ゼンゼロ世界に来た元MSF兵さん 作:何処にでもいるエセBIGBOSS
ツイッギーを連れて襲撃された病院から命からがら逃げ出したコヨーテは新エリー都の外の世界、郊外に紛れ込み、追跡してくる可能性がある兵士達が探る筈の痕跡を可能な限り打ち消した。
夜の広大な荒野は人はおろか獣もおらず、四肢の無いツイッギーを背負って移動するのには都合が良かった。
コヨーテは移動する傍ら、潜伏出来そうな場所を探して周りを見ていると古びた小屋を見つけ、入り込む。
人がまだ使っている痕跡が無いかコヨーテは注意深く見ていくが人が使っている様子はなく寧ろ放置されてから数年は経過していると思われた。
コヨーテは小屋の扉を開けてツイッギーと共に入り、小屋の中に罠や待ち伏せが無いか入念に確認した所で漸く腰を落ち着けた。
「はぁ……キツかった……」
コヨーテはそう呟いて溜め息を吐く。
病院から郊外のこの小屋までかなりの距離を歩き、追跡の気配が無いか注意し、隠れ場所を探す。
かなり大変だった逃亡を終えてコヨーテは流石に疲れを見せて懐から煙草を取り出そうとした所で自身の膝を枕代わりに眠っているツイッギーに視線が行く。
ツイッギーはかなり疲れているのか深く眠っており、コヨーテは疲れているツイッギーの近くで煙草を吸う事に抵抗を覚えて吸う事を取り止めた。
静かな小屋の中を窓越しから月光が差し込む。
コヨーテは暫く起きていたが自身も疲れていた為、うたた寝をし始め遂に眠りについた。
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軽い衝撃を受け、コヨーテは目を覚ますと月光から朝の太陽の光が部屋の中に差し込んでおり、そしてコヨーテの視線にはツイッギーが不服そうに視線を向けている。
「朝よ。まだ寝てる?」
「いや、まだ追跡しているかもしれない。二度寝はもう少し安全になってからだ」
コヨーテはそう言って大きく欠伸をしてからツイッギーの体を起こして近くの壁にもたれさせてやり、コヨーテは床に胡座をかいて座り込む。
「此処は?」
「荒野だ。街は流石に止めて外側に逃げるしかなかった」
「つまりは郊外ね。郊外は辺鄙な場所よ。エーテル資源に頼らず過去のエネルギーである石油を利用して暮らしてるって聞いたわ」
「石油が過去のエネルギーか。俺達にとっては重要資源なんだがな」
「旧文明では広く使われた資源なのは確かよ。でも、ホロウが発生する様になってからは石油の加工、使用はおろか採掘もままならくなったのよ。暫くは深刻なエネルギー不足で大変だったらしいけどホロウからエーテル資源を得る方法が確立され、今の主要エネルギーとして扱われてるわ」
「なら何で郊外は石油を使ってるんだ?エーテルが取って変わったなら石油を使う理由がない」
「簡単な話よ。郊外は新エリー都の管轄外。つまり都市の市政は全く関与しないし、何なら治安維持もしない。市政が関与しないからエーテル関連技術は遅れてホロウへの対処も難しいと来たのよ。こんな感じだからエーテル資源を利用したエネルギーじゃなくて石油に頼って生きてるのよ。もっとも文化と言う一面もあるのだけど企業の利権まで絡んでるのよ」
ツイッギーの説明にコヨーテはそんな事情があったのかと唸る。
「技術的な問題と文化そして利権か……まるで中東やアフリカだな」
「何それ?」
「この郊外みたいに荒野が広がる土地だ。アフリカに関しては緑は沢山あるがこの二つも技術的な遅れや利権争い、文化の影響に左右されている。もっともその原因は過去に色々な国のやらかしが原因なんだがな」
「国……旧文明での纏まった集団社会での呼び方ね」
「国は存在しないのか此処は?」
「国なんてもう歴史の一部よ。ホロウ災害はそれだけ脅威だったって事。歴史上、多くの国と呼ばれた場所がホロウによって崩壊して滅んだそうよ。旧都や新エリー都が確立されるまでの間も秩序の無い混沌とした時代で全ての人達がバラバラに生き延びては明日をも生きるのに必死になったそうよ」
コヨーテはそれを聞いてホロウは自分の考えている数百倍は危険な災害だと理解した。
国と呼べるものが消え去る程のホロウ災害はコヨーテのいた世界における核兵器にも等しい厄災なのだと考え、底知れぬ災害に冷や汗をかいた。
「末恐ろしいものだな」
