黎明の魔法師   作:ノスフェラトゥ

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episode:2

高校生となり、二日目の朝。

この日もガーディアン兼メイドである水波に起こされて、眠気と戦いながらベッドから起き上がった。今日はいつもよりかかない早く起床した。寄る場所があるからだ。

 

「おはようございます、蓮夜様。朝食の準備が出来ています」

 

「ああ、おはよう。悪いな、俺の都合でこんな朝早くに起こしてしまって」

 

「いえ、問題ありません。主である蓮夜様を差し置いて寝ているわけにも参りませんから」

 

水波が朝食の準備を終えていたらしく、デーブルに並べていた。

そして、未だに眠そうにしている蓮夜の前にコーヒーが差し出された。

 

「サンキュ、いつもながら助かる」

 

「ありがとうございます……」

 

水波は蓮夜の礼に少し顔を赤くしながら、軽く頭を下げている。コーヒーには砂糖もミルクも入れていない完全ブラックなものであるが、この苦味で脳を覚醒させるのが蓮夜の朝の始まりと言っても過言ではない。

 

「良し……」

 

コーヒーを飲み、完全に目を覚ました蓮夜は思わず声を出してしまった。

 

「今日はいつも通りの時刻には帰ってくる。遅れるようならば、連絡はするから」

 

「はい、かしこまりました」

 

蓮夜は水波に返事を聞き、満足げに頷いていた。

これかあ出かける場所は学校ではない。そして今から行く場には、達也も行くという事なのでついでに蓮夜も赴くのだ。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「チッ、達也お前手加減してくれよ」

 

「いや、無理だろ。あそこで手加減をすればお前に負けてしまう」

 

第一高校へと蓮夜、達也、深雪は足を運んでいるが、蓮夜は自身の首に手を当てて調子を確かめている。

 

「八雲さんめ……ヘンな提案をしやがって」

 

三人が先ほどまで言っていた場所は―――寺だ。

ただの寺ではなく、古式魔法の使い手である九重八雲に指南してもらっているのだ。深雪も一応指南を受けているが、達也と蓮夜ほど本格的にやってはいない。

 

「手加減は無理だとしても、頚動脈に踵落しは無い、有り得ない。俺じゃなければ死んでるぞ」

 

「……悪かったな。それに関しては弁明のしようが無い」

 

達也が珍しくもバツが悪そうな顔をしている。

 

「お兄様も蓮夜くんもお相子じゃないかしら?踵落としと鎧通し、どちらも危険な気がするのですが……」

 

「……それもそうだな」

 

達也との戦闘は、実質どっちもどっちだ。敗北したのは蓮夜なのだが、その過程で蓮夜は鎧通しという技を、達也が踵落としという技を当てているため、蓮夜も達也を非難できない。

 

「体術は達也には一生勝てないかなぁ」

 

「それは飛躍し過ぎだ。お前も十分強いと思うが?」

 

「お兄様の言う通りですよ、蓮夜くん。先生が賞賛してくださったのですから、胸を張ってもいいじゃないかしら?」

 

「そうかねぇ……」

 

蓮夜の体術の実力は、達人クラスに極めて近い状態。同年代でも近接格闘術は最高レベルだろう。だが、師匠である九重八雲や達也には及ばない。ここ数年達也と行動をともにする機会が増え、規格外だという事が分かった。

 

「まあ、主体は魔法による中、遠距離からの攻撃だし。いや……近接格闘の術式も作ろうかねぇ?」

 

「近接格闘?加速術式や自己強化の魔法か?」

 

「まあ、それらはCADなぞ無くてもどうとでもなる。ふむ……『分子ディバイダー』でも再現してみるか?」

 

「……それは、些かマズイんじゃないか?あの術式はUSNAの軍事機密術式だぞ?」

 

『分子ディバイダー』という魔法はアメリカ軍の秘匿術式であり、おいそれと再現出来るものではない。だが、蓮夜の側には分割術式に類似する魔法を使える者が居る。その術式を解析し、応用すれば同じ術式かもしくはそれに類似する術式を構築できる。

 

「それを言うならば、お前は『ニヴルヘイム』とか『氷炎地獄(インフェルノ)』の起動式を再現しているようだが?」

 

「あれは俺だけの実力じゃない。FLTの人たちが手伝って出来た起動式だ。その点、お前は一人で起動式を構築しているからな」

 

「……再現するのに、約一年近く掛かったがな。その点、俺は発想力は低くてね。新しい起動式の構築やら応用などはあまり考え付かないんだよ」

 

