ゼンゼロ世界に来た元MSF兵さん 作:何処にでもいるエセBIGBOSS
コヨーテ達が傭兵部隊、アウターヘブンを創設してから一月が経とうとしていた。
郊外の名も無き空白地帯は多くの勢力の思惑と野心に満ち溢れ、荒くれ者達の抗争の舞台となり、その荒くれ者達やそこに住む住民達から雇われて活動する傭兵達の仕事場となっている。
アウターヘブンもまた、例外ではなく勢力の拡大の為、名を売る為に依頼が届けば空白地帯の戦場へ赴く。
「GOGOGO!」
「突然しろ!」
アウターヘブン所属の兵士達は空白地帯に根を張る荒くれ者の掃討を行っていた。
「クソ!アウターヘブンの連中だ!」
「あんなの敵わねぇよ!逃げるぞ!」
荒くれ者達はアウターヘブンの兵士達の襲撃に恐れ戦いて逃げ出し、バイクに乗って逃げていく。
アウターヘブンの兵士達は暫くして荒くれ者達の拠点を完全に制圧し終えるとそこへコヨーテとツイッギーが来た。
それを見た兵士の一人が駆け寄って行き敬礼する。
「ボス!副司令!奴等の拠点を制圧しました!逃げた連中はどうしますか?」
「放っておけ。俺達の目的はこの周辺から彼奴らを追い出すだけの依頼しか受けていない。無駄に命を取る事もない。それよりもこの拠点に備蓄してある資源や使えそうな武器、弾薬は回収しておけ。その後で撤収だ」
「了解しました!」
兵士はコヨーテの指示を聞いて再び敬礼して言われた作業を他の兵士達に伝えて行動を始める。
「様になったわね。部隊のボスとして振る舞ってどんな気分?」
「……大変としか。ボスもこんな苦労をしていたのかと思うとな」
コヨーテは部隊の司令官、ボスとして立つ大変さを痛感しつつBIGBOSSの苦労を感じ取りつつツイッギーに視線を向ける。
「ある程度は部隊としての格は出来た。次の一手は?」
「人を集めるのもそうだけど拠点が欲しい。人を集めても何時までも放浪の身じゃ養いきれない。腰を落ち着ける場所を作れば皆を休ませられるし、物資や武器、弾薬の貯蔵も楽になる」
「拠点か‥…簡単じゃないだろうな。都合よく見つけられるか?」
「実は目星はあるの」
ツイッギーのその言葉にコヨーテはあるのかとツイッギーに視線を送るとツイッギーは地図を取り出した。
「此処よ」
「……海のど真ん中だぞ?」
ツイッギーの指した場所。
そこは紛れもなく海のど真ん中だった。
コヨーテは不可解に思いつつ地図を見ていて気が付いた。
「まさか……!」
「えぇ、そのまさかよ。貴方の言うマザーベース。それと似た洋上のプラントを見つけたの。候補の中の一つだけど……どうする?」
ツイッギーのその言葉にコヨーテは考える素振りを見せる。
「確かに魅力的だな……だが、そこまでの移動手段は?それとそこは誰かの保有なのか?」
「移動手段についてはまだ。施設の保有者は何度も裏取りしたけど誰も保有してないわ。寧ろ何年か放置されたままよ。何れにしても捨て置くには惜しいわね」
「……他の候補は?」
「郊外の港と併設した基地。でも、そこは私達とは別の規模の大きい傭兵団が制圧してる。仮に辛うじて奪ったとしても今度は走り屋連盟が漁夫の利を狙ってくると思うわ」
「何故だ?」
「新エリー都との海上輸送に便利だから。言ったでしょ?港と併設してるって。そこを取れば海上輸送で自ずと莫大な利益が見込める。トライアンフ率いる走り屋連盟なら陸地の輸送手段を持ってるから更なる物資の供給が見込める。物資の供給手段の重要拠点。だから誰もが欲しがる。制圧すれば利益の独占も夢じゃないから」
ツイッギーはそう言って考え込む様に目を細める。
「だから何時かは私達が貰い受けるわ。奴等を打ち負かして、走り屋連盟が手出し出来ない方法を模索してね」
「……他は?」
「他は無い。現状、二択。マシなのが最初よ」
ツイッギーのその言葉にコヨーテは項垂れると仲間の兵士が駆け寄って来た。
「ボス!副司令!貴方方に会いたいと言う者達が来ました!」
「俺達にか?」
コヨーテは現状、郊外の外れの辺境で活動してるだけの一介の傭兵部隊に直接客が来た事に困惑した。
コヨーテはツイッギーと視線を交わした後、二人でそこへ行くと郊外には似つかわしくないレディスーツの上に白衣を着た女と二人の武装した兵士らしき者達が待っていた。
「気を付けてコヨーテ……あの兵士達……防衛軍の装備よ……」
ツイッギーがコヨーテに耳打ちして注意を促すとスーツの男が親しげな雰囲気を出しながらコヨーテの元へ歩み寄ってきた。
「わぁ!貴方がこの辺りで最強の傭兵部隊を率いていると言う司令官ですね?初めまして私、
「最強かどうか知らないが俺が部隊の司令官だ。名前はコヨーテと呼んでくれ。姜霊……博士?」
