魔訶不思議大冒険 作:一番好きなのは界王拳
流石に1位の壁は遠かったか……。一時的に上位に入り込んだ程度だったな。
元々脳無戦まで書こうとしか考えてなかったからUSJまでしか書いてない。あと2話で在庫切れなので水曜日で終わり。
終わり方が中途半端になるから体育祭までは書こうか考えてるけど、終わるかもしれない。
なので後先考えない。
後のインフレに技量が追いつけないから敢えてセーブしてたけど、山場なので気持ち最終回でここから戦闘(描写)レベル一気に上げました。
いっておくが、これはまだ全力じゃないぞ! 70パーセントほどかな……。
黒いモヤが晴れ、視界が広がると龍星は土砂ゾーンに飛ばされた。
掴んでいた葉隠は無事で、あの力はワープであることを改めて理解する。
一緒に飛ばされたのは葉隠だけではなく、轟も一緒だ。
近くに居た者と、位置だろうか。
前の方に居た葉隠を掴んだ龍星が彼女と一緒に居るのはおかしなことではない。
だが他の生徒と違って後ろに飛び退いていた轟が一緒になってワープした。
となれば位置が関係してなければ轟と一緒なのはおかしいと龍星は思った。
だが深く考えている時間はないようだ。
何故ならそこにはヴィランが待ち伏せしていて。
「なんだ、3人だけ――っ!?」
お互い存在に気づいていた龍星と轟と目を合わせ、二人は話す必要すらなく、行動があまりに迅速だった。
葉隠を守るように前後で挟み、轟が足から氷を。
龍星が溜めずにかめはめ波を発射した。
その結果。
正面の敵を轟が凍らせ、かめはめ波を凪いだ龍星は他を全て吹き飛ばしていた。
――瞬殺。
運が悪かったといえば悪かっただろう。
なぜならこの二人、雄英の1年においてトップクラスの実力二人である。
むしろこの二人が苦戦するレベルとなれば、プロヒーローでも苦戦するかもしれない。
「こ、コイツら本当に学生かよ……」
「ば、バケモノめ……!」
自分の個性は強いと自負していた者もいる。
だがそんな現実を打ち砕くほどの強さを持つ二人にヴィランは畏怖した。
「二人とも、すごっ……」
「轟」
「わかってる」
そんな2人の行動に葉隠は何も出来ずに呆然とするだけだった。
しかも二人ともヴィランを無力化したからといって終えるわけではない。
気を探った龍星は伏兵がいないか探知し、安全だと確認すると轟に目を向ける。
すると意図を理解した轟は凍らせたヴィランに近づいていた。
「散らして殺すって割には個性を持て余した輩以上には見受けられねえ。このままじゃあんたらじわじわと身体が壊死することになるんだが……俺もヒーロー志望。
後ろで龍星は気弾を生み出してるのを見て、ヴィランたちの顔色が一気に悪くなる。
たったの一発で人が吹き飛んだ威力を出せる相手だ。命まで奪ってないとはいえ、痛いで済むかどうか。
「あのオールマイトを殺れるっつう根拠――策ってなんだ?」
「わ、わかった! 答える! お、俺たちも詳しいことは知らねぇ。ただ生徒たちの相手をしろとしか言われてなくて……黒霧さん――あのモヤの人に言われたんだ! あとは自分たちと対平和の象徴の兵器である脳無ってやつが何とかするって!」
「対平和の象徴?」
「あ、ああ。オールマイトに対抗出来る実力があるって言ってた。俺たちは暴れられたらよかったやつらが集められただけなんだ」
「そうか、もう十分だ」
轟の言葉を聞いて助かることに安堵の息を吐くヴィランだが、一瞬で背後を取った龍星が次々と意識を奪っていく。
葉隠がいる以上、意識だけは奪っておかねば危ないからだ。
とりあえずその辺に積んで寝かせた龍星は手を叩き、気を探る。
「聞いたな。相澤先生があぶねぇ」
「そうだね、いかなきゃ!」
戦う戦わないにせよ、情報だけでも伝えなければならない。
しかし龍星はその場で気を広げ、USJ全体を探っていた。
まず入り口、13号の後ろに居たメンバーは飛ばされることなく無事。ブラックホールによって守られたと推測出来る。