蓮夜は現存する起動式を一応は構築できるが、高等魔法プログラムは一年くらいの年月が必要なのだ。実際、蓮夜はエンジニアとしての実力もある。だが、これらは殆ど達也に師事を受けていたからだ。達也はソフトもハードももはやプロ顔負けの実力者だ。蓮夜もプロレベルなのだがやはり達也には及ばない。達也ほどの発想力がないのだ。

 

「……深雪、このチートで規格外な兄をどうお思いですか?」

 

酷い言い草だな、と達也は言うが事実なのでしょうがない。蓮夜の質問に深雪は満面の笑みで答える。

 

「―――もちろん自慢のお兄様ですわ」

 

……相変わらずおブラコンっぷりで。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

達也と深雪と一緒に登校してきた蓮夜なのだが……やはりと言うべきかかなり注目を集めてしまっている。

二科生である達也は早々に自分のクラスであるE組に行ってしまった。そして、蓮夜と深雪はお互い成績優秀者であるから同じA組。

本人は自覚なしであるが、蓮夜も結構容姿が整っている。父は誰かも全く分からないが、母である真夜の血を引いているだけあり、地味に少しだけ中性的な顔立ちをしている。

そんな二人が一緒にA組に入れば、目立たないわけじゃない。

 

(うわお、メッチャ注目されている。なんか男子諸君からは殺気が……)

 

嫉妬のあまり殺気に近い視線が突き刺さる蓮夜だが、表では全く気にしていないかのように装っている。

 

「こっちを見てますね、皆」

 

「……誰の所為だろうなぁ」

 

「さあ?」

 

蓮夜の皮肉も、深雪はいい笑顔で受け止めている。その笑みに多数の男が軽いノックダウンを喰らっている。

 

「『しきょう』と『しば』……席は俺の後ろか」

 

「ええ、そのようですね」

 

座ろうと席に向かっている最中、自席の側に雫とほのかがいた。

 

「おはようさん、雫にほのか」

 

「おはようございます、光井さんに北山さん」

 

『きたやま』という名前なのでどうやら雫は自分の一つ前なようだ。知り合いて固まるのは気が楽でいい。まあそれが全員女子っているのはどうかと思うが。

 

「お、おはようございます!蓮夜さんに司波さん」

 

「おはよう、蓮夜さんに司波さん。もしかして、家近所なの?」

 

どうやら雫は一緒に登校してきた蓮夜と深雪の関係が知りたいようだ。ほのかも頷いてるし、クラスメイトも気になっているようで耳を傾けているのが分かる。

 

「確かに家はそこそこ近いな。達也を含め、良き友人だ」

 

「ええ、蓮夜くんは良き友人ですわ。相談相手にもなってくれるので、親友という言葉が合いますね」

 

「え、えっと……お、お二人は、つ、つつつ付き合っていたりするのでしょうかっ!?」

 

かなり顔を赤くしてほのかは勇気を振り絞って聞いてみる。これはA組の者たちが一番知りたい情報であり、その事を勇気を振り絞って言ったほのかに心の中で賞賛している。

蓮夜と深雪はその質問に少々驚いたようで目を軽く見開いている。そして、お互い顔を合わせてからほのかに向き直る。

 

「いや、それは違う」「いいえ、それは違います」

 

異口同音で言葉を発する蓮夜たちだが、息が合い過ぎて説得力がない。

 

「俺と深雪は恋人になることは、ほぼ有り得ない。今、この関係が一番落ち着く」

 

「蓮夜くんの言う通りですわ。私と蓮夜くんが付き合うことはまず無いでしょう。私たちは親友なのですから」

 

「そ、そうなんですか……良かった」

 

ほのかは安心しとように深い息を吐いていた。それはクラスメイトほぼ全員に言えることだ。

最後の言葉はしっかりと蓮夜と深雪の耳に入っていた。だが、深雪は意味有り気な視線を蓮夜に送っている。

 

「……なんだ、その視線は?」

 

「いえ、別に。だた、蓮夜くんは罪作りな人ですね、と」

 

「……?」

 

深雪の意図が全く分からない蓮夜はただ首を傾げるしかなかった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

四人でも雑談が終わり、予鈴が鳴り響いた。

 

『―――五分後にオリエンテーションを始めます。自席で待機していてください』

 

メッセージが鳴り響くと、生徒たちは自分の席まで移動して着席する。そして、本鈴とともにスーツを着た男性が入ってきた。

 

「皆さん、入学おめでとうございます。1-A指導教官の百舌谷です」

 

