魔訶不思議大冒険 作:一番好きなのは界王拳
個性把握テスト
雄英の結果発表が来るまでおおよそ1週間はかかる。
その間、いくら龍星でも結果が分からなくてソワソワする――わけもなく。
至って自然体で修行していたが、結果が届いた。
合格かどうか分からなくたって修行をサボっていい理由にはならない。
程よく修行し、程よく休む。
亀仙流を基礎として修行しているからこそ、そうしている。
そして今、部屋の小さなテーブルに置かれているのは小さな封筒。
結果が知りたいとねじれも部屋に居り、龍星は頷く。
「開けるよ」
「うん」
封筒を丁寧に切った龍星が中身を取り出すと、何らかの円状の装置らしきもの。
投影機だろうか。
適当にポチッても爆発しないかな、なんて物騒なことを考えつつポチッと起動させた瞬間。
『私が投影された!!』
投影機からスーツ姿のオールマイトが出てきた。
目を丸くする龍星とねじれ。
「ねじれちゃんの時って校長先生だったんだよね?」
「うん、なのにオールマイトだ。驚いちゃった」
『初めまして龍星少年! この一週間、元気にしていたかな? それと、なぜ私が投影されたかって? それは! 私が雄英に勤めることになったからさ!』
聞いてもないのに勝手に言ってることから録画なのだろうというのは簡単に予想出来た。
ねじれも知らなかったのか素直に驚いていて、龍星は割とどうでも良さそうだった。
戦ってくれるなら大歓迎だが、教師になるからといって特に何もあるわけでもなく。
龍星にとっては孫悟空と彼を導いた師匠たちが心の先生というのもあるだろう。
龍星は別にオールマイトに憧れていないのもあるのかもしれない。
『気になっている合否を早速発表しようか! まず筆記はギリギリ合格!』
一番の壁を突破したことに二人して安堵の息を吐いた。
むしろ勉強を教えて貰ってギリギリだった時点で龍星一人だったら筆記で落とされていたかもしれない。
『そして実技! 驚いたぜ! なんとヴィランポイント89点! これだけでも十分合格ラインだが……試験官達が見ていたのはそれだけであらず!』
最初は数えていたとはいえ、気合い砲から数え切れなくて諦めていたが、そんなに撃破してたとは龍星も思わなかったようでちょっぴり驚いていた。しかしそれだけではないような言い方。
続く言葉を待っていると。
『――どんな状況でも人を助けてこそのヒーローさ!! 偽善上等! 我々が見ていたもう一つのポイント! その名は救助ポイント!』
プレゼント・マイクの説明にも資料にもなかった、隠されたもうひとつの審査ポイント。
ねじれは知っていたがフェアプレイを好む龍星の性格をよく知ってるため、敢えて話していなかった。
当然、何も知らないのだから龍星もそのために行動してたわけではない。
ただ単に危険な目に遭ってた人が居たから助けただけ。
『龍星少年! 君の救助ポイントは70点! 0ポイントヴィランを倒す際に被害を出さず周囲にも目を配らせていた視野の広さ! だが我々雄英教師が最も評価したのは試験終了後の君の行動! アフターケアもヒーローには必要とはいえ、試験も関係ないというのにそれを実践するとは……我々も驚かされた!』
どうやら試験終了後についても評価ポイントに入るらしい。
龍星は本当にポイント目的でやった訳では無いし、怪我人を集めただけである。
気によっては他者を回復させられるが、龍星にはその能力はない。
なので怪我人を集めるか自分の服を引き裂いて包帯代わりにするくらいしか出来なかった。
マフラーだけは誰にも譲る気はなかった。
お陰で上着を直で着てマフラーという状態で帰ることにはなってしまったのだが。
『というわけで合計159ポイント!! 他と大きく差をつけて入試1位! 文句無しの首席合格さ!!』
