那須隊は那須玲ありきの隊であり、那須が抜けたら戦力は半減どころか8割減のチームだ。エースである那須以外は見所のないチームとも言える。
ここまでこき下ろしておきながら、僕は時折熊谷に特訓してあげてる。
理由は簡単だ。熊谷は『口だけ』じゃないから。その一点に尽きる。
僕がC級隊員だった頃、大勢の同期たちが僕に教えを乞うてきた。当然、僕は条件を出した。条件はたったの2つだけ。
① 超動体視力の感覚共有をした状態で1時間サバイバル模擬戦(落とされても即時リスポーン)
② ①をクリアした後に、トリオン体の痛覚設定を50%に設定した状態で僕と10本勝負。
①と②をクリアした上で、まだ僕に特訓をつけてほしいなら教えてあげるって約束した。
熊谷以外の全員が10分~30分くらいで①の時点で諦めた。全員吐くものだから清掃が大変そうだった。
そのせいで、僕がマンツーマンで残りの時間熊谷とやることになったなぁ。
その勢いのまま熊谷は条件②までクリアして、僕の指導を受ける権利を得た。本当は何回か指導して終わるつもりだったんだけど....
熊谷が『玲の横に立ちたい』なんて、凡人が天才に追いつこうと本気で足掻こうとしてるのは嫌いじゃない。
友達として相棒として那須の隣に立ちたいって言うんだから泣かせるじゃないか。僕にもそんな友人がいたら....なんて思わされたよ。
まあ、だから熊谷から辞めたいって言うまでは付き合ってあげるつもりだ。
ん?那須?那須は最初から除外してる。①も②もトリオン体から生身の肉体に戻っても影響があるから那須の身体だと危ないからね。
「無駄な動きは遅いし、判断も遅い。近接トリガーさえ微妙なのに射手トリガーまで使おうなんて身の程知らずにも程がある。出来ないやつが選択肢を増やすな」
少なくとも選択肢を増やすなら近接トリガーかオプショントリガーにするべきだった。
「でも、私の実力だと孤月だけで戦うのはトップ層には通じないから、選択肢を増やさないと勝てない」
「大したトリオン量でもなければ、射手トリガーを扱う技術が優れてるわけでもない。特訓すれば射手トリガーもそこそこ使えるだろうけど、那須以上に扱える自信はある?」
「それは....流石に玲ほど使いこなせはしないけど、それでも練習すれば人並み以上には使えると思う」
まあ、そうだろうね。
客観的に見るなら、熊谷は決して弱くない。攻撃手ランキングのトップ層とも、ある程度は戦えると思う。
でも、勝ち切ることはできない。能力の総合値はそこそこ高いけれど、突出している部分がないからだ。
熊谷がやろうとしている器用貧乏なスタイルでも、ある程度は強くなれるとは思う。
「そんなんで、那須と並べると思ってんの?」
そのスタイルで行くなら、那須と並ぶくらい強くなるのは無理だ。できないやつが、器用になんでもやろうとするな。
「──ごめん、ちょっと焦ってたかも。神園の考えを教えて」
「近接特化、これに限る。才能がないなら、泥臭く頑張りなよ」
今の熊谷のトリガー編成が
〔TRIGGERSET〕
主トリガー
孤月
旋空
シールド
副トリガー
メテオラ
シールド
バッグワーム
こうなってる。
「副トリガーのメテオラを外して、レイガストとスラスターを入れる。メインに幻踊を入れたら──変則攻撃手の出来上がりだ」
「.....本気で言ってる?」
熊谷が目を丸くして僕を見てる。
「うん。まあ、僕の提案を聞くかどうかは熊谷の判断だし、強制はしない。僕が教えてあげてる君が弱いと、僕の格まで下がるから懇切丁寧に説明してあげるよ」
「言い方はともかく、お願い」
「まず、レイガストを入れることで耐久力が上がる。熊谷の動きは悪くないから、A級が相手だとしても孤月とレイガストである程度は太刀打ちできるはずだ」
那須隊全体として考えた時にも、熊谷が前衛で硬いタンクになれば、エースである那須の強度も増す。
そこに狙撃手の日浦が的確なカバーに入れば、万全の状態の那須隊は、上位の隊でもそう簡単には崩せないだろう。
でも、ここまでは普通のタンク型の攻撃手でしかない。硬いだけで、単独では脅威にならないただの壁だ。
「ブレードモードのレイガストと孤月の二刀流。それがメインの君の戦い方だ」
「ちょっと待って。レイガストで二刀流は無理でしょ。重たいし、隙だらけになっちゃうって」
熊谷の言う通りだ。僕の考えがここまでなら、ね。