次に1番前に居た爆豪と切島は同じ場所。
左右に居たはずの常闇と口田が同じ。
後のメンバーは近くに居た人達と同じく一緒に飛ばされている。
そのことから最初に予想した通り、後ろに退いた轟と比較的前に居た葉隠と龍星が一緒だったのは位置が影響していたのだろう。
でなければ、お互い近くにいなかったはずの常闇と口田が一緒に飛ばされているのに説明がつかない。
ワープについては結局予想しか出来ないため、それ以上は考えない。
それより探知によって戦力の偏りを知った龍星はやるべき事を定めて、共有するべく口を開く。
「いや轟と葉隠は山岳ゾーンに行ってくれないか?」
「え?」
「……何故だ?」
「あっちに八百万と耳郎、上鳴がいる。でも上鳴の個性は広範囲だ。向こうのヴィランの数も多いし前衛が居ない。他はバランスよく分散したが、あそこだけサポート型しかいないんだ。それにひとつだけ隠れてる気が存在する」
「なるほどな。伏兵に人質を取られる可能性もあるってわけか。そうなれば先生たちもやりずらくなるし八百万たちも危ない。だが、先生はどうする?」
「決まってるよ。俺が行く」
明らかにヤバそうなのが集ってるのは広場だ。
危険を承知で飛び込む覚悟など等に出来ており、状況を考えて近接・中距離・遠距離、オールラウンダーの龍星が行った方がいい。
何よりこのメンツなら宙を浮ける龍星の方が広場に辿り着くのが早いのだ。
それは自身を負かした轟自身が誰より理解している。
「……分かった。俺もことが済んだらすぐに向かう」
「ああ、じゃ、そっちは任せるよ轟」
「気をつけて龍星君!」
「おう!」
これから死地に向かうようなものなのに明るく返事をされると調子が狂うが、龍星は白い炎を纏うとそのまま宙へと浮かび上がる。
直後、空中で一気に後方へと飛び退きながら身体を捻り、勢いよく反転。
龍星の身体は加速。
軌跡には、白い炎が尾を引いていた。
それを見届けた轟たちは山岳ゾーンへと向かうべく、轟が氷を生み出していた。
死柄木によって肘が崩され、一度距離を取るイレイザーヘッドに伏兵が襲いかかる。
それらを捕縛布で捌いたイレイザーヘッドに覆い被さる巨大な影があった。
脳みそを剥き出しにした筋骨隆々の大男。
いつ背後を取られたのかすら気づけず、イレイザーヘッドを掴み――
「ぉおおおりゃああああああ!!!」
その直前。
加速した状態で放たれた龍星の蹴りが、イレイザーヘッドの背後を取っていた脳無を吹き飛ばす。
既にマントもリストバンドも靴までも外しており、本気になっている。
舞空術による移動中に脱ぎ捨てたのだろう。
流石にインナーは脱げなかったので、サポート機能はオフにしているが。
「龍星!?」
「間に合ってよかった! 相澤先生はその手をつけたやつを。脳無ってやつは俺が相手します!」
近くに着地した龍星の存在に驚くイレイザーヘッドだが、ここまで来てしまった上に助けられたのも事実。
今更逃げろとは言えず、即座に背中合わせになって警戒する。
「全く……帰ったら反省文を書かせるからな」
「はは、そりゃ生きて帰らなきゃですね」
今言える一言なのだろう。
遠回しに生きて帰るぞ、と告げるイレイザーヘッドに龍星も理解してるようだった。
「おいおい……誰かと思ったら尻尾の生えたガキじゃないか。生徒がこんなとこに来るなんてな。まさか不意を突いただけで勝ったつもりか? ヒーローごっこはこういう場でやるもんじゃないぜ。現実を見せてやれ、脳無!」
土煙から影が加速し、一瞬にして龍星に肉薄する。
咄嗟に両腕を交差した龍星は上空に吹き飛ばされ、空気を蹴って加速すると脳無の拳と龍星の拳がぶつかり合う。
「こいつ――っ!」
龍星は分が悪いと自ら下がり、着地しながら背中を曲げると拳が通過する。
通過した拳から風圧が発生し、龍星の髪を靡かせた。
そのまま倒れるように力を抜いた龍星は伸ばされた脳無の腕を両足で挟み込み、投げ飛ばす。