「っし!」
そして発表された首席合格。
それには思わず龍星はガッツポーズを取り、子供らしく喜んだ。
ねじれは暖かな目で見ており、視線に気づいた龍星は少し照れていた。
「おめでとう! ビート君っ!」
「うん!」
喜びの軽いハイタッチ。
年が離れてるとはいえ、同じ雄英に通える。
そのことに意味がある。
「でもポイント結構差つけられて負けちゃったな〜」
「救助ポイントがあったからこそだよ」
「私はあるって知ってたから。ビート君なら絶対誰か助けてるってね」
「……まぁ見捨てるのはね」
純粋な眼で言われてしまえば龍星は頬を軽く掻きながら答えるしか出来なかった。
しかし首席合格。
決めていた目的は達成出来た。
だが合格出来たのは本当にねじれのお陰だろう。実技はねじれの記録を上回ったため、歴代最高記録だが最高記録保持者がまさかの筆記で落ちるという悲惨な運命は避けられたのだから。
「本当に、筆記はねじれちゃんのお陰だね。今度何かお礼しなきゃだ」
「なんでもいいの?」
「俺に出来ることならいいよ」
「だったら私、新しく出来た遊園地に行きたいなっ。ビート君と二人っきりで」
だからこそお礼をしようと思っていたため聞けば、遊園地に二人っきりで行きたいと言われてしまった。
龍星でもそれがデートの誘いということに気づいた。
「もちろん、ねじれちゃんの都合がいい時にいこっか」
「やった! 楽しみが出来ちゃった。それじゃあ早く弥生さん達にも合格したことを告げにいこ!」
立ち上がったねじれは龍星に手を差し伸べ、龍星はその手を取りながら立ち上がるとリビングで待ってるであろう両親に報告に行く。
――なお合格すると思われていたので特に心配はされてなかった。
雄英の初登校日。
雄英の服に身を包んだ龍星は鏡の間で立って悪いところがないから確認し、青色のリストバンドを両手首に身につける。
サポートアイテムの申請は済んでおり、これらは両親に頼んで自らを鍛えるために用意してもらったもの。
靴も当然重みがあり、古臭いかもしれないが重量の重りをつけることで常日頃からトレーニング出来るようにしている。
龍星は自分に才能があるとは思ってない。かめはめ波の習得が1週間とはいえ、すぐ応用出来るようになった時点で彼もまた、十分“天才”に分類されてしまうのだが、比較対象がZ戦士基準なだけである。
基準にする相手を間違えている。
「弥斗」
「お母さん」
玄関で呼びかけられ、龍星はドアノブを掴んだまま振り返る。
「貴方なら必ず、素敵な仲間たちが作れる。弥斗は私たちにとって最高にかっこいい息子よ。行ってらっしゃい」
「――ありがとう。行ってきます!」
サイヤ人ということを信じてくれて。
大食いな龍星を毎日文句も言わずに支えてくれて。
サポートアイテムまで用意してくれて。
愛情を注いでくれて。
改めて人生の転換期にもなり得る高校の初登校前に龍星はこれまでのことを感謝すると、笑顔で家を出る。
「ビート君」
扉の前では鞄を肩にかけ、雄英服に身を包むねじれが待ち構えていた。
龍星が出てきた瞬間、ぱああと効果音がついてそうな笑顔が咲くのだからたまに浄化されるんじゃないかと思う龍星だった。
「おはよう、ねじれちゃん」
「おはよっ。ビート君、カッコイイね。これで見るのは二度目だけど、素敵だと思うな」
「ありがとう。ねじれちゃんも変わらず可愛いと思うよ」
「えへへ」
龍星は左手のリストバンドを外すと、ねじれに手を差し伸べる。
意図をすぐに理解して、ねじれは嬉しそうにその手を握って恋人繋ぎにした。
「今日からまた、最後まで一緒に登校できるね」
「うん、前までは途中だったからね。俺も嬉しいよ」
