Chronicle   作:頭の中の世界を書き出したい

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初めて魔物と戦った翌日。

怖かった。

逃げるだけで精一杯だった。

だからこそ。

カイルとレオンは、
初めて本気で「強くなりたい」と考え始めます。


強くなりたい

 

 翌朝。

 

 

「…………痛い」

 

 

 目を覚ました瞬間。

 

 カイルは、

 もう一度目を閉じた。

 

 

 身体が痛い。

 

 

 腕。

 

 

 肩。

 

 

 脚。

 

 

 背中。

 

 

 全部。

 

 

「…………」

 

 

 昨日。

 

 

 森を走った。

 

 

 転んだ。

 

 

 木剣を振った。

 

 

 ホーンウルフから逃げた。

 

 

 帰ってきたら、

 長い説教まで待っていた。

 

 

 当然と言えば。

 

 

 当然なのかもしれない。

 

 

「起きたくない……」

 

 

 布団を頭まで被る。

 

 

 今日は。

 

 

 何もしない。

 

 

 一日。

 

 

 ゆっくりする。

 

 

 そうしよう。

 

 

 そう決めた。

 

 

 その直後。

 

 

「カイルー!」

 

 

「…………」

 

 

 外から。

 

 

 聞き慣れた声がした。

 

 

「カイルー!」

 

 

「…………」

 

 

 聞こえない。

 

 

「起きてるー!?」

 

 

「…………」

 

 

 いない。

 

 

 俺はいない。

 

 

 そう思うことにする。

 

 

 すると。

 

 

「カイルのおばさーん!」

 

 

「おい!」

 

 

 カイルは飛び起きた。

 

 

 身体中が痛んだ。

 

 

「いっっってぇ!」

 

 

 窓へ行く。

 

 

 開ける。

 

 

 下を見る。

 

 

 いた。

 

 

 レオン。

 

 

 木剣を二本抱えて。

 

 

 ものすごく元気そうに。

 

 

 手を振っている。

 

 

「おはよう!」

 

 

「お前なんでそんな元気なんだよ!」

 

 

「何が?」

 

 

「身体痛くないの!?」

 

 

「ちょっと痛い!」

 

 

「ちょっと!?」

 

 

「うん!」

 

 

「俺、全部痛いんだけど!」

 

 

「カイル弱いな!」

 

 

「…………」

 

 

 朝から。

 

 

 こいつは。

 

 

「待ってろ」

 

 

「うん!」

 

 

「絶対そこ動くなよ」

 

 

「分かった!」

 

 

 カイルは。

 

 

 服を着替え始めた。

 

 

     ◇ ◇ ◇

 

 

「もう一回言ってみろ」

 

 

「カイル弱いな」

 

 

「よし」

 

 

 カイルは木剣を構えた。

 

 

「勝負だ」

 

 

「いいよ!」

 

 

 村の広場。

 

 

 昨日と同じ場所。

 

 

 二人が向かい合う。

 

 

 昨日。

 

 

 四回戦って。

 

 

 四回負けた。

 

 

 そして。

 

 

 その後。

 

 

 本物の魔物と戦った。

 

 

 怖かった。

 

 

 必死だった。

 

 

 だから。

 

 

 今日は。

 

 

 昨日とは違う。

 

 

「行くぞ!」

 

 

「来い!」

 

 

 カイルが踏み込む。

 

 

 レオンを見る。

 

 

 肩。

 

 

 腕。

 

 

 脚。

 

 

 昨日。

 

 

 ホーンウルフと戦った時みたいに。

 

 

 相手の動きを見る。

 

 

 右。

 

 

 来る。

 

 

 カイルは身体をずらした。

 

 

 ブンッ!

 

 

 木剣が横を通る。

 

 

「おっ!」

 

 

 避けた。

 

 

 今だ。

 

 

 踏み込む。

 

 

 振る。

 

 

 パシッ!

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

 止められた。

 

 

「惜しい!」

 

 

「まだ!」

 

 

 もう一撃。

 

 

 レオンが受ける。

 

 

 カンッ!

