オーバーロード17 支配の共鳴 清書版   作:地道にモモンガ

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プロローグ007話:対スレイン法国戦略協議 ④ 〜気が急くアインズの出立〜

 

「まずはカルサナス都市国家連合との関係を深める。スレイン法国の周辺諸国とも連携し、法国が他国へ働きかける余地を狭めていくのだ」

 

 アインズの言葉を受け、アルベドが恭しく頭を下げた。

 

「承知いたしました。カルサナス都市国家連合への使節派遣につきましては、バハルス帝国を通じて進める案を準備しております。まずは相手国の政治・経済・軍事の状況や、周辺諸国との関係について情報を集め、友好関係を築く足掛かりといたします。そのうえで、双方に利益が見込めるのであれば、交易などの経済的な交流も検討いたします」

 

「うむ。帝国との関係は引き続き活用しよう。私自身も一度訪問し、ジルクニフと話をしておきたい」

 

 外交使節を派遣するだけでなく、魔導王自身が足を運ぶ。その意味は小さくない。

 

 国家の代表者が直接顔を合わせれば、文書や使者を介するだけでは得られない情報も手に入る。相手の態度や反応を見極めることもできるだろう。

 

 もっとも、アインズには一つ気がかりなことがあった。

 

(……あいつ、俺が顔を見せるたびに妙な方向へ考えを巡らせるんだよな。普通に友好を深めたいだけなんだが)

 

 ジルクニフとの関係は、決して悪いものではない。少なくとも、アインズはそう考えている。

 

 しかし、相手が自分の言動をどのように解釈しているかとなると、話は別だった。

 

(まあ、今さら気にしても仕方がないか。こちらの事情をもっと開示しても面白いかもな)

 

 アインズは内心の懸念を押し隠し、話を続けた。

 

「次はエルフの国についてだ」

 

 その言葉に、臣下たちの意識が改めて向けられる。

 

「法国を孤立させるためにも、エルフの国との交渉は急ぐ必要がある。現地の情勢を把握し、可能であれば友好関係を築きたい。ここは私自身が出向く」

 

「アインズ様ご自身が、でございますか?」

 

「ああ。時間をかけすぎるのは好ましくない。アウラとマーレを同行させる。それに、レスタト翁にも来てもらうつもりだ」

 

「承知いたしました、アインズ陛下」

 

 レスタトは穏やかな声音で答えた。

 

  レスタトは、エルダーエルフの長老の英霊である。その姿と知識、そして異種族との調整能力は、エルフ王を失ったエルフたちが新たな秩序を築いていくうえで、一つの支えとなるかもしれない。

 

 アインズは、レスタトの分霊についても確認しておくことに

 

 各地に配置される分霊は、本体と同じ能力を備えた存在ではない。使える力には限りがあり、担当する地域の観察や連絡といった補助的な役割が中心となる。本格的な戦闘を任せることはできなかった。

 

 それでも、遠方との連絡手段が限られるこの世界では、十分に価値がある。

 

「レスタトには今回の交渉だけでなく、今後の各国との連絡体制についても意見を聞きたい。無理のない範囲で構わない」

 

「お任せくだされ、アインズ陛下。私にできることがあれば、喜んでお力添えいたします」

 

「うむ。頼りにしている」

 

 アインズは短く頷いた。

 

 エルフの国への訪問は、単なる後始末ではない。法国を取り巻く情勢を変えるための重要な一手である。

 

 そこで、ラナーが口を開いた。

 

「アインズ様。旧王国の残存領土と、そこから逃れた人々について、ご報告がございます」

 

「聞こう」

 

「旧王国から逃れた人々の一部は、アーグランド評議国へ向かったと考えられます。ただし、避難先が評議国だけとは限りません。残存領土内の他領へ移動した者たちについては、今回の巡察である程度の状況を把握できると考えております」

 

 ラナーは淡々と報告を続けた。

 

「一方、蒼の薔薇については、すでに旧王国を離れた可能性が高いでしょう。ラキュースを気絶させてまで国を出ようとしていたのですから、少なくとも残存領土内に留まっているとは考えにくいです」

 

「行き先は評議国か?」

 

「その可能性はございます。ただし、別の国へ向かった可能性も否定できません。イビルアイの滅んだ母国の跡地を目指した可能性もありますが、彼女自身がその詳細を語ろうとしなかったため、正確な場所も含め、確かな情報はございません」

 

「なるほど。旧王国の残存領土については君が調査し、国境を越えた者たちについては周辺諸国から情報を集める必要があるということだな」

 

「その通りでございます」

 

 残存領土内の人々については、ラナーが各地を巡ることで状況を把握できる。一方、すでに国境を越えた者たちの行方を追うには、周辺諸国からの情報も必要だった。

 

 アインズは納得したように頷いた。

 

「……ふふ。彼女たちは、なかなか愉快で素直な方々ですから。こちらの予想を裏切って、思いもよらぬ場所へ向かっているかもしれませんわね」

 

(……は?)

 

 アインズの思考が、一瞬止まった。

 

(いや、待て。昔の知り合いが逃げた先の話をしているんだよな? なんでそんなに楽しそうなんだ……?)

 

 ラナーの笑顔は、あまりにも可憐だった。

 

 だからこそ、余計に怖い。

 

(……いや、ラナーだしな。うん。そういう子だった。……でも、やっぱり怖いぞ、この子)

 

 アインズは、表情に出さないよう注意しながら話を戻した。

 

「ラナー。旧王国の残存領土を巡り、現地の状況を調べてくれないか。避難民の動向、領主たちの現状、住民の魔導国に対する感情。それに、各地の有力者や蒼の薔薇に関する情報も集めてほしい」

 

「私に、その役目をお任せくださるのですか?」

 

 ラナーの表情が、わずかに明るくなった。

 

「ああ。君ならば、現地の人々の心理を読み取り、交渉の糸口を見つけられるだろう」

 

「……ありがとうございます、アインズ様。ご期待に沿えるよう、全力を尽くします」

 

 ラナーは深々と頭を下げた。

 

 その姿を見ながら、アインズは内心で安堵していた。

 

(よし。これで旧王国の情報収集を進められる。ラナーなら、単に情報を集めるだけじゃなく、住民や領主たちが何を求めているのかも探ってくれるだろう)

 

 もちろん、一日ですべての問題を解決できるとは考えていない。

 

 領主たちとの交渉も、避難民の保護も、治安の回復も、時間をかけて進める必要がある。まずは各地を巡り、魔導国の方針を伝え、現地の反応を確認することが重要だった。

 

「高速馬車と転移魔法を併用し、今日一日で可能な限り多くの地域を巡ってくれ。各地で魔導国の方針を告知し、領主たちとの交渉の足掛かりを築くのだ。住民や避難民の反応も、可能な限り詳しく記録してほしい」

 

「承知いたしました。まずは現状の把握と、今後の民心掌握の為の種蒔きに専念いたします」

 

「うむ。個別の問題をすべて解決しようとする必要はない。現地で対応が必要な案件を整理し、後続の担当者へ引き継げるようにしておけばよい」

 

「かしこまりました」

 

 ラナーは、改めて深く頭を下げた。

 