「私も! ビート君とお話して、こうやって手を繋いで歩いていけるなんて考えるだけで元気湧いてきちゃうもん。しかも充電もしっかり出来るからね」
「これくらいでねじれちゃんが元気出るなら、喜んでやるよ。ねじれちゃんには元気で居て欲しいからね」
時間が余裕あるからか人はまだ少ないものの、朝っぱらから恋人繋ぎで登校する生徒というのは中々いないだろう。
当然の如く龍星は車道側を歩いているが――。
「7億点……!」
「59の方が好きかなぁ」
点数をつけられたため、憧れの人が59なのでそんなことを口走る龍星だった。
流石にクラスは違うので分かれたが、その前に教室まで一緒に行こうかと言われて流石に断った。
ねじれの容姿を考えればそうなった時点で騒ぎになってしまう可能性もあったからだ。
そして雄英の施設だが、異形型のためにだろうか? 天井も廊下も広い。
龍星のクラスはAとB。二つあるうちのAの教室だ。
教室に入ると、何人かは居たが全員は集まってない様子。
真面目そうな面々が既に居るくらいだろうか。
「むっ! おはよう!」
「おはよう」
早速眼鏡をかけた生徒に声を掛けられる。
何処かで見たような、と思い出しかけたところで、プレゼント・マイクに質問していたと思い出した。
「俺は飯田天哉だ! これからクラスを共にすることになるわけだが、よろしく頼む!」
「俺は龍星弥斗。よろしく、飯田」
「うむ、こちらこそ!」
どうやら根が真面目らしい、と手を差し出されたので握る。
その瞬間、飯田は驚いたような顔だった。
おおよそ見た目よりも力がある上、筋肉質だと言うことに気づいたのだろう。
見た目に関しては慣れてるしまだまだ成長するはずだと思ってるので龍星は気にせずに自分の席に鞄を置いた。
そして持っていた袋を机の上に置き、山積みになったパンを早速食べ始めていた。
お腹が空いたわけではないが、今からやる修行のための栄養補給である。
なんだかそれだけで視線が集まったような気もしたが――。
瞑想をしていると、見知った気を感じ取った龍星は瞑想をやめる。
すると早歩きで誰かが龍星の元に向かってくる。
その人物とは。
「おはよう龍星! やっぱ合格してたんだな!!」
「おはよう、君も合格してたんだね上鳴」
入試で出会った上鳴だった。
朝から元気いっぱいだ。
上鳴の実力がどうかは分からなかったので合格するかは分かってなかったが、無事に合格していたようだ。
「おうよ、相性が良かったってのもあったけどな」
「それも実力じゃないかな。あれに関しては精神的な問題だと思うし。停止ボタンついてるんだから戦闘能力無くても押せばいいだけの話だからね。壊す方が早いだけで」
「立ち向かうのは中々勇気がいるぜ?」
流石に雄英側も戦闘能力がない人用に対策はしている。
まぁ、戦闘系の個性が有利なのはあるが……。
どちらにせよ自分より遥かに大きいロボットに中学生が立ち向かえってのも厳しいものだ。
実際にいい個性を持っておきながら落ちた者もいるだろう。
そんな人物が居たとしても、龍星からしたら修行不足としか言いようがないが。
個性が使えない状況も生まれる時はあるだろう。
通用しない時もある。
かつて自分が切り札にしていたかめはめ波が通じなかった時のように。
結局頼れるのは己の肉体である。
「でもよ、すごかったぜあのビーム! あんな巨大ロボットを完全に壊しちまうなんてよ!」
「本当は蹴り壊すつもりだったんだ。意外と硬かった」
「いやいやあれは流石に無理だろ」
「すまない、会話に割り込むようだが……龍星君。君もあの巨大ロボットを倒したのか?」
周りを気にしなくていいということ。
気を集中させたら。
など条件さえ満たせば壊せた自信はあったためそんなことはない、と言いたかったのだが飯田が入ってきた。