 

 

 次。

 

 

 カンッ!

 

 

 次。

 

 

 カンッ!

 

 

「うおおお!」

 

 

「ちょ、カイル!」

 

 

「今日こそ勝つ!」

 

 

「昨日より元気じゃん!」

 

 

「身体中痛い!」

 

 

「じゃあ休めよ!」

 

 

「勝ってから休む!」

 

 

「なんで!?」

 

 

 カンッ!

 

 

 木剣がぶつかる。

 

 

 カイルは。

 

 

 必死に。

 

 

 レオンを見る。

 

 

 昨日まで。

 

 

 ただ。

 

 

 自分の剣を当てようとしていた。

 

 

 でも。

 

 

 今は。

 

 

 少しだけ違う。

 

 

 レオンが。

 

 

 どこを見るのか。

 

 

 どっちへ足を動かすのか。

 

 

 剣を振る前に。

 

 

 身体のどこが動くのか。

 

 

 見る。

 

 

 考える。

 

 

 そして。

 

 

「そこ!」

 

 

 レオンの木剣が。

 

 

 横へ流れた。

 

 

 隙。

 

 

 カイルが。

 

 

 木剣を振る。

 

 

 ぺしっ。

 

 

「…………」

 

 

 木剣の先が。

 

 

 レオンの肩へ触れた。

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

 二人とも。

 

 

 止まった。

 

 

「……当たった?」

 

 

 レオンが。

 

 

 自分の肩を見る。

 

 

「…………」

 

 

 カイルも見る。

 

 

 確かに。

 

 

 当たっている。

 

 

「当たった……」

 

 

「うん」

 

 

「当たった!」

 

 

 カイルが。

 

 

 木剣を放り出した。

 

 

「よっしゃぁぁぁ!」

 

 

「いや待て!」

 

 

「勝った!」

 

 

「触っただけだろ!」

 

 

「当たった!」

 

 

「俺の剣まだ持ってるぞ!」

 

 

「昨日は剣落としたら負けって言った!」

 

 

「今日は落としてないだろ!」

 

 

「でも当てた!」

 

 

「一本取っただけ!」

 

 

「じゃあ一本!」

 

 

「それならいい!」

 

 

「よっしゃぁぁぁ!」

 

 

 嬉しい。

 

 

 ものすごく。

 

 

 嬉しい。

 

 

 前世の記憶があるとか。

 

 

 そんなことは。

 

 

 どうでもいい。

 

 

 昨日まで。

 

 

 一度もまともに当てられなかった。

 

 

 それが。

 

 

 初めて。

 

 

 当たった。

 

 

「もう一回!」

 

 

 カイルが木剣を拾う。

 

 

「いいよ!」

 

 

 レオンも笑った。

 

 

 二人が。

 

 

 もう一度。

 

 

 向かい合う。

 

 

「始め!」

 

 

 カンッ!

 

 

     ◇ ◇ ◇

 

 

「で」

 

 

 低い声がした。

 

 

「なんでまたお前らは、

 朝から木剣振り回してるんだ?」

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

 カイルとレオンは。

 

 

 ゆっくり振り返った。

 

 

 昨日。

 

 

 森から帰ってきた二人を。

 

 

 最初に見つけた男。

 

 

 そして。

 

 

 朝から何度も。

 

 

 二人を怒っている。

 

 

 大柄な漁師。

 

 

 その男が。

 

 

 腕を組んで立っていた。

 

 

「今日は樽倒してないよ」

 

 

 レオンが言った。

 

 

「そういう話じゃない」

 

 

「周りも見てる」

 

 

 カイルも続ける。

 

 

「そういう話でもない」

 

 

「じゃあ何?」

 

 

「お前ら」

 

 

 男は。

 

 

 二人が持っている木剣を見る。

 

 

「昨日の今日だぞ」

 

 

「…………」

 

 

「魔物に追いかけられて、

 少しは懲りたかと思ったら」

 

 

「懲りたよ」

 

 

 カイルが答える。

 

 

「だからやってる」

 