 アインズの意図は明確だった。

 

 ラナーの優れた洞察力を活用し、旧王国の残存領土における情勢を短期間で把握する。その情報をもとに、必要な支援や交渉を段階的に進めていくのだ。

 

(これなら、旧王国の状況を少しずつ整理できるはずだ。最初から全部を解決しようとする必要はない。まずは現状を知ることだな)

 

 そう考えたところで、アインズはラナーの笑顔を見た。

 

(……うん。やっぱり笑顔が怖い。いや、優秀なのは間違いないんだが)

 

 彼女の内心を完全に理解することはできない。

 

 しかし、与えた役割を果たす能力については、疑う余地がなかった。

 

「アルベドには、アーグランド評議国との正式な外交を担当してもらいたい。ラナーが集めた情報も活用し、評議国の支配者たちとの関係を築いてくれ」

 

「かしこまりました、アインズ様」

 

「ただし、軍事力を背景に無理な要求を突きつけることは避ける。こちらから戦争を始めるつもりはない。まずは相手の事情を把握し、交渉によって協力を得ることを優先するのだ」

 

「御意」

 

 アルベドは恭しく頭を下げた。

 

 アーグランド評議国には、強大な力を持つ竜王たちが存在する。

 

 その中には、魔導国にとって無視できない存在も含まれている可能性があった。

 

 特に、銀色の鎧をまとった存在――リクと呼ばれる者については、正体も目的も不明な点が多い。

 

 単なる現地の強者として片づけるには、情報が足りなかった。

 

(竜王たちとの衝突は、できるだけ避けたいところだ。こちらの力を過小評価されるのも困るが、必要以上に警戒されて敵対されるのも面倒だしな)

 

 アインズは、軍事力を見せつけることよりも、相手の出方を見極めることを重視していた。

 

「コキュートス」

 

「ハッ。アインズ様」

 

「評議国への外交使節団が危険にさらされた場合には、必要に応じて支援できるよう準備を整えておけ。ただし、相手に無用な威圧感を与えるような行動は慎むのだ。現地の情報を得る前から軍を動かす必要はない」

 

「御意。必要ナ備エヲ整エツツ、軽率ナ軍事行動ハ控エマス」

 

 コキュートスは力強く頭を垂れた。

 

「レスタトの分霊も、評議国へ向かう一行との連絡役として配置する。あくまで連絡と観察の補助だ。分霊に本体と同等の戦闘力があるわけではない。その点は忘れないように」

 

「承知いたしました」

 

 レスタトも頷いた。

 

 こうして、評議国への外交と旧王国の情報収集は、別々の担当者によって進められることになった。

 

 アルベドが国家間の正式な交渉を担い、ラナーが現地までの情報を集める。それぞれの役割を分けることで、外交の効率を高める狙いがあった。

 

 だが、アインズには、まだ処理しなければならない問題が残っていた。

 

「それから――番外席次についてだ」

 

 その名が出ると、周囲の者たちは静かにアインズの言葉を待った。

 

 スレイン法国から捕らえた番外席次については、これまでの尋問と情報収集によって、すでに相当程度の成果が得られている。

 

 しかし、彼女の神経は衰弱しており、これ以上の負担をかければ精神状態が悪化する恐れがあった。

 

 アインズは、必要な情報を得ることと、必要以上に苦しめることは別問題だと考えていた。

 

「これまでの尋問で得られた情報を整理し、今後の扱いを改めて定める。番外席次の肉体的な回復は既に済んでいる。だが、拷問を受けた者の不安や恐怖まで、肉体の回復と同時に消えるわけではあるまい」

 アインズは、レスタトへと視線を向けた。

「レスタト翁。波動によって心身の緊張を和らげつつ、本人の不安を取り除くことを優先してほしい。今は情報を得るための尋問も、追加の尋問も必要ない。まずは安心して対話できる状態を整え、こちらに対する警戒心を解いていくのだ」

「承知いたしました、アインズ陛下。無理に口を開かせるのではなく、心の安寧を取り戻させることから始めましょう。恐怖に支配された者が、必ずしも冷静な判断を下せるとは限りませんからな」

「うむ。ナザリックに対する見方が変わるかどうかは、その後の話だ。少なくとも、これ以上いたずらに苦痛を与える必要はない」

 アインズはそう告げると、番外席次への対応をレスタトに一任することにした。

 

 アインズは、少し考え込んだ。

 

(……番外席次については、これで当面の方針が決まった。だが、そもそも捕虜の扱いを、その都度の判断だけに任せていてよいのだろうか)

 

 ナザリックでは、捕らえた者から情報を得るために尋問を行うことがある。敵対者から情報を引き出すこと自体は、国家の安全を守るうえで必要な場合もあるだろう。

 

 しかし、尋問の必要性と、捕虜をどこまでの苦痛にさらしてよいかという問題は、同じではない。

 

 捕虜の身体を回復させること。尋問によって得られた情報を適切に管理すること。追加の尋問が必要な場合には、その必要性を確認すること。そして、情報収集を終えた者に対して、いつまでも不必要な苦痛を与え続けないこと。

 

 こうした判断を、担当者それぞれの考えだけに任せてしまえば、対応にばらつきが生じる可能性がある。

 

(俺がその都度、細かく指示を出せればいいんだろうが……捕虜が増えるたびに、すべての処遇を直接決めるわけにもいかない。最低限の基準を定めておくべきだな)

 

 アインズは、アルベドへと視線を向けた。

 

「アルベド。捕虜の取り扱いに関する法令の草案も作成してほしい」

 

「捕虜の取り扱いに関する法令、でございますか?」

 

「そうだ。捕虜を確保した際の管理、尋問の実施と記録、医療や回復の措置、処遇の変更などについて、基本的な規則を定めたい。情報を得る必要がある場合でも、担当者の判断だけで際限なく尋問を続けることがないよう、一定の手続きを設けるのだ」

 

「かしこまりました。捕虜の管理責任者や、尋問を実施する際の承認手続きについても整理いたします。また、情報収集が終了した者や、心身に著しい負担が生じた者について、以後の対応を見直す基準も必要かと存じます」

 

「うむ。個々の捕虜の事情に応じた判断は必要だが、だからといって、すべてを現場の裁量に任せるわけにはいかん。必要な措置を講じることと、必要以上に苦しめることは別だ」

 

 アインズは、先ほどの番外席次への指示を思い返した。

 

 今回のように、尋問によって十分な情報が得られた者については、追加の尋問を急ぐ必要はない。レスタトの波動によって不安や緊張を和らげ、対話を通じて懐柔を図るという選択肢もある。

 

 尋問を続けることだけが、情報を得る手段ではない。捕虜の状態や、これまでに得られた情報を踏まえ、尋問を終えて別の対応に切り替える判断も必要になるだろう。

 

 ならば、そうした判断を担当者個人の裁量だけに委ねるのではなく、国としての基準を設けておくべきだ。

 

「今回の草案では、魔導国が捕虜をどのように扱うべきか、その基準を明文化してほしい。尋問の必要性、捕虜の管理、尋問記録の保存、そして情報収集を終えた者の処遇についてだ。例外的な対応が必要になった場合の手続きも定めておきたい」

