ゼンゼロ世界に来た元MSF兵さん 作:何処にでもいるエセBIGBOSS
コヨーテとツイッギーが郊外を移動して数日後。
コヨーテは郊外の荒れ地を張って移動し、目の前の小規模な廃墟郡に近づいていた。
コヨーテはある程度まで近付くと無線が入った。
《此方、ツイッギー。コヨーテ、聞こえる?》
「此方、コヨーテ。通信は良好だ。そっちのカメラの様子は?」
《えぇ、バッチリよ。これで私も貴方が見る戦場の状況を見れるわ》
ツイッギーの返事を聞き、コヨーテはバックパックから双眼鏡を取り出すと目の前の廃墟郡を偵察する。
何故、コヨーテがこんな所にいるのかと言うと二人が郊外のとある町に滞在し、傭兵の仕事を探したのだ。
その結果、町の住民の一人が離れた位置にある廃墟郡、コヨーテの目の前にある場所にゴロツキの様な兵士崩れが何人かいるらしく追っ払って欲しいと依頼されたのだ。
ツイッギーは後方から無線でのサポートに徹し、コヨーテは前線での単独の潜入を役割で仕事を始めたのだ。
《私達の任務は明確よ。廃墟郡を支配下に置いてある兵士を制圧する事。相手は十人程度だけど相手の数は上よ。油断しないで》
「分かっている。偵察は終わった。行くぞ」
コヨーテはそう言って廃墟郡へ向かう。
コヨーテが廃墟郡へと入り込み、見つからない様に立ち回っていると軍服や装備を崩した兵士二人が話し込んでいた。
「なぁ、俺達は何時まで此処にいるんだ?」
「俺達はもう新エリー都には帰れねぇんだ。放浪するしかないだろ」
「だが、糧食が底を尽きそうだ。俺は近くの集落や町を襲って奪うなんてのはごめんだぞ」
「んなの分かってる!だがな……俺達が生きるのにどうしろって言うんだよ……」
兵士の二人の会話を聞き終えたコヨーテの元にツイッギーの無線が入る。
《脱走兵?PMCじゃなくて防衛軍の軍服の様ね。何かあったのかしら?》
ツイッギーは兵士達の素性に違和感を抱く中、コヨーテはそっと二人の兵士に近づいていくとCQCを仕掛けた。
先ず、近くの兵士を壁に投げつけ、もう一人の兵士を地面に叩き付けて黙らせて気絶させた。
《手早いわね。でも、どうするの?》
「俺も少しコイツらが気になってきた。出来るだけ殺さずに制圧する」
《難しい事を言うわね。でも、貴方がやりたいなら止めないわ》
ツイッギーの許可が降りた所でコヨーテは兵士達をCQCで制圧していく。
地面に投げつけ、壁に叩き付け、首をギリギリまで締める。
兵士達を一人また一人と気絶させていき、遂に確認されただけの数の兵士達を気絶させ拘束してしまった。
《やるわねコヨーテ。一人で拠点を制圧するなんてね》
「これでもボスに散々鍛えられたからな。それよりもコイツらの指揮官の様な奴は」
「これは何だ!?」
コヨーテが話している最中、廃墟郡の家屋から軍服を着た男が出てきてコヨーテは驚いた。
体は普通の男だが獣の耳や尻尾を生やしており、明らかに普通の人間ではなかった。
「ツイッギー。彼奴は何だ?」
《何ってシリオンの兵士でしょ?》
「シリオン?」
《シリオンも知らないの?シリオンは見た通り、動物或いは海洋生物、特定の生き物に分類しない人間とは違う何かを持つ種族よ。彼奴は……犬かしら?》
「犬じゃねぇ!狼だコラァ!」
《……耳も良いみたいね。普通に無線の声を聞いてるわ》
ツイッギーの説明を受け、コヨーテはある意味で初となるシリオンと対峙する。
「お前が大将か?」
「そうだ!俺はリュコス!コイツらを束ねている!テメェは何もんだ!俺の部下に何してやがる!」
「俺はお前達を追い払う様に言われて来ただけだ。ゴロツキみたいな兵士崩れを追い払えってな」
「誰がゴロツキだ!俺達は確かに兵士崩れだが間違っても誇りまで失ってねぇ!」
リュコスはそう言って胸を拳でドンッと叩いて見せるとコヨーテは呆れた様子を見せる。
