聖王女カルカが元首を務めるローブル聖王国は、散発的に亜人たちから攻撃を受けながらも、巨大な防壁に守られておおむね平和だった。しかし、突如として魔皇ヤルダバオトと亜人連合軍が侵攻し、首都が陥落、国土の半分を失う。
原作のようにヤルダバオトとして亜人たちを統率し、聖王国を侵攻するが――
「統率するために実力差を分からせる必要はあるでしょう。
ただし、殺す必要はありません」
「何を生ぬるいことを……。
セバス、君はモモンガ様のご命令に手を抜けというのかね?」
「世界平和を目指す同盟のために、その同盟相手を殺すのでは矛盾でしょう。
それとも『殺せ』とご命令を受けましたか?」
「多少の犠牲は必要だろう? それで事がスムーズに進むのだからね。
できる事をやらずに、いたずらに時間をかけるのは、忠義とは言えないのではないかね?」
「命令の曲解こそ、忠義とは対極にあるものでは?
同盟を拡大せよ。
相手を殺害せよ。
……デミウルゴス様には、同じに聞こえるのですか?」
「それは――」
「それに、殺さなくても、かかる時間はそう違いませんよ。
あなたは、ナザリックで最高の知恵者、第7階層守護者デミウルゴスなのでしょう?」
「……やれやれ、本当に口が立つ……。
そう言われては、『できない』などとは言えないね」
ナザリックの口先最強は君だろうね、などとイヤミなのか称賛なのか分からない感じで言い捨てて、デミウルゴスは仕事に取り掛かった。
殺さずに亜人たちを制圧し、亜人連合軍を率いて聖王国へ。開幕の一撃も両軍の間を狙って死者を出さず、アウラの吐息や視線――各種のデバフ効果があり、原作シャルティア戦で見せたように超遠距離からピンポイントで狙うこともでき、web版で初登場のときに示されている通り基本的には範囲効果らしい――を利用するなどして、大防壁を無血で制圧。
その後も都市ごと包囲して兵糧攻めの構えで、手出しせずに実質的に制圧していった。王都ではレメディオス率いる聖騎士団が徹底抗戦の構えを見せたものの、カルカを人質に取って追い払った。
「なぜ王都に閉じ込めようとしなかったのだろう?」
追い払われた聖騎士団は首を傾げる。
亜人連合軍も首を傾げた。
「あんなイノシシどもが王都に居たのでは、包囲作戦が面倒になるからだ」
ヤルダバオトは答える。
グスターボも同じ結論に至った。
◇
こうして圧倒的な戦力差に追い詰められた聖王国は、聖騎士団長レメディオスや従者ネイア・バラハらを派遣し、他国へ助けを求める。
まず最初に唯一国境を接している王国を頼ったところ――
「返答は保留する。
我が国は、魔導国が主導する同盟に加わっており、他国への侵略は禁止なのだ」
ランポッサは、そのように答えた。
すぐさまレメディオスが噛みつく。
「救援だ! 侵略ではない!」
「さて、それはどうでしょう?」
口を挟んだのはザナック王子。
それは、次の王としての試験だった。
バルブロが行方不明になった今、次の王はザナック王子しか居ない。ラナー王女は民衆から人気があるものの、王座に興味がない。
どう考えても王に向かないバルブロ、能力的には王に向くラナー、ぱっとしないザナック、という3人の子供を抱えて、さっさとラナーを次の王に指名しなかったランポッサ。おそらくはバルブロが長男だからとか、本人たちのやる気がとか、そんな事を考えて迷っていたのだろう。
だが、この3人からバルブロを引けば、ランポッサとしてもザナックに次の王を任せることに迷いはなくなる。王座に興味がないラナーは、ザナックが王になってもそれを支えるべく知恵を使うだろうから。唯一の懸念は、ザナックに最低限でも王の資質があるかどうかだ。
「他国に軍隊を派遣するとなれば、侵略なのか救援なのか区別する方法が必要だ。本質的には受ける側の気持ち次第であるから、戦闘が泥沼化して救援軍が貴国の国土を破壊するようになれば、貴国は当然それを嫌がるだろう。そして『追い詰められて正常な判断ができなかったのだ』と言い出し、同盟を理由に退去を求める、と……」
「そんなことはしない!」
「何を証拠に?