 

 アインズは、まず自国の振る舞いから整えるべきだと考えていた。自らが支配する国の中でさえ、力を持つ者の判断だけに委ねていては、恒久的な秩序など築けない。

 

「草案がまとまったら、私に提出してくれ。内容を確認し、承認するまでは正式な規則として運用してはならない」

 

「承知いたしました。魔導国の内部規則として草案をまとめ、アインズ様のご確認とご承認をいただいたうえで、運用に移します」

 

「そうしてくれ。規則を設けること自体が目的ではない。捕虜の扱いが、担当者の都合やその場の感情だけで左右されないようにすることが重要なのだからな」

 

「御意。実際の運用に耐え得る草案を作成いたします」

 

 アルベドは恭しく頭を下げた。

 

 アインズは頷くと、今度は視線を上げ、別の構想について話を切り出した。

 

「アルベド。もう一つ、今後の外交方針に関わる構想がある」

 

「はい、アインズ様」

 

「先ほどの捕虜に関する法令は、魔導国が自らの責任で守るべき内部規則だ。だが、それだけでは不十分だろう」

 

アインズは一度言葉を切り、アルベドたちを見渡した。

 

「魔導国と友好的な関係を築いている国家や、平和的な共存が可能な種族との間で、共通の枠組みを作りたいと考えている。仮に――大陸諸国平和維持条約と呼んでおこう」

 

アルベドの表情が、わずかに引き締まった。

 

「平和維持条約、でございますか」

 

「そうだ。単に加盟国同士が戦争をしないと約束するだけではない。互いに協力して平和を維持し、問題が起きた場合には、話し合いや仲裁によって解決を目指すための仕組みだ」

 

アインズは、条約の基本的な考え方を説明し始めた。

 

「例えば、加盟国の一つで、ある領主が少数種族を不当に迫害していたとする。その領主が自国の法律に違反していないと主張したとしても、被害を受けている者たちがいるならば、それだけで問題がないとは言い切れないだろう?」

 

「おっしゃるとおりでございます。国家の法律や慣習が、その国の権力者に都合よく定められている可能性もございます。国内の規則に従っているという事実だけでは、その行為が正当であるとは限りません」

 

「そういうことだ。だから、加盟国の間で問題が発生した場合には、まず事実関係を調査し、必要に応じて話し合いによる解決を目指す。被害が確認されたならば、その停止を求め、補償や原状回復についても協議する。場合によっては、第三者が仲裁に入ることもできるようにしたい」

 

アインズは、そこで一度言葉を切った。

 

(言うだけなら簡単なんだよな……)

 

頭の中では、すでにいくつもの問題が浮かび上がっていた。

 

誰が調査するのか。誰が被害の有無を判断するのか。調査対象となった国が協力を拒んだ場合はどうするのか。そして、訴えた側が虚偽の情報を流していた場合には、どのように対処するべきなのか。

 

制度を作るだけならば、いくらでも理想を並べることができる。しかし、それを現実に運用するとなれば、そう簡単にはいかない。

 

(問題は、俺たちが正しいと思っていることが、本当に相手にとっても正しいとは限らないことだ。魔導国が強すぎる以上、こちらが公平に判断しているつもりでも、相手は逆らえないだけかもしれない)

 

魔導国の圧倒的な軍事力は、戦争を抑止するうえで大きな利点となる。魔導国が介入する可能性を示すだけで、侵略を思いとどまる国家もあるだろう。

 

だが、同じ力は、相手の意思を押しつぶすためにも使えてしまう。

 

魔導国がある国の行為を不当だと判断し、その国が反論したとする。しかし、相手が魔導国の軍勢に抗う術を持たず、報復を恐れて黙り込んでしまったならば、それは納得したことになるのだろうか。

 

あるいは、魔導国の判断に従う以外の選択肢がなかっただけではないのか。

 

(だからこそ、最初から完璧な制度を作ろうとするのではなく、異議を申し立てられる仕組みも必要なんだろうな……)

 

アインズは、考えを整理するように、ゆっくりと口を開いた。

 

「我々が調査して判断すれば、それで終わりという仕組みにはしたくない。調査の結果や判断に納得できない場合、関係する国が異議を申し立てられるようにするのだ。調査のやり直しを求めたり、別の者に再検討を依頼したりできる仕組みがあってもいい」

 

「しかし、異議申し立てを無制限に認めれば、判断を先延ばしにするために利用されたり、被害の救済が遅れたりする可能性もございます」

 

「それも分かっている。だからこそ、申し立ての条件や期限、審査の手順を定める必要があるだろう。緊急に被害を止めなければならない場合には、通常の手続きを待たずに対応することも必要かもしれない」

 

「その場合、緊急措置が過剰な介入となる危険性もございますね」

 

「そうだ。だから、緊急措置を取った場合には、後からその必要性や妥当性を検証する。関係する国にも説明を求め、対応が不適切だったと判断された場合には、是正措置を講じることも考えたい」

 

アインズは頷いた。

 

「大切なのは、制度を作ることだけではない。制度を運用する側が間違える可能性も、最初から考えておくことだ」

 

口にしてみると、それはごく当たり前の話のように思えた。

 

だが、アインズにとっては、決して簡単なことではなかった。

 

ナザリックの者たちは、アインズの命令を絶対視している。アインズが正しいと判断したことを、彼らが正しいものとして実現しようとするのは当然のことだった。

 

しかし、国家間の関係まで同じように考えてしまえば、魔導国は自らの価値観を他国へ押しつけるだけの存在になりかねない。

 

(俺が正しいと思うことを、周囲が正しいと言ってくれるとは限らない。いや、ナザリックの者たちは、俺の判断を疑うことすら恐れるかもしれない。だからこそ、俺の判断だけで完結しない仕組みにしておく必要があるのか……)

 

自分が誤った判断を下した場合、その間違いを指摘してくれる者がいなければ、どれほど善意から始めた政策であっても、修正されないまま広がっていく可能性がある。

 

そして、その影響を受けるのは、アインズ自身ではなく、魔導国の支配下に置かれた人々や、魔導国と関係を築いた他国の住民たちなのだ。

 

(俺が間違えたとき、その間違いを指摘できる仕組みが必要なのかもしれないな。もちろん、異議を申し立てることと、その主張を無条件に認めることは別問題だが……)

 

「……ですが、アインズ様。一つ、具体的な問題がございます」

 

アルベドの言葉に、アインズは顔を上げた。

 

「何だ?」

 

「加盟国が調査そのものへの協力を拒んだ場合、どこまでの対応を認めるおつもりでしょうか。調査を求めるだけでは、相手が応じない限り、事実関係を明らかにすることすらできません」

 

「なるほど。確かに、調査を受け入れるかどうかを各国の自由に任せるだけでは、制度が機能しなくなる可能性があるな」

 

アインズは腕を組んだ。

 

調査に協力しないことで不正を隠し通せるのならば、真面目に協力する国ほど損をすることになる。そんな制度では、加盟国の信頼を得ることなどできないだろう。

 

「まずは調査団から事情説明と協力要請を行う。それでも拒絶が続く場合には、加盟国にその経緯を共有し、共同声明の発表や経済制裁などの措置を検討するべきだろうな」

 