「だから、スラスターを要所要所で使って『加速』すればいい」
スラスターのいい所は、トリオン消費が少ないことだ。それと、出力するトリオン量を任意で細かく設定できること。出力の上限はあれど、下限はない。
微弱な出力を断続的に吹かしながら、レイガストの重さを殺し、逆に推進力へと変える。
「そんなことできるの....?」
「出来ないよ、普通は。レイガストに体を持っていかれるし、体勢も崩れる」
ここまで考えた人間は、恐らく過去のボーダーにもいたはずだ。それなのに定着しなかったのは、それだけ難易度が高く、実戦レベルに昇華させるのが困難だからだ。
だからこそ──このスタイルをモノにできれば、熊谷は大きく化ける。
「そもそも、出来ないことを出来るように頑張るのが、努力なんじゃないの?」
僕が挑発するように言うと、熊谷の瞳に静かな闘志が宿るのがわかった。
「安心してもいいよ。僕は既に、このスタイルを身につけるために必要な特訓メニューも考えてあるから」
「──わかった。神園がそういうなら、間違いないと思うし。......それで、幻踊はどうして入れるの?」
「そんなの、孤月とレイガストの二刀流をものにした後の、攻撃パターンを増やすために決まってるでしょ」
幻踊は、ブレードの形状を自由に変形させるトリガーだ。
孤月とレイガストの二刀流で相手の攻撃を捌き、スラスターで予測不能な加速と制動を繰り返しながら、さらに幻踊で射程や軌道を操作して斬りかかってくる。
それが完成したら──僕でも、10本中1本は落とすかもしれない。
「......できるかな?」
「出来るまでやればできるよ」
今後、僕が特訓をつける時は、再び僕の『超動体視力』の感覚共有を繋ぐつもりだ。
スラスターの繊細な出力調整と加速のタイミング、どの動きをする時に使うのが効果的かを、徹底的に体に覚え込ませる。
頭で考えるよりも、身体に直接叩き込む方がいい。
ピンチの時に無意識下で動けるようになるからだ。まあ、本当に出来るやつは頭から理解して覚えるんだけど。
「地獄を見る覚悟はできてる?」
僕が意地悪く笑って問うと、熊谷は孤月を強く握り直し、力強く頷いた。
「──望むところだよ。それで、玲やあんたに少しでも追いつけるなら、死ぬ気で頑張る」
.....僕と那須が同期じゃなかったら、熊谷はここまで闘志を燃やさなかっただろう。そう考えると、熊谷は幸運なのかもね。
神園のサイドエフェクトである『超動体視力』の感覚共有。
それは、控えめに言っても地獄だった。視覚から入ってくる情報量が桁違いに増え、脳が処理しきれずにショートしかける。平衡感覚が狂い、三半規管が悲鳴を上げる。
それでも、私は諦めなかった。今日の特訓も最後までやりぬいた。
(──神園)
横を歩く神園の顔を、私は悟られないように盗み見る。
同い年とは思えないほど大人びた横顔。傲慢で、常に上から目線で、誰よりも自信家。
でも、私は知っている。神園が、誰よりも真摯な優しさを隠していることを。
ボーダーに入隊してすぐの頃だった。
入隊直後から神園だけは格が違った。圧倒的な才能と実力。周囲を鼻で笑うような態度は、反感を買うには十分だった。
普通なら腹を立てたり、反感を抱くだろう。実際、大部分がそうだったから。
でも、私は反感を抱くどころか惹かれてしまった。
圧倒的な能力で相手をぐうの音もでないくらいすり潰すその姿に。自信に溢れ、自分こそが世界の中心だと言わんばかりの態度に。
──一目惚れだった。
神園が初めて出した条件に耐え抜けたのは、玲のことだけを考えてた訳じゃない。それと同じくらい──神園のことを考えてた。
神園に追いつきたい。神園の視界に入りたい。玲に追いつきたい。玲の隣に立ちたい。2人に──天才たちに追いつきたいって。
その一心で、私は頑張ってきた。2人が同期にいたから、私は神園の条件を2つとも達成することができた。
あの日、泥臭く立ち上がり続ける私を見て、神園は呆れたように笑いながらも、特訓をつけてくれるようになった。
そして今日、神園が提案してくれた新しい戦闘スタイル。
ブレードモードのレイガストと孤月の二刀流。そして、スラスターによる予測不能な加速。
『出来ないことを出来るように頑張るのが、努力なんじゃないの?』
その言葉が、今も胸の奥で熱く響いている。
神園は、私が親友である玲の隣に立てるように、本気で考えてくれたのだ。桁違いの天才である神園が、私みたいな凡人のために、専用の特訓メニューまで用意してくれた。