あっさりと脳無に空中で勢いを殺され、龍星は頬を指でなぞった。
掠り傷。掠っただけで切られたような傷が出来た。
「龍星! 今こいつの個性を――ッ!」
イレイザーヘッドが個性を発動し、脳無を視た。
すぐに龍星はかめはめ波を撃とうと構えを取り――
「――っ!?」
「なっ……」
広場を突き抜けて壁に叩きつけられていた。
個性を封じた。
なのにも関わらず、プロヒーローであるイレイザーヘッドが目で追えない速度。
このスペック。
それはつまり、あの脳無は個性で身体能力を高めてるのではなく、
いや龍星が聞いた通りだと、それはオールマイト並の身体能力。
音速にも等しい連撃が一気に叩きつけられ、壁が崩壊していく。
「あーあ。これで一人学生が死んじゃったなぁ、イレイザーヘッド? オールマイトが見たらどう思うかな、あの笑顔がどうなるか! 学生が! 生徒が死んであいつはまだ笑顔を浮かべられるかなぁ!?」
オールマイト並のスペックを持つ脳無。
その一撃は一発一発がオールマイトに殴られてるようなもの。
だが。
「いい加減――邪魔だぁああああ!!」
「……は?」
白い炎に覆われる龍星によって脳無の体が僅かに下がる。
壁を粉砕しながら舞空術による超加速と共に突き出された右拳。
耐える脳無を無理矢理運び、壁に叩きつけると高速で後ろに身を退く。
そんな龍星の様子にあれだけ殴られたというのに、死んでないことに死柄木は理解出来なかった。
「無事だったか……!!」
「くそ、いてぇ……無事じゃないです。サイヤ人じゃなかったら死んでましたよ」
イレイザーヘッドの元に戻ってきた龍星は額辺りから血を流している。
しかしダメージが全く無さそうな脳無に対して訝しんでいた。
今の一撃は龍星が気を完全に開放して与えた一撃だ。
にも関わらず、ダメージらしいダメージが0。
完全にダメージそのものが消されている。
「こいつ……魔人ブウみたいな能力か? 全然効いてない」
「龍星、お前はもう逃げるんだ。こいつは俺が足止めする」
「馬鹿なこと言わないでもらえます? 俺の獲物ですよ」
危険な相手だからこそ逃げるように指示するイレイザーヘッドに対して、龍星は全く退く様子がない。
「……防御型か? にしてはあのパワーが説明つかないな……それに尻尾がコスプレってわけでもないなら異形型のはず……。面白い生徒を連れてるじゃないかイレイザーヘッド。だがそいつがどれだけ頑丈であろうと脳無には勝てない!」
「そうかな、やってみなくちゃ分かんねぇ!!」
気を完全開放した状態を保ったままの龍星が脳無の拳と再びぶつかり合い、龍星の体が大きく弾かれる。
体勢を整える、より先に動いたのは脳無だった。
リーチを活かした拳が龍星へと突き出される。
しかし、龍星はそれを横から
右拳。
続けざまに左肘を叩き込み、左拳で顎を跳ね上げる。
さらに回し蹴りで巨体を浮かせると、僅かに引いた右腕を一気に突き出した。
拳から放たれた衝撃波が脳無を吹き飛ばす。
一連の動作に、ほとんど無駄はなかった。
超龍擊拳。
その隙を逃さず手のひらを突き出してくる死柄木に対し、龍星は迎撃しようと拳を叩きつけようする。
が、直前にイレイザーヘッドの捕縛布によって死柄木が振り回され、脳無の元へ投げ飛ばされる。
「そいつは触れた物を崩壊させる! 気をつけろ!」
「なるほど、当たれば確定ダメージか。バリヤー貼ってた方がいいかな」
道理で捕縛布で対応したわけだと即座に理解した龍星と彼の隣に並ぶイレイザーヘッドは油断なく脳無と死柄木を見据える。
「さっきよりギアが上がったな……本当に学生か? だけど脳無の敵じゃないね」
「――あれでも無傷か」
先程の連撃は龍星が持つ技のひとつ。
自信があったのだが、傷一つない脳無に流石に頬を引き攣らせた。
防御力と体躯の差。
そして異常な速度。
龍星は普段他者の気を読むことで行動を読んでるわけだが脳無は何故か読めない。