「制裁の内容についても、一定の基準を設ける必要がございますね。相手国の政府に圧力をかけることが目的であっても、食料や医薬品など、住民の生命維持に不可欠な物資まで一律に制限すれば、罪のない者たちが苦しむことになります」

 

「そうだな。政府が調査を拒んだからといって、その国の民まで罰するようなことになっては本末転倒だ」

 

アインズは頷いた。

 

「ただし、外交的な圧力だけでは、止められない事態もある。例えば、加盟国同士が戦争を始め、交渉を求めても戦闘を継続している場合だ」

 

「その場合は、停戦を求めるだけでは不十分ということでしょうか」

 

「うむ。まずは一時停戦を求め、交渉の場を設ける。それでも戦闘が続き、多数の民間人が殺傷されるなど、被害の拡大が避けられない場合には、停戦を実現するための介入を検討する必要があるだろう」

 

「武力による介入も、選択肢に含めるのですね」

 

「そうだ。ただし、平和維持を名目に、相手国の統治を好き勝手に変えてよいという話ではない。介入の目的は戦闘を止め、被害の拡大を防ぐことだ。目的を達成した後まで、必要以上に軍を駐留させたり、相手国の政治に干渉したりすることは避けなければならん」

 

「承知いたしました。介入の条件や権限、期間、終了の基準についても明記する必要がございますね。また、加盟国の合意を得るための手続きと、緊急時に迅速な判断を下すための手続きは、分けて考えるべきかと存じます」

 

「そうしてくれ。迅速さを優先するあまり、魔導国が単独の判断で何でも決められるようにしてしまえば、結局は我々が望むとおりに大陸を動かすための制度になりかねない」

 

「しかし、加盟国の意見がまとまらず、介入の決定が遅れる危険もございます」

 

「その問題も含めて、草案の段階で検討するのだ。平和を守るための制度が、かえって被害を拡大させるようでは意味がないからな」

 

アルベドは、真剣な表情で頷いた。

 

「では、緊急介入の承認手続きについて、もう少し具体的に検討する必要がございますね。通常の介入では、加盟国のどの程度の合意を必要とするのか。全会一致とするのか、一定数の賛成で認めるのか。それによって、介入の迅速性も正当性も大きく変わってまいります」

 

「そうだな。全会一致を求めれば、一国が反対するだけで決定できなくなる可能性がある。反対に、少数の賛成だけで介入できるようにすれば、一部の国の思惑で他国の運命を決めかねない」

 

「緊急時に限って例外的な承認方法を設けるとしても、その例外を誰が認めるのか、どのような条件で発動できるのかを定める必要がございます」

 

「そのとおりだ。緊急事態だからという理由だけで、手続きを省略し続けられるようにしてはならん。例外的な手続きを利用した場合には、事後に加盟国の承認を得ることや、判断の妥当性を検証することも考えなければならない」

 

アインズは、そこで一度言葉を切った。

 

「介入を開始する条件だけではない。いつ、どのような条件を満たせば介入を終えるのかも重要だ。戦闘が停止した時点で終えるのか、被害を受けた住民の安全が確保されるまで継続するのか。それとも、停戦後の交渉を一定の段階まで進める必要があるのか」

 

「介入の目的が曖昧であれば、終了の判断も曖昧になってしまいますね」

 

「そういうことだ。目的を達成した後も、何となく不安だからという理由で軍を駐留させ続けるようなことがあってはならない。継続する場合には、その必要性を改めて審査し、一定期間ごとに承認を更新する仕組みも必要だろう」

 

「介入終了後の検証についても、実施した側だけで判断を完結させない方がよろしいかと存じます。介入の過程で生じた被害や権限の逸脱がなかったか、第三者を交えて確認する仕組みを設けるべきです」

 

「うむ。発動条件、承認に必要な合意の基準、例外手続き、介入期間の制限、終了条件、事後検証。これらはそれぞれ分けて草案の検討事項にしてくれ。今の段階で、具体的な基準まで確定させる必要はない」

 

「かしこまりました。通常の手続きと緊急時の例外を明確に区別し、例外が恒常的な権限拡大につながらないよう、制限も併せて検討いたします」

 

アインズは頷いた。

 

「では、次の問題だ。加盟国と非加盟国の間で戦争が起きた場合にも、同じように対応できるのだろうか」

 

「非加盟国には、この条約に基づく義務はございません。加盟国が戦争の当事者であるという理由だけで、非加盟国にも条約への服従を求めることはできません」

 

「だが、被害を受けているのが加盟国であった場合、その国からの訴えを門前払いにするのも違うだろう?」

 

「おっしゃるとおりでございます。加盟国が侵略を受けた場合や、その住民が迫害されている場合には、相手国が非加盟国であっても、調査の申立てや仲裁の要請を受け付けるべきかと存じます。ただし、それによって非加盟国が自動的に条約上の義務を負うわけではございません」

 

「そうだ。申立てを受け付けることと、相手国に強制的な措置を取れることは別の話だ」

 

アインズは、言葉を区切って続けた。

 

「非加盟国が関係する場合でも、まずは事実関係を調べ、外交交渉や仲裁を提案する。相手国が応じるならば、双方の合意に基づいて停戦や和平交渉を進めればよい。だが、相手が拒絶したからといって、それだけで武力介入を認めるわけにはいかん」

 

「では、非加盟国が侵略を続け、交渉にも応じず、被害が拡大している場合は、いかがなさいますか?」

 

「その場合には、条約とは別の根拠が必要になるだろう。個別の合意や安全保障上の取り決め、あるいは当事国があらかじめ認めた緊急時の手続きなどだ。何を根拠として、誰が、どこまでの権限を持って介入するのか。それを明確にしないまま、平和維持という言葉だけで武力行使を正当化してはならん」

 

「つまり、加盟国からの要請があったとしても、それだけで非加盟国への武力介入が認められるわけではない、ということでございますね」

 

「そうだ。加盟国を守ることは重要だが、そのためなら何をしてもよいということにはならない。非加盟国の住民にも、守られるべき命がある。介入する側の都合だけで、彼らの暮らしや国の将来を決めてしまうわけにはいかん」

 

アインズは、そこで一度言葉を切った。

 

(……もっとも、現実にそんな事態が起きたら、理想論だけでは済まないんだろうな)

 

条約を結んでいない国が侵略を始めた場合、魔導国が介入しなければ、被害を受けた国が滅びるかもしれない。だが、介入すれば、魔導国が自らの意思で他国の戦争に踏み込み、その国の運命を左右することになる。

 

何もしないことにも、介入することにも、責任が伴う。

 

(だからこそ、介入の根拠と目的を曖昧にしてはいけない。助けるために始めたことが、いつの間にか征服するための口実に変わってしまったら、何のために制度を作ったのか分からなくなる)

 

「非加盟国に対しては、まず外交を通じて協力を求める。条約に基づく調査や仲裁を受け入れるかどうかも、相手の意思を確認する必要があるだろう。もし緊急の介入が必要だと判断される事態が起きたなら、その法的な根拠、必要性、介入の範囲、期間を別途審査する。草案には、その区別を明記しておいてくれ」

