セバス・チャンは完璧な執事である   作:目ん玉

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11 「良いものだな……」

 カポーン。

 

「良いものだな……」

 

 第9階層――大浴場――

 男性守護者たちを誘って、モモンガは風呂に入っていた。

 コキュートスは熱い風呂が苦手なのだが――

 

「いかがですか、コキュートス様。

 セバス様から言われて用意した熱耐性の首輪の性能、ご満足いただけましたか?」

 

 火炎ダメージ無効化とかではなく、あくまで熱耐性。

 しかも、他にもっと強力な効果を付与できる首部分の装備なのに。

 という、ユグドラシル的には微妙どころかゴミアイテムなのだが。

 

「ウム。モモンガ様ヤ他ノ皆ト同ジ風呂ニ入レル幸福……噛ミ締メテイル。

 コノ装備ニハ、性能以上ノ価値ガアル。

 礼ヲ言ウゾ、2人トモ」

 

「わたくしは提案しただけでございます。

 ご用意ありがとうございます、パンドラズ・アクター様」

 

「いえいえ、わたくし宝物殿の領域守護者なれば。

 ご要望に適するアイテムを見繕うのは、当然のお役目でございまっす!」

 

 敬礼しゅばっ!

 

「最古図書館でいう司書長のような立場でございますからね。

 しかし、司書長には複数の司書の部下がついているのに、宝物殿にはパンドラズ・アクター様の部下は用意されていないのでしょうか?」

 

「防犯上の理由でしょうね。あそこにはワールドアイテムなど貴重なものもございますから」

 

「おお……ワールドアイテム。

 御方々がお集めになった、最も強力なアイテムですね」

 

「そう~ですっ!

 ワ~~~ルドアイテムっ! 世界を変えるぅ! 強大な力……! 至高の御っ方々の偉大さの証ィ! ナザリックの最奥に眠る秘宝の数々――」

 

 しゅばっ! しゅばばっ! ずびしっ!

 

「黙れ」

 

 ごすっ。

 モモンガはパンドラズ・アクターの脳天にチョップを食らわせた。

 

「ぎゃふんぬす!? な、なぜですか、父上……」

 

「そうあれと作ったのは俺だけど、TPOはわきまえろ。

 風呂でその派手な動きはやめるんだ。体についた湯が飛び散って、周りに迷惑だろうが」

 

「…………」

 

 周りを見るパンドラズ・アクター。

 デミウルゴスもコキュートスもマーレも「うわぁ……」という顔をしていた。

 だが、1人だけ違う反応を示す者が。

 

「……セバス様は、なぜそうニコニコと……?」

 

「役者として創造されたパンドラズ・アクター様が、その生き様として演技するのは当然のことでございましょう。わたくしが執事として生きるのと同じでございます。

 それに、特撮がお好きなたっち・みー様であれば、パンドラズ・アクター様の演技はすべて楽しいものとご認識されるのではないかと思うと、何やら感無量でございます」

 

「おお……! 初めて好意的な反応をいただいて、私も感無量でございます」

 

「……とはいえ、礼節に厳しく演劇というものに馴染みがないナザリックでは、パンドラズ・アクター様の演技が演技とは認識されずに『素の状態でアレかぁ……』とか『かしこまる事ができないシモベか』などと受け止められてしまう可能性が高いかと……惜しい事です。

 モモンガ様、ナザリックに文化振興を図るのはいかがでしょうか?」

 

「ふむ……そういえば、この第9階層には劇場もあったな。

 文化振興か……働き詰めのシモベたちには、良いかもしれんな」

 

 信長だか秀吉だかも、粗野な部下たちに少しは品格を備えさせようとして茶道を重用したという。

 どこかでそんな話を聞いたような……と思いながら、モモンガはせっかく作った部屋が使われずにいるのももったいないからなとか思った。貧乏性である。

 そうすると「作る側」のデミウルゴスは、すぐさま知恵を絞った。

 

「では守護者およびプレアデスで、何か演劇をしてみましょう。

 先の、冒険者役を選ぶオーディションで、プレアデスの多くが演技力に問題ありと判断されたと聞いておりますので、鍛える意味でも是非」

 

「うむ……よし、やってみるが良い」

 