 

「何?」

 

 

「強くなるため」

 

 

 男の顔から。

 

 

 少しだけ。

 

 

 怒った色が消えた。

 

 

「昨日」

 

 

 カイルは。

 

 

 木剣を見る。

 

 

「全然駄目だった」

 

 

 木剣で。

 

 

 何度も。

 

 

 ホーンウルフを叩いた。

 

 

 でも。

 

 

 倒せなかった。

 

 

 逃げるので。

 

 

 精一杯だった。

 

 

「俺たち弱かった」

 

 

「…………」

 

 

「だから」

 

 

 カイルは。

 

 

 男を見る。

 

 

「強くなりたい」

 

 

 隣で。

 

 

 レオンも頷いた。

 

 

「俺も」

 

 

「…………」

 

 

 男は。

 

 

 しばらく。

 

 

 二人を見ていた。

 

 

 それから。

 

 

「そうか」

 

 

 短く言った。

 

 

 そして。

 

 

「なら」

 

 

 男が。

 

 

 カイルの木剣を指さした。

 

 

「まずその持ち方から直せ」

 

 

「…………え?」

 

 

「力入りすぎだ」

 

 

「え?」

 

 

「それじゃ何回振っても、

 まともに扱えるようにならん」

 

 

「…………」

 

 

 カイルは。

 

 

 自分の手を見る。

 

 

「分かるの?」

 

 

 レオンが尋ねた。

 

 

「そりゃ分かる」

 

 

「漁師なのに?」

 

 

「漁師を何だと思ってる」

 

 

「魚捕る人」

 

 

「間違ってはいない」

 

 

 男は。

 

 

 ため息をついた。

 

 

「この島じゃ、

 海に出るだけが仕事じゃない」

 

 

 そう言って。

 

 

 男は。

 

 

 カイルへ手を出した。

 

 

「貸せ」

 

 

「木剣?」

 

 

「ああ」

 

 

 カイルが渡す。

 

 

 男は。

 

 

 木剣を握った。

 

 

 その瞬間。

 

 

「…………」

 

 

 カイルは。

 

 

 なんとなく。

 

 

 分かった。

 

 

 違う。

 

 

 ただ。

 

 

 木剣を持っただけ。

 

 

 なのに。

 

 

 さっきまで。

 

 

 自分たちが持っていた時とは。

 

 

 何かが違う。

 

 

「レオン」

 

 

「うん」

 

 

「ちょっと離れろ」

 

 

 二人が。

 

 

 数歩下がる。

 

 

 男は。

 

 

 木剣を。

 

 

 ゆっくり。

 

 

 上げた。

 

 

 そして。

 

 

 振った。

 

 

 ヒュンッ。

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

 音。

 

 

 それだけ。

 

 

 なのに。

 

 

 カイルは。

 

 

 目を見開いた。

 

 

「もう一回!」

 

 

「ん?」

 

 

「今の、もう一回やって!」

 

 

 男が。

 

 

 少し笑った。

 

 

「こうか?」

 

 

 ヒュンッ。

 

 

「…………」

 

 

 速い。

 

 

 力いっぱい。

 

 

 振っているようには見えない。

 

 

 なのに。

 

 

 自分たちより。

 

 

 ずっと。

 

 

 速い。

 

 

「どうやってるの?」

 

 

 レオンも。

 

 

 目を輝かせている。

 

 

「どうって」

 

 

 男は。

 

 

 木剣をカイルへ返した。

 

 

「ちゃんと振ってるだけだ」

 

 

「それが分からないんだよ!」

 

 

「だから」

 

 

 男が。

 

 

 カイルの肩を。

 

 

 軽く叩いた。

 

 

「教わるんだ」

 

 

「…………」

 

 

 カイルは。

 

 

 男を見る。

 

 

「教えてくれるの?」

 

 

「条件付きだ」

 

 

「条件?」

 

 

「勝手に森へ行かない」

 

 

「うん」

 

 

「大人の言うことを聞く」

 

 

「…………うん」

 

 

「今、間があったな」

 