コヨーテは姜霊の無駄にハイテンションな挨拶に困惑しつつ一応、挨拶を済ませると姜霊は不敵に笑って用件を伝え始めた。
「堅苦しい話しは後にしましょう!」
「無しじゃないのか?」
「無しなんてつまらないじゃないですか?それよりも仕事!今すぐ貴方達に依頼します!私は今からこの近くのホロウに入って実験します!貴方の選りすぐりの兵士を一人貸してください!以上です!」
「……すまない。今、仲間を一人だけ雇うと聞こえたが?しかもホロウの中に入る為だと?」
「そうですが?」
姜霊は首を傾げて何かおかしいかとばかりに笑みを崩さず、コヨーテは深い溜め息を吐いた。
「……馬鹿らしい。それなら近くのごろつきを雇え。俺の仲間は消耗品じゃない」
「えぇ~?何で断るんですかぁ?」
「当たり前よ。貴方、ホロウがどんな場所か知ってて言ってるわよね?」
姜霊のふざけた態度にイラッと来たのかツイッギーが参戦した。
「私の仲間はホロウ探査における自律機械じゃない。人よ。人は死ねば終わる。貴方がどんな理由でホロウに入るのか知らないけど仲間を一人だけ要求した時点でろくな事じゃないわ」
ツイッギーの淡々とした正論に姜霊は焦りと不安も怒りも見せずに笑みだけを見せ続けて答えた。
「だって、護衛なら身内ので十分だからね。私が欲しいのはちょっとした新型兵器のテスター。つまりは兵器の試験を手伝って欲しいだけなんだよ」
「だったらその身内だけでやるのね。行きましょうコヨーテ。作戦後の食事が不味くなるわ」
ツイッギーはそう吐き捨ててコヨーテを連れて去ろうとした時。
「貴方ってヘリとか入り用だよねぇ?」
その言葉でツイッギーは止まった。
そして目を見開いて姜霊を見つめる。
「いやぁ、苦労したよ?ちょっと君が集めてる情報を探るのに何回も裏取りしたんだよ?君って警戒心高過ぎて私、寝不足だよ」
姜霊のその言葉を聞いてツイッギーが隠し持っている拳銃に手を掛けた。
「……何処まで情報を得たの?それ以前に何処から漏れた?」
「腕の良い情報屋の伝があってね。君も欲しがると思うよ。彼の諜報の腕は本物……情報を制するは戦いを制するってね」
「……そう。それで?私達を脅すの?」
ツイッギーのその言葉に姜霊はどうしてそうなるとばかりに笑みを消して疑問を浮かべる顔になる。
「君達を脅してどんな得があるのさ?無駄に恨みを買うだけだよね?」
「なら、貴方はどうしたいって言うのよ?答えによっては……此処で殺すわ」
ツイッギーのその言葉に護衛の兵士二人が銃を構え、コヨーテはツイッギーを庇う様に立って拳銃を姜霊に向けて構えた。
一新即発の状況の中、姜霊は不敵に笑う。
「私ね……亡命したいの」
「亡命だと?」
姜霊のその言葉にコヨーテは困惑する。
この世界は新エリー都を除いて他に国らしい国は無い。
何なら新エリー都は国ではなく、亡命と言う言葉はあまりに場違いな言葉だった。
「私さ……ちょっとしくってね……私が丹精込めて築いた計画を凍結されて左遷させられる事になっちゃった。だから名目上は試作兵器の実験をする為に来たとして本命の亡命先を探してるんだ」
「しくじって左遷か。何をしたんだ?」
「何も?所謂、派閥争いだよ。まぁ、私は巻き込まれちゃった的な感じで潰されたんだよ。左遷させられるだけならまぁ、良いよ。でもさ……私が扱ってた計画の大きさからして五体満足に飼い殺しにしてくれるたは思ってない。時間が許す限りで私は逃げる先を探してるんだよ」
姜霊のその言葉にコヨーテは拳銃の銃口を下ろすと姜霊の護衛二人も銃を下ろす。
「そいつらに聞かれているが?」
「あぁ、大丈夫だよ。昔からの部下で口も固い。何なら軍に全力で不満を持ってるから私に便乗するってさ。何なら他にも不満を持って軍から抜け出したがってる連中も連れてくるってさ。しかも土産としてヘリを二、三機くらい持ってきての大盤振る舞いで」
姜霊はコヨーテの考えている以上に用意周到に準備して交渉の場を設けたらしい。
部隊拡大の為に色々と入り用なアウターヘブンにとって美味しすぎる話しかしてない。
だからこそ、建前の依頼が気になった。
「……それで?どんな依頼だ?」
「やっと聞き入れてくれた!気が変わる前に言うよ!内容は勿論、さっき言った様に新型兵器の実験、テスターをして貰うよ。君の部隊から一人だけ貸して欲しい。勿論、そこまで難しくないよ。ちょっとコツがいるけど」
「どんな兵器だ?まさか自爆型の兵器なんて言うなよ?」
「そんな物騒なものは兵器じゃないよ。ロマンに欠けるし。まぁ、来てくれたらのお楽しみ。間違いなく人間の戦い方が変わると思うよ」
姜霊のその言葉にコヨーテは只、決断をするだけだった。