真面目な飯田が名乗らないということは先のように上鳴とはもう自己紹介を済ませてるのだろう。
とりあえず質問に答えようと。
「おお、そうなんだよ! 龍星のやつ、あのロボットの攻撃を避けてさ! こう頭上からズドーンって!」
「ほう……! ということは君で壊したのは二人目ということか!」
「――何?」
答えようとしたら見事上鳴に奪われてしまったが、興味深い話が入ってきた。
龍星はかめはめ波で消し去ったが、今の言い方的には別の誰かが破壊したのだろう。
あの巨体を倒すほどのパワーなど、早々に居るものではない。
何か有利な力だったのか。それとも伝説の超サイヤ人のような規格外の何かを持っていたのか。
が、聞く前に新しく入ってきた生徒と話すために飯田があっさりドアに向かっていった。
真面目すぎるクラスメイトに、委員長とか向いてそうだなぁ、と龍星は思ってると。
「あー! 尻尾の人! 隣の席なんだ、よろしくねー!」
「尻尾って……間違えてないけど。よろしく――スケさん!?」
「誰ぇっ!?」
隣の席らしい透明人間に話しかけられ、思わずドラゴンボールの透明人間、スケさんを真っ先に思い出してしまって口にしていた。
「葉隠! 葉隠透! スケさんじゃないからね!」
「あ、ああ……俺は龍星弥斗。ごめんね、知ってる透明人間を思い出して。こりゃすごいね、浮いてる」
「なぁんだ、仕方ないね。知り合いになったばかりだけど私や家族以外に知り合いに透明人間がいるなんて初めて聞いたよ」
「あまり会うことはないだろうからね」
「うん、透明人間は中々ねー!」
顔こそ見えないし龍星でも気で気配は探れても姿は見えないが、ねじれを思い出す明るさだ。
ちなみに今更だが龍星の席は“り”なのでラストである。
目の前にはポニーテールの真面目そうな女の子だったりする。一言交わした程度なので誰かはまではまだ知らない。
「俺も自己紹介しねぇとな。俺は上鳴電気! よろしくな!」
「うん、よろしく!」
「そういやさっき、龍星のこと知ってる風だったよな。もしかして……」
「そう! 一緒だったよ! あのビーム凄かったねぇ〜!」
どうやら葉隠も同じ試験会場だったらしく、龍星のかめはめ波のことを知っているようだ。
まぁあの人数ならば合格した者に何人か同じ会場の人がいてもおかしくはないだろう。
「だよなー! 見てたのか?」
「めっちゃ見てた! というか二度も助けられたんだけどね、覚えてない?」
「割と手当り次第に動いてたからね。ごめん、覚えてない」
「あはは、それはそうだよね。脱いでたし」
「ぬっ……!?」
まさかの爆弾発言に流石に龍星も驚いた。
上鳴も驚いた。
「龍星お前っ!!」
「誤解だ!?」
あらぬ誤解が生まれそうになったが、よく思い出して欲しい。
脱がされたじゃなくて脱いだ、と言っている。
つまり龍星は無罪だ。
しかし龍星は今の発言で、気で探知してた際に助けた受験者の一人ということは理解した。
道理で見たことないわけである。
と、無事に誤解を解きつつも上鳴と葉隠を筆頭に交流を重ねてると。
「君! 机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか!?」
「思わねーよてめーどこ中だ端役が!!」
飯田と明らかに明らかに典型的な不良染みたクラスメイトが何やら派手に言い争いを始めていた。
めちゃくちゃ偉そうな態度に、龍星は自分よりサイヤ人っぽく感じてしまうのは何故だろうか。などと思っていた。
なんというかこう、サイヤ人の王子っぽい雰囲気があるというべきか。
「早速喧嘩かよ。物騒だなぁ」
「怖いねー」
「戦うなら歓迎なんだけど」
「歓迎しちゃダメだよ!?」
喧嘩ウェルカムな龍星はそう言いつつも、視線が教室の外に向けられる。