それがどれほど特別で、どれほど嬉しいことか、神園はきっと分かっていないだろう。
「──わざわざ家まで送ってくれなくてもよかったのに」
ポツリと漏らした私の言葉に、神園は前を向いたまま淡々と答える。
「道端で熊谷が野垂れ死んだら、僕のせいみたいで寝覚めが悪くなる」
相変わらず素直じゃない言い回しに、私は思わず口元を緩ませた。本当にどうでもいい相手なら、放置して帰るのが神園だ。
わざわざ私の歩幅に合わせて歩き、家の前まで送り届けてくれる。そんな不器用な優しさが、たまらなく嬉しかった。
もっと一緒にいたい。
この短い帰り道が、永遠に続けばいいのに。
そんな叶わない願いを抱きながら、私たちは私の家の前に到着した。
「......送ってくれてありがと。また特訓よろしくね」
「ああ。覚悟しておきなよ。今日以上の地獄を見せるから」
神園が意地悪く笑った、その時だった。
ガチャリ、と背後で玄関の扉が開く音がした。
「あら、友子?おかえりなさい」
ゴミ袋を手にした母親が、ひょっこりと顔を出した。
私を見て微笑んだ母親の視線が、隣に立つ神園へとスライドする。
瞬間、母親の目がカッと見開かれたのが分かった。
「......お、お母さん、これは違うの!ボーダーからの帰りで、偶然──」
「まあまあまあまあ!友子が男の子を連れてくるなんて初めてじゃない!?」
私の制止など全く耳に入っていない様子で、母親はゴミ袋をその場に放り出し、パタパタと駆け寄ってきた。
その顔は、これ以上ないほど輝いている。完全に、娘が初めて彼氏を連れてきたと勘違いしている顔だ。
「友子の母です!いつも娘がお世話になってます!」
「あ、いえ......こちらこそ、神園冬と申します。いつも熊谷にはお世話になっています」
神園は少しも動じながら、礼儀正しく頭を下げた。
普段の傲慢な態度はどこへやら、紛うことなき好青年の対応だ。そのギャップに、私の心臓はまたしても大きく跳ねる。
「神園くんね!なんて礼儀正しい子なのかしら!......ねえ、ちょうど今晩御飯ができたところなの。よかったら食べていきなさいな!」
「えっ!?ちょっとお母さん、神園に迷惑でしょ!」
私は慌てて母親の腕を掴んだ。
神園に家に上がってもらえるのは奇跡みたいに嬉しいけど、それ以上にこのテンションの母親と、これから帰ってくる父親のコンボに巻き込むのは申し訳なさすぎた。
しかし、神園の口から出たのは予想外の言葉だった。
「本当ですか?実は親がいないもので、手作りのご飯をいただけるのはとてもありがたいです。お言葉に甘えてもよろしいでしょうか?」
「......え?」
私は呆然として神園の顔を見上げた。神園は涼しい顔をして、微かに口角を上げている。
親がいない、というのは事実だ。両親を亡くしていることは知っていた。
だからといって、あの神園が、まさかこんなにあっさりと初対面の相手からの夕食の誘いを受けるとは思わなかった。
「まあっ!それは大変ね......遠慮なんてしなくていいのよ!ささ、上がって上がって!」
すっかり同情と母性本能を刺激された母親は、神園の背中を押して家の中へと案内し始めた。
私は頭を抱えながら、その後ろ姿を追うしかなかった。
「......本当にいいの?」
玄関で靴を脱ぐ神園に小声で尋ねると、彼は悪びれる様子もなく囁き返してきた。
「人の親が作ったご飯が食べれるチャンスなんてそうそうないからね。それに、熊谷の家がどんなものか少し興味があったし」
その言葉に、私の顔が一気に熱くなる。
私の家に興味がある。それがただの好奇心だとしても、舞い上がるには十分すぎる言葉だった。
「友子!早くシャワー浴びて着替えてきなさい!神園くんの相手はお母さんがしておくから!」
「わ、分かったって!」
リビングから飛んできた母親の指示に、私は逃げるように自分の部屋へと駆け込んだ。
部屋のドアを閉め、背中を預けてズルズルとその場にしゃがみ込む。
......神園が、私の家にいる
心臓の音がうるさい。全身の血が沸騰しているみたいに熱い。
私は深呼吸を繰り返し、なんとか心を落ち着かせようとした。
とりあえず、着替えなければ。
クローゼットを開け、普段着ているジャージに手を伸ばしかけて......ピタリと止まる。
(ジャージは流石に......)
