじれの気持ちはバレバレだったらしい。
全然受け入れられるどころか、むしろ結婚の話だったり子供のことだったりと気が早い話までされる始末だったが、親の件も問題なく2人は無事に付き合うことが出来た。
そしてそっちもめでたいが、ねじれの首席合格もめでたいので、引越し前に派手に祝い、パーティをしてから雄英に通うためにも龍星とねじれたちは秋田県から静岡県に引っ越しした。
その、半年後。
「ビート君っ!!」
大切な人が入院してダメだとヒーロー校が言った方が問題だ。
ねじれが病室に入った時、龍星は予め感知していたようで開いた扉を見ていたが、顔以外包帯巻きにされてる状態だった。
「ねじれちゃん、来てくれたんだ」
「大丈夫!?」
「うん、二ヶ月くらい掛かるけど大丈夫だよ。後遺症とかは特にないって!」
「それ大丈夫って言わないよ……。よかった、ビート君が生きててくれて。何かあったらって思ったら……」
「……ごめんね」
「ううん……何があったの?」
中学2年生。
既に大きくレベルアップした龍星は並大抵のチンピラ程度には負けない。
そんな彼が負けたということは、よっぽどの大物ヴィランだ。
「俺も誰かは分からないけど、凄いやつが居たんだ。ヒーローが危なかったら思わず助けに入ったんだけど俺のかめはめ波すら通用しなくって、結局守れなくって……気を全開にして殴り合って、撤退させるだけで精一杯だった……」
力不足を悔やむように顔が歪む。
自身の全部を出し切っても届かなかった相手なのだろう。
いくら実戦経験が無くても、龍星の強さは中学ではまず最強だ。
なんなら雄英でも問題ないというのは既に1年生のねじれはよく知っている。
だが今はそんなことより。
「ビート君をこんなにして……許せない。私が――」
もはや憎しみに近い感情が溢れ出る。
それがオーラとなって出ているのか、彼女を覆う白いオーラと波動がバチバチとスパークしている。
感じられる気の爆発力が凄まじく、怒りで戦闘力を爆発させられるサイヤ人の血でも混じってるんじゃないかと思ってしまうほど。龍星でも彼女の謎の底力までは読めない。
だがこのままでは病院が壊れてしまう。その前に個室が壊れる。ついでに龍星も吹っ飛ぶ。
「ま、待って待って! 何処に行ったかなんてもう分からないし、俺のためにねじれちゃんが俺みたいに怪我した方が俺は嫌だよ。それよりこれからの話をしよう!? 俺、こんなんだから色々と迷惑掛けるというか……」
だからこそ、龍星はねじれを落ち着かせるためにも話を変えた。
実際に必要なことではある。
今の龍星は動けない体になってしまったため、大きく迷惑を掛けてしまうのだ。
「……うん。大丈夫だよ、ビート君。迷惑なんて思わないし、私がイロイロお世話してあげるね」
「そうしてくれると嬉しいかなぁ……ごめんね」
その色々にツッコむべきなのだが、普通に言葉通りにしか受け取らなかったようで龍星はスルーした。
それより申し訳なさで一杯なのもあるかもしれない。
せっかく恋人になったのに半年でこの有様だ。
告白の時、自分で言っておいてまさかこんなすぐにこうなるとは流石にビートも思ってなかった。
今回に関しては通り魔に自ら突っ込んだようなものだが。
「ううん、もしあれだったら私からリカバリーガールに――」
と、雄英生の特権を使おうとして扉が開かれる音に反応した。
入ってきたのは、龍星に似た外見の男と美人と思うほどに容姿が整っている黒髪の女性。
「ねじれちゃん、来てくれたんだね」
「ごめんね、うちの息子が」
「あっ、弥生さんに陽斗さん。いえ、そんな……」
当然ながら龍星の両親である。
別に仲が悪くない家族であるため、普通に仕事を抜けてきたとのこと。
「この子ったらほぼ全身骨折してるのに筋トレはしててね、全くもう誰に似たのかしら……」
「ははは……」
「それ本当? ビート君?」
「あはは……い、いやー体鈍った方が大変だから。大丈夫だよ、無理はしてないし!」
ジト目で視線を向けた弥生に対し、目を逸らす陽斗。
そしてねじれに見つめられ、苦笑いする龍星。
どうやら遺伝らしい。
「それにサイヤ人は体の治りも早いからね!」
そう言いつつも、この世界に仙豆があればなぁ、と思わずには居られない龍星だった。
仙豆があれば欠損すら治せる万能なアイテムである。病気は無理だが。
