闘技場で武王と戦ったモモンガは、その興行主であるオスクの話から、ルーン武器を作るドワーフの工匠がいると知り、ドワーフの国に行くことにした。
ゼンベルの案内でドワーフの都市フェオ・ライゾを見つけ、ゴンドと出会ったモモンガたちは、ドワーフの国の現状を聞くことになった。
ゴンドがもたらした情報は、大別して2つだった。
「ドワーフの国は滅亡の危機に瀕している。王都はフロストドラゴンに奪われ、クアゴアたちに襲われたフェオ・ライゾも放棄した。今はフェオ・ジュラに集まっているが、そこもいつまでもつか……」
ひとつは、そういう国の情勢。
かつては王がいたのでドワーフ王国なのだが、今は王がおらず、摂政会がドワーフたちをまとめている。事実上の議会政治――つまりは共和国だ。そうなってから、すでに200年近く経っている。もはや王国を名乗るのは不自然だ。
「ルーン技術は衰退した。摂政会もルーン技術を重要視していない。このまま断絶させてはならぬ、なんとか後世に残さねば……と奮闘してきたものの、儂にはルーン工匠としての才能がなかった」
アインズ・ウール・ゴウンを残そうとナザリックを守り続けてきたモモンガは、ルーン技術を残そうともがくゴンドに己を重ねた。
「ならば魔導国へ来ないか? ルーン工匠をまとめて魔導国で面倒を見ようじゃないか。ルーン技術の復興と発展を支援しよう。
引き換えに、ドワーフの国を襲っている奴らは、クアゴアもフロストドラゴンも排除してやろう」
「ルーン工匠が全員いなくなるとドワーフの国からルーン技術がなくなってしまう。
ドワーフの国そのものが無くなってしまう瀬戸際ではあるが、儂1人で決めるには重すぎる。摂政会を通してほしい」
そういう事になった。
ゴンドの案内でフェオ・ジュラに到着すると、さっそくクアゴアたちの攻撃を受けており、そこに駆け付けたモモンガたちによって窮地を救われたドワーフたちは、会談の場を設ける。
「ようやく国と国との話し合いになったな。
魔導国の王としては、もう少し格好をつけねば」
国交を結ぼうという話し合いの場に、王が単身では格好がつかない。それなりに使用人や護衛を連れていなければ。
というわけで、戦力として単体最強のシャルティアと、集団最強のアウラが呼ばれた。また使用人として、セバス、ユリ、ソリュシャンが呼ばれた。
同時に、ゼンベルは帰ることになった。
なお、ここまでの供回りはコキュートスだ。ゼンベルが案内役を務める関係で、ついでに供回りを命じられた。武人として活躍する機会が無かったので、そういう配慮も含む。しかし当然コキュートスの巨体では通りにくい部分が多く、ここでゼンベルと一緒に帰ることになった。
「王都奪還と引き換えに、ルーン工匠たちを魔導国に招致したい」
摂政会は、すぐには決断できなかった。
何十年も画期的な発展がなく、これ以上予算を投じても成果が出ない技術だという意見が強い。ましてクアゴアを撃退した強さを見れば、断ったときにどんな強硬手段に出てくるか分からない。つまり非常に安い買い物だ。
一方で、伝統技術が他国へ移り、自国では消滅してしまう。これを受け入れるのは非常に難しい。背に腹はかえられぬとはいうが、背を失ってはもはや人体として成立しないではないか。200年前に最後まで残っていたのはルーン工王だ。ドワーフの国が今なお「王国」と言い張っている、その最後の王の技術を受け継ぐ連中を切り離してしまったら、もはや王国とは言えないだろう。王の系譜が途絶えるのだから。
紛糾する議論に、摂政会はしばらく時間をもらおうとモモンガを伺うが、そこへセバスが口を出す。
「アインズ様、意見具申よろしいでしょうか?」
「うん? 言ってみよ、セバス」
「ドワーフの国ではルーン技術に期待していない様子。状況が状況だけにそんな余裕がないという事情もございましょう。このままではルーン技術そのものが滅んでしまうか、国ごと滅亡してしまう可能性が高いかと。
一旦滅亡した技術を、あとから復元しようというのは、非常に難しいことです。
ですので、ルーン工匠を魔導国に招致し、支援して、技術の存続と発展に努めるのはアインズ様が仰った通り。そこに加えて、ドワーフの国が再びルーン工匠を受け入れ、支援できる余裕ができた暁には、最低でも1割、上限を5割として、希望者を中心にドワーフの国へ送るというのは、いかがでしょうか?