好きな人がリビングにいるのだ。少しでも可愛いと思われたい。
私はクローゼットの奥から、淡いグレーの柔らかい素材でできたルームウェアを取り出した。
気合が入りすぎていると思われない程度にカジュアルで、でも女の子らしさもある絶妙なライン。
急いでシャワーを浴び、汗を洗い流す。髪を乾かし、ほんの少しだけリップを塗った。
鏡の前で自分の顔を確認する。頬が赤いのは、お風呂上がりのせいだということにしておこう。
リビングのドアを開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「へえ、友子は小さい頃から負けず嫌いだったんですね」
「そうなのよ!小学生の時なんて、男の子とドッジボールで喧嘩して、泣かしちゃったこともあってねえ」
「......ちょっと、お母さん!神園に変なこと教えないでよ!」
ソファーに座り、母親と楽しげに笑い合う神園。
普段の刺々しいオーラは完全に鳴りを潜め、愛想のいい好青年を完璧に演じきっている。
神園は私を見ると、ほんの一瞬だけ目を見開いた。
「家だとそういう格好なんだ、似合ってるね」
「う、うん.....!...ありがとう」
神園の言葉に照れていると、玄関の方から重々しい足音が響いてきた。
ガチャリとリビングの扉が開き、スーツ姿の父親が姿を現した。
「ただいま......ん?」
父親の視線が、私、母親、そしてソファーに座る見知らぬ少年へと順番に移動する。
数秒の沈黙の後、父親の表情がみるみるうちに険しくなった。
「......君は、誰かね?なぜ我が家で寛いでいる?」
低い、地を這うような声。
完全なる警戒モードだ。手塩にかけて育てた娘が、突然連れてきた見知らぬ男に対する父親の絶対防衛ラインが発動している。
「あなた、おかえりなさい!友子のお友達の神園くんなの。夕食に誘ったのよ」
母親が空気を読まずに明るく答えるが、父親の視線は神園を射抜いたままだ。
しかし、神園は全く動じることなく立ち上がり、深々と頭を下げた。
「はじめまして、お父様。熊谷と同じ部隊でボーダーに所属しております、神園冬と申します。本日は突然お邪魔してしまい、申し訳ありません」
「ほう......ボーダーの。友子と同じ部隊ということは、君もアタッカー?なのかね?」
父親は腕を組み、面接官のように厳しい視線を神園に向ける。ボードーについてあんまり詳しくないのに。
「いいえ、僕は万能手です。友子さんの潜在能力を引き出すための指導を時折行わせていただいてます」
「指導......?君が、友子に?」
父親が怪訝な顔をした。無理もない。同い年の少年に指導されていると聞けば、疑問に思うのが普通だ。
「お父さん、神園はすごいんだよ。A級の隊員に勝つくらいの実力があって......私の戦い方を、一から見直してくれてるの」
私が慌ててフォローを入れると、父親は少しだけ目を見張った。
「A級の隊員に勝つだと?......A級が1番上なのか?コホン....だが、なぜそんな実力のある君が、友子にわざわざ時間を割いてくれるのかね?」
父親の鋭い質問に、私は息を呑んだ。
それは、私自身が一番聞きたいことでもあった。
神園は、ふっと不敵な笑みを浮かべた。
「熊谷は不器用ですが、根性と努力だけは誰にも負けません。才能のなさを補って余りあるその意志の強さは、指導する側としても非常にやりがいがあります──それに、親友の隣に立つために死に物狂いで足掻く人間は、僕は嫌いじゃないからです」
「......っ」
家族の前でそんな風に褒められるなんて思っていなかった。不器用で才能がないとハッキリ言われているのに、なぜか胸が熱くなる。
神園は、私の努力をちゃんと見てくれている。認めてくれている。その事実が、たまらなく嬉しかった。
