ゼンゼロ世界に来た元MSF兵さん 作:何処にでもいるエセBIGBOSS
コヨーテは保護した少女を背負って移動するも向かえど向かえどまるで迷路の様に道や地形が変わり、化物がウヨウヨと彷徨いて脱出も堪らない状況になった。
「此処はホロウの中よ……キャロットは無いし、プロキシすらいないのに脱出なんて出来ないわよ……」
意気消沈気味に少女はそう言い、コヨーテはホロウとは何なのか分からないが脱出の為の何かが欠けているのは分かった。
コヨーテは溜め息をつき、少女を下ろして休憩する。
そこで少女とコヨーテは互いに話ながら気を紛らわせる為に色々と話した。
そこでコヨーテはツイッギーと言う名前と所属、そして部隊が何者で構成されているのかを知る事になる。
クローン。
コヨーテもMSFにいた時に聞いた事があった。
クローンを使って優秀な兵士を生み出す禁忌の研究が密かに行われていると。
コヨーテとしては単なる噂だけの陰謀論だと思っていたがまさか目の前にそのクローンの兵士がいるなんて思いもしなかった。
聞いている限り、ツイッギーはシルバー小隊と言う名のクローン部隊の一員として兵士以前に人としての尊厳や権利を踏みにじられる様な過酷な任務、命令を受けてきた事を知り、コヨーテは表情こそバラクラバで隠れているが怒りが見え隠れしていた。
コヨーテも嘗てはそうした部隊にいた事がある。
やりたくもない殺し、無法な任務、目を反らさなければならなかった現実。
それらを経験し、過酷な戦場を渡っている内にBIGBOSS率いるまだ小規模だったMSFの部隊と対峙し、激しい戦闘の末、コヨーテはスネークの前に膝を屈した。
殺される覚悟でBIGBOSSの前で死を待っていたがBIGBOSSから送られてきたのは銃弾ではなく、差し出された手だった。
「良い腕だ。殺すには惜しい。お前にその気があるのなら俺の部隊に来い」
殺されても文句も言えない状況で手を差し出されたコヨーテは戸惑いもあった。
だが、最終的にその手を取り、MSFの一員として行動を共にした。
そこからミラー、メディックとMSFに加わっていき、マザーベースと言う家を得た。
前に属した部隊とは違う時に馬鹿らしい事を行い、時に下らない事で笑い合い、時に戦友として戦場を共に駆け抜ける。
コヨーテの誇りある戦士としての居場所をBIGBOSSのおかげで得られた。
「ふーん……貴方、恵まれてるわね。不幸な私に対する自慢話にしてはセンスがないわね」
「確かにセンスがないかもな。こんな幸せな話はお前に聞かせても響かない。だが……俺はもう帰れない」
「何よ。何かやらかして追い出されたのかしら?」
ツイッギーは小馬鹿にする様にコヨーテに言うとコヨーテは小さく笑って答えた。
「潰された。俺達の家は」
コヨーテのその短い言葉だけでツイッギーは察した。
MSFやマザーベースは既に存在しないと言う事を。
「……ごめん」
「いや、良い。寧ろ追い出された方がマシだったかもな。まだ帰る余地はある。だが、無くなったら帰りようがない。今の俺はお前と同じ様に帰る場所を無くした哀れな兵士だ」
コヨーテはそう言って懐から煙草を取り出した所で近くで足音を聞いた。
一人や二人ではなく、数人規模の足音だ。
コヨーテは足音を聞いて警戒し、ツイッギーを連れて逃げる用意をしつつ正体を見極める為に睨んでいると足音のその正体を表した。
「ッ!?先輩!生存者です!一人は無傷ですがもう一人は四肢に侵食が見られます!」
「うむ。よもやエーテリアスやホロウレイダーで溢れたこのホロウで生き残りがいたとはな。運の良い奴等よ」
その正体は軍でもごろつきでもない警察の様な服装をした者達だった。
コヨーテは見た目で判断せずツイッギーを庇いながら警戒しているとツイッギーから頭突きを貰う。
「無駄に身構えるのは止めて。あれは治安官よ。大方、此処のホロウでやった戦闘の旨味を得る為に集まったホロウレイダーを狩りに来たのよ。良かったわねコヨーテ。貴方、助かるわよ」
「そうだな……お前は軍に?」
コヨーテは念の為に聞いた。
ツイッギーの境遇を聞けば軍に戻っても録な待遇は受けられないのは明白だからだ。
ツイッギーもそれが分かってるからコヨーテ個人にしか助かるとしか言わなかった。
暫くの無言の中、高身長な女性治安官がコヨーテの前に立った。
「治安局、特務捜査班の朱鳶です。ホロウレイダー取り締まりの為、特別警戒を実施しております。貴方方を保護しますがホロウにいる以上は理由などの経緯をお伺いしますので捜査に御協力を」
「別に構わないが早くこいつを病院に連れていってやってくれ。話ならその後でもできる」
「分かりました。では、ホロウから出ます。歩けますか?」
「俺は行ける。だが、こいつは見ての通りだ」
コヨーテはそう言ってツイッギーに視線を送り、もう一人の治安官がツイッギーの四肢を見る。
「うむ……これは酷いな……早く連れていかねば命に関わるぞ」
「やはりですか……この場は他の方々に引き継いで頂き、私達はホロウへ出たらすぐにでも病院へ向かいましょう」
「分かった。行くぞツイッギー。もう少しの辛抱だ」
「私は……」
ツイッギーは拒もうとするとコヨーテがツイッギーの肩に手を置く。
「今は助かる事だけを考えろ。生きていれば必ず仲間と会える筈だ。だから諦める様な事は言うな」
コヨーテはそう言ってツイッギーを背負うと朱鳶の前へと立つ。
「案内してくれ」
「わかりました。行きましょう。着いてきてください」
朱鳶はそう言ってコヨーテ達を連れてホロウの外へと案内する。
居場所を無くした兵士、コヨーテはこれからどう生きようかと考えながら導かれる様に歩き続けるのだった。