 ナーベラルなんか演技どころか命令無視だったもんな、とモモンガはしみじみ思った。

 そうして男湯がきれいにまとまった頃、女湯ではゴーレムが起動して、何やらどすんばたんと激しい音が響くことになるのだった。

 

 

 ◇

 

 

 セバスは今日もしっかりバッチリ働いていた。

 

「ンフィーレア少年は、もう手に入らないポーションを補充できるかもしれない貴重な人材です。開発が成功すれば、ナザリックの生命線と言っても良い技術になります。

 それだけあの少年は重要なのです。ナザリックのためにポーション開発に励むように、カルネ村と彼の祖母、それと特に彼の想い人であるエンリ・エモットを守らなくてはなりません。

 もちろんポーション開発に進展があった場合は報告してください。良いですね?」

 

「私もンフィーレアには『守ってやる』と約束しましたので、お願いしますわ」

 

「了解っす。ばっちり守ってみせるっす」

 

「あなたの好みに合わせて言うと、カルネ村は誘蛾灯です。

 村自体が滅ぶことを楽しむのではなく、寄ってくる蛾を撃退することに楽しみを見出すようにしてください。

 そうすればカルネ村は防衛戦の経験を積むことができ、その経験から警備が強固になれば研究所としても安全になって、モモンガ様の覚えもめでたく、カルネ村はあなたにとって長く楽しめる舞台装置になるでしょう」

 

「おお……! なるほどっす! 了解しました、セバス様!」

 

 という、ほとんどカンニングみたいな会話があったおかげで、ルプスレギナは無事に任務を果たした。

 

「……ふむ。これが紫色のポーションか。

 現地の青いポーションと、ユグドラシルの赤いポーションの中間……性能的にもそのようなもの、というわけだな」

 

「はい。

 それと、東の巨人・西の魔蛇が手を組んだようです。目的は偽ナザリックを建設中の勢力に対抗するためとのことでした。

 そのための徴兵から逃れてカルネ村を訪れた、アーグというゴブリンの少年からの情報です。アーグは東の巨人の勢力圏から逃げてきたようで、カルネ村はアーグを追ってくるかもしれない東の勢力を警戒しています」

 

「ふむ……裏は取ったか?」

 

「いえ、調査のためにカルネ村を離れると、その間に襲撃を受ける可能性があるから、とセバス様に止められました。

 私が不在の間、カルネ村はシャドウデーモンとシズ、あるいはエントマと交代で警護しています」

 

 そうしてこの世界線のルプスレギナは、きちんと報告したわけだ。

 なおシズはナザリックのギミックと解除方法を知っているので、記憶操作でギミック関連の情報は封印してある。そのうえで、カルネ村の警護に当たってはシャドウデーモンを前衛としてシズは後方に潜伏、発見されないようにという陣形を取っている。装備は狙撃銃である。

 エントマは村の外で警戒に当たる。森や草原で索敵するならアウラ以上の隠密性だ。最初に配置する時などの一斉に動く様子さえ気付かれなければ、森に昆虫が多いのは当然だ。1匹の昆虫がそこに居ることがバレただけでは何の影響もない。その分、村の中への監視は弱いのだが、ルプスレギナの不在時のみという条件では問題にならない。

 

「相談はしたのか。よろしい、それは正しい判断だ。

 アウラを呼べ。

 セバスの言う通り、お前の任務はカルネ村の警護。従って調査のために村を離れることは好ましくない」

 

 アウラには、トブの大森林の調査を命じてあった。

 すでに調査は完了し、報告も受けている。

 東西のボスたちはハムスケと違って配下は多いが、いずれもナザリック基準では弱者であり、積極的に配下にしようとするほど役に立つとは思えないし、任せるような仕事もない。

 だから邪魔にならないなら放置で、と指示していたのだが。

 邪魔をするなら排除も辞さないが、従う姿勢を見せるなら潰す理由もない。

 村まで到達した場合を考えて、ルプスレギナにも情報共有する意味を兼ねて、今一度確認のために調査報告を受けることにした。

 

「というわけで、この個体が東部を仕切るボス『東の巨人』だと思います。

 種族はトロールで、名前は『グ』です。非常に短慮で頭が悪いようです。

 それから、トロール全体なのかこの群だけなのか分かりませんが、名前が短いほど勇敢で、長いほど臆病者という風習があるみたいです」

 

「うむ、そうだったな。

 それにしても、よくここまで調べたな。トロールたちの会話から分かったことか?」

 

