蓮夜は1-Aで携帯端末を見て何か考え事している。
そんな様子が珍しいと思ったのか、深雪から声を掛けられる。
「どうしたの、蓮夜くん。珍しく困っているようだけれども」
「ああ、別に魔法関連ではないんだが……ホラ、今日から部活動勧誘が新入生を的に始まるだろ」
「ええ、そうですわね。なるほど……入部する部活について悩んでいるのね」
「そういう事だ」
魔法科高校とはいえ、ただ魔法の勉強をするだけではない。ここら辺は一般の普通高と対して変わらない。魔法を使わない部活もあるし、魔法を駆使する部活もある。クラブ予算もその部の成績の評価で反映されるため、若干不遇されている部もある。だからこそ、新入部員獲得はある種の競争となっており、成績上位の者ほど狙われる。
蓮夜自身も一応は自分が次席なのは真由美たちに教えられたからであり、他の者たちは自分の順位を知らない(だが、入試成績リストが流出しているのは確かだ)。
ゆえに一番狙われるのは蓮夜だと言っても過言ではない。
「あ、そうだ……クラブ決めなくちゃいけないんだった」
ほのかは思い出したかのように口を開く。
「そうだね。でも、見学とかできるのかな?」
「できるだろうよ。まあ頑張れ、雫ほのか」
「その言葉、蓮夜くんにも返ってくるのよ?」
深雪の言葉に蓮夜は黙るしかなかった。
携帯端末をスクロールさせ、ざっと目を通した時に気になる部活動があった。
「ふむ……『SSボード・バイアスロン部』か。中々新鮮な活動内容だ」
マーシャル・マジックアーツやらでも良かったのだが、基本的にそこまで近接格闘に入れ込んでいない。実際、九重八雲に師事してもらった主な理由としては達也の監視の名目だったからだ。八雲には薄々感付かれているのだが、直接的に言って来ないという事は今の所問題ないと思われているからだろう。
「そんな部活があるんですか……聞いたこと無いですね」
ひょっこりとほのかは顔を出して蓮夜の携帯端末を覗いている。バイアスロン部はスケートボードやスノーボードで移動しながら魔法で設置されている的を打ち抜くらしい。
「今日、此処に行ってみようかな。体験して面白かったら入るか」
「じゃあ私も見てみようかな」
「あ、じゃあ私も見学したいです!」
雫とほのかが蓮夜と一緒に見学したい、と言い出した。特に迷惑でも何でもないから了承した。
「深雪は……生徒会で何すんの?」
「勧誘期間の追加予算の見積もりとか、苦情の受付けとか……かしら?」
「そっか、深雪さんも大変だね」
ほのかは深雪の―――生徒会の大変さに舌を巻く。一高は生徒の自主性を重んじる事から普通の高校よりか厳しいだろうと予測できる。
「過労で倒れるなよ?達也が暴走するから」
「問題ないわ。お兄様に心配掛けるわけにはいかないですもの」
「それならいいや。そっちも頑張れよ」
「ええ」
そして、蓮夜は雫とほのかと一緒に回ることとなった。
放課後。
蓮夜とほのか、雫は校舎の外―――ロビーのような場所にいる。A組は他のクラスに比べて終わるのが少々遅かった。そして蓮夜たちはこの勧誘期間を噂に聞いていたが、何処か軽視していたのは認めよう。だが……
「やっべ、これ無理じゃね?」
「こ、これ選ぶ所じゃないよ!蓮夜さん、雫助けてー!」
「無理。私も助けて」
軽い気持ちで出たら……一瞬で捕まった。
すでに待機していたように現われ、僅か数秒のうちに人垣に埋まった。これは入学式の時の深雪を超える。
無理もない。蓮夜はともかく、ほのかと雫は自分の成績を知らない。ほのかと雫は蓮夜に続く第三席と第四席なのだ。そんな成績上位固まれば、格好の得物となってしまうのも分かる。
「入りませんか!」「軽体操部に入部しませんか!」「テニス部どうでしょうか!」「是非、軽音部に!」
勧誘が殺到し、三人は身動き取れなくなっていた。
「ちょ……っ!」「んっ……苦しい」
ほのかも雫も精神的にも厳しくなってきており、蓮夜でさえ軽くグロッキー状態だ。
「いや、俺は……。ちょっとどいて―――って誰だ俺の尻を撫でている奴は!?」
セクハラ紛いな行為を受けている蓮夜が居た。