「兵士の誇り?糧食が無くなりそうで略奪を考えてる奴がか?」
「はぁ?そんなもん考えてねぇよ!俺達に金はねぇがその時は俺が土下座してでも糧食を確保するだけだ!」
《土下座で済むならディニーなんていらないわよ》
「うるせぇよ!さっきから誰だよその無線相手!生意気だぞ!」
《お生憎様。私は現実的な事しか言っていない。何をどうしてこんな所で燻ってるのか知らないけど土下座するくらいのプライドを捨てる覚悟があるなら軍に戻ればどうなの?》
ツイッギーの容赦のない正論にリュコスはわなわなと震えて怒りを見せる。
「俺は……俺達は軍には戻らねぇぞ!彼奴らは狂ってやがる!何が防衛軍だ!何が新エリー都を守るだ!彼奴らがやってる事も知らねぇ癖に!彼奴らは見映えの良い事ばかり並べて不正な実験を裏でやって、命を掛けて戦って退役する事になった奴の保証を渋って、挙げ句に上層部は不正までしてんだぞ!」
リュコスのその叫びにコヨーテは黙って聞いていた。
リュコスは荒い息を吐き、コヨーテを睨む。
「お前に何が分かるんだよ!俺達は彼奴らの掲げた正義の為に命を張ったってのにそのお返しが退役に追い込まれる程の負傷だってぇのに保証すら払わずに追い出されたんだ!俺のダチは負傷のせいで仕事は見つけられねぇし、保証も無いねぇから生活できねぇで自殺した!コイツらも軍に良い様に利用されたんだ!今更どの面下げてまた彼奴らの下に着くんだ!ふざけるな!」
「そうか。分かった」
コヨーテのその短い言葉にリュコスはたじろぎする。
コヨーテの雰囲気が一気に代わり、リュコスを威圧し、リュコスはコヨーテから出ている何度も死線を潜り抜けてきた兵士の圧に押された。
「なら、勝負と行こう。お前と俺でだ。素手で戦ってお前が勝ったらお前の部下を解放して放っといてやる」
「……お前が勝ったら?」
「お前達の命を貰う」
コヨーテのその言葉にリュコスは身震いする。
戦いを受け、もし負けたら部下全員がリュコスと共に死ぬ事になると考えたのだ。
「どうした?腹を括れ。誇りを失っていない兵士なんだろ?」
コヨーテの挑発染みたその言葉にリュコスは拳を握りしめていると。
「隊長!俺達の事は良いです!逃げてください!」
「あんたに死なれたら此処まで着いてきた意味がねぇ!」
いつの間にか起きていたリュコスの部下達が逃げる様に促し始め、リュコスは余計に迷いを見せた。
「良い部下だな。死なせるには惜しい。コイツらはお前に掛かっている。早く覚悟を決めろ」
コヨーテのその言葉にリュコスは遂に覚悟を決めた。
「やってやる……やってやるぞ!このクソ野郎!」
リュコスはそう叫んでコヨーテへ向かって行き、コヨーテもそれに答える様に身構え迎え撃つ。
最初の攻撃は当然、向かって来たリュコスだ。
リュコスは獣特有の素早い動きで迫り、拳をコヨーテに振るうがコヨーテはそれを少し屈んで避け、振るわれた拳の腕を掴むと勢いを利用して背負い投げをした。
「グハァッ!?クソ!まだだ!」
リュコスはまともに地面に叩き付けられたがすぐに起き上がり、フェイトを交えつつ再び拳をコヨーテに振るうもコヨーテは再び腕を掴み、捻り、怯んだ所を背中の方から地面に強く叩き付ける。
二度も勢いよく地面に叩き付けられたリュコスはすぐに立ち上がりはするもコヨーテに一撃も与えられない事に苛立ちを覚える。
「クソが!」
「振りかぶりが大き過ぎる。これじゃ投げてくれ、叩き付けてくれと言ってるもんだ」
「うるせぇよ!この野郎が!」
リュコスはそう叫んで再びコヨーテに攻撃するもコヨーテはそれらを軽々と躱していき、また大きな隙を見つけると今度は強烈なパンチをお見舞いする。
殴られたリュコスは地面に滑る様に倒れ、殴られた頬など気にせずに立ち上がる。
「まだまだ……!」