このクラスから感じる気とは異なる、大きな気を感じ取ったからだ。
縮れ毛の緑髪の少年と茶髪のボブカットの少女の後ろ。
位置的に姿は見えないが。
「――お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここはヒーロー科だぞ」
その言葉で一時的にクラスに沈黙が訪れ、ドアの前で立ち上がったことでようやく姿を捉える。
寝袋の芋虫。
そこから出てきたのは黒い服に何か布のようなものを首に掛けた、ボサボサ髪の男。
「はい、静かになるのに9秒かかりました。時間は有限――君達は合理性に欠くね」
そこでようやくクラスの全員が雄英の先生だということに気づいたのだろう。
龍星だけは、一人強そうな気配に笑みを深くしていた。
彼は雄英に来たことはあるが、その時だっていくつか強い気は感じていた。
が、そもそも2年生やら3年生やら強い気はあったわけで別に戦いに来た訳でもなかったのでわざわざ感知に集中してたわけではない。
あくまでねじれと居る為だけに来てたため、自身に危害が加わらない程度の距離で気を広げてただけだ。
何処かで感じたことがある気ではあったが。
「俺は担任の相澤消太だ……よろしくね」
どうやら担任だったらしい。
すると寝袋から何かを取り出すようにゴソゴソとしていた。
「早速だが、コレ着てグラウンドに出ろ」
簡単な指示だが、出されたのは雄英指定の体操着。
どうやら呑気に入学式などするわけではなさそうだった。
唖然としてる間に去ってしまったので、残された生徒たちは大人しく指示に従うしかなく男女に分かれ、着替えるように。
ちなみに着替えの際、男子組は服を脱いだ龍星の姿に驚愕し、自分の鍛えた体に自信をなくしていた者もいた。
まぁ、こう言っちゃアレだが龍星は身長がまだ低い方であるため、そんなに強そうには見えないのだ。
それが脱いでしまえばまさかの鍛えに鍛えられまくったムキムキな体なのだからそうなるだろう。
一応擬似的な変身としてやろうとすればもっとムキムキ、それこそオールマイトのような筋肉にすら出来るのだが、龍星は動きが悪くなるので使うことがないだろう。超サイヤ人になれないため、例の超サイヤ人より動きの遅いノロマが完成するだけである。
いくらパワーを上げたところで当たらなければ宝の持ち腐れだ。
そもそもの問題、満月を見るかパワーボールを形成して擬似的に月を再現さえすればムキムキどころか怪物にすらなれるのだが。
『個性把握テスト!!?』
「ええ!? 入学式は!? ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事、出る余裕ないよ。雄英は自由な校風が売り文句……それは『先生側』もまた然り」
不満気な声を上げる周囲の生徒に対し、相澤は一切の感情を交えずに淡々と切り捨てる。
しかしドラゴンボールという激しい戦いの数々を知る龍星からすれば一理あるとは思っていた。
ただ飴と鞭は大事だとも。
「お前達も中学の頃からやってるだろ? 『個性』の使用を禁じられた体力テスト、国は相変わらず画一的な記録をとって平均を作り続けている。合理性に欠くよ。まぁ文部科学省の怠慢だな」
そう言いつつも視線が龍星に向けられ、気づいた龍星は僅かに反応する。
「実技試験の一位は、龍星だったな」
「はい」
入試実技試験一位、その言葉を聞いたクラスメイト達驚愕し、視線が龍星に突き刺さる。
約1名がとんでもなく敵意を剥き出しにしてきたが、それは龍星を喜ばせるだけである。
外見的特徴からは尻尾が個性にしか見えないのもあるだろう。
猿の尻尾が生えた人間なのだから。
そういった意味ではある意味敵を油断させるにはいいかもしれない。
「中学の頃、ソフトボール投げ何メートルだった」