ほのかたちの方は女子が殺到しているから、男子からセクハラ行為を受けはしないが、蓮夜の方には男女両方殺到している。中には女子限定の部のマネージャーの勧誘も入っていることから、随分買われているようだ。
とは言っても、今代の主席は絶世の美少女と全学年に伝わっており、そしてのその親友は次席である蓮夜だというのは周知の事実と化した。男子の主な目的は戦力としてもそうだが、深雪狙いも存在する。簡単な話、蓮夜と仲良くなれば深雪を紹介してくると思っているから狙っているのだ。
「くっ……!こ、の……ッ!!」
遂に堪忍袋の緒が切れた蓮夜は魔法を行使する。密着状態でCADが取り出せないため、腰に掛けてある拳銃型CADのトリガーを引く。
その魔法は奇しくも達也がエリカを助ける為に使った魔法と同系統だ。単一振動系魔法を展開し、地面に足を叩きつけた。波紋状に広がる振動は生徒たちの身体を揺さぶり、体勢を崩すこととなった。
「わっ……?」
「っとと」
それは雫とほのかも例外ではなく、たたらを踏む。そして他の生徒たちはほぼ密着状態であったため、上手くバランスが取れずどんどん尻餅などを着いている。
そして蓮夜は雫たちの方を振り向くのと同時に二人の手を引っ張る。雫を左腕で、ほのかを右腕で抱きかかえるようにする。
突然に出来事により、雫とほのかは顔を赤くし、ほのかに関してはテンパっている。
「しっかり捕まってろ!」
そして、すぐさま別の魔法式を構築する。だが、今手元にはシルバー・ホーンしかないため、CAD無しで魔法を発動する。
一人だけなら増幅魔法を用いた加速で撤退するのだが、今両手には人がいる。揺らすわけにはいかないから、高速移動術式を発動した。
慣性中和術式、移動術式の複合魔法。実質的に古術である瞬動に近い魔法だ。
慣性中和により、ほのかと雫にも慣性が働いていないため、一瞬で景色が変わったように見えただろう。だが、それは蓮夜個人にしか作用しないため、二人と自分を集合概念を定義して、一つの存在として移動したから二人は問題なかった。
「あ、あれ……?」
「景色、変わった?」
疑問符を浮かべている二人を他所にもう一度発動して、勧誘する生徒がいない所で止まる。
「ふぅ……これでもう大丈夫か」
蓮夜は演算を終了させ、一息吐く。
「今の魔法……CAD使わなかったの?」
雫は蓮夜の方を見て平坦な口調で質問するが、驚きの色が混ざっているのが分かった。その言葉にほのかもハッと意識を戻してきた。
「今の複雑な魔法式を、CAD無しで編み上げたのですか!?」
「あー、まぁ……そうだなぁ」
普通はCADを用いて使用する複雑な魔法を無しでやればそんな反応をされるのは、考えてみれば分かる事だ。だが、あの場から逃げるのに意識が向いていたためミスを犯した。蓮夜がミスするほど切羽詰まっていた状況だったのだ。
言葉を濁した蓮夜を見て、雫とほのかは詮索を止めた。この情勢、魔法師にとっては隠したい事の一つや二つはある。調整魔法師であったり、人造魔法師であったり、家に関してだったり。
蓮夜にとっては有り難い気遣いであり、話を逸らすことにした。
「まあいいい。取り敢えず俺は部活動勧誘を甘く見てたらしい」
「……そうですね。まさかあそこまでとは思いませんでした」
先ほどの勧誘を思い出したのか、何処か遠い目をするほのか。蓮夜も疲れたようにため息を吐き、雫は表情が変わっていないが雰囲気が若干暗い。
「さて、思った以上に慎重に行動しないとな。じゃないとさっきの二の舞になる」
その言葉に激しく同意する二人。どうやらあんな思いはもうしたくないようだ。
「蓮夜さんは何か良い案ある?」
「……いや、特には無いな」
あの軍勢を相手にするとなれば手荒な行為になるし、それを行えば生徒会と風紀委員にお世話になるため本当の非常手段だ。その行為は絶対ほのかと雫が許容しないのは聞かなくても分かる。
すぐに攻撃性の魔法を思い浮かべる辺り、随分と非道に染まってきたな、と蓮夜は自分に呆れる。
「じゃあ、見つからないようにこそこそ行く?」
「それしかないね。うぅ、もっと堂々とクラブ見学したかったよ」
ほのかが落ち込んでいる時、後方から人が複数来るのが分かった。さきほどの事があったからCADを持って臨戦態勢に入った。やり過ぎだと思うが、これくらいの心構えがないとあの『狂気の軍勢』から逃れられない。