気を読めない分、対処は目で追うことだけ。追えないわけではないが気で読んで対処した方が有利に事を運べる。
再び構えを取り、戦いが再開――の前に、歪みが生まれて先程龍星たちを分散させた、黒霧が死柄木の元に帰ってきた。
「申し訳ございません。死柄木弔。生徒を一人取り逃してしまいました」
「は? はあーーー……黒霧、お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしてたよ。流石に何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ……」
ガリガリと首元を掻く死柄木に対して、龍星は警戒しつつもUSJ内から去っていく気を感じ取る。
貴重な情報。
それを伝えるべく、口を開いた。
「先生、飯田が外に出たみたいです」
「そうか……。なら他の教師陣が来るのも時間の問題だな。
お前が居てくれて助かったよ、俺一人なら無理だった。
このまま時間を稼ぐぞ」
「了解です」
飯田の速度ならばそう長くも掛からないだろう。
イレイザーヘッドも脳無の脅威を知ったからこそ、状況をちゃんと理解出来ていた。
もし単体であれば、既にあの脳無にやられていたと。
しかし龍星は口では了解だの言っているが、倒す気だった。
もちろん時間稼ぎにも専念する。
「先生、なんかビームとか撃てたりしません?」
「お前じゃないんだから無茶を言うな……」
ただ倒すにも物理攻撃が効いている様子がなかったため、イレイザーヘッドに遠回しに手がないか聞いたが、残念ながらイレイザーヘッドにそんな力はない。
「――仕方ない。あいつ、殺す気でやります。じゃなきゃ勝てない。見たところ人間じゃないですし、兵器らしいので俺の切り札で消し飛ばします」
「……すまん」
「サイヤ人は残忍な種族ですから、殺すことに忌避感はありませんよ」
殺しをさせることについてか、相性的な問題で任せることになるからか謝罪するイレイザーヘッドに龍星は気にしてないと言わんばかりに告げる。
「それより先生。ちらっと見るだけにして聞いて欲しいんですけど、水難ゾーンの方角、すぐ近くに緑谷たちがいます。こっちの様子を見てるようですけど来られたら危険だ。あの三人の救助を優先した方がいいかと」
「……何? だがあいつらが許してくれるとは思わないが……」
未だ行動しないうちに、龍星はイレイザーヘッドの捕縛布を掴んで耳元で呟く。
相手に気づかれない程度に視線を向けたイレイザーヘッドは確かに様子を窺っている緑谷、蛙吹、峰田の姿があった。
そう、目的は勝つことではなく生き延びること。
ならば優先するのは救助であり、命である。
時間さえ稼げばこっちの勝ち。
「俺が合図したら目を閉じてあの三人を先に避難させてください。それまでは俺が時間を稼ぎます。先生より俺の方が脳無との相性がいいでしょう」
「……直ぐに戻る。決して無謀な真似をしないと約束しろ」
「了解です」
プロヒーローなだけあって龍星の実力を知るイレイザーヘッドは心苦しく思いつつも合理的な方を選ぶ。
事実、脳無の速度を追えるのは龍星だ。
龍星が救助に向かったところでイレイザーヘッドがやられてしまえば意味をなさず、下手をすれば緑谷たちの身が危ない。
何より龍星には使える技があるのだから。
「だけど平和の象徴の矜恃くらいは折っておかないと。そのガキを殺せ、脳無ッ!!」
「先生、今だ!!」
「――太陽拳!!」
両手を額にくっつけた龍星の全身からあまりに強烈な光が発せられる。
直前に目を閉じていたイレイザーヘッドは、光が放たれた瞬間に身を翻していた。
一方でその技の詳細を知らず、対応策も知らない死柄木も黒霧も、そして脳無も視界を奪われており、見ていた緑谷たちも全員が光にやられてしまう。
その一瞬を逃さず、イレイザーヘッドは捕縛布を伸ばして三人を捕らえ、一気に走り出した。
太陽光のような光がまだしばらく続く。
