セバス・チャンは完璧な執事である   作:目ん玉

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21 「では第4回会議を開催するとしよう」【最終回】

「では第4回『ギルメンが戻ってきた時に怒らないだろうか』会議を開催するとしよう」

 

 今回は円卓の間だ。

 名前の通り、ここには巨大な円卓がひとつあり、41脚の椅子が並んでいる。

 そこに、ガルガンチュアとヴィクティムを除き、階層守護者全員が揃っている。

 立ち位置は、それぞれの創造主が座るべき椅子の後ろ。

 

「立ったままでは何だ。座るといい」

 

 モモンガが着席を促すと、守護者たちは慌てた。

 今まで、ここにある椅子に座ったことがあるのは、至高の御方々のみ。

 しかも誰がどの椅子に座るかも決まっている。

 すなわち御方専用の椅子ということ。

 

「そんな……!」

 

「畏れ多い……!」

 

「どうかご容赦を……!」

 

 とても座れない、と拒否する守護者たち。

 シモベたちにしてみれば、ほとんど玉座も同然だ。

 

「ならば仕方ない……」

 

 とモモンガは立ち上がって、自分の椅子の後ろへ回った。

 それが意味するところを理解し、シモベたちはますます慌てる。

 

「「いやいやいやいや……!」」

 

 何やってるんですか、と守護者たちは天地がひっくり返ったような慌てようだ。

 御方に向かって跪いていたと思ったら、御方が隣で一緒に跪き始めた、くらいの衝撃である。普通に意味がわからない。

 

「前にも言った通り、お前達には私の横に並び立つ存在になってほしい。

 お前たちが私の高さまで上がってこないというのなら、私がお前たちの高さまで下がるしかなかろう」

 

 さも当然のように、しかし一抹の寂しさをにじませて、モモンガは言う。

 察したセバスは、しかし完璧執事であるがゆえ、己がその椅子に座ることはためらわれた。あくまで執事。その領分を超えてはならじ、と頭をフル回転させる。

 そして、ひとつの答えを導き出した。

 

「アルベド様、モモンガ様の隣の椅子へお座りになられてはいかがでしょう?

 魔導国の王妃という立場ですし、玉座の間では守護者統括としてモモンガ様の横へ立つこともございますし」

 

 しかしアルベドはゆっくりと首を振った。

 原作のような去ってしまった御方々を恨む気持ちは、セバスの働きによって無くなっている(第6話参照)。

 

「私たちを守るために今なおリアルで厳しい戦いに明け暮れていらっしゃる御方々を思えば、その席に座ってしまうことはためらわれるわ。私たちにとって、ここにある椅子は、単なる椅子ではなく、御方々の偶像ですもの。

 モモンガ様は、御方々の私室へは立ち入りを禁止していらっしゃるわ。私たちにとって、この椅子は、そういうものでしょう?」

 

 うんうんと頷く守護者たち。

 モモンガは自分が間違っていたことに気づいた。

 

「私はこの椅子へお前達が座ることを禁止しない。だが、それは私がこれらの椅子を偶像だとは思っていないせいなのだな。自分は座れるから、というのが大きいかもしれない。これがまさに私とお前達との視座の違いを如実に表している。これがあるから私はお前達が『従うもの』であって『横に並び立つもの』ではない、と感じてしまっているのだろう。

 だが、お前たちがそれほどまでに仲間たちを想ってくれていることは嬉しく思う。その気持ちは、まさに私と同じものだろう。その点において、お前たちはとっくに私の『隣に並んで立って』くれていたのだな。私はお前達に『隣に並び立つもの』になるようにと望んできたが、私はお前たちを仲間の代わりとして見てしまっていたようだ。すまない。

 お前たちはお前達だ。仲間たちの代わりではない。今やお前達こそが、私の新しい仲間だ。アルベドよ、よく教えてくれた。私は今、満たされた。いや、とっくに満たされていたことに、今ようやく気づいたと言うべきか。私はずっと寂しかった。だがお前たちが、ずっと寄り添ってくれていたのだな」

 

 モモンガの言葉に、守護者たちの涙腺が決壊した。

 最後に残ったモモンガまでもが去ってしまうことこそ、シモベたちの最も恐れることだ。御方々に尽くすことこそ、シモベたちの存在意義だ。御方々に満足してもらう事こそ、シモベたちの喜びだ。その全てが満たされた。成果を上げたからではなく、存在しているからという理由で愛されるということ。シモベたちが創造主やギルメンに依存する根源たる部分は、まさにそれが欠乏しているからだった。

 そしてそれが満たされたということは、もしモモンガが居なくなっても、ナザリックのシモベたちは暴走しないということである。シモベたちは今、それほどまでに大きな変化を迎えていた。

 

「アルベド」「モモンガ様」

 

「デミウルゴス」「モモンガ様」

 

「アウラ」「モモンガ様」

 

「マーレ」「モモンガ様」

 

「コキュートス」「モモンガ様」

 

「シャルティア」「モモンガ様」

 

「セバス」「モモンガ様」

 

 泣くという機能が備わっていないモモンガは、あふれる感情を繰り返し抑制されながらも、なお耐えられず、順に抱きしめていった。

 それまでなら抱きしめられるという行為に大喜びするシモベたちは、今や静かに抱きしめ返すだけだ。存在そのものを愛されているという実感は、単に抱きしめられる事への喜びよりも大きく、静かで、どっしりとしたものであるがゆえ。はしゃいで力いっぱい抱きしめるのではなく、卵や羽毛でも扱うように慈しみできるだけ優しく抱きしめる。

 そしてