「──起動、突撃っす!」
ボンバークローバーは私の方に手をかざし、まるで何かに指令を出すかのようにそう言った。
……すると、立ち並ぶ建物の影から、大量のドローンが現れた。
「……なるほど」
フィールド魔法では、効果の一環として物を配置したりすることができる。それを利用すれば、実質的に、通常自分の魔法ではできないことができたりするということになる。
例えば、ミラージュシャインのフィールド魔法は、立ち並ぶ高層ビルという形で魔法効果の起点となるガラスを大量に作り出したりしていた。
「……それなら、撃ち落とす」
立体的に動き回りながら、弓に水の矢をつがえ、連続で放っていく。
……フィールド魔法で空間が上書きされているから、まだ多量に水を使う技は使えない。この段階で物量で押されると、少しだけ取れる対応手段が限られる。
一個、二個と落としていくことはできたけれど、どういうわけか次第に軌道が複雑化し、当たりにくくなっていく。
そして、迫ってきていたドローンに矢を回避され、それが、目の前で爆発した。
咄嗟に後ろ側に泳いで回避したことで、どうにか爆発には巻き込まれずに済んだけど、危なかった。
「ふふん! いくら撃っても無駄っすよ! なんとこの自爆ドローン軍団にはマジカル・AIが搭載されてて、常にリアルタイムで相手の動きを学習していくっすから!」
……動かせるオブジェクトの配置だけでなく、自動制御。それも、かなり高度なもの。
最初に見た時点でなんとなくこのフィールド魔法は強度がかなり低いとは思ったけれど、それは、少し効果を盛り過ぎているのではないだろうか。
ようやく作り出せた水の魚を突撃させ、さらにドローンを破壊する。
……そうして、何度か爆発に巻き込まれたりしながらも水の衣で耐え、少しずつ水の魚を作り出し、手数を緩やかに増やしていく。
どうにか、動きが最適化されたドローン群を手数によって抑えられるようになった頃には……そこそこダメージを受けてしまった。
大きな怪我をしたわけではないけれど、体のあちこちが少し痛む。
「なるほど……! フィールドに引き込んでも、一筋縄じゃあいかないっすね! でも、こういうのはどうっすか!」
建物の中から人型ロボットが現れて、走ってくる。
どうせ、これも爆発するんだろう。
水の魚を一匹向かわせ、その人型ロボットに噛み付かせた。
……が、噛み砕かれた胴体の部分に穴を開けたまま、それはそのまま走ってくる。
「……ゾンビ映画か何かみたい」
水の矢で脚を二本とも射抜いて破壊したことで、人型ロボットは転倒して動かなくなった。
もしも通常の爆弾が搭載されているのなら、あえてその部分を狙うことで意図しない爆発を誘発して自滅させることができ、大きな弱点になるだろう。
しかし、このドローンもロボットも、全てボンバークローバーの魔法によって爆弾の性質を付与されているというものである。
爆発のその瞬間までは、ただのドローンでありただのロボットでしかない。
それが、彼女の魔法の面倒なところと言えるだろう。
「ゾンビって言うよりどっちかっていうとSFホラーっすけど、この手のホラーには、こういうお約束ってものがあるっすよ!」
やはり、と言うべきかなんというか。
立ち並ぶ建物の中から、ぞろぞろと、先ほど倒したロボットと同じものが複数体現れた。
……ドローンの対処だけでもかなりの手間だというのに、これは少々面倒か。
ロボットたちは、あくまで脚で移動している。
だから、ひとまずはドローン群を水の魚で食い散らしながら、空中を泳いで、ロボットの群れをやり過ごすことを選んだ。
「さーて! ボクも少し体力が回復してきたっすから、攻撃に参加していくっすよ! ……あと、空なら安全だとは思わないことっすね!」
ボンバークローバーが機関銃を構え、そしてロボットたちが立ち止まり、腕を上へと掲げていく。
直後、ロボットたちの腕の先が変形し、銃口のような形になった。
「大花火大会っす!」
「……!」
掃射、乱射、そして爆発。
私は咄嗟に魚たちを集めて三層構造の水泡へと形を変えて、身を守る。
水泡の中から、爆発の衝撃を受けながらも、迫り来るドローンを撃ち落とす。
度重なる爆発のおかげで、ドローン群もボロボロになっているけれど、時折、運が良かったのか爆発を切り抜けてこちらに向かって来る個体がある。
とはいえ、さすがにこの爆発の嵐の中では矢を回避するなどという余裕はないようで、ちゃんと撃てば撃墜することはできるけど、それでも、撃ち漏らしたら水泡を突き抜けて自爆してくる可能性がある。
数秒、あるいは数分。
体感時間が実際の時間よりも長く感じる時間の中、耐え凌いでいたら、突然銃弾と爆発の雨が止まった。
「ハァ、ハァ……やったっすか!?」
「……やってない」
爆発の煙が晴れ、少しばかり疲れていそうな様子のボンバークローバーの足元に水の矢を撃ち込みながら、私は言った。
「マジっすか……」
しかし、本当に、危なかった。
ここまで私は二層の水泡までしか見せていなかった。
そして今回爆発の中で三層の水泡を展開して防御したけれど、爆発の衝撃は中まで少し届いていた。
……おそらく、これまで通り二層で対応しようとしていたら、かなり痛い目を見ていただろう。