「なんだ、何も見えねぇ! 逃げる気か!? 追え脳無!!」
「だぁああああ!!」
黒霧も死柄木も見えてないのか行動出来てないが、唯一瞬時に立て直した脳無がイレイザーヘッドを追いかけた。
そこで間に入り込んだ龍星がタックルで速度を殺す。
すぐに後ろに跳び、龍星は両手に気弾を生成すると連続で何度も何度も撃ち始める。
「だだだだだだだだだ――だりゃぁあああ!!」
連続エネルギー弾。通称グミ撃ち。
煙に覆われた結果姿が見えなくなってしまったものの、イレイザーヘッドが捕縛布で三人を捕まえたまま一気に出口まで走り去っていったのを龍星はしっかりと気で捉えた。
「くそ……やっと見えるようになってきた……。
――ん? おい……まさかお前が残ったのか? そうか、他の生徒を助けたってわけか」
太陽拳の効力が切れたのか視界が回復した死柄木たちが捉えたのは1人構える龍星の姿。
だが緑谷達のことには気づいてたらしい。
「命優先だからね。それに俺は1人の方が強いんだ」
「強がりだな。まぁいい。もとよりお前は殺すつもりだったからな。本当は水場にいたやつらを壊そうと思ってたが――好都合だ。制限時間以内に殺してやるよ」
「やってみれば? 俺に出し抜かれたやつが出来るならね」
「――始末しろ!!」
死柄木の指示で脳無が加速し、龍星に拳を叩きつける。
しかし龍星は一歩下がって避けており、飛び蹴りを顔面に食らわせると一気に足のラッシュを叩きつける。
数十発の乱打。
風圧を伴う一撃は確かに脳無の首を折る。
地面に手を着いて着地。
直後、龍星は後ろに跳ぶと体が一気に後方へ飛んでいく。
そこには拳を振り切った脳無の姿。
自ら跳ぶことでダメージを減らしたが、すぐさま接近した龍星は脳無と拳のラッシュ比べを始める。
徐々に押されると地面に叩きつけられ、蹴り飛ばされる。
水面を切るように水難ゾーンまで吹き飛ばされ、勢いを殺すと白い炎を纏いながら突進した龍星と脳無は掌を掴み合い、力比べの姿勢へと入る。
ほんの数秒の力比べ。
しかし脳無の膂力に負ける龍星の体は持ち上げられ、上空に蹴り飛ばされる。
瞬時に跳んだ脳無が龍星を越え、ダブルスレッジハンマーで地面に叩き落とし、地面にクレーターが生み出される。
落下してきた脳無に踏み潰されるより早く、うつ伏せに倒れていた龍星は地面を蹴り、滑り込むようにして回避。
そのまま両手を地面に着いて前転からスムーズに起き上がる。
脳無に向き直りながら龍星は思わず舌打ちした。
「クソッ、やっぱり全然効いてない……!!」
打撃による攻撃。
気弾における攻撃。
どれも通じない。
いや、正確には攻撃そのものは当たっている。ただ純粋に有効打になっていない。どれほど強烈な一撃を叩き込もうが、ダメージそのものが消滅してるように感じられた。
それに対して、脳無の攻撃は一撃一撃が確実に龍星の身体を削っていく。
攻撃を当てているのはこちらなのに、追い詰められているのはこちら。
これほど理不尽な相手は、龍星にとっても初めてだった。以前戦った相手ですら、ダメージはあったというのに。
フリーザを相手にしていたベジータや孫悟空の気持ちはこんな感じだったのかもしれない。
龍星はそう感じていた。
「ここまでやれるとは思ってなかったが、褒美に教えてやるよ。脳無は対平和の象徴の兵器さ。“ショック吸収”の個性を持つオールマイト並のパワーを持つ改造人間。対平和の象徴ってことはオールマイトの100%にも耐えられるようにしているに決まってるだろう?」
「親切にどうも。でもそれだけじゃないでしょ。そいつは既に亡くなった存在。そして個性は他にもあるんじゃない?」
今の説明で気がない理由が死体を改造したということは理解出来たが、ショック吸収ならば何故気弾攻撃がダメージないのか。
「おいおい……改造としか言ってないのにそこまで気づいてんのかよ。こいつは危険かもな」
「ええ、ここで仕留めるべきでしょう。脳無と戦える子供など、この先脅威にしかなりません」