実際にやるかどうかはともかく、そういう理論が成り立つという事そのものが重大な懸念材料だ。まさに『そんなことはしない』ということの証明のために、事前にルールを作っておくことが必要ではないか。
たとえ今すぐ救援を出すにしても、どれだけの規模を、いつまで派遣するか、という事は事前に決めておかないと、貴国を実効支配する事態になりかねない。そうでなくとも、国益を考えれば無制限に救援を派遣し続けることはできない。救援の見返りに何か差し出せるほど余裕がある状況でもあるまい。
ゆえに、重ねていうが、同盟としてルールを整備する必要がある」
王国はまだまだこれから国を立て直して資源の有効活用に向かう、その初期段階にある。
口には出さないが、他国を支援するために国内の働き手を割くのは避けたいところだった。
「魔導国が主導する同盟は、侵略を禁止しているが、それゆえ侵略を受けた場合には魔導国が救援を出すことになっている。
どうかね? 魔導国へ救援を求めては」
そう言って聖騎士団にお引き取り願った。
ランポッサは、ザナック王子に王位を譲ることを決めた。
今回の問答がザナック自身の知恵によるものか、ラナーの入れ知恵によるものかは重要ではない。
王としてきちんと振る舞えた、ということが重要だ。
同盟によって魔導国の庇護も得た。王国は安泰だな、とランポッサは安堵する。
◇
救援に応じたモモンガは聖王国へと赴き、圧倒的な力で戦いを主導した。
殺さずに制圧したことで、ヤルダバオトの亜人に対する統制力は少し弱い。逆らったら確実に殺されるという恐怖がなく、ボコボコにされる事はあっても殺される心配はないと高をくくる。結果、原作のように聖騎士団を相手に人質を取って、モモンガにまとめて吹き飛ばされた。
なお今回のことが自作自演であることを考慮して、モモンガは攻撃魔法で殺すのではなく――
「――時間停止。
よし、ハンゾウ。行くぞ」
時間停止の効果中は、相手にダメージを与える魔法が使えない。しかし、そうでない魔法は使える。
たとえば転移とか。
時間停止と転移のコンボで影武者と入れ替わるなんてのは、よくある事だ。
「――転移門。
いいぞ。どんどん放り込め」
ハンゾウに手伝わせて、次の魔法に巻き込む範囲から人質も亜人も移動させる。
「そろそろ時間停止が切れるな。
3、2、1――火球」
どかーん!
「な!? 人質ごと!? なんという事を!」
「人質というのは、この子供のことかね?」
「ふぁっ!? え……? はああああ!?
なぜ……いったい何をして……???
と、とにかく無事に助けたのは感謝するが……! できるなら早く言え!」
「君たちこそ、できないのなら早く言いたまえ」
「ぐぬぬぬ……!」
誰も泣かない国というカルカの理想を、誰も死なせない聖騎士団という形に落とし込んでいるレメディオスは、自分たちには実現できないそれをあっさり実現するモモンガに、原作とは正反対の感情を向け始めた。
もちろんネイアも、魔導王に真の強さと慈悲を見て、魔導王こそ正義であると強烈な信奉者になっていく。
なおゼルンの要請を受けてシズとともに向かった先で出会う頭冠の悪魔は、シズとネイアに出会ったところで国母とケラルトの首を奪おうとしているのをネイアの弓で阻止され、そのまま滅ぼされることになった。
「ルーンだったとは! なんと見事な!」
「違う!」
「…………」
宣伝が下手な頭冠の悪魔である。
だが救われた国母とケラルトに改めて聞かれれば、隠す理由もない。
「あ、はい。ルーンの武器です。魔導王陛下から頂きました」
「ルーンの武器は強力なのね」
宣伝には成功したようだ。
◇
アンデッドが統治する魔導国は、周辺国から非常に警戒されていたが、ヤルダバオトに襲撃された聖王国を救い、その後も支援をしていることから評価を高めていた。
一方、王国の状況は緩やかに、改善していた。貴族派閥だった貴族たちは、今や王派閥の貴族たちよりも精力的に新王ザナックを支えている。黒棺は嫌だ黒棺は嫌だ黒棺は嫌だ黒棺は嫌だ黒棺は嫌だ黒棺は嫌だ黒棺は嫌だ黒棺は嫌だ黒棺は嫌だ黒棺は嫌だ……。
ザナックが何とか国を守り発展させようとしている中、大戦犯フィリップは父も兄も健在なので実権がなく、アルベドにちょっかいをかけて苛立たせることもなかったが……さすが大戦犯、ある計画を思いつく。
なお原作では、王派閥にも貴族派閥にも属さない第三勢力を作らせ、王国の政治をこっそり操作しようという計画だったわけだが、この世界線では貴族派閥を教育して王派閥と統合させたので、第三勢力を作る必要はなくなった。
ただし、国家ほどの規模になれば、どんなに善政を敷いても一部には不満を持つ者が出る。そのためヒルマがそういった勢力をまとめて、不用意に爆発させないように管理するよう命令を受けていた。
「ご命令を遂行できませんでした。申し開きのしようもございません」
およそ常人には理解できない謎理論で、聖王国への支援に向かう馬車を襲ったフィリップ。