そうすればルーン技術は魔導国で保存され、いずれドワーフの国に返すことになります。技術保存の手数料として、半数は魔導国に残って、引き続きルーン技術の発展に励んでもらうという形です」
「なるほど。
つまり、ルーン技術を魔導国で預かるわけだな。明け渡すのではなく、一時的に避難するだけ、というわけだ。
王都を奪還しても人口がすぐさま増えるわけではないし……どうかね、そういう条件では?」
「それならば……」
摂政会は取引を受け入れた。
ゴンドは半泣きだった。
「ルーン技術を不滅にするための代償が自分の魂なら安いものだ。
とはいえ、祖国では一旦滅んでしまう……ちょっと出かけて戻るだけ、とは割り切れんものがあるなぁ」
提案の内容が変更されたので、ドワーフの国がルーン技術を「要らないもの」扱いした事にはならない。
ゴンドはあくまでドワーフの国の技術として保存しようとしていたが、それが叶わなくなって残念に思った。夢破れ、目標を変更するに等しい。なかなか断腸の思いであった。
モモンガはゴンドを慰めた。
「君の魂などという安いものは要求しない。
私が要求するものは、ルーン技術を復活させ、不滅のものとするための情熱と技術そのもの。そのためならば、魔導国が資金も場所も必要な資材も、すべて提供する。何よりも情熱にあふれる君には、魔導国におけるルーン技術の最高責任者として、ルーン技術の保存と発展に励んでもらいたい」
才能はないが情熱はある。その情熱こそが必要だという理解に溢れた言葉。
情熱はあるが才能はない。それゆえ大量の資金や素材が必要で、才能のあるルーン工匠候補者も必要という事実に、その全てを提供するという約束。
ゴンドは今度こそ泣いた。恩を返せたと胸を張って言えるような成果を出さない限り、ゴンドはドワーフの国がいくら頼んでも帰国しないだろう。
◇
ゴンドの案内で王都へ向かうモモンガ一行。
その頃、クアゴアの王ペ・リユロは、フロストドラゴンに救援を要請していた。
うまく行けば共倒れ……などと画策していたその頭上に、真紅の鎧で身を固めた少女が1人。
「素直に従いなんし。服従するなら安寧が約束されんす」
「黙って従うのは無理だな。力を見せてもらおう。我らは我らを打ち倒す強者にのみ従う」
ペ・リユロとしては「強いのなら従っても良い」と言ったつもりだった。
クアゴアの統合氏族王という立場ゆえ、弱腰の発言はできない。
「抵抗する気でありんすね。
では、1万まで数を減らしんす。自分たちで殺し合いなんし」
シャルティアは盛大に誤解した。
そんな事できるか、とペ・リユロはクアゴアたちを突撃させ、虐殺される――
「シャルティア様、お待ちを」
――はずだった。
「おや、セバス。
アインズ様の側仕えは良いんでありんすか?」
「そちらはユリとソリュシャンに任せてまいりました。
アインズ様からのお言葉をお伝えします」
「アインズ様からの? ご命令に変更があったのでありんすか?」
「いえ、ご命令はそのままです。
ただし、複数の解釈ができてしまうご命令だったので確認を、との事でした」
もちろん、そう指摘したのはセバスだった。
そこでモモンガは、はたと気づいて、セバスを走らせたのだ。
「複数の解釈?」
「反抗するようなら叩き伏せて従わせよとのご命令ですが、具体的にどの程度叩くかについてです。
忠誠心あふれるシャルティア様であれば、非常に熱心に働き、前の盗賊団『死を撒く剣団』のときと同じように1人残らず殺害または吸血鬼化なさるのでは……と」
「そこまでは致しんせんが。総数1万まで減らすつもりでありんす」
忠誠心あふれ、熱心に働く、と言われてシャルティアは気分を良くした。
アウラはあえて何も言わなかった。すごく言いたそうな顔をしていたが。
セバスはひとつ頷いた。
「やはり。
アインズ様からのお言葉です。『なるべく殺さないように』と」
「えっ……」