やべ、と龍星は冷や汗を掻く。
既に重りも脱いでる以上、今出してるのは龍星の全てだ。
脳無を倒す策がないわけではないが、複数人を相手にするのは厳しい。
「連携で仕留めるぞ、黒霧。脳無!」
そんな龍星に容赦なく行動する。
脳無が1番早く駆け出し、龍星は横に避けると避けた先にはワープゲートから伸ばされた死柄木の手。
手にバリヤーを貼りながら弾き、気弾で爆発させると死柄木は手を引っ込めていた。
しかし既に脳無の拳が迫っており、龍星の腹部に衝撃が突き抜ける。
口の中にあった唾液が吐き出され、腹部を押さえながら蹲る龍星に容赦なく脳無は踏み潰すと、あるはずの龍星の体が存在してなかった。
「あ? どこ行った!? あのガキ!!」
突如姿を消した龍星。
見失った死柄木と黒霧が周囲を見渡す。
「――気円斬!!」
すると背後から黄色い円盤型の気が迫る。
気づくのに遅れた脳無の上半身と下半身が分かれ、体が落ちていく。
脳無の後方に立つ龍星は死柄木たちに視線を向けた。
「いつの間に……」
驚く黒霧の様子から、追えなかったというのはすぐに分かる。
しかし龍星がやったことは単純で、残像拳で背後に回った。
それだけだ。
「物騒な技を持ってるじゃないか。それはこっち側の技だろ」
「だから使ってなかったんだよ。こういう不意を突く決着は好みじゃない。正面から倒したかったんだけどな」
「安心しろよ、コンティニューだ」
「――は?」
余裕ある笑みを浮かべる死柄木に、どういう意味か問うより早く。
切断したはずの脳無の体がくっつく。
再生。
オールマイト並のスペックに近距離を吸収。遠距離にも対応可能な再生能力。
気弾を直撃しても全くダメージがなかった理由を今、龍星は理解した。
「これは超再生。分かるか? お前に勝ち目なんてないんだよ!」
「いいや……誰も“切り札”を使ったとは言ってない。見せてやる、俺の全力!」
だからこそ、龍星は己が持ち得る最高の技を使う選択を取る。
決して絶望しない龍星にかイラつきを覚えつつある死柄木はハッタリだと、判断する。
「黒霧ィ!!」
「ええ……!」
死柄木の指示で、龍星の回りに次々とワープゲートが生成され、次々と攻撃がやってくる。
何処から来るか分からないが死柄木の気だけは読めるため、死柄木の攻撃を避けつつ脳無の攻撃をギリギリで反応してガードしていく。
身勝手の極意を使えない龍星は全て避けられるわけではない。
当然被弾も生まれていくが、ワープゲートを吹き飛ばすべく両腕を広げて気合い砲でゲートを吹き飛ばす。
すぐに上空へ跳び、同じく跳んだ脳無が龍星より早く頭上に辿り着く。
交差した腕を頭上に掲げた瞬間、脳無のかかと落としが炸裂する。
「ははっ、やっぱりハッタリじゃないか。そのまま殺せ、脳無!!」
「待ってください死柄木弔! あの生徒は何か狙いが……」
「関係ないね。このまま殺せる!」
クレーターを生み出しつつも立ち上がった龍星は、落ちて向かってくる脳無に笑みを浮かべた。
狙い通りに事が運んだことに。
この技を確実に当てるには先のように高速で動かれては当てられない。
尚且つ被害が大きくなってしまう。
それらを解決する策が、今の状況。
ダメージを受けることになってしまったが、その分ダメージは最小限にしてある。
気を全開に。
龍星は手首をくっつけて腰部に手を添える。
そしてかめはめ波を生成すると今まで以上に気を溜め込む。
「お見舞してやる!! 超かめはめ波だ!!」
龍星の両手に集まる気が、一回り、二回りとさらに膨れ上がっていく。
青白い光が周囲を照らし、凄まじいエネルギーが空気を震わせる。
膨れ上がった気の奔流から、青白い稲妻が幾筋も迸った。
足元のコンクリートが耐えきれずに砕け、周囲の瓦礫が次々と浮かび上がる。
これが今、龍星が持ち得る最大火力。
これを耐えられる相手など、そうそういるはずがない。