 

「なかった」

 

 

「あったぞ」

 

 

「気のせい」

 

 

「カイル」

 

 

「はい」

 

 

 男は。

 

 

 今度はレオンを見る。

 

 

「お前もだ」

 

 

「はい!」

 

 

「返事だけはいいな」

 

 

「はい!」

 

 

「…………」

 

 

 男が。

 

 

 頭を掻く。

 

 

「まあいい」

 

 

 そして。

 

 

 二人を見る。

 

 

「本気でやるなら、

 夕方にまたここへ来い」

 

 

「本当に!?」

 

 

「ああ」

 

 

「剣教えてくれるの!?」

 

 

「基礎だけだ」

 

 

「やった!」

 

 

 レオンが。

 

 

 跳び上がる。

 

 

 カイルも。

 

 

 思わず笑った。

 

 

 剣。

 

 

 本物の。

 

 

 訓練。

 

 

 ゲームでは。

 

 

 ボタン一つだった。

 

 

 装備すれば。

 

 

 剣を使える。

 

 

 スキルを覚えれば。

 

 

 技が出る。

 

 

 でも。

 

 

 ここでは。

 

 

 違う。

 

 

 握り方から。

 

 

 振り方から。

 

 

 一つずつ。

 

 

 覚える。

 

 

「……いいな」

 

 

 カイルが呟く。

 

 

「何が?」

 

 

 レオンが聞く。

 

 

「いや」

 

 

 カイルは。

 

 

 木剣を見る。

 

 

「なんか」

 

 

 少しだけ。

 

 

 嬉しかった。

 

 

「本当に冒険してるみたいだ」

 

 

「まだ村だけど?」

 

 

「分かってるよ」

 

 

     ◇ ◇ ◇

 

 

 その日の夕方。

 

 

「百回」

 

 

「…………え?」

 

 

 カイルが聞き返した。

 

 

「素振り百回」

 

 

「…………」

 

 

 男が。

 

 

 当然のように言った。

 

 

「まず振れ」

 

 

「技は?」

 

 

「後だ」

 

 

「構えは?」

 

 

「振れるようになってから」

 

 

「魔物と戦う方法は?」

 

 

「もっと後だ」

 

 

「…………」

 

 

 カイルは。

 

 

 木剣を見る。

 

 

 レオンを見る。

 

 

 レオンも。

 

 

 こちらを見る。

 

 

「……思ってたのと違う」

 

 

 レオンが言った。

 

 

「俺も」

 

 

「何を期待してたんだ、お前ら」

 

 

「こう」

 

 

 カイルは。

 

 

 木剣を構える。

 

 

「必殺技とか」

 

 

「百年早い」

 

 

「百年!?」

 

 

「ほら振れ」

 

 

「はい……」

 

 

 一回。

 

 

「違う」

 

 

「え?」

 

 

「握りすぎ」

 

 

 もう一回。

 

 

「違う」

 

 

「今度は何!?」

 

 

「肩に力入りすぎ」

 

 

 もう一回。

 

 

「違う」

 

 

「まだ!?」

 

 

「腰が動いてない」

 

 

「…………」

 

 

 カイルは。

 

 

 遠い目をした。

 

 

 ゲーム。

 

 

 簡単だったな。

 

 

 ボタン。

 

 

 押すだけだった。

 

 

「カイル!」

 

 

 隣。

 

 

 レオンが。

 

 

 木剣を振っている。

 

 

「俺、十回!」

 

 

「速くない!?」

 

 

「十一!」

 

 

「待て!」

 

 

 カイルも振る。

 

 

「二!」

 

 

「十二!」

 

 

「三!」

 

 

「十三!」

 

 

「追いつく!」

 

 

「無理だろ!」

 

 

「やってみないと分からない!」

 

 

 男が。

 

 

 二人を見る。

 

 

 呆れたように。

 

 

 でも。

 

 

 少しだけ。

 

 

 笑っていた。

 

 

     ◇ ◇ ◇

 

 

「…………腕取れる」

 

 

 訓練が終わった。

 