「加減して130mくらいだったかと」
「十分凄いな……じゃあ本気でやってみろ」
投げ渡されたボールをガシッと片手で掴み取った龍星は白い円状のサークルの中に踏み込むと軽く体を解す。
本気と言われてしまったならば仕方がない、と龍星は文字通り気を全開にした。
何気に気を全開にするのは初めてだ。
それだけで周囲に砂埃が舞う。
燃え上がるような白いオーラを纏う龍星はそのまま地面を踏みしめて勢いよく斜め上に投げ飛ばした。
気が纏われたボールは白い光を残しながら空へと消え去る。
「……測定不能。無限だな」
『無限!?』
多分宇宙まで飛んで行ったなあ、と当の本人は軽い気持ちで居る。
まぁ、ドラゴンボールの世界では桃白白の戦闘力ですらボールより重い柱を投げ、2300キロまで投げ飛ばすほどの力を出している。
ならばサイヤ人であり、気を桃白白たちやあの頃の孫悟空よりも扱える龍星ならばもっと出せるのは当然だろう。
彼もまた中学生の頃に一度死にかけて瀕死からの復活で大幅に強くなってるのもある。
向こうの世界と違ってわざと瀕死になって回復なんて真似は出来ないし、出来たとしてもねじれのことを思うとやることはないだろう。
何はともあれ、いきなり好記録どころか測定不能を出したクラスメイトを見て絶叫と驚愕に包まれる中、1人だけ怒りと戦慄で顔を歪めている生徒が居た。
気づかれない程度に龍星は視線を向け、金髪のトゲトゲとした人物だと目視で確認した。
「なにこれ! 超面白そう!」
「『個性』思いっ切り使えるんだ! さすが雄英! 楽しそー!」
今までは個性の授業はあってもガチで使うような場面は入試試験くらいしか無かった。
今回はそれが関係ないのもあり、クラスメイトが興奮気味に声を上げた、その瞬間。
「……『楽しそう』、か」
相澤の声から温度が完全に消えた。
ボサボサの髪がふわりと逆立ち、その瞳が怪しく赤く輝く。
目の方に気が集中してるのも見たビートは目が関連する個性だろうか、など観察をしていた。
「ヒーローになるための三年間。そんな心持ちで過ごす気かい? ……良し、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し――除籍処分としよう」
それは本気の目だった。
だがそれとは別で、また違う思惑が見え隠れしている。
何となくだがこの人は本当にするだろうな、と思いつつも除籍処分があろうがなかろうが龍星が目指すのは一つ、1位のみ。
『はああああ!?』
「除籍!?」
突然言い渡された除籍処分という言葉。
ただでさえ倍率の高い雄英は難易度が高いというのに、人によってはギリギリ合格の者もいただろう。
だというのに試練の先に待っていたのが、新たな困難。しかも入学初日で、授業すらまだ受けてないというのに。
「最下位除籍って……! 入学初日ですよ!? いや初日じゃなくても……理不尽すぎる!!」
「いつどこから来るか分からない厄災、日本は理不尽にまみれている。そういう
当然生まれてしまった反発だが、受け入れて貰えなかった。相澤の言葉は間違ってないのもあるだろう。
果たしてこの中に何人がヴィランと交戦経験があるか。
少なくとも龍星はこの身でその理不尽を経験した。そして死にかけた。
そのため、龍星は最もだなと頷くだけだ。
厄災や災害に立ち向かい、乗り越えて行く者こそヒーロー。軽い気持ちでヒーローをやるならば、ヒーローごっこでもやっていればいい。ここはあくまで最高峰のヒーロー校なのだから。
こうして入学初日、除籍処分が掛かったサバイバルが幕を上げる。
第1種目:50m走。
出席番号順に二人で計測していく形式。
ビートは最後の出席番号であり、ポニーテールの少女と計測することに。
