使い捨てモブ兵士の俺は推しの破滅フラグを陰から潰す 作:赤備え
名前も知らない女子小学生がトラックに轢かれそうだったから助けた。
我ながら柄でもない事をしたと思う。高校でいじめに遭い、不登校になり部屋に引きこもり毎日ゲーム三昧。他人と関わるのが怖くてゲーム内の世界に閉じこもる生活を送ってきた。
コンビニで夕飯を買い、帰りに遭遇した危機的状況。当然俺はスルーするはずだった。
しかし、俺の中にも人を助けたいと言う善意の心がまだ残っていたようだ。
「危ない!」
俺は咄嗟に叫んで道路の真ん中で固まっている小学生の女の子を突き飛していた。
次の瞬間、俺は信号無視をしたトラックの光に包まれながら轢かれ、16歳と言う短い障害を終えたーーーはずだった。
「おい!大丈夫か!?」
「ルーク!おい、しっかりしろ!」
周囲から声が聞こえる。
「無理もねぇよ……スカーレット様の
俺は重い瞼を開いて目の前にいる人達を見た。
西洋の鎧のような装備を身に纏っている筋肉質な男が俺を抱き抱えている。その周りにも同じような男達が俺を心配そうに覗き込んでいた。
「……マジかよ」
むさくるしい男達に囲まれながら俺は全て思い出した。
「俺……転生してんじゃねーかあぁぁぁぁ!!!!」
『エターナル・リベリオン 〜救国の勇者と五つの聖女〜』、通称リタリベーーー。前世で俺が死ぬほど熱中してやり込んでいたRPGゲームだ。
剣と魔法の王道ファンタジー世界を舞台にしたRPGで、その鬼畜な難易度でプレイヤー達を絶望の底に落としたシュミレーションと恋愛アドベンチャーの要素を含んだゲームになっている。
平民出身の主人公ーーー勇者が、女騎士や姫君などのヒロイン達と絆を深めながら、敵である魔王率いる軍勢と戦って王国を救うというストーリーだ。
発売当初、このゲームはクソゲー扱いされていた。それは様々なゲームジャンルを盛り込んでしまい、まるで闇鍋のようなカオスな出来になっているせいでもある。
ヒロイン達の好感度がそのまま勇者のステータスに直結するシステム、初見殺しな色とりどりの多彩なマップ、ガバガバなフラグ管理と壁抜け、致命的なバグの多発ーーー。
クソゲーの要素を多分に含んでいるが、逆に俺はそのカオスなゲーム性に惹かれた。
発売当日に購入した俺は、寝ることも忘れてこのゲームをプレイした。制作会社の怠慢な作り方をしたせいで出来た小さなバグや進行不能になるバグをSNSやネットの掲示板でプレイヤー達と情報交換して攻略したり、複雑なフラグ管理をこなしてヒロインの凄惨なバッドエンドを回避したりーーー。
今まで生きてきて初めて熱中できる物を見つけた。俺はこれまで死人と変わらない生活をしてきたが、大袈裟に聞こえるが生きる希望を与えてくれたと思っている。
そんな俺の人生に光を与えてくれたゲームの世界に、どういうわけか俺は転生したようだ。
なぜ今まで気づかなかったのだろう。この世界での俺はプレイヤーの勇者ではなく、この王国の数ある下級兵士の1人として人生を歩んできた。
そんな冴えないモブ兵士だったが、今目の前にいる女の技を喰らって俺は前世の記憶を取り戻した。
「ふん、この程度の技で倒れるとは情けない。貴様、今まで何を学んできた?そんな体たらくではゴブリンすらも倒せんぞ」
まるで嫌いな虫を眺めているかのような心底軽蔑している目つきで、女は鞘に剣を戻した。
この女ーーー。そう、リタリベで攻略できるヒロインの1人であるスカーレットは灼熱の炎を連想させる赤色の髪をたなびかせながら俺を睨みつけている。
「もういい、本日の訓練はここまでだ!各自武具を整備し、解散とする!」
そう言い残し、スカーレットは兵士たちが訓練するグラウンドから去った。
「相変わらずおっかねぇな〜……」
「しかし、お前も幸運だな。スカーレット上官の技を受けたら兵士を続けられなくなるほど再起不能になるのに」
「……そうだな」
そう、スカーレットはゲーム内ではヒロイン達の中で1番残忍な性格をしているとプレイヤー達から酷評されるキャラクターだ。
毎回ゲームの中でモブ兵士のキャラに訓練と評して自身が獲得した技を使い、恐怖を植え付け兵士を辞めさせたり、ストーリーの中でプレイヤーのステータスが低いと勇者と認めず、選択肢によっては殺されてしまうのだ。
だが、俺はリタリベをやり込んで周回プレイしているから分かる。それは、兵士や勇者が弱くて魔王軍に殺されるのを回避させる為に行動していると言う事、繊細で相手を気遣う心を持っていると言う事を。
「ああ、俺はこれからどうすればいいんだっ!」
いや、もしこの世界がゲームと同じストーリー通りに進むなら、やるべき事は一つしかない。
「俺の推しを絶対に死なせないことだっ!」