 

「承知いたしました。条約による通常の手続きと、条約外の根拠に基づく緊急対応を混同しないよう整理いたします」

 

「うむ。それから、両方とも非加盟国である場合には、この条約だけを根拠に強制的な介入を行うことは認めない。外交上の働きかけや、双方が受け入れる仲裁の提案はできるだろうが、条約の権限を勝手に拡張してはならん」

 

「はい。加盟していないというだけで、その国の事情を無視することも、反対に加盟国と同じ義務を一方的に課すこともできない、ということですね」

 

「そういうことだ」

 

アインズは頷いた。

 

「ただし、どちらか一方が加盟国である場合でも、被害の申立てを受け付け、調査や仲裁を試みること自体は可能にしたい。条約は、加盟国以外を助けてはならないという決まりでもないのだからな」

 

「承知いたしました。申立ての受理、事実関係の調査、仲裁の提案、緊急介入の審査をそれぞれ区別し、どの段階で何が認められるのかを明確にいたします」

 

「頼む」

 

アルベドは、改めて真剣な表情で頷いた。

 

「では、次の問題です。被害を訴える側と、訴えられた側の主張が食い違った場合、誰が事実関係を判断するのでしょうか」

 

「調査団が調べ、国際裁判所が判断する。そういう役割分担にするのはどうだ?」

 

「具体的には、どのような手続きでございますか?」

 

「まずは加盟国から調査団を編成し、双方の主張を聞く。証言や記録、物的証拠などを調べ、必要であれば現地調査や関係者への聞き取りも行う。その調査結果を、大陸平和維持機構に設ける国際裁判所へ提出するのだ」

 

「調査団と裁判所の役割を分けるのですね」

 

「そうだ。調査団は事実関係を明らかにする。国際裁判所は、その結果を基に、条約や合意された規則に照らして判断する。調査した者が、そのまま最終的な判決まで下す仕組みにはしない」

 

「その方が、調査の誤りや偏りを後から検証しやすくなるでしょう。ただし、調査団の構成にも配慮が必要です。当事国と強い利害関係を持つ国が調査を主導すれば、公平性に疑念を抱かれる可能性がございます」

 

「ならば、当事国の代表だけで調査団を構成することは避けよう。直接的な利害関係を持つ国の代表については、調査の主導権を握らせないようにする。裁判官についても、当事国との利害関係がある者は審理から外すべきだろうな」

 

「はい。また、証拠が不十分な場合には追加調査を命じることができるようにし、判決の理由も当事国に説明する必要がございます。判決に不服がある場合の再審査や、新たな証拠を提出する手続きについても定めておくべきでしょう」

 

「そうだな。被害を訴えたというだけで相手を有罪にするわけにはいかないし、逆に証拠が足りないという理由だけで、被害を訴えた者の話を簡単に退けるわけにもいかない。慎重に調べたうえで判断し、それでも間違いがあった場合には正せる仕組みが必要だ」

 

アインズは、そこで一度言葉を切った。

 

真実を明らかにするというのは、口で言うほど簡単ではない。

 

証言が食い違うこともあれば、証拠が失われていることもある。魔法を用いて真偽を確かめられる場合もあるだろうが、それすら万能ではない。認識を操作する能力や、魔法そのものを欺く手段が存在する可能性もある。

 

だからこそ、誰か一人の判断にすべてを委ねるわけにはいかないのだ。

 

「……アルベド。最後に、最も重要な問題がある」

 

「はい、アインズ様」

 

「魔導国自身が当事者となった場合、どうやって公平性を担保する?」

 

アルベドは、すぐには答えなかった。

 

魔導国が他国の行為を調査し、国際裁判所の判決に従うよう求める。その一方で、自国が訴えられた途端に調査や裁判を拒絶するのであれば、制度の信頼性は失われる。

 

強大な軍事力を持つ魔導国だからこそ、その問題は避けて通れない。

 

「魔導国も、例外にはしない」

 

アインズは、はっきりと答えた。

 

「魔導国が当事者となった場合も、調査への全面的な協力を義務づける。関係する記録や証拠を提出し、必要な聞き取りや現地調査を受け入れる。そして、武力によって調査を拒んだり、裁判そのものを妨害したりすることは認めない」

 

「つまり、魔導国も国際裁判所の被告となり得る、ということでございますね」

 

「そうだ。魔導国が条約に基づいて他国へ要求する以上、自国だけを例外とするわけにはいかん」

 

口にしてから、アインズは内心で考えた。

 

(……言うのは簡単なんだよな)

 

魔導国が他国の不正を裁く制度を作ることと、魔導国自身が裁かれることを受け入れることは、まったく別の問題だ。

 

自分たちが正しいと信じているときに、他者から間違っていると指摘される。それを受け入れ、調査に協力し、判決に従う。

 

それは、単なる建前で済ませてよい話ではない。

 

「魔導国が被告となった場合、魔導国の代表者は調査団や裁判の判断に関与させない。裁判官についても、魔導国の意向だけで選任できないようにするべきだろう」

 

「はい。裁判官の選任には加盟国の合意を必要とし、当事国と直接的な利害関係を持つ者は審理から除外する。その規則は魔導国が被告となった場合だけでなく、すべての加盟国に共通して適用するべきかと存じます」

 

「そうだな。魔導国にだけ特別な規則を設けても、逆に不公平だと受け取られるかもしれん。誰が被告であっても、同じ手続きで審理することが重要なのだ」

 

「承知いたしました。ただし、魔導国が判決に従わなかった場合の問題は残ります。魔導国に対する制裁を、他の加盟国だけで実行できるとは限りません」

 

「……そこは難しいな」

 

アインズは率直に認めた。

 

魔導国を軍事的に制圧できる国など、現在の大陸にはほとんど存在しない。条文に罰則を書き込むことはできても、それを実際に執行できるかは別の問題だった。

 

魔導国が判決を無視した場合、他国が武力でそれを強制しようとすれば、かえって大陸全体を巻き込む戦争になりかねない。

 

「だからといって、最初から何も定めないわけにもいかん。魔導国が調査や裁判を拒絶した場合には、その事実を加盟国へ公表する。共同声明や経済的な措置など、武力に頼らない対応も定めておこう。少なくとも、魔導国が裁判を拒絶した事実まで隠せるような仕組みにはするな」

 

「かしこまりました」

 

「ただし、虚偽の告発や政治的な目的での濫訴を防ぐ仕組みも必要だ。魔導国が裁判を受けることと、証拠もなく罪を認めることは別だからな」

 

「もちろんでございます。調査の独立性、証拠の審査、判決理由の明示、再審査の手続き。それらを一体として整備いたします」

 

アインズは、玉座の肘掛けに指を置いた。

 

(俺たち自身が間違える可能性を考えなければならない。だが、魔導国が強大である以上、他国の裁判官が本当に自由に判断できるのかという問題もある。魔導国を恐れて事実を曲げるかもしれないし、逆に魔導国を弱体化させたい国々が結託して、虚偽の告発を仕掛けてくる可能性もある)

 

公平性を保つための仕組みを作ったとしても、それを運用する者が必ず公平であるとは限らない。

 

だからといって、魔導国がすべての判断を握れば、他国が異議を申し立てる意味そのものが失われる。

 

(それに、判決を出したところで、相手が従わなければどうなる?)