「今では当たり前の様に存在するものだけどね。それでも脅威には変わらない。だから私達は生み出されたとしたら……ホロウさえ無ければって思うわ」
ツイッギーはそう言って己の出生について忌避感を抱いているのか顔をしかめた。
コヨーテはそんなツイッギーを静かに見守っているとツイッギーは溜め息を吐いてコヨーテに視線を向き直す。
「世間話はこれくらいにして私の手足を探すわよ」
「荒野……この郊外に宛はあるのか?」
「宛なんて無いわよ。でも、人のいる所を探せばあるでしょう。……お金が無いわね」
「俺のはドル札くらいしか入れてない。一応聞くがこれでいけるか?」
「何よこれ?子供のごっこ遊び用の紙幣なの?新エリー都も郊外もディニーよ。こんなの出したらふざけてると思われるわ」
ツイッギーに呆れられる様に言われたコヨーテは天下のドル札がおもちゃのお札みたいに言われてしょげた。
せっかく文字通り命を賭けて稼いだGMPから両替した唯一の全財産がおもちゃ扱いでは流石に落ち込むのだ。
「何か対策出来ないかしら……物々交換は……いや、価値のある物なんてないし……」
ツイッギーはぶつぶつと言いながら手足を手に入れる方法を考え、コヨーテは財布を見ながら落ち込む。
この状態が数分に渡り行われ、漸く二人は行動を開始したのだ。
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数時間後、結果としてツイッギーの手足となる義手義足が見つかった。
コヨーテとツイッギーが移動しているとボロボロに壊れたトラックを見つけ、何か使える物がないかと探るとあったのだ。
機械ぽい見た目をした義手と義足がだ。
この幸運にコヨーテとツイッギーは喜びつつ、周囲に持ち主がいないかしっかりと確認した後でツイッギーに義手と義足をその場で取り付ける事にした。
「いくぞ」
「えぇ……ウッ!?……これって神経に直接繋げるのね……」
「神経と?」
「体の電気に反応させたり動きに合わせて義手と義足が動く様なものではないわね。神経に直接繋げてるから本当の手足の様に動かせるわ」
ツイッギーはそう言って取り付けられた義手の手を見つめ、義足の機械の指を動かす。
本当の手足の様に動く義手と義足に満足した様子で立ち上がろうとするとツイッギーはよろめき、倒れそうになるとコヨーテがすぐに支えた。
「ありがとう。でも、まだ馴染んでないみたいね」
「無理はするな。ゆっくりと歩け」
「えぇ、そうね。目的の物を予想外の形で手に入れたわ。一先ず集落がある場所へ生きましょう。生き倒れるなんてごめんよ」
ツイッギーはそう言ってもう一度、よろよろと歩き始めては倒れそうになり、その度にコヨーテが支えた。
「おい、本当に無理をするな」
「大丈夫よ。これくらい出来なきゃ奴等を殺す事なんて夢のまた夢よ。コヨーテ。郊外に来たのは良い機会よ。郊外には荒れくれ者の走り屋や傭兵、反乱軍や脱走兵、新エリー都から逃れてきた逃亡者で溢れている。私達が部隊を作って力を蓄えるのには都合が良い環境よ」
「環境的に無政府状態だからか?」
「えぇ、そうよ。一応、走り屋連盟。正確にはトライアンフって言う走り屋組織が長となって束ねているけど全てが行き届いている訳じゃない。あくまでも勢力範囲での話よ。その勢力の外側。つまりは空白の地帯は誰も支配していないか或いは支配を巡って争っている。その空白地帯で私達は活動する。貴方には無理をさせる事になるかもしれない。でも、それが最も危険であれ効率的よ」
「空白の無政府状態の紛争地帯で勢力拡大か。懐かしいものだな。無政府状態ではなかったが紛争地帯で俺達、MSFは強くなった。それに習う時が来たのか」
コヨーテは曾てBIGBOSSがコスタリカで力を蓄えた事を思い出すと不敵に笑う。
「コヨーテ。私達には兵はいない。支援もない。そして私はこのざま……単独での仕事になる。後方から支えるしか出来ない。やってくれる?」
「やるさ。俺はお前に約束したからな。共に部隊を作ると。引き返す道はもう必要ない。俺は戦う事でしか生きる意味を見いだせない哀れな残党だからな」
「なら、私もシルバー小隊の生き恥を去らした逃亡者よ。今更普通の生き方なんて出来ない。仲間も死んだか行方知れず。残された私の居場所は……戦場よ」
二人の敗残の兵は覚束ない足取りで歩き続ける。
目指すは郊外の空白地帯。
誰も支配を成し遂げていない荒くれ者達の戦場へと向かうのだった。