 

 カイルは。

 

 

 広場の端で。

 

 

 地面に寝転がっていた。

 

 

 隣には。

 

 

 レオン。

 

 

「俺も」

 

 

「お前、元気だったじゃん」

 

 

「途中から痛くなった」

 

 

「ざまあみろ」

 

 

「ひどいな」

 

 

 空。

 

 

 夕焼け。

 

 

 今日も。

 

 

 一日が終わる。

 

 

「でも」

 

 

 レオンが。

 

 

 自分の手を見る。

 

 

「楽しかった」

 

 

「……うん」

 

 

 カイルも。

 

 

 同じだった。

 

 

 痛い。

 

 

 疲れた。

 

 

 思っていたより。

 

 

 ずっと地味。

 

 

 でも。

 

 

 昨日までとは。

 

 

 違う。

 

 

 ちゃんと。

 

 

 強くなるために。

 

 

 一歩。

 

 

 進んだ気がした。

 

 

「明日もやる?」

 

 

「やる」

 

 

 カイルは。

 

 

 即答した。

 

 

「百回?」

 

 

「やる」

 

 

「二百回とか言われたら?」

 

 

「…………やる」

 

 

「今、間があった」

 

 

「なかった」

 

 

「絶対あった」

 

 

「うるさい」

 

 

 その時。

 

 

 ふわり。

 

 

 風が。

 

 

 頬を撫でた。

 

 

「…………」

 

 

 カイルは。

 

 

 顔を上げる。

 

 

 少し離れた場所。

 

 

 フェンが。

 

 

 広場の柵の上に座っていた。

 

 

「フェン」

 

 

 白い毛。

 

 

 長い尻尾。

 

 

 その周りを。

 

 

 風が。

 

 

 ゆっくりと。

 

 

 回っている。

 

 

「…………」

 

 

 昨日。

 

 

 ホーンウルフに。

 

 

 飛びかかられた時。

 

 

 吹いた風。

 

 

 あれは。

 

 

 本当に。

 

 

 偶然だったのか。

 

 

「カイル?」

 

 

「ん?」

 

 

「またぼーっとしてる」

 

 

「……レオン」

 

 

「何?」

 

 

「魔法って」

 

 

「うん」

 

 

「俺たちにも使えるのかな」

 

 

「…………」

 

 

 レオンが。

 

 

 目を見開く。

 

 

 そして。

 

 

 勢いよく身体を起こした。

 

 

「使いたい!」

 

 

「だよな」

 

 

「炎!」

 

 

「いきなり炎?」

 

 

「格好いいだろ!」

 

 

「まあ格好いいけど」

 

 

「カイルは?」

 

 

「俺?」

 

 

 カイルは。

 

 

 もう一度。

 

 

 フェンを見る。

 

 

 風。

 

 

 ゲーム『Chronicle』には。

 

 

 属性があった。

 

 

 炎。

 

 

 水。

 

 

 風。

 

 

 雷。

 

 

 土。

 

 

 光。

 

 

 闇。

 

 

 他にも。

 

 

 様々な力があった。

 

 

 前世では。

 

 

 性能で選ぶこともあった。

 

 

 敵の弱点に合わせて。

 

 

 使い分けた。

 

 

 でも。

 

 

 もし。

 

 

 本当に。

 

 

 自分自身が。

 

 

 一つ選べるなら。

 

 

「…………風」

 

 

 カイルが呟いた。

 

 

「風?」

 

 

「ああ」

 

 

「なんで?」

 

 

「なんとなく」

 

 

「俺みたいなこと言ってる」

 

 

「うるさい」

 

 

 カイルは。

 

 

 笑った。

 

 

 でも。

 

 

 本当は。

 

 

 なんとなくじゃない。

 

 

 昨日。

 

 

 自分を助けたように感じた。

 

 

 あの風。

 

 

 それに。

 

 

 目の前の。

 

 

 小さな風狐。

 

 

 フェン。

 

 

「風か……」

 

 

 カイルは。

 

 

 手を。

 

 