「八百万百ですわ。凄いお力を持ってるようですけれど、私も全力でやらせてもらいます」
「龍星弥斗。悪いけど俺も負けるつもりはないよ」
出番がやってくる前にストレッチは済ませてある。
そのため、並んだ龍星は体操着のチャックを開けて何かしようとしてるのに興味深くは思いつつも。
『スタート!』
『0.01秒!』
一瞬でゴールした。
というか普通に通り過ぎて100mほどの場所で停止している。機械が判定出来てないと見るべきか。
亀仙人に弟子入りする前の初期の孫悟空が100mを8.5秒で駆け抜けることを考えれば中々の速さだろう。
まぁ今は重りも流石に外してあるため、当然といえば当然かもしれない。
第2種目:握力
既に500キロ超えが出てしまっているが、もう嫌な予感しかしないビートは手を挙げた。
「先生、壊しても大丈夫ですか?」
「……やってみろ」
「はい」
ちゃんと許可を貰ったので壊した。
というわけで測定不能。
第3種目:立ち幅跳び。
もう言うまでもなく舞空術で測定不能。
第4種目:反復横跳び。
残像拳を生み出すほどの速さを持つ龍星がそんな低い数字を出す訳もなく、超スピードでショートしてしまったため、同じく測定不能。
第5種目:ボール投げ。
ようやく龍星以外に同じく無限が出てしまったが、既にデモンストレーションで出していたからか驚かれることはなく。
ずっと個性を使わないまま大した記録を出してない緑髪の少年の出番になった。
なんなら透明人間でしかない葉隠よりも低いのだから中々ピンチだろう。
しかし龍星は気で不思議に思っている。
彼から感じる気は、それこそこの場の誰よりも強いのだ。
否、そこで隠れて様子を見に来ているオールマイトを除いて。
一人だけオールマイトの場所をじーっと見つめてると、汗を掻いている。
ナンバーワンって暇なのかな、と思いつつも、誰にも言わないと言わんばかりにサムズアップしたらオールマイトはほっとしていた。
今度これを利用して戦ってもらおう、など物騒なことを考えつつ。
本能に従う気満々である。
「緑谷くんはこのままだとマズイぞ……」
「ったりめーだ。無個性のザコだぞ!」
妙に気になることが聞こえてきたが、気が集まっていくのを感じ取る。
その強さは今の龍星を凌駕する力。
自身より遥かに強いパワーを持つ相手を見つけて口角が上がる、と同時に相澤の気が高まっていくのを感じる。
『46m』
そして、高まった気が消失するのも。
今の一瞬で相澤の力が何なのかを龍星は察していた。
この世界において、十分強すぎる力。
それは。
「な……い、今確かに使おうって……!」
「個性を消した」
そう、個性の消失である。
「つくづくあの入試は……合理性に欠くよ。お前のようなやつも合格出来てしまう」
「消した……! あのゴーグル――抹消ヒーロー、イレイザーヘッド!」
ざわざわと少し騒がしくなり、その間に緑谷は指導を受けていた。
龍星から見ても見た感じ気があまりに乱れてるため、扱えない――そう、まるで赤子同然のような感じだった。
初期のねじれも個性の使用が覚束なかった。しかしそうなるまで個性を使わないのは殆ど有り得ない話だ。
授業でも使うしある程度は練習する。それこそヒーローを目指すならば。
今まで力に気付いてなかった線は薄いだろう。なぜなら緑谷の個性は増強型である。
顔を俯かせる緑谷を興味深そうに龍星は見守る。
個性もそうだが、諦めたように見えなかったからだ。
こういう人間を、よく知っている。
こういう人間こそ、土壇場で意を突くこと、意外性あることをして見せるのだ。
「SMASH!!」
緑谷の手――否。人差し指から放たれた強烈なパワーによって風圧と共にボールが遥か先まで飛んでいき、間違いなく高得点。