あまりの暴走ゆえ、護衛も「聞いてないけど、そういう計画なのか?」と勘違いして逃走し、襲撃が成功してしまうという原作通りの超展開が発生した。
不用意に爆発させないように管理せよと命令されていたのに、まさにその不用意な爆発が起きたため、ヒルマは処刑されるに違いないと土気色の顔で土下座していた。
「どう責任を取るつもりかしら?」
「よい、アルベド」
「しかし、下の者のミスは上に立つ者の責任です」
「ならばヒルマの上に立つアルベドの責任で、アルベドの上に立つ私の責任というわけだ」
「うぐ……! そ、それは……」
そういう事だ、いいな? と言われては、はいとしか言いようがない。
だが納得したわけではなく、あとでセバスに愚痴ることにした。
「モモンガ様ったら、お優しいにも程があるわ」
「たしかに監督責任というものはございますので、アルベド様の仰ることには一理あるかと」
「でしょう?」
「だからこそモモンガ様の仰る通り、最終的には一番上に立つ至高の御方の責任という理屈になってしまいます」
「ぐぬぬ……!」
「一方で、実行した責任は、その実行した当事者のものでございます。
監督者は監督責任として実行者に再発防止を監督する責任がございますが、実行したのはヒルマではなくフィリップです。
そしてフィリップは王国の男爵の三男なのでしょう? ならば、王国にもその監督責任があるわけですが。
モモンガ様、王国に対してはどのように?」
「魔導国の看板を背負った馬車を襲われては、笑って許してやるというわけにはいかんな。
監督責任というのなら非はこちらにもあるが、それは秘密裏にやっていたことで、表には出せない。
同じだけの物資を返せば良し、というわけにもいかん。単なる窃盗ではなく、魔導国という看板に傷をつけたことが問題だ。
モチャラス男爵家は、フィリップを追放して、蜥蜴の尻尾切りを狙うだろう。だが、それで許してやったのでは魔導国がナメられる」
「なるほど、そういう事ですか」
「デミウルゴス様?」
「モモンガ様は、国単位のアメとムチをご計画なのだよ」
「王国を滅ぼすつもりですか、デミウルゴス様」
「そうとも。魔導国に逆らえばどうなるか、またとない見せしめになるだろう。
再発防止策としてこれ以上のものはない。さすがはモモンガ様」
「処罰が重すぎるのでは? 教育を生業にしておられた死獣天朱雀様ややまいこ様をはじめ、お喜びにならない御方々がいらっしゃると思うのですが」
「ふむ……だが再発防止策が甘ければ、再発を防止できないだろう?」
「ナーベラルとエクレアが外に出ていたときに買ってきた書物で、人間の国の法整備の歴史を調べてみましたが、厳罰化は再発防止に一定の効果があるものの、完全ではないことが分かっています。
どうやら人間は非常に早く状況に慣れる生き物のようでして、厳罰化した状態に慣れてしまうと、再発率が高い水準に戻るのですよ」
「バカな……」
考えられない愚かさに、デミウルゴスのメガネがずるりと落ちた。
「しかもリスクを計算せずに行動する者が一定数……衝動的だったり愚かだったり理由はいくつかありますが」
「そ、そこまで愚かなのかね、人間というのは……?」
じゃあ罰則は死刑のみという極限の厳罰化をしても、再犯は防げないということではないか。
デミウルゴスはぐしゃぐしゃと頭をかいた。
「そこまで愚かなようです。
躾ければきちんと従うという意味では、言語を解さない獣のほうが利口ですね。
とはいえ、だからこそ段階的に増税すれば最終的に税率が非常に高くても慣れてしまうのですが」
「では、王国には男爵家を取り潰させ、その死体をナザリックに差し出させる……程度でしょうか」
デミウルゴスがメガネの位置を直しながらモモンガに視線を送る。
モモンガは頷いた。
「そのくらいが妥当だろう。
だが、殺してしまうのは『それ以上の苦しみを与えない』という意味で慈悲だ。
爵位と財産を取り上げて、財産は弁償としてこちらへもらう。
モチャラス一家には、魔導国に逆らう愚者の末路の、その見本としてせいぜい長生きしてもらおうではないか」
◇
「……という予定でいるのだが、あ。ザナック、即位おめでとう」
最悪のタイミングで言われたお祝いに、ザナック王は顔をひきつらせた。
モモンガは無自覚である。友人だからこんなもんだ、とギルメン相手みたいな感覚で言う。
言われたザナック王はたまらない。モチャラス男爵家を潰さないと友情が終了してついでに国家も終了する。なにしろ同盟で禁止されている侵略に当たる行為だ。堂々と潰す口実ができてしまった。先に友人になったおかげで、かろうじて首の皮1枚つながっているに過ぎない。
「あ、ありがとう、アインズ。
祝いの言葉も、その程度で済ませてくれる慈悲深さも、本当に嬉しく思うよ」
フィリップのやらかしは王国を滅ぼすには至らなかった。
だが、ザナック王の頭髪と胃袋は滅ぼせそうだ。ついでに、やつれ……げふんげふん、ダイエットできるかもしれない。