「良いぞ。お前が気が済むまで付き合ってやる」
「ほざけやぁ!」
リュコスは叫んでまたコヨーテに向かっていくが今度は大振りではなくフェイトと細かい動きを組み合わせて攻撃する。
これなら普通の人間なら躱しきれないが生憎、コヨーテはBIGBOSS仕込みのCQCの使い手であり、教官も勤めた経験のある兵士だ。
そんな経歴のあるコヨーテとの格闘戦にもつれ込んだ時点でリュコスには勝ち目が無く、何度も投げられ、叩き付けられ、ぶん殴られた。
そして最後にはコヨーテに首を絞められている。
「降参しろ。さもないと落ちるぞ」
「だ……誰がぁ……!」
「お前が落ちたら無条件でお前の敗けだ。それで良いならこのままやるぞ」
コヨーテのその言葉にリュコスは迷いを見せ続ける遂に折れた。
「お……れの……敗け……だ……!」
コヨーテはそれを聞いてリュコスを解放するとリュコスは咳き込みながらコヨーテに視線を向けると地面に頭を付ける程の土下座を見せた。
「頼む!命を取るならコイツらは勘弁してやってくれ!俺がこコイツらの隊長として責任を取る!」
「隊長!」
「駄目です隊長!それなら俺達も!」
「テメェらは黙ってろ!」
騒ぐ兵士達をリュコスは黙らせるとコヨーテはリュコスの前に膝をついて視線を下げた。
「その言葉は本心か?」
「本心だ。こんな俺の勝手に此処まで付き合ってくれたんだ。責任くらい取らねぇと」
「騙されてるかもしれないぞ?お前を殺した後でコイツらを殺すかもしれない」
「あんたはそんな奴じゃない」
「何故だ?」
「それをするならわざわざ疑いを向けさせる様な事は言わねぇだろ?だからあんたは約束は守る男だ。だから頼んでいる」
リュコスのその言葉にコヨーテは沈黙した後、笑った。
「聞いたかツイッギー。なかなか度胸のある男だぞコイツは」
《そうね。それでどうしたいの?》
「そうだな……」
コヨーテはそう言ってリュコスに手を伸ばす。
リュコスはトドメを刺されるとばかりに覚悟を決めると持ち上げられる感覚を受けながらコヨーテに立たされた。
「俺が勝った。だからお前達の命を貰うぞ」
「殺すのか……俺達を……!」
「何を言っている?俺はお前達の命を貰う。つまり俺、そしてもう一人の奴の仲間にする」
コヨーテのその言葉にリュコスと拘束されている兵士達は唖然とする。
「俺達は部隊を作りたくてな。人がいる。まだ俺ともう一人、ツイッギーしかいないがお前達が良いなら俺達と来ないか?」
「な、何で俺達を誘うんだよ……?兵士とは言え脱走兵だぞ……?」
「まぁな。だが、気にしても仕方ないだろ。俺達だって似た様な境遇だ。今更それが十人くらい増えたって変わらない。お前達にはもう帰る場所は無いんだろ?なら、来てくれ。お前達の帰るべき場所を俺達が作る。誰の都合に振り回されない部隊。俺達の居場所であり、家を。その為にお前達の力を貸して貰いたい」
コヨーテのその言葉にリュコスは唖然していたが徐々に諦めた様に笑った。
「降参だ……あんたには敵わねぇ……」
「お前は俺達に来るのか?」
コヨーテのその言葉に兵士達が叫び始めた。
「お、俺も行く!」
「俺もだ!」
「隊長が行くなら俺だって!」
兵士達が続々と参加を決め、遂に全員が着いていくと決めたのだ。
コヨーテはリュコスと共に兵士達の拘束を解くと改めてリュコスと握手を交わした。
「よろしく頼むぜ……ボス」
「ボスは止してくれないか?コヨーテで良い。何ならツイッギーをボスって呼べば」
《私も勘弁して。寧ろコヨーテ。貴方に皆が着いてきてるのに私がリーダーでどうするの?》
「お前がリーダーじゃなかったのか?」
《その話はまだしてなかっただけよ。帰ったらどっちがリーダーなのか決めるわよ》
ツイッギーのその言葉にコヨーテは勘弁してくれとばかりに溜め息を吐くのだった。