「先生……っ! まだ……動けます……!!」
激痛に耐えつつ紫色に腫れ上がった指を握りしめながら、相澤を見据えて言い放つ緑谷。
今まで何の力も見せてなかった少年が突如見せた超パワーにクラスメイトたちは感銘を受けていたが、ただ一人、その光景を受け入れられない男が居た。
「どーいうことだ!? ワケを言えデクゥ!!」
「うわあああ!?」
鬼の形相となった爆豪が緑谷に向かって一直線に飛び出した。
反射的に身を縮こませる緑谷だが、見守っていた龍星の姿が一瞬にして消えると緑谷と爆豪の間に入り込む。
「邪魔だモブ野郎ォ!!」
「誰がモブだって? 誰もが主人公なんだよ?」
血走った目で避けようとする爆豪の腕を掴んだ龍星は力づくで元の位置へ返した。
即座に復帰した爆豪が爆破で加速するが、龍星が構えを取った瞬間、爆豪に布が絡みつく。
龍星は最小限の動きで身を逸らして避けながら構えを解くと、ちょっとつまらなそうに相澤を見る。
「硬っ……! っんだこの布……!?」
「止めに入ったのはいい判断だが戦おうとするな龍星。爆豪もそれ以上やるようなら問答無用で除籍にする」
「ちぇ」
「……チッ!」
「全く……何度も個性を使わせるなよ、俺はドライアイなんだ」
髪が逆立ち、瞳が赤く光っている相澤。
個性が強いのに勿体ないとは殆どの者が思ったとか。
龍星と爆豪に関しては似たような反応をしていたが、龍星の場合は拗ねるような感じだった。
「時間がもったいない、次用意しろ」
相澤の指示で緑谷の次の人がボールを投げる。
怪我した緑谷を知り合いと思われる女子が心配してたが、龍星は自分の番が来るまで待機していた。
それからも種目が続き、持久走を終えてついに全種目が終わりを迎えた。グラウンドに集められた生徒たちの前で、相澤が測定用の端末を取り出す。
「それじゃ、結果をパッと開示する。トータルは各種目の評価を単純合計したもんだ。まあ文字で説明するのも時間の無駄だからな、一括で出す」
相澤が画面を操作すると、空中へ青いホログラムの順位表が投影された。
1位:龍星 弥斗
2位:八百万 百
3位:轟 焦凍
4位:爆豪 勝己
5位:飯田 天哉
・
・
・
20位:緑谷 出久
予定調和とも言うべき圧倒的な1位は龍星だが、注目するのは最下位だ。
トータル成績最下位は除籍処分。
つまり夢であった雄英高校での、ヒーローへの道が途絶えてしまうことを意味する。
重苦しい静寂がグラウンドを包み込む中、相澤は手元の画面を消し、静かに口を開いた。
「ちなみに除籍は嘘な」
『――は?』
「君たちの限界を引き出す……合理的虚偽」
『―――はぁぁぁっ!!!!?』
相澤はニヤリと不気味な笑みを浮かべてそう告げていたが、龍星はそんなことより緑谷の作画が崩壊してたことに目を奪われていた。
まさか現実でこんなに崩壊する者がいるとは。
「そんなの嘘に決まってますでしょう。少し考えれば分かりますわ」
八百万が当然のように言っていたが、終わったことでお腹が鳴った龍星は腹を擦っていた。
普通の測定ではなく個性を使った測定であったため、流石に時間が掛かったからだ。
今頃入学式は終わりを迎えて下校していることだろう。
龍星はその辺に置いといた重りを再び装着しながら、クッキーをむしゃむしゃしていた。
この身体とは長い付き合いになるが、やはりパンでは腹持ちが悪い。
改めてサイヤ人の燃費の悪さにはため息を吐くが、入学初日で興味が沸いた人物が除籍処分されなかったことに龍星は喜ばしく思っていた。
だがこれはまだ序章。
これから3年間、似たような厳しい授業が続くのだろう。
果たして未来の自分はどれだけ強くなっているのか、出来れば雄英卒業までにはゴッドか超サイヤ人4辺りには覚醒してて欲しいと龍星は密かに思うのだった。