今日、ようやくB級に昇格できた。
これだけ無駄に時間がかかったのは、僕の実力不足なんかじゃない。僕が個人ランク戦ブースのフロアに姿を現した途端、蜘蛛の子を散らしたようにC級隊員どもが逃げ出していなくなっていったせいだ。
ポイントを稼ごうにも、対戦相手が逃げてしまっては話にならない。効率が悪すぎて、正直あくびが出るほど退屈な日々だった。
さて、そんな僕は個人ランク戦をしていた。
そう、過去形だ。
始まりは昇格したての僕を見て、新入りのB級だと舐めてかかってきた先輩風を吹かせた雑魚が1人絡んできたことだった。
少しばかり遊んであげたら、そいつの仲間が湧いて出てきた。その仲間たちとも遊んであげたら『チーム戦が得意分野だから』なんてほざくものだから納得するまで付き合ってあげた。
今日はB級に昇格できて気分がよかったからね。負け犬の遠吠えに少しだけ付き合ってあげてもいい気分だった。彼らは運がいい。普段なら口だけの雑魚の負け犬なんて相手にしない。
まあ、多対一はシステム上ランク戦のポイント変動対象にはならないから、残念ながら模擬戦の扱いになっただけど。
そして今に至る。
完全に沈黙した3つの頭を見下ろしながら、僕は心の底から湧き上がる失望をそのまま吐き捨てた。
「──B級もこんなもんなんだ。弱すぎて話にならない」
間宮隊。
射手の3人、間宮、鯉沼、秦稔で構成されているチーム。
結局はこんなものか。よくこれでチーム戦が得意分野なんて言えたものだ。
俯いて言葉も出ないほど落ち込んでる3人は、僕の視線から逃げるように顔をこっちに向けないようにしている。
拳を握りしめ、何かを言いたげに唇をわななかせているけれど、喉の奥から声が出てこないらしい。
そりゃあそうだろう。
個人ランク戦の10本勝負で、1本すら取れずに完封された挙げ句、3対1でさえ手も足も出せずに負けたんだから。
「先輩風を吹かしたいなら、次から相手はもっと選んだ方がいい」
僕が淡々とそう言い放つと、隊長の間宮の呼吸がひどく浅くなった。
悔しさと屈辱で奥歯を噛み締めるギシ、という鈍い音すら聞こえてきそうだ。横にいる鯉沼と秦は、そんな間宮を肩と背中を叩いている。
「ハウンドストームだっけ?あれを決まれば強いとか言って持て囃してるボーダー連中も、揃いも揃って見る目がないよね。あんなお遊戯会レベルの技、僕じゃなくて那須でも捌き切れるレベルだ」
数の暴力に頼るだけの斉射。全員が誘導力を同程度に設定しているから軌道も読みやすく、付け加えるならハウンドは集中砲火には向かない。
探知誘導だとしても視線誘導だとしても、最終的には対象の身体の一部に軌道が集中する。
最初に3人同時にハウンドを起動して全方位から迫るように見せたとしても、最終的には数カ所に攻撃が集中するから怖くない。
まあ、全方位からハウンドが迫ってきたとしても、全てのハウンドを撃ち落とすこともできるけど。
そもそも、この技を活かしたいなら、全員のハウンドの誘導力を同じに設定してる時点で話にならないし、弾幕で視界を覆うのが目的なら3人がハウンドである必要がない。
1人くらいはバイパーの方が相手を混乱させることができる。実力もなければ工夫も足りない。ハウンドストームが中途半端に通用したのがよくなかったんだろう。
色々思うことはあるけど、結局は──雑魚であることに変わりはない。怠惰な雑魚に価値はない。
視線を向けると、3人は居心地悪そうに身を縮めた。
「──だから君たちは雑魚なんだ」
僕にリベンジしようと決意するでもなく、ただ怯えるだけ。格上相手に噛み付く度胸もない。アドバイスを求めるわけでもない。
ただでさえゴミみたいな技術なのに情熱まで失ったら、君たち雑魚には何も残らないのに。
僕はもう彼らに視線を向けることすらやめ、背を向けた。喉が乾いた。ジュース飲もうっと。
個人ランク戦ブースのフロアにあるベンチに座っていると、同期の2人がやってきた。熊谷は呆れたように、那須は微笑みながら僕を見てくる。
「──B級に昇格したら大人しくなると思ってた私がバカだった。もう噂になってるよ。間宮隊に喧嘩を売ってボコボコにした新人がいるって」
まだ終わってから10分しか立ってないのに、噂が回るのが早い。いや、それにしても早すぎない?