シャルティアはサッと青い顔をした。
もう少しで、モモンガの意に沿わない事をするところだった。
しかし、ここでアウラが疑問を投げかけた。
「アインズ様はどうして『伝言』で直接おっしゃらなかったの?」
そのほうが手っ取り早くてギリギリで間に合うかもしれないし、モモンガの声を聞けるのはいつだって嬉しいのに。
とアウラは思った。
シャルティアも、言われてみれば、とセバスを見る。
だが純粋なアウラとアホの子のシャルティアでは、アルベドと違って「セバスが命令を捏造?」などとは考えない。
そして当然そのような事実はないのである。
「直接お言葉をいただけば、我々はそれを非常に重く受け止めますので」
「当然ね」
「当然でありんす」
「アインズ様は、もしすでにクアゴアを大量に殺害した後だったとしても、咎めるおつもりは無いから、とのことでした」
「「アインズ様……!」」
シャルティアとアウラは、祈るように手を組んで目をキラキラさせた。
やったあとで直接言われたら、確かに重く受け止めるだろう。命令を間違って受け取ったあげく、派手にやらかした、と2人そろってしばらく凹むところだった。アウラは割と早く立ち直って名誉挽回を狙うかもしれないが、シャルティアはバーで飲んだくれるだろう。
そうなる可能性を理解したうえで、セバスを通すことで「気にするな」という強いメッセージを送るモモンガ。さすモモ。
「そこまで私たちのことを考えて……!」
「さすがは至高の御方! シモベの気持ちを完璧に理解なさっていんす!」
なお、実際には即座に「伝言」を使おうとしたモモンガを、セバスが引き止めてかくかくしかじかと入れ知恵したのだが。
そんな事に気づく2人ではなかった。
◇
その頃、モモンガはフロストドラゴンと対峙していた。
「あれが我が父オラサーダルクです」
「ヘジンマール! 貴様、何を背に乗せておる! ドラゴンの誇りを忘れたか!」
「んん~……? レベルはこいつのほうが上か?」
モモンガは首を傾げた。
合計レベルが高ければHPも増える。戦士系の武王に対して、魔術師系のモモンガが「HPが桁違いなのだよ」と言い放つくらいだから、「生命の精髄」を使えば大雑把に合計レベルを予想できるだろう。
ただしビルドによっても違うし、偽装する魔法もあるので、確実なものではない。また当然だがザイトルクワエみたいなのは除く。
「だが、なぜだか知らんが、相手の強さを見抜く目は、ヘジンマールのほうが上のようだな」
初手で土下座して命を拾ったヘジンマール。
モモンガの強さを見抜いた理由は、ドラゴンの種族特性で財宝の価値が分かるというもの。装備品が上等すぎて、実力差が明白だった。
「何をゴチャゴチャ言っている。
我が居城にスケルトンごときが入り込むとは度し難い。
だが、お前の装備品を全部よこせば許してやるぞ」
一方のオラサーダルク。
種族こそ違うが、人物像は東の巨人ことグに近い。つまり、自分の強さを信じて疑わず、頭が弱い。もっとも、グよりは少し賢いらしく、頭が弱いほうだと自覚していて、何かを判断するときには后に相談することもあるという。
強さの面では、種族レベルを高めることばかりに熱心で、すでに頭打ちのカンスト状態。職業レベルや知識といった、他の軸でさらに強くなろうという発想がない。知識に傾倒しているヘジンマールを見限っているのも、その価値観から来るものだ。
ゆえに――
「――心臓掌握」
「ぐはっ」
即死攻撃に対する耐性が全く足りない。
強化もしていない一撃であっさり死んでしまった。
「さて、どれがお前の母親だ?」
「「私です!」」
即座に「勝てない」と理解して必死に母親アピールする3頭。
産みの母・育ての母・義理の母みたいなことか? とモモンガは首を傾げたが。
しかし、まあ、母親は殺さないと約束してしまったので、それを守ることにした。
誤字報告をいただきました。
佐藤東沙様
ありがとうございます。