 空へ向けた。

 

 

 もちろん。

 

 

 何も起こらない。

 

 

「…………」

 

 

 もう一度。

 

 

 力を入れる。

 

 

「…………」

 

 

 何も。

 

 

 起こらない。

 

 

「何してるの?」

 

 

「魔法」

 

 

「出てないぞ」

 

 

「分かってる」

 

 

「こうじゃない?」

 

 

 レオンも。

 

 

 手を前へ出した。

 

 

「炎!」

 

 

「名前言えば出るの?」

 

 

「出るかもしれないだろ!」

 

 

「じゃあ」

 

 

 カイルも。

 

 

 手を出す。

 

 

「風!」

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

 何も。

 

 

 起こらない。

 

 

 二人で。

 

 

 顔を見合わせる。

 

 

「駄目だな」

 

 

「駄目だ」

 

 

 その時。

 

 

 ふわっ。

 

 

 風が吹いた。

 

 

 二人の髪が。

 

 

 揺れる。

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

 レオンが。

 

 

 カイルを見る。

 

 

「今の?」

 

 

「違う」

 

 

「でも風」

 

 

「普通の風」

 

 

「本当に?」

 

 

「たぶん」

 

 

 二人は。

 

 

 フェンを見る。

 

 

 フェンは。

 

 

 知らん顔で。

 

 

 尻尾を揺らしていた。

 

 

「…………」

 

 

 カイルは。

 

 

 少しだけ。

 

 

 笑った。

 

 

「剣の次は」

 

 

「魔法?」

 

 

「ああ」

 

 

 強くなる。

 

 

 そのために。

 

 

 覚えることは。

 

 

 たくさんある。

 

 

 剣。

 

 

 魔法。

 

 

 身体。

 

 

 戦い方。

 

 

 世界のこと。

 

 

 五年。

 

 

 昨日までは。

 

 

 長いと思っていた。

 

 

 でも。

 

 

 今は。

 

 

「五年じゃ足りないかもな」

 

 

 カイルが呟く。

 

 

「何が?」

 

 

「なんでもない」

 

 

 立ち上がる。

 

 

「帰ろう」

 

 

「うん!」

 

 

 二人が。

 

 

 村へ向かって歩き出す。

 

 

 その後ろを。

 

 

 フェンが。

 

 

 ゆっくりついてくる。

 

 

 夕暮れの中。

 

 

 三つの影が。

 

 

 長く伸びていた。

 

 

 まだ。

 

 

 剣の振り方すら。

 

 

 まともに知らない。

 

 

 魔法なんて。

 

 

 一つも使えない。

 

 

 でも。

 

 

 昨日とは。

 

 

 確かに違う。

 

 

 強くなりたい。

 

 

 その気持ちが。

 

 

 憧れだけではなくなった。

 

 

 怖いものを。

 

 

 知ったから。

 

 

 自分たちの弱さを。

 

 

 知ったから。

 

 

 だから。

 

 

 強くなる。

 

 

 いつか。

 

 

 海の向こうへ。

 

 

 二人で。

 

 

 行くために。

 

 

 そして。

 

 

 その少し後ろ。

 

 

 フェンだけが。

 

 

 一度。

 

 

 立ち止まった。

 

 

 風が。

 

 

 その小さな身体を。

 

 

 優しく包む。

 

 

 フェンは。

 

 

 カイルの背中を。

 

 

 じっと見つめていた。

 

 

 何も言わず。

 

 

 ただ。

 

 

 見ていた。

 

 

 




【旅の手引き 04】

《剣の修行》

今日から、
ちゃんと剣を習うことになった。


最初に教わったこと。


必殺技。


ではなく。


素振り百回。


…………地味だ。


ゲームなら。

剣を装備して。

技を覚えて。

ボタンを押せば終わりだった。


でも。

こっちでは違う。


握り方。

立ち方。

振り方。


全部。

一つずつ覚えないといけない。


それと。


魔法。


俺にも使えるなら。


風がいい。


理由は――。


まだ。

なんとなくってことにしておく。
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