 

アインズは、改めてその問題を考えた。

 

通常の加盟国であれば、条約上の義務や他の加盟国からの圧力によって、判決に従うよう促すことができるかもしれない。だが、相手が魔導国のような強大な国家であれば、同じ方法が通用するとは限らない。

 

判決を執行するために軍事力を用いれば、平和を守るはずの機構が大規模な戦争を引き起こす危険がある。逆に、違反した国に何の不利益も与えられなければ、条約や裁判所は無視しても構わない存在になってしまう。

 

(違反を公表することや、経済的な措置を設けることはできる。だが、それだけで本当に判決を守らせられるのか。ましてや、魔導国自身が従わない場合に、誰がそれを強制できる?)

 

現時点で、アインズには明確な答えがなかった。

 

無理に答えを作っても、それは現実の問題を解決したことにはならないだろう。

 

「アルベド。判決の履行を確保する方法についても、草案の検討事項に加えてくれ。判決に従わない国に対して、どのような措置を段階的に取れるのか。武力に頼らず履行を促す方法はあるのか。そして、魔導国自身が判決を拒んだ場合にはどうするのか。これらは、まだ結論を出せる問題ではない」

 

「かしこまりました。判決の履行を促す手段と、その実効性について検討いたします。また、魔導国が判決に従わない場合の問題についても、解決済みの事項として扱わず、未解決の課題として明記いたします」

 

「うむ。制度を作ったからといって、それだけで問題が解決するわけではない。実際に機能するのかどうか、常に考え続ける必要がある」

 

「はい。制度を設けることと、制度を実際に機能させることは別でございます。だからこそ、最初から完成したものとして扱わず、加盟国の意見を聞きながら改定できる余地も残すべきかと存じます」

 

「そうだな。まずは草案を作り、加盟国との協議にかける。最初から完璧なものができるとは思わん。だが、問題が見つかったならば、直していけばよい」

 

アインズは、そこで話を区切った。

 

制度の基本的な仕組みは、少しずつ形になりつつある。

 

だが、条約が適用される範囲についても、明確にしておく必要があった。

 

「それから、この条約を根拠に、加盟していない国へ一方的に権限を行使することは認めない」

 

「非加盟国に対しては、条約に基づく義務を課さないということでしょうか?」

 

「そうだ。条約は、あくまでも参加する国々が合意して結ぶものだ。加盟していない国に対して、我々が勝手に条約上の義務を課したり、加盟国と同じ手続きで介入したりするわけにはいかない。まずは外交を通じて協力を求め、必要ならば仲裁を提案する。参加を望まない国に対して、無理に加盟を迫るようなことも避けたい」

 

もちろん、非加盟国が他国を侵略したり、住民を虐殺したりした場合に、魔導国が何もできないという意味ではない。

 

条約への加盟の有無と、目の前で起きている被害にどう対応するかは、分けて考える必要がある。

 

非加盟国が関係する紛争であっても、加盟国からの申立てを受け付け、事実関係を調べ、仲裁を提案することはできる。相手国が合意すれば、条約の手続きを参考にして停戦や和平交渉を進めることもできるだろう。

 

しかし、非加盟国が応じない場合に、条約だけを根拠として強制的に介入することはできない。武力行使を検討するのであれば、個別の合意や別途定められた緊急時の権限など、独立した根拠が必要になる。

 

条約を締結しているという理由だけで、あらゆる国家に対して自由に介入できるようにしてしまえば、結局は魔導国が望むとおりに世界を動かすための口実となってしまうだろう。

 

「参加することで利益が得られる制度にすることが重要だ。紛争を平和的に解決できること、加盟国同士で交易や交流を進められること、そして外部からの侵略に対して協力できること。そうした利点を明確にし、各国が自らの意思で参加を選べるようにするのだ」

 

「承知いたしました。条約の理念だけでなく、加盟することによる実利も明確にする必要があるということですね」

 

「そういうことだ」

 

アインズは満足げに頷いた。

 

(まあ、実際に各国がどう受け止めるかは分からないけどな。こちらが善意で考えた制度でも、相手からすれば、魔導国の影響力を大陸全体に広げるための仕掛けに見えるかもしれない)

 

その懸念は、決して杞憂ではなかった。

 

魔導国が強大であることは、周辺諸国にとって無視できない現実だ。どれほど平和や共存を掲げても、その言葉の裏に軍事力が存在している以上、相手が警戒するのは当然だった。

 

だからこそ、制度の内容だけでなく、その制度がどのように受け止められるかについても考えなければならない。

 

アインズは、アルベドへと視線を向けた。

 

「アルベド。今話した大陸諸国平和維持条約について、草案を作成してほしい。加盟条件、申し立ての手続き、調査方法、仲裁、補償、緊急時の対応、事後検証。それに、調査への非協力に対する措置、国際裁判所の仕組み、魔導国が当事者となった場合の手続きもだ。必要な項目を整理し、問題が起きた場合にどのように対応するのか、具体的な手順まで検討してくれ」

 

「かしこまりました、アインズ様」

 

「それから、加盟国が意見を述べる機会も設けたい。魔導国がすべてを決め、他国がそれに従うだけでは、条約を作る意味が薄れてしまう。各国が制度の運用に参加し、必要であれば改正を提案できるような仕組みも検討してくれ」

 

「各国の代表による協議の場を設け、条約の運用状況や問題点について定期的に意見を交換する、という形も考えられますね」

 

「そうだな。ただし、意見を聞くだけで終わらせてはならない。実際に制度を改善するための手続きも必要だ」

 

アインズは、少し考え込んだ。

 

(俺一人で、すべての問題に正しい答えを出せるわけじゃない。アルベドやデミウルゴスが優秀なのは分かっているが、彼らだって万能ではない。それに、彼らが優秀であることと、彼らの判断が他国にとって公平であることは、別の話だからな……)

 

魔導国にとって合理的な判断が、必ずしも相手国にとって受け入れられる判断とは限らない。

 

ある国の経済を立て直すための政策が、その国の住民の生活を圧迫することもある。安全を確保するための措置が、別の種族にとっては自由を奪う行為となることもある。

 

そして、何よりも恐ろしいのは、支配する側が善意で行動していると信じている場合だ。

 

悪意があるならば、問題を認識することは比較的容易かもしれない。しかし、正しいことをしていると確信している者は、自らの行為を疑う理由を見つけにくい。

 

(制度そのものが、新たな支配の道具になってしまっては意味がない。魔導国が強いからこそ、魔導国自身がその力をどこまで使ってよいのか、考え続けなければならないんだろうな)

 

「それと、今の段階では草案にすぎない。完成した条約として各国に提示してはならない。まずはナザリック内部で検討し、私に提出してくれ。内容を確認し、承認したうえで、必要に応じて関係国との協議や修正に進む。各国との協議に用いる場合も、あくまでも検討のための草案として提示するのだ」

 

「承知いたしました。各国との協議で得られた意見についても整理し、必要に応じて修正案をご用意いたします」

 

アインズは小さく頷いた。

 