「いえ、西部のナーガたちの会話から分かったことです。

 西部については、かくかくしかじかでした。

 というわけで、この個体が西部を仕切るボス『西の魔蛇』だと思います。

 種族はお伝えした通りナーガで、名前はリュラリュース・スペニア・アイ・インダルン。

 不可視化または透明化の魔法が使える他、相手が自分に対して興味があるか否かを感じ取れる能力を持つようです。偽ナザリックの建造に気づいて、こちらがあいつらに『興味がない』と察知した結果、脅威と判断したようです。それで東の巨人と手を組んだものの、グが短慮で頭が悪いから辟易している様子でした」

 

「なるほど。

 ルプスレギナ。状況は分かったな?」

 

「はい。東の巨人および西の魔蛇について、承知いたしました」

 

「では、彼らと対話をしてみようじゃないか。

 入れ違いにカルネ村を襲う者がいた場合、対処は任せる。重要な研究拠点だ。きちんと守るように」

 

「はい、お任せください」

 

「さて、どちらから始めても良いが……」

 

 モモンガはペンを手に取ると、それをぶら下げるように持って、机の上に立てた。

 そして手を離す。

 ペンは右に倒れた。

 

「右……東の巨人から会いに行くとしよう」

 

「ではご案内します」

 

「頼むぞ、アウラ」

 

 

 ◇

 

 

 そうして出かけて、フェンリルに乗って。

 突然腰をポンポン叩かれて驚いたり。

 

「うわああ!? な、なんですか、アインズ様!?」

 

「ああ、いや……細い腰だなと思ってな。しっかり食べているか?」

 

「あ、はい。ご命令通り、1日3食決まった時間に食べてます」

 

「うむ、そうか。しっかり食べるんだぞ」

 

「はい。しっかり食べて、シャルティアを悔しがらせます」

 

 シャルティアについてはペロロンチーノからみっちり詰め込み教育を受けたモモンガは、その誕生秘話についても知っている。

 ペロロンチーノは「貧乳で」と注文したのだが、なぜか納品されたデザインが巨乳だったので「コンプレックスに思っているのでパッドを使って誤魔化している」と設定を追加した。修正をお願いすれば良いのに、と呆れたものだが「プロが厚意でくれたものに文句を言うのは……」と申し訳なく思ったペロロンチーノは、設定のほうをいじって調整したという。

 モモンガとしては、ペロロンチーノのそういう所を好ましく思っている。親しき仲にも礼儀あり。少し礼儀を気にしすぎた一件だとは思うが、モモンガとて同じ立場になれば同じように思うだろう。そんな理由で突如コンプレックスを追加されたシャルティアを少し不憫にも思うのだが。

 ゆえに「悔しがらせる」の意味するところは……。

 

「そのうちお前たちにも恋人ができたりするんだろうな」

 

「えぇ? ちょっと早すぎますよモモンガ様。私はまだ70代なんですから」

 

 70代とは。

 人間なら老齢なのに、ダークエルフだから子供……というのは、肉体的には分かるが、精神的にも成長がゆるやかなものなのだろうか。ものなのだろう。目の前に証拠が居るのだから。

 経験を積んで糧にする、その経験値効率というのか、そういうのは人間のほうが優れているという事だろうか。

 などとモモンガは思いながら。

 ちなみに丸山くがね先生によると、100年後には確かにシャルティアが悔しがるらしいのだが、それはまだ先の話。

 

「あ、ああ、そうだな……ダークエルフだと、まだまだ子供だな。

 ちなみにアウラは、ナザリックの中では誰が好きなんだ? 好みのタイプは?」

 

「私はモモンガ様が大好きですよ」

 

「ははは……それは嬉しいな」

 

「それじゃあモモンガ様は誰を一番愛しているんですか?」

 

「ん? アウラが大好きだぞー」

 

 とか言われて顔を赤くしたり。

 それが原因であとからアルベドやシャルティアから詰められたり。

 その際に「弟のほうを警戒していたけれど」なんていう謎の爆弾発言があったりしたのだが。

 

「お前が『西の魔蛇』か。

 今日は『東の巨人』を見に来ただけだが、まあ、好都合だ。一緒に話を聞いていけ」

 