「限度というものがあるでしょう。全く、せっかく出来た恋人にあまり心配かけるものじゃないよ?」
「それは反省してるよ……お母さん」
流石にねじれのことを出されると弱いのか、龍星は申し訳なさそうになった。
「……ねじれちゃんも気を付けてね。名前は知らないけどあの
慢心していたところもなかったわけではない。
龍星は既に戦闘力だけで見れば中学生の域を超えている。だが、それでも勝てなかった。
自分がまだまだ弱いと自覚するのと同時に、まだまだ強くなれることに喜びを見出してしまうのはサイヤ人の性質か。
「流石に休んでくれよ、弥斗。ねじれちゃんも迷惑かけるだろうけど息子を頼めるかな?」
「はい、任せてください。ビート君の彼女ですから、私以外にさせられませんし」
「ありがとう」
反省はしてないのかこっそりダンベルを持とうとする龍星に母親が触れる程度のチョップを与えてるのを横目にねじれと陽斗は軽く言葉を交わしていた。
「弥斗、貴方は既に怪我人。それも重傷なの。分かってる? サイヤ人でも死ぬ時は死ぬでしょう。第一人間とそう変わらないんだし。いくら治癒の個性を持つ先生が来るとはいえ無理をすれば治るものも治らないのだからいい加減――」
母親には勝てないのか説教される龍星はねじれに助けを求めていた。
が、気持ち的に弥生に賛同しているねじれは見捨てた。
後でフォロー入れよう、となんだかんだ恋人に甘いが。
二ヶ月後。
特に後遺症もなく退院した龍星は体を伸びする。
ある程度筋トレや動くことはしていたとはいえ体は鈍ってしまう。
まずは感覚を取り戻すところから始めねばならない。
「本当に特に何事もなくてよかった」
「心配掛けてごめんね」
「大丈夫。ビート君のお世話が出来たし、ヒーローになるってことは無傷じゃいられないから。ただ私を置いて何処かに行かないでね?」
「うん」
この世界にドラゴンボールはない。
仙豆もない。
死んだり、後遺症が残る怪我をしたらその時点で終わりだ。
改めてドラゴンボールのアイテムの数々の偉大さを知るのと同時に、龍星は覚悟を決めた。
もっと強くならなくちゃ、と。
尻尾を鍛え始めていたため、それと並行してドラゴンボールにおける切り札の技を身につけることにする。
特に数多くの劇場版ボスや本編ボスに大ダメージ、もしくは撃破をした
しかし、今は修行より。
「ねじれちゃん。せっかくだからさ、このままデートしよっか」
「……! うんっ! 喜んで!」
即答で、花が咲くような笑顔。
自然と手を繋ぎ合う。
手を繋ぐことは昔からしてきたが、やっぱり恋人という関係になったからか何処か違っていて。
行先もなく歩みを進める。
世間ではもう夏休みだ。
雄英は他に比べて夏休みが少ない。
だからこそ空いてる時間で二人は思い出を作ろうと話し合った。
まだまだ夏にはやることがある。
海に行ったり祭りに行ったり。
山はまあ、龍星が普段から行ってたりするので特別感はないが。
どちらにしても、ねじれとの時間を大切にしながらも強くなる。
ねじれもまた、龍星を守るためにもっと強くならないと、と考えていた。
だけど今は。
「先にご飯食べよっ。ビート君お腹空いてると思うし!」
「よく分かるね! もうお腹ペコペコだよ」
「ビート君の彼女だもん。それにずっと見てきたから、分かるよ」
「確かに、付き合う前から分かってたもんね。燃費悪いんだよね、この身体」
「私はいっぱい食べるビート君も好きだよ。今度は私の手料理、振る舞うね」
「やった、それは楽しみだ!」
恋人との時間を楽しむべきだとお互い思っていた。
未来のことより今である。
それから暴食を尽くす龍星の姿を笑顔で見守ったり、買い物に行ったり、何の宛もなくぶらぶらしたり、時に休憩したり。
そんな過激でも何でもない、ただ普通のカップルのデートをするのだった。
だいたいヒロインとくっつかずに中途半端に終わる作品が多いなら最初からくっつければいいし鳥山明ならこうすると思う。
そもそも前半はねじれちゃん、出番的に厳しいので……。
まぁなかなかくっつかずに早く付き合え!! ってなる焦れったいのも好きなんですけどね。そっち期待してた人はすまないと思ってます。
ただその分イチャつく時はイチャつくので許してください。