呆然としているボンバークローバーの前で、水泡を魚の群れの形に変え、指示を待っているかのようなロボットたちを襲わせる。
食い荒らし、破壊し、そうしてようやく、彼女はハッと我に返った様子を見せた。
「……かなりいい攻撃だった。次は、どうする?」
ゆっくりと高度を下げ、ふわりと、彼女の目の前に降りる。
半透明な魚たちが私の周りに集まり、その全ての顔が、ボンバークローバーへと向けられる。
「ここまで耐えきられるなら、もう、最終手段っす! ……とは言っても、これを展開した時から発射されてはいたんすけどね!」
何個最終手段があるのだろう、なんていうことを思いつつ。
上から何かが落下してきているような異音が聞こえ、見上げると。
そこには、大型の何かが、落下してきているところだった。
「ロケット……?」
「いや、超大型ミサイルっす! この都市にいる限り、逃げ場なんて無いっすよ!」
一目で、わかる。あれは、破壊規模、破壊能力、ともに規格外だ。
……なるほど。
極限まで強度を切り詰めると、フィールド魔法はここまで無茶ができるのか。
もちろん、ここまで強度を犠牲にしている以上、ハッキリ言って私はいつでもこのフィールドを上書きできた。
……だけど、なんとなく。
むしろそれでは負けみたいな気持ちになって、ついここまで様子を見てしまった。
今からでも、間に合うだろう。
あれは、フィールド魔法の効果によって生み出されたもの。
上書きすれば、影も形もなく消えてしまう。
やり過ごす必要も、防御する必要もない。
……けれど。
「……天衣無縫・十二単」
周りにいた水の魚たち、そして少しずつこっそりと侵食させていた水の概念。全てをかき集め、圧縮し、そしてそれは、派手な衣の形になった。
普段は、技名なんて言う柄じゃないけど。
たくさん面白い物を見て、私も少し、気分が高揚してしまっていたのだろう。
これを使っている間、私は一切身動きが取れないし、全てのリソースを守りに使っているから、水を使って外部に干渉することもできない。
ただ、一時凌ぎのためなら、これはそれなり以上の効力を持つ。
圧縮された十二層の守りを展開したのと、ほぼ同時。
落下してきていたミサイルが、着弾した。
轟音が響き、視界は爆炎によって塞がれる。
一瞬とも永遠とも思える間の末、超がつくほどの大きな爆発は、収まった。
……近未来的な景観を誇っていた都市は、見るも無惨に壊滅している。
まさに、焼け野原といったところだ。
これだけ大規模なことをしても、魔法少女の魔法は、自分自身だけは傷付けない。
かつて道路だった残骸の上に立つボンバークローバーを前に、私は、あと四層といったところまで剥がされた水の守りを解除した。
「……いやあ、お手上げっすね。まさかこれすら耐えられるなんて……」
空に亀裂が走り、割れていく。
フィールド魔法が、崩れている。
……見たところ、ボンバークローバーの魔力量自体はまだ残っている。
自分で解除したというわけでも、なさそうだ。
となると、あの一撃はフィールド魔法の自壊と引き換えに実現したもの、とでもいうのだろうか。
考えもしなかったようなやり方を、いくつも見せてくれた。
興味深くて、面白い時間。
ついつい、次は? 次は? と気になって、時間を稼がれてしまったものだ。
「そうだね。……今回は、私の方が強かった」
私とボンバークローバーの足元から、巨大な鯨の顎門が出現する。
そして、それは勢いよく閉じられて、視界は暗闇に閉ざされた。
……少しの間を置いて、周りが見えるようになる。
そこは、崩落した都市でも廃工場でもなく、深海を思わせる静寂の海。
「ディープマリンのフィールド魔法……! 生で見ると壮観っすね……」
「……別に、他のフィールド魔法とそんなに変わらないと思うけど」
観光地に来た観光客のように辺りを見渡すボンバークローバー。
……そこには、もう戦意はまるで感じなかった。
ゆっくりと手をかざし、そして、閉じる。
「お疲れさま。……あなたは、充分、時間を稼いだ」
私がそう言うと、ボンバークローバーは少しばかり苦しむような様子を見せた後、ふらりと、倒れた。
……人は、水の中では呼吸できない。
肺呼吸しかできないのなら、水の中では窒息する。
呼吸などというものを必要としない、生物ですらない怪異もどきを相手には使う機会のない性質だけど、こういう時には役に立つ。
一応これも水圧と同じ座標指定系の範囲攻撃だから、避けられない技ではないけれど……まあ、これ以上戦う気がなさそうだったから仕方がない。
気を失ったことを確認してすぐ、私はフィールド魔法を解除した。
普通の人なら、窒息で気絶というのは危険な状態になりかねないのかも知れないけれど……魔法少女の耐久性なら、別にそれほど問題ではない。
そして、ボンバークローバーをまるでリュックサックやランドセルのように背中に背負い、私は、奏蕾とパイロハートがいる区画に戻る。
そこには、取り残されたらしいはねたぬきの姿だけがあった。
受けた傷をはねたぬきに回復してもらいながら、少し待つ。
すると、やがて空間が揺らいでいき……それが収まると、目の前に、大の字になって伸びている奏蕾と、腕を組んでそれを見下ろすパイロハートが現れた。