(……条約を作るだけでも、これだけ考えることがあるのか。しかも、これはまだ草案の段階だ。実際に各国へ説明し、意見を聞き、利害を調整し、合意を取りつけるとなれば、さらに時間も手間もかかるだろう)

 

それでも、単に魔導国の力で争いを押さえつけるだけでは、真の意味で平和を築いたことにはならない。

 

戦争を止める仕組みだけでなく、争いが起きた理由を調べ、被害を受けた者を救済し、当事者が合意した解決策を守れるようにする仕組みが必要なのだ。

 

そして、その仕組みを運用する側もまた、間違いを犯す可能性から逃れられない。

 

(……本当に、やるべきことが多すぎるな)

 

アインズは、玉座の肘掛けに置いた手を見つめた。

 

世界を統一することと、世界に平和を根づかせることは、同じではない。

 

征服すれば命令に従わせることはできるかもしれない。だが、それだけでは、争いの原因そのものを取り除いたことにはならないのだ。

 

だからこそ、制度を作る。

 

力だけに頼らず、対話と合意によって問題を解決するための仕組みを。

 

それが本当に機能するかどうかは、まだ分からない。国々が合意した条約であっても、争いが起きれば約束が破られることはある。裁判所が正しいと判断しても、その判決を実行する力がなければ、被害を止められないこともあるだろう。

 

ましてや、その仕組みを主導する魔導国自身が、制度の限界を認め、他国の異議に耳を傾け続けられるかどうかも分からない。

 

(……結局、仕組みを作って終わりじゃないんだ。作った後も、間違っていないかを確かめ続けなければならないのか)

 

それでも、最初の一歩を踏み出さなければ、何も始まらないのだった。

 

 

 

 そこへ、ナーベラル・ガンマが戻ってきた。

 

「アインズ様。ただいま戻りました」

 

「うむ、ご苦労。報告を聞こう」

 

 ナーベラルからの報告を聞き終えたアインズは、今後の指示を出した。

 

「これからは、各地での情報収集と外交を並行して進めることになる。現場の判断に任せる部分もあるが、独断で大きな方針を変えることは避けるように」

 

「かしこまりました」

 

「それから、人間たちに対しては必要以上に威圧することなく接するように。対法国作戦では必要な戦力を投入するが、人間という種族そのものを敵と見なしているわけではない。政権と国民を区別し、相手の反応を見ながら、段階を踏んで関係を築いていくのだ」

 

「……承知いたしました、アインズ様」

 

 ナーベラルは、わずかに間を置いて答えた。

 

 魔導国が異種族との共存を掲げる以上、人間との関係もまた、長期的な視点で築いていかなければならない。

 

 恐怖によって従わせるだけでは、真の意味で安定した支配にはならないのだ。

 

「それと、パンドラズ・アクターを呼び戻す必要がある。現在の任務が一区切りついたら、こちらへ戻るよう連絡してくれ」

 

「パンドラズ・アクター様を、でございますね。承知いたしました」

 

「戻ってきたら、ホニョペニョコとシャルティアに関する対外的な説明について、私と話し合う必要がある。こちらが把握している事実と、各国へ説明する内容に食い違いが生じないようにしておきたい」

 

「かしこまりました。ご帰還後、速やかにご報告できるよう手配いたします」

 

 アインズは頷いた。

 

 各国との交渉が進めば、魔導国の行動について説明を求められる機会も増えるだろう。

 

 その際、関係者ごとに説明が食い違えば、余計な疑念を招きかねない。

 

 特にホニョペニョコとシャルティアに関する件は、これまでの経緯を踏まえ、どこまでを公表し、どのような立場として説明するのか、あらかじめ整理しておく必要があった。

 

(こういうところは、パンドラズ・アクターに相談するのが一番だろう。あいつなら、俺が見落としている部分にも気づいてくれるはずだ)

 

 アインズは、その件をひとまず頭の片隅に置いた。

 

 そして、いよいよ出立の準備を進める段階となった。

 

「では、私たちはエルフの国へ向かう。アウラ、マーレ、準備はできているか?」

 

「はい、アインズ様!」

 

「ぼ、僕も大丈夫です!」

 

 二人は、緊張しながらも力強く答えた。

 

 シャルティアも、アインズの近くに控えていた。

 

 彼女にとって、スレイン法国は決して忘れられない相手である。かつて洗脳され、ナザリックの仲間たちと刃を交えることになった。その経験は、単に敵に敗北したというだけでは済まされない、深い屈辱と傷を残していた。

 

 だからこそ、シャルティアを同行させることには、外交上の意味があった。

 

 エルフたちは、スレイン法国の勢力拡大や人間至上主義的な思想によって脅かされてきた。一方、シャルティアもまた、法国によって意思を奪われ、ナザリックの仲間たちと刃を交えることになった被害者である。

 

 両者の事情が同じというわけではない。それでも、法国の行為によって自らの意思や立場を脅かされたという点では、共通する問題意識を見出せる可能性があった。

 

 もちろん、シャルティアに過去を語らせるつもりはない。必要があればアインズ自身が説明すればよいし、彼女が話したくないことまで外交の材料にするつもりもなかった。

 

(法国への対抗だけでなく、シャルティア自身にとっても意味のある旅になればいいんだが……。無理をさせるわけにはいかないな)

 

 アインズは、シャルティアの様子を確かめるように視線を向けた。

 

「シャルティア。今回の旅では、君の経験が外交上の意味を持つ場面もあるだろう。ただし、其方自身に過去のことを無理に語らせるつもりはない。話す必要がある場合も、私の判断を待てばよい」

 

「アインズ様……」

 

 シャルティアは、わずかに目を見開いた。

 

「今回の目的は、ただ復讐を果たすことではない。エルフの国との関係を築き、法国によって脅かされてきた者たちと協力することだ。其方の経験を、そのために役立てられるならば意味がある。だが、何よりも大切なのは、君が私の命令を守り、無事に帰ることだ」

 

「もちろんでございます、アインズ様。ご命令を最優先に行動いたしますわ」

 

 シャルティアは恭しく頭を下げた。

 

 その表情には、まだ消えない感情が残っている。

 

 怒りも、悔しさも、完全には消えていないのだろう。

 

 それでも、アインズが自分を責めず、役割を与えながらも無理を強いないと告げたことは、彼女にとって小さくない意味を持つはずだった。

 

「アウラ、マーレ。シャルティアのことも頼む。今回の交渉が、今後の関係を築くための重要な一歩になることを忘れないでほしい」

 

「任せてください、アインズ様!」

 

「は、はい。できる限り協力します!」

 

 二人の返事を聞き、アインズは頷いた。

 

 アウラとマーレはエルフの国と深い関わりを持つダークエルフであり、現地との橋渡し役としても期待できる。

 

 シャルティアが法国の被害者として共通の立場を示し、アウラとマーレが同族とのつながりを生かす。そこへ、異種族との共存について知見を持つレスタトが加わる。

 

 それぞれの立場を生かせれば、単なる使者の派遣よりも、相手に伝えられるものは多いだろう。

 

 そこへ、レスタトが穏やかな声で口を開いた。

 