もし耐えられた時は、自分の1人の力では太刀打ちできない相手だと認めるしかない。
「波ーーーッ!!」
「やらせ……くっ!?」
迫る脳無に対して次の瞬間。
龍星は両手を上空へと突き出した。
両手から放たれた超かめはめ波が、凄まじい光の奔流となって脳無を飲み込もうとする。
その余波だけで、妨害しようとした黒霧のワープゲートすら吹き飛ばしていった。
「脳無!!」
妨害すら許さない圧倒的な一撃。
それどころか、自身すら近づくことが敵わず、死柄木は焦りを覚えた。
ハッタリではなく、本気だったのだと。
今更ながらの後悔。
だが後悔したところでもう遅い。
対して脳無は落下を止め、両手を突き出して龍星の超かめはめ波を受け止める。
「ぐ、ぎぎぎ……っ!!」
押し切れない。
超かめはめ波が止められている。
目を見開き、腰にさらに力を入れ、龍星は息を吐くように叫ぶ。
「波ァアアアアアアアア!!!」
同時に龍星がさらに気を流し込んだ。
拮抗していた超かめはめ波が、再び膨れ上がった。
叫ぶことで瞬間的に出力を高めるとされるシャウティング効果も、*1 少なからず影響しているのだろう。
高まった力の影響で足元のコンクリートに蜘蛛の巣状の亀裂が走り、耐えきれなくなった地面が次々と砕けていく。
それでも龍星は構えを崩さない。
そして――ついに、脳無の両腕が押し返された。
「なっ……!?」
突如として大きさを増したエネルギーの砲撃に死柄木が目を見開く。
超かめはめ波は脳無を飲み込み、そのままUSJの天井を貫いていった。
流石に消耗が激しかったのか息を切らす龍星の手がぶらん、と脱力気味になっていて。
そうして、上空の光が消えた。
耳鳴りだけが残る。
誰もが空を見上げる中、龍星は荒い呼吸を繰り返していた。
「お、い。ふざけんなよ。なんだ今の!? あいつ! 本当に学生か!? チートみたいな火力しやがって!! 黒霧! 回収は!?」
「何とか間に合いました……!」
「――いいね。お前のミスは帳消しだ……!!」
だと言うのに。
ワープゲートから
だが下半身は存在していなかった。
先の気円斬では、肉体を切断しただけに過ぎなかった。
しかし今回は違う。
再生するための肉体すら残さないつもりで超かめはめ波を放ち、現に下半身は完全に消滅させた。
にも関わらず、脳無の上半身が無事であることに喜ぶ死柄木に龍星は訝しんだ。
「――は、はは。こりゃ、参ったな……」
そして現実を直視させられた。
下半身が完全に消滅したはずにも関わらず、脳無の体は既に下半身を再生させている。
超かめはめ波のダメージすら再生したように、傷一つ残さず。
何処にも欠損はなく。
文字通り万全状態で完全回復してしまった。
「セルかよお前。消し飛ばしても再生するって……!!」
龍星はドラゴンボールにおけるかつての強敵を思い出しながら、自身の切り札すら通用しなかったことに希望を失いかけていた。
恐らく知識にあるセル同様、脳を破壊すれば倒せたのかもしれないが下半身に脳は当然存在しない。
それでも諦めることはない。
自分ですら勝てない相手に他の者が対抗出来るかと言われれば確信を持って頷けない。
だからこそ、ここで倒さなければならなかった。
もし自分が倒れてしまったら蹂躙が待っている。
切り札は通じなかった。
だけど倒せる可能性を秘めた力なら、まだ二つ残っている。
一つは“大猿化”。サイヤ人だからこそ出来る変身だ。
しかしそれを使えば理性を失い、たちまち全てを壊し尽くすだけでなく、最悪の場合は自分自身がヴィランになってしまう。
だからこそ使う訳にはいかない。
使う時は、本当の最終手段。
そのため、使えるのはもう一つの方。
自分一人では撃てない上に完成まで時間はかかってしまうが、それでも、今の状況を打開できる可能性を秘めた、大猿以外の選択肢。
龍星が持つ、もう一つの切り札。
龍星は最後の望みを託すように、その技を作り出すべく両手を天へと掲げるのだった。