父親はしばらく神園の目をじっと見つめていたが、やがて小さく息を吐いた。
「......堂々としたものだな」
「座りなさい、神園くん。せっかくの妻の料理だ、冷めないうちにいただこう」
父親のその言葉で、場の空気がふっと緩んだ。
どうやら、神園は父親の厳しい審査もあっさりとクリアしてしまったらしい。
恐るべし、神園冬の演技力。
食卓には、母親の気合が入った手料理がズラリと並んでいた。
ハンバーグにエビフライ、唐揚げ、ポテトサラダ。完全に小学生の男の子が好きなメニューのオンパレードだ。
「さあさあ、たくさん食べてね!神園くんは育ち盛りなんだから!」
「ありがとうございます。いただきます」
神園は箸を手に取り、ハンバーグを一口食べた。
その食べ方はとても綺麗で、箸の持ち方や姿勢一つとっても、神園が育ちのいい家庭で育ってきたことが伝わってくる。
「......美味しい。とても美味しいです」
「本当!?よかったわあ!友子に神園くんの胃袋を掴むためにも、お母さんがしっかりレシピを教えてあげないとね!」
「お母さん!もう、余計なこと言わないで!」
私は顔を真っ赤にして叫んだ。
胃袋を掴むって、完全に結婚を前提にしたような発言じゃない。
チラリと神園を見ると、彼は意に介する様子もなく黙々と料理を口に運んでいる。強メンタル過ぎる....
「神園くん、ボーダーの任務は危険を伴うと聞いているが......友子のこと、頼めるかね?」
ふいに、父親が真剣なトーンで切り出した。
「お父さん......」
神園は箸を止め、父親の目を真っ直ぐに見返した。
「どんな敵が来ようと、自分の身は自分で守れるだけの力は必ず身につけさせます。危険はあるので、安全を約束はできませんが」
それは、『僕が守る』という甘い言葉ではなかった。
自立を促し、強さを与えようとするその言葉は、神園らしい最大限の誠意なのかもしれない。
父親は満足そうに頷き、ビールをあおった。
「友子、お前は良い友人を持ったな」
「......うん。本当に、そう思う」
私は神園を見つめながら、小さく頷いた。
ただの友人。今はそれでいい。
でもいつか、もっと特別な存在になりたい。神園の隣に立つにふさわしい強さを手に入れて、胸を張って気持ちを伝えられるようになりたい。
夕食が終わり、すっかり夜も更けた頃。
私は玄関で神園を見送っていた。
「ごめんね、お父さんもお母さんも変に勘違いしちゃって......疲れちゃったでしょ?」
私が謝ると、靴を履き終えた神園は首を横に振った。
「別に。賑やかな家族で悪くないと思ったよ。ご飯も美味かったし」
「そっか......よかった」
神園はドアノブに手をかけ、振り返る。
「今日教えた戦い方、頭の中でしっかりシミュレーションしておきなよ。毎日熊谷の特訓をしてあげるほど、僕は優しくないし暇じゃないから」
「うん。神園が呆れるくらい繰り返すよ」
私が力強く宣言すると、神園は満足そうに口角を上げた。
「期待しないで待ってるよ」
最後まで憎まれ口を叩きながら、神園は夜の闇の中へと歩き出していった。
私はその背中が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。
夜風は冷たかったけれど、私の胸の奥は、燃えるような熱に包まれていた。
才能がないなら、泥臭く足掻くしかない。
神園が示してくれた道を、私は絶対に諦めない。
親友と、好きな人に追いつくために──私に立ち止まっている時間はない。
私は両頬をパンッと叩き、気合を入れた。
「──熊谷が戦闘スタイルを身につけたら、間違いなく那須のこと越える。そうなれば次は、那須が熊谷を追う側になるのか?」
まあ、それも悪くないんじゃないだろうか。親友同士が切磋琢磨するのも楽しいだろう。多分。
熊谷さん