ゼンゼロ世界に来た元MSF兵さん 作:何処にでもいるエセBIGBOSS
コヨーテは取り敢えず歩いた。
街の様子はおかしいが街なら誰か一人くらいはいる筈。
そんな考えを抱きつつも謎の部隊の事もあって警戒を強めながら人がいないかを探した。
「荒れている……まるで戦場だな……」
コヨーテが見たものは荒れ果てた街も黒い結晶の景色、そして戦闘の跡。
まるで市街戦でもしていたのかと疑いたくなる様な様子にコヨーテは不気味さを覚えていると前方に気配を感じ、コヨーテは素早く身を隠す。
人なのか?
人なら一般人かそれともあの時の部隊なのか?
あの時に武器を無くしたコヨーテに対抗手段はほぼ皆無であり、緊張が走る中で観察し続けていると現れたのは明らかに人ではない何かだった。
「何だアレは……!?」
コヨーテが見たものは黒い球体の頭に異形の身体を持つ怪物だった。
明らかに現実離れした何かにコヨーテは驚き、戸惑っているとぞろぞろと集まってくるのが分かった。
「避けるか……」
コヨーテは明らかに話など聞かなそうな怪物を避ける事を選び、見つからない様に動き始める。
潜入の基本を思い出せ。
コヨーテはBIGBOSSではない。
だが、それでも単独での任務を任せられるくらいの実力は備えている。
この様な不測の事態は滅多にないが経験がない訳ではない。
コヨーテは姿勢を低くして怪物の視界に入らない様に周囲の瓦礫や影、壁を利用していく。
動く際は時に速く、時に遅くを心掛け、怪物の群れを遂にやり過ごした。
「何だったんだアレは……」
コヨーテは戦闘服やバラクラバの中が汗で濡れる感触を覚えながらまた怪物が現れないか警戒して進む。
案の定、再び怪物が現れた。
しかも今度は一本道の進行方向を塞ぐ形で見張る様に立ち尽くしており、とても隠れて進むだけでは行けなかった。
コヨーテは暫く考えた後、近くに落ちていた空き缶を見つけて拾うとそのまま自分とは反対方向の方へと投げた。
投げられた空き缶はそのまま地面に落ちるとカンッと甲高い音を響かせ、怪物の注意を引いた。
コヨーテはその隙に突破し、歩き続けていた最中、ある物を見つけた。
「……死体か?」
コヨーテが見たのは下半身を瓦礫で押し潰されて死んでいる銀髪の少女だった。
口や目から血が流れており、コヨーテが少女の死体に触れると僅かに温かくまだそこまで時間が経っていないのが分かる。
コヨーテは戦闘にでも巻き込まれたのかと不運な少女を哀れに思って横を見ると今度は貫かれた様な大きな傷を残した同じ見た目の少女の死体が転がっている。
「双子か?姉妹揃って……嘘だろ?」
コヨーテがその先を見ると信じられない事に死体の少女達と酷似する死体が転がっていた。
切り裂かれた者、頭を強く打ち付けた者、首を切られた者、酷い損壊をした者。
死に方は様々な同じ姿の少女達が死んでいたのだ。
これには戦場に慣れているコヨーテも不気味さを覚える中、死体を観察しつつ歩く。
「同じ容姿に同じ服装……アイドルか何かか……?」
白やオレンジ、黒の色を特徴とした服装を見てコヨーテは趣味の悪い新しいタイプのアイドルが何かしらに巻き込まれたのかと疑問を抱きながら歩いていた時、声が聞こえた。
「おい来てみろよ!こいつ生きてるぜ!」
コヨーテはその声を聞いて素早く移動し、物陰から様子を伺うとハロウィンの様な奇妙なヘルメットを被った男達がいた。
その男達は集まって何かを見下ろしており、コヨーテはよく見てみるとあの死体の少女達と酷似した少女がいた。
しかも生きている……が、片目は潰れており四肢は何かしらの汚染を受けた様に黒くなっている。
少女は弱ってるが男達は助ける所か何処かほくそ笑んでいる様に見え、明らかに少女に何かする気があるのは明白だった。
危険な状況だとコヨーテは少女を助けるべく静かに接近する。
男達が少女の顔を掴み、値踏みし始めた。
「こいつなかなか良い女だぜ。四肢も浸食を受けてるみてぇで抵抗も出来ねぇ様だから売っぱらう前に楽しむか?」
「……殺せ」
「ハハハッ!こいつ殺せってよ!殺すかよバァーカ!今から俺達のお楽しみに付き合ってそれから売られるんだよ!」
男の一人が少女をそう嘲笑う様に言うとズボンのベルトを外し始めた。
コヨーテはその様子を見ても慌てずに確実に接近すると近くにいた男に後ろから掴み、拘束した。