「あの程度の隊に勝って噂になるんだ。この分なら、A級に上がるのは簡単そうだね」
「ふふっ、神園くんは揉め事が好きだね」
「大いに語弊がある。僕は揉め事は面倒くさいから嫌いだよ。でも、見下されるくらいなら揉めた方がマシなだけ」
それと、身の程を弁えない雑魚が嫌いだ。妬み嫉妬して足を引っ張ることしか考えない雑魚がね。
ん?ああ、間宮隊は雑魚なだけで、そこまで悪い雑魚じゃない。
いや、身の程を弁えてないから悪い雑魚でもあるのか?まあ、そんなことはどうでもいいか。
「そんなんだと、誰もあんたと隊を組んでくれないよ。大人しくあたし達の隊に来なよ」
「無理だけど。僕も自分で隊を作ったから」
「ダメでしょ、ちゃんとボーダーの規則を読まないと。隊を作るには、最低でも隊長とオペレーターが必要なんだから。隊長1人だけだと隊は作れない」
「神園くんだって見落とすことくらいあるよね。だから、諦めて私たちの隊に入ろう?」
「君たちが僕に人望がないことを揶揄してるのは充分よ〜くわかった。そのことはまた後で話すとして.....いるよ。僕と組んでくれるオペレーター」
隊を作るのにそのための条件を把握していないバカがどこにいるんだろうか。当然、オペレーターは確保してる。まあ、他の隊との兼任だけど。
「そんな。私たち3人全員がB級に上がったら隊に入ってくれるって約束したのに。そうだよね、熊ちゃん?」
「したような気がする。うん、したよ......確か、きっと」
「いや、してないしてない。君たちがC級の間に僕に勝てたらって条件を出して、その条件は達成されなかった」
「でも、クレーンゲームでは勝ったよ」
那須がそんなことをほざいてる。いつぞや3人でゲームセンターに遊びに行った時のことを言ってるんだろうか。正気か?
「僕があと1回で落とせる所まで運んだ時に『レディーファーストしてくれないかな。それとも、レディって言えるほど私たち可愛くないのかな....』なんて言いながら僕を脅して順番を奪った時のことかな
「でも、ルールは先に落とせた方が勝ちだったよね?そうだよね、熊ちゃん?」
「うん、それは間違いない」
「さっきからその、熊谷に同意させることで2対1にするのやめてくれない?卑怯だと思うんだけど」
そもそも、お互い違う台でやっていて勝負した時の話だし。なにより、その勝負の結果次第で隊に入るなんて言ってない。C級にいる間に僕に勝ったら隊に入るって条件だったから。
「その事は置いといて、現実的に考えて。あんたの偉そうな言動にそのオペレーターの子は最後まで付き合ってくれるの?その点、私たちなら慣れてるからその心配はないよ」
熊谷。クレーンゲームの話を出してきたのはそっちなのに、置いておくのはズルくない?いや、元々今回の話と関係ないからそれでいいんだけど。
「問題ないよ。元々僕は、その人に誘われてボーダーに入ったんだ。昔からの付き合いだし、僕のことをよく知ってるから大丈夫」
『ボーダーなら、冬と対等に競える人たちがいるよ』なんて言葉に騙されて僕はボーダーに入った。今のところそんな人とは出会ってない。
強いて、本当に強いてあげるなら那須だけど、単体で僕に勝つことは余程の驚異的なレベルの成長をしてくれないと不可能だ。
「......ちなみに、その人って男の人?」
「違うけど。え、今の話で性別は関係なくない?」
那須の瞳の奥から、すっと温度が消えたような気がした。
「大変だよ、熊ちゃん。神園くん、ボーダーでは私たちくらいとしか関わってないからライバルはいないと思ってたのに」
「....でも、ただの幼なじみとかじゃない?」
「だとしても、神園くんは女の子にはそこまで酷いこととか厳しいことを言わないし、むしろ優しい寄りなんだよ。昔から知ってるなら、その子が神園くんのことを好きな可能性が高いような気が....」
「確かに....」
「私たちの隊に入れて囲めたら他の女の子たちを近づけないようにしようと思ってたのに、計画が台無しだよ」
「──あのさ、いくらなんでも目の前でひそひそ話は酷くない?」
こんな目の前で仲間はずれにされることがあるんだ。
「え?あ、違う。なんか、神園にその、仲のいい女の子がいるのは意外だな....なんて」
「ああ、そういうこと。家族ぐるみの付き合いだったから、それで仲良くなったんだ。そうじゃなかったら、多分関わることもなかっただろうね」
ゲームに付き合わせておいて負けたら泣きながら人の首を絞めてくるような人だからね。
僕の両親が死んでからも向こうの親が結構な頻度でご飯に誘ってくれるから、今も付き合いは続いてる。
「ちなみに、その人って誰なの?」
「まあ、別に隠すことじゃないから教えてあげるよ。名前は──」
「.....熊ちゃん。神園くんは大きいのが好きなのかな?」
「それは分かんないけど......でも、神園は普段からあんまり胸とかをジロジロ見てくるタイプじゃないよ。たまに視線は感じるけど」
「──僕の家でゲームをやらせるために合鍵を渡してるわけじゃないんだけど」
リビングに足を踏み入れると、我が物顔でソファの上に寝っ転がり、我が家の大型テレビにゲーム画面を映し出してコントローラーをガチャガチャと忙しなく叩いている幼なじみの姿があった。
帰ってきた僕を見ることなく画面に釘付けになっているのはいいとして、せめてスカートを履いている時くらいはもう少し危機感を持ってほしい。
「あ、帰ってきた〜。お母さんに、実家からカニが送られてきたから冬のことも誘ってきなさいって言われたから来たんだよ〜」
やっぱりと言うべきか、画面から視線すら外さずに、ぽくぽくと気の抜けた声が返ってくる。
「ああ、それは嬉しい。うん。本当に嬉しいけど、それならわざわざ直接家に上がり込まなくてもメッセージ1本でよくない?現代には文明の利器っていう便利なものがあるんだけど」
「え〜?だってたまに家の様子を見に来てあげないと、冬はすぐに部屋を散らかすから来てあげてるんだよ〜。感謝してほしいな〜」
「どちらかといえば、柚宇が来た方が家の中が散らかるんだけど。テーブルを見てから言ってくれる?僕のお茶菓子を勝手に開けてる上にボロボロこぼしてるし」
見れば、テーブルの上にはクッキーや食べかけのスナック菓子の袋に、飲みかけのペットボトルが置かれている。
人の家を自分の部屋の延長線上みたいに扱うのは昔からちっとも変わっていない。昔はこ僕の部屋でやってたけど、今はリビングでやるようになった。
両親が他界して独り身になった僕を心配して、柚宇の両親が何かと気にかけて夕食に呼んでくれたり、気にかけてくれてることには感謝してる。
とはいえ、僕の家を差し出したつもりはないんだけど?