一科生には指導教官が付いて指導を行われるが、二科生には指導教官は存在しない。これは魔法師が不足しているのにも関係しており、一科生と二科生の大きな違いと言える。

 

「難関である一高の中でもA組は特に優秀な成績で試験を通過した者たちで構成されています。ここでは―――」

 

少々長いオリエンテーションが終わって、専門授業の見学へと移った。

 

「専門授業か……面倒だなぁ……」

 

「上級生たちによる実験とかもあるから言っておいた方がいいんじゃない?」

 

蓮夜の呟きに答えたのが、前の席に座っている雫だ。確かに、他の一科生には魅力的な見学時間だろう。だが、幼少から四葉の訓練を受けていたのは伊達じゃない。実際、この高校で学ぶことなど何一つ無い。あくまで深雪と達也が行くから、という理由だ。

しかし、行かないとなると悪目立ちする恐れがある。面倒ながらも、蓮夜は「そうだなぁ」とやる気なさげに答える。

一応は深雪を誘おうと後ろを見たが、

 

「ちょっといいですか、司波さん!」

 

他のA組の生徒の方が早かったらしく、深雪の席の側には男子生徒数人がいた。

 

「司波さんはどちらを回る予定ですか?」

 

「私は先生について……」

 

「奇遇ですね!僕もです!やっぱり一科なら引率してもらう方がいいですよね!補欠と工作なんてやってられませんよね!」

 

「いえ、そういうわけでは……」

 

何か自慢げに言っている生徒だが、深雪は一科生至上主義者でもないため、賛同できない。だが、普段は猫被り?をしている深雪は言い淀むしかなかった。

 

「何あれ?ちょっと言い過ぎじゃないの?」

 

側にいた雫も眉を顰めて不機嫌を露わにしている。

 

「ほう……雫は二科生を差別しないのか?」

 

「うん、確かに私は一科生に誇りを持っているけど、あんな風にはなりたくないな」

 

深雪に話しかけている男子生徒は、一科生に多数存在する二科生をウィードやスペアと蔑んでいる典型的な魔法師だ。親愛なる兄が二科生にある今、そんな侮蔑を聞きたいくないだろう。

 

「……どうしようかねぇ」

 

「その必要ないかも」

 

ん?と疑問に思っていると、深雪と男子生徒に身体を割り込んで生徒がいた―――ほのかである。

 

「だったらもう集合場所に急がないといけませんね!」

 

「ええ、そうですね。行きましょう光井さん」

 

渡りに船だったようだ。深雪はほのかに連れられ、教室に出て行こうとしていく過程で此方に来て雫を誘っていた。蓮夜は他のクラスメイトと親睦を深めた方がいいと思って手を振って、

 

「蓮夜さんも行くんですよ!」

 

「……マジ?」

 

ガシ、とほのかに手を掴まれた。

 

「うん、蓮夜さんも行こうよ」

 

反対の手も雫に掴まれてしまい、逃げ道は完全に塞がれた。深雪は口に手を当てて微笑ましそうに見ていた。

 

「おい、深雪―――」

 

「蓮夜くんも行きましょう。大勢の方がいいじゃない?」

 

「……分かったよ。はぁ……」

 

蓮夜は半ば引き摺られる形で、A組から出た。その際、唐突にほのかに割り込まれ、誘う事が出来なかったA組男子生徒はポカン、と口を開けて立っていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

入学二日目で、蓮夜は親しき友が数人でできた。

これは嬉しい誤算であり、深雪にと親しい自分に嫉妬を向けない男子がいる事に嬉しく思った。

雫もほのかも客観的に見て、かない可愛い。ほのかに関しても、明るい性格であり意外とムードメーカーとなりつつある。そして、身体的特徴のある部分(・・・・)は深雪に勝っている。二人も二科生に偏見的な思想を持っていないから、深雪ともすぐに打ち解けた。ただ、男女の割合がおかしいのが若干気になるけど。

そう、一科生でもほのかたちの思想はかなり少ないのだ。他の一科生は面倒な事この上ない。

 

「……こういう時ってどう止めればいいんだ?達也よ、お前の脳を総動員して答えを導き出してくれ」

 

「無茶言うな。俺だってこうなるとは思わなかったんだ。まさか美月があんな性格だったとは……」

 

「ええ、エリカならまだ分かったのですが……」

 

「……ふう、入学二日目にして平和な学園生活崩壊の危機、か」

 

三人の視線に先には、専門授業の際、深雪の取り巻きと化していた一科生と達也の友人であるE組のメンバーがいがみ合っていた。

 

達也も蓮夜も、こういう展開は全く望んでいなかったのだ。

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