「グェッ!?な、何だ!?」
「誰だテメェ!」
男達は拘束された者を除いてコヨーテにクロスボウやパイプの様な武器を構えてきた。
「そいつを解放しろ。そうすれば怪我をしなくて済む」
「ハッ!俺達の方が数は上だぜ?野郎共!この身の程知らずに礼儀を教えてやれ!」
「ま、待ってくれ兄貴!俺は!?」
コヨーテの警告や拘束された男を無視して攻撃を仕掛ける様に指示を出したリーダー各の男にコヨーテは溜め息をつく。
「そうか……なら、遠慮はしない」
コヨーテはそう言って拘束していた男を近くにいた男にぶつけて二人同時に気絶させた。
「この野郎!」
それを見た男がクロスボウを向けるがそれよりも速くコヨーテが接近し、男のクロスボウを持つ手を掴んで捻り、クロスボウを奪うと後ろから殴り掛かろうとしたパイプ持ちの男の肩にクロスボウの矢を当て、掴んでいた男を地面に叩きつけて顔面を殴って気絶させた。
「こいつ……!野郎共!油断するな!数で押せ!」
リーダー各の男がそう指示を飛ばすと男達がコヨーテに向かってくる。
コヨーテは慌てずに攻撃を避け、腕を掴んで遠心力を生かして投げて他の男にぶつけ、更に向かってきた男の服を掴んでそのまま背負い投げをして地面に叩きつける。
残されたのはリーダー各の男だけになり、コヨーテの周りには倒された男達で溢れている。
「まだやるか?」
「この……舐めるな!」
リーダー各の男はそう言ってナイフを抜いてコヨーテに向かって行くがコヨーテはそれに対してナイフを持つ腕を掴み、リーダー各の男が走った力を利用してそのまま自分自身の後ろに投げて地面に叩きつけた。
CQC。
正式名はClose-Quarters Combat と呼ばれる近接戦闘でこれはBIGBOSSとザ・ボスの二人が作り上げたとされる極めて近い距離での戦闘を想定した格闘術だ。
これをコヨーテ以外のMSFの兵士達にBIGBOSSが推奨して身に付けられている。
コヨーテはMSFの兵士達の中でCQCが三番目に上手い兵士であり、CQCの教官として何度も指導した経験を持っている。
因みにMSFのCQCの使い手の一番目は無論、BIGBOSSであり、二番目はメディックと呼ばれたスタッフである。
リーダー各の男が痛みで悶えている所でコヨーテが素早くリーダー各の男の首にナイフの刃を突きつけた。
「最後の警告だ。そいつは俺が貰う。イエスと言わなければお前の首を此処で切る。分かったか?」
「あ、あぁ……分かった……分かったから……止めてくれ……!」
「それで良い。ゆっくりと眠ってろ」
コヨーテはそう言ってリーダー各の男を強く蹴るとリーダー各の男は気を失う。
コヨーテはそれを見届け、他に敵はいないかを見渡した後、少女の元へ行く。
「大丈夫か?」
「えぇ……おかげで尊厳が守られたと言った方が良いのかしら……?」
「そんな所だ。早く此処から離れよう。お前を病院に運ぶ」
「駄目よ……私には任務が……それに隊長達がまだ戦っているかもしれない……」
「お前は軍人なのか?」
「えぇ……一応はね……」
コヨーテはそれを聞いて趣味の良い軍服だと皮肉を込めて思うと少女を抱えた。
「ちょっと!?」
「お前はもう無理だ。その四肢じゃまともに動けやしない。それよりも生き延びるのが先決だ。そうだろう?」
「生き延びる?私達は任務を終えるまでは戦い続けないのいけないのよ。それをしないで生き延びる事は命令に背くのと道理。勝手なマネをしないで」
「よく分からないがそんな命令なんて聞かなくても良い。兵士にだって尊厳はある。それに……恐らくは戦闘は終了している。言いたくはないが……お前に似た奴の死体を見た。死んでいた。戦闘の音も響かなかった事を考えれば……な」
コヨーテのその言葉に少女は酷く動揺しているのか小声で嘘よやあり得ないと何度も繰り返す様に呟き始めた。
コヨーテは無駄に隠すつもりはなかった。
隠した所で何時かは知る。
隠した所で少女の為になる所かあるのかすら分からない希望にすがらせて大きな絶望に叩きつける事になるよりはマシだとコヨーテなりの何とも言えない考えだった。
MSFは敗走し、マザーベースは破壊された。
その現実と言う痛みをコヨーテは抱えながら絶望と悲観に明け暮れ始めた少女を担いで脱出を図るのだった。