「―――あれ、貴方たちは……もしかして、光井ほのかに北山雫……さん?それに紫鏡蓮夜さん?どうして此処に……」
先頭に居る女子生徒に名前を言い当てられて動揺するほのかと雫。蓮夜に関しては、完全に心を沈めて機会を窺っている。
「え、えーと……ど、どうしよう」
ほのかがオロオロしている時、蓮夜は先頭に立つ生徒の顔に見覚えがあった。それは、極最近―――というか教室で携帯端末を見ていた時だ。
「えーっと、私たちはバイアスロン部。正式名称はSSボード・バイアスロン部よ」
「バイアスロン部?それって蓮夜さんが興味を持ったクラブですよね?」
「……ああ、そうだな。どうりで見覚えがあるわけだ」
女性生徒の顔は部活動のベージに乗っていたメンバー紹介の欄にいた者だ。
その後、蓮夜は体験をして雫も完全に興味を持ち、結局折れる形でほのかも入部することとなった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
帰りに達也たちに捕まり、カフェで随分話し込んでしまった。
話した内容は、予想通りの部活についてであり後半は体育館の話題となった。どうやら、体育館で剣術部と剣道部のイザコザが起きてしまい、達也が止めたとの事だ。だが、そこは無駄にプライドが高い一科生が達也の態度が琴線に触れたのか次々と襲い掛かってきたらしい。それらを全て回避したりして随分と目立ったらしい。
それにパラレルキャストを応用した『特定魔法のジャミング』を使用した事を聞いた。直に受けた事がある蓮夜は思い出して気持ち悪くなったりもした。
最後には美月を弄ってお開きとなった。
「―――まあ、そういうわけで無駄に達也が目立ったため、どう対処した方がいいのか考え中なんだ」
「はぁ、そういうわけですか。ですが、あまり無闇に介入しない方がいいと思います」
「そうすると、今度は俺が目立つか……もう放置でいいかね?」
水波の自室にて、蓮夜と水波は今日起こった事柄について話している。主に蓮夜が話し、水波が相槌を打つくらいだが。
そして、何故蓮夜が水波の部屋に居るのかと問われれば、決して邪な気持ちがあって来たわけじゃないのは断言出来る。そこまで欲求に素直ではない。
「母上に言った通り静観かな―――っと、そこ間違っているぞ」
「えっ、本当ですか?この問題の解はこれだと思ったのですが……」
蓮夜は今、水波に勉強を教えているのだ。
達也ほどではないにしろ、基本的に頭が良い。それも天才肌ではなく、努力で掴んだ成果なのだ。そして、水波は四葉家に買われてからメイドとしての作法や一通りの家事を叩き込まれている。それに併用して、蓮夜を護れるくらいの実力者になるための訓練も受けていた。そして、水波は蓮夜に合わせて山梨県の中学から東京の中学へと編入した。だが、水波の本来の仕事は蓮夜の奉仕であることには変わりない。結構金持ちのご子息が通う学校へ現在身を置いている。高校はまだ決まってはいないが、恐らくは主である蓮夜と一緒の一高へ進学する可能性が大。そのための勉強でもある。
だが、水波はメイドしては中々役にはやっているのだが、一番重要な魔法師として経験が足りない。だから長期休みの日などは四葉家本拠に移動して訓練している。これは仕方がない。未だ、水波は蓮夜の正式なガーディアンではなく、見習いガーディアンというワケだ。見習いである彼女を何故四葉家当主の息子に配備したのかと言うと、簡単な理由であり年が一番近いからだ。そこら辺は感謝している。おかげで気兼ねなく話せる。
「蓮夜様、これでよろしいでしょうか?」
「どれどれ……うん。今度は合ってるな。飲み込みが早いものだ」
「ありがとうござます」
表情が乏しい彼女だが、こうして褒めると嬉しそうに僅かに笑みを浮かべるのだ。出来ればもっと感情表現して欲しいのだが、そこは本人の性格なのが四葉の訓練なのか控えめだ。強要するわけじゃないが、別に困るわけじゃないので問題ない。いざとなればサイオンの揺らめきで判断すればいい。
そんな思考は隅に置いといて今は水波の勉強を見ている最中だ。
「さて、次に行こうか」
「はい」
蓮夜の夜は、水波の勉強を教える時間で終わった。