「アインズ陛下。異なる種族同士が互いを理解するには、時間が必要なこともございます。焦らずとも、一歩ずつ関係を築いていけばよろしいかと」

 

「うむ。私もそう考えている」

 

 アインズは、いかにも余裕のある王らしく答えた。

 

(……そう、焦らず一歩ずつ。分かっている。分かっているんだが、やることが多すぎるんだよな……)

 

 内心では、すでに次の予定や必要な準備について考え始めていた。

 

 それでも、今は目の前の仕事を一つずつ進めるしかない。

 

 レスタトは、アウラやマーレ、シャルティアにも穏やかな眼差しを向けた。

 

「皆様とも、今回の旅を通じて、さらに理解を深められればと思います。どうぞよろしくお願いいたします」

 

「こちらこそ、よろしくね!」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

「ええ。こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ」

 

 三者三様の返事に、レスタトは微笑んだ。

 

 異種族との共存を実現するためには、国家間の条約だけでなく、個人同士の信頼関係も必要となる。

 

 今回の旅は、外交交渉であると同時に、そうした信頼を積み重ねる機会にもなるはずだった。

 

 もっとも、出発前に伝えておかなければならないことは、まだ残っている。

 

「最後に、もう一つ確認しておこう」

 

 アインズの声に、周囲の者たちが姿勢を正した。

 

「次に、ラナーとクライムの扱いについてだ」

 

 アインズの言葉に、玉座の間に集まった者たちの視線が集まった。

 

「ラナーとクライムは、今後、ナザリックの一員として扱う。二人の身柄と安全は、ナザリックの管理下に置くものとする」

 

「おお……!」

 

 デミウルゴスが感嘆の声を漏らしかけ、すぐに口を閉じた。主がわざわざ二人の処遇を明言した以上、そこには何らかの意図があるはずだ。彼はそう考え、続きを待った。

 

「クライムの日常的な管理と指示については、これまでどおりラナーに任せる。クライムはラナーの部下として行動し、ラナーの指示に従えばよい」

 

 アインズは一度言葉を切り、玉座の間を見渡した。

 

「ただし、私の命令はラナーの指示に優先する。ラナーであろうと、私の命令に反する指示をクライムに出すことは認めない。また、クライムが私の命令を受けた場合、ラナーの指示と相反するならば、私の命令に従うものとする」

 

「かしこまりました、アインズ様」

 

 ラナーは恭しく頭を下げた。

 

「そして、もう一つ。二人の処遇について、私の許可なく独断で変更することを禁ずる」

 

 アインズの声が、わずかに重みを増した。

 

「ラナーとクライムを処断することも、傷つけることも、脅迫することも許さない。理由の如何を問わず、私の許可を得ずに二人へ危害を加えた者は、私の命令に背いたものと見なす。二人に対する処遇の変更が必要だと考えるなら、必ず私に報告し、判断を仰げ」

 

「「ハッ!」」

 

 守護者たちの返答が重なった。

 

 ラナーは表情を崩さなかったものの、その内心ではアインズの言葉を慎重に吟味していた。ナザリックの一員として認められたことは、単なる待遇の改善ではない。自分とクライムの身柄を、魔導王が直接保護し、管理するという宣言でもある。

 

 そしてクライムは、引き続き自分の部下として扱われる一方、最終的な命令権はアインズにある。ラナーの裁量が無制限ではないことも、明確に示されたのだ。

 

 もっとも、彼女にとって、それは不満というよりも当然のことだった。クライムを守るためにも、ナザリックの秩序に従うためにも、魔導王の命令を軽んじる選択肢など存在しない。

 

 アインズは、ラナーの反応を確認してから、改めて一同に告げた。

 

「よいな。二人の扱いについては、私の決定を絶対とする。余計な気遣いも、独自の判断による介入も必要ない。各自、自分に与えられた役目を果たせ」

 

「御意、アインズ様」

 

 ラナーは微笑みを浮かべたまま、静かに頭を下げた。

 

 アインズは、その姿を見つめながら考える。

 

(クライムは、ラナーにとって特別な存在なんだろう。あの二人の関係に、俺がどこまで口を出すべきなのかは難しいところだが……)

 

 彼にとって、クライムは単なる一人の人間ではなかった。

 

 今後のラナーの行動を考えるうえでも、彼の存在は無視できない。そして、扱い方次第では、魔導国にとって重要な意味を持つ存在にもなり得る。

 

(まさに奇貨というやつか。とはいえ、本人の人生まで、すべてラナーの思いどおりに決められてしまうのもな……。いや、俺が簡単に口を挟める話でもないんだが)

 

 アインズは、内心で小さくため息をついた。

 

(クライムには、できるだけ幸運を祈っておこう。……本当に)

 

 それ以上のことは、今の段階では決められなかった。

 

  それぞれの任務は異なる。しかし、いずれもスレイン法国を外交的に孤立させ、魔導国が目指す大陸全体の平和へとつなげるための一手だった。

 

 もっとも、全員がすぐに出立できるわけではない。

 

 アルベドには、外交使節団を率いる前に、捕虜の処遇方針を整理するとともに、「大陸諸国平和維持条約」の草案を作成する仕事が残されていた。条約の目的や適用範囲、加盟国間の協力義務、違反が疑われる場合の調査や仲裁、被害への補償と原状回復――それらを整理し、魔導王の承認を得られる形にまとめなければならない。

 

 草案はあくまで各国との交渉に用いるたたき台であり、承認前から成立した条約として扱うものではない。弱者や共存可能な異種族を守りながら、条約そのものが新たな支配の道具と化すことも防ぐ。その両立こそが、アルベドに求められる仕事だった。

 

「アルベド。草案がまとまり次第、私に提出せよ。内容を確認したうえで、各国との交渉に移るのだ」

 

「かしこまりました、アインズ様。必ずや、ご期待に沿うものを作り上げてみせます」

 

 アルベドは深々と頭を下げた。主の理想を実現するため、まずは万全の準備を整える。その決意が、彼女の表情に表れていた。

 

  それぞれの任務は決まった。

 

 ラナーは旧王国の残存領土へ向かい、避難民や領主たちの状況、住民の魔導国に対する感情を調査する。アルベドは捕虜の取り扱いに関する法令と、大陸諸国平和維持条約の草案を作成し、アインズの承認を得てからアーグランド評議国との外交に臨む。

 

 そして、アインズはアウラ、マーレ、シャルティア、レスタトとともに、エイヴァーシャー大森林のダークエルフの郷へ向かう。エルフたちとの関係を築き、スレイン法国を取り巻く情勢を変えるためだ。

 

「各自、与えられた任務を確実に遂行せよ。状況に変化があれば、速やかに報告すること。必要な判断は、その都度行う」

 

「「「ハッ!」」」

 

 力強い返答が玉座の間に響いた。

 

 外交、現地調査、異種族との関係構築。そして、将来にわたって平和を維持するための制度作り。

 

 対スレイン法国包囲網は、構想から実行へと移り始めていた。

 

(……頼むから、今回は予定どおりに進んでくれよ)

 

 魔導王アインズは威厳ある姿を崩さぬまま、次なる行動へと思考を巡らせた。

 

 ――何しろ、やるべきことが多すぎるのだから。

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