「あ、ボス倒した〜!」
ようやくコントローラーを放り出すと、柚宇はソファの上でのびのびと両手を伸ばし、僕の方へ振り返って丸い瞳を細めた。
「それより冬、今日B級に上がったんでしょ〜?おめでと〜」
「噂が回るのが早いね」
「『昇格したての生意気な新人が間宮隊を完膚なきまでに叩きのめして心を折った』って有名な話だよ。あ〜、これは絶対に冬の仕業だな〜ってすぐ分かったよ〜」
「生意気なのはあっちだよ。身の程も弁えずに上から絡んできたから、現実を教えてあげただけ」
「女の子に優しくしないとダメじゃなくて、人に優しくしないとダメだって教えるべきだったかなぁ?」
「僕にゲームで負けすぎて、泣きながら『女の子には優しくしないとダメなんだよ!』っていいながら首を絞めてた癖によく言うよ」
あ、顔を逸らされた。恥ずかしがることはないのに。だって、今と大した変わらないからね。
「でも、これで晴れてB級隊員だね!ってことは──約束通り、冬の隊のオペレーターやってあげる番だ!」
得意げに胸を張る柚宇。豊かな胸元が強調されて少し目のやり場に困るけれど、本人はまったく無自覚なのが厄介だ。
「本当に兼任なんてできるわけ?太刀川隊のオペレーターだけで手一杯なんじゃないの。一応A級1位の部隊なんでしょ?無理そうなら別のオペレーター探すけど」
「大丈夫大丈夫〜。冬がA級に上がってからのランク戦で太刀川隊と当たったら太刀川隊を優先するけど、それ以外は何も問題ないから」
「それでいいよ。僕も必要であれば他のオペレーターを探すし」
「誘うなら女の子にしなよ〜。冬は女の子にしか優しくしないんだから」
「その言い方、なんか嫌なんだけど」
抗議の視線を向けるも、首を傾げてる。わかれよ。話の流れからして、なんで見てるか分かるでしょ。
「疲れてる?お腹空いた〜?お母さんがもうカニ鍋の準備して待ってるから、早く行こ〜よ〜」
「......疲れてるのは君の相手をしたせいだよ。ほら、行くならその散らかしたお菓子のゴミをちゃんと片付けてからにして」
「は〜い」
ほわほわと笑いながらゴミをまとめる幼なじみの背中を見つめながら、僕は小さく息を吐き出した。
こんなほわほわしてる柚宇が、本当にオペレーターの仕事ができるんだろうか。勉強でさえ年下の僕が教えてあげてるのに。
まあ、いいや。とりあえずカニ鍋を楽しもう。
神園 冬
〔PROFILE〕
ポジション:万能手(オールラウンダー)
年齢:15歳(中3)
誕生日:12月24日
身長:178cm
血液型:O型
星座:かぎ座
職業:中学生
好きなもの:自分、1人でも出来る運動、じゃがバター、食べ物全般
嫌いなもの:無能、身の程知らず、口だけの人間
サイドエフェクト:超動体視力
読んで文字の如く。小さい頃は気持ち悪くてよく吐いた。慣れるまでは地獄。死んだ方がマシと思うほど精神的に追い詰められていた
〔PARAMETR〕
トリオン 38
攻撃 22
防御・援護 20
機動 17
技術 14
射程 12
指揮 9
特殊戦術 10
TOTAL 250
〔TRIGGERSET〕
主トリガー
孤月
バイパー
イーグレット
韋駄天
副トリガー
アイビス
メテオラ
エスクード
バッグワーム
モテるキャラグラフ→べつにモテなくていい、モテる
派閥グラフ→無所属
成績グラフ→文化系で成績は良い
国近さん