 透明化して逃げようとしたナーガを捕まえて。

 トロールは全然話が通じないので倒すことにして。

 そのあんまりなまでの実力差を目撃したリュラリュースは、攻撃せずに逃げようとした事や、見つかった時点で即座に平伏したことを「正しい判断だった」と安堵したり。

 

「ん? こいつが持っている剣は、魔法の武器か」

 

 大したデータ量でもないな、と思いながら。

 カルネ村を襲わせて、ルプスレギナのテストに使おうと考えたり。

 

 

 ◇

 

 

 その頃――

 エ・ランテル――冒険者組合――

 

「それだと難しいですね。受ける冒険者は、まず居ないでしょう」

 

 ゴブリンたちはエンリに従っている。カルネ村が危なくなったら、エンリを最優先で守り、いざとなったら村を脱出することも選択肢に入る姿勢だ。

 ゆえに村をエンリの所有物と認識してもらうため、村長はその座をエンリに明け渡した。

 その直後のアーグである。

 新米村長エンリは村の防衛に冒険者を雇おうとしたが、資金に乏しく、森の賢王に匹敵する連中を相手にするような冒険者を雇えるほどではない。

 受付嬢には「現実を知らない困った田舎者」扱いされて軽くあしらわれたが――

 

「おいおい、そりゃあないぜ」

 

 とソーイが割って入った。その首に燦然と輝くアダマンタイトのプレート。

 もちろんセバスの采配である。

 ルプスレギナからの報告で「カルネ村はアーグを追ってくるかもしれない東の勢力を警戒している」の詳細を知ったセバスは、エンリが冒険者組合に依頼しに向かったことを知って、こうなる事を予想していた。

 

「ソーイ様!?」

 

「彼女の依頼は、このあたしが受ける事になってんだ。

 組合の顔を立てて一応きちんと手続きしてやろうと思ったのに、ちゃんと受け付けてくれないんじゃあ困るぜ」

 

 国内に3組しか居ないアダマンタイト級の、その中でも「単独でアダマンタイト級」という飛び抜けた実力者が、貴族とのコネも作りに行かず、わざわざエ・ランテルに留まってくれている理由。

 その一端を察して、受付嬢は青い顔をした。

 

「も、申し訳ありません! エンリ様、ぜひお話を聞かせてください! よろしければ別室でお飲み物でも……」

 

 震え上がった受付嬢が急にペコペコし始めたり。

 もちろんアインザックに後でこってり叱られたりもした。

 

「え? え? え?」

 

 急にトントン拍子で進む話に、エンリだけがついていけない。

 

 

 ◇

 

 

「ンフィーレア少年が死亡することは許されません。

 復活は可能でしょうが、職業レベルが下がればポーション開発が遅れることになります。

 モモンガ様からはあまり介入しすぎないようにとご命令をいただいていますが、だからといって村人だけでどこまで耐えられるか見てみようなどと考えず、危ないと判断したら即座に動いてください」

 

 ナーベラルの駄目っぷりを見て学んだセバスが、ルプスレギナにも事細かく説明していたり。

 

「ちょっと危なそうだから手伝うっすよ~」

 

「ルプスレギナさん!」

 

 最初からルプスレギナが参戦したり。

 あくまで「介入しすぎないように」との指示を守って、回復役に徹したり。

 であるから――

 

「防壁の一部が破損。負傷者多数ながらも回復済みで、死者なし……か。

 それにしても痛みや恐怖を感じるはずのゴブリンがゾンビ戦法とは……奴らの召喚者に対する忠誠心は本物ということだな。彼らは経験を積み、トロールが持っていた剣もゴブリンの手に渡ったか。足りない部分も見えたことだろう。

 カルネ村の演習訓練として十分な成果が出たと見て良いな。

 よくやった、ルプスレギナ。見事に役目を果たしたな。

 引き続きカルネ村を任せる。頼むぞ」

 

 などとモモンガに褒められて。

 原作とは正反対の扱いで。

 

「うひゃー! モモンガ様パねェっすー!」

 

 ドアを閉めた途端に叫ぶので、アルベドが呆れたり。

 そんなところは原作通りだったりして。

 今日もナザリックは平和である。




書き忘れていましたが、ゴブリン将軍の角笛を2つ、エンリに与えました。
与えたタイミングは、原作より後になります。本作の6話です。
加筆しておきました。

誤字報告をいただきました。
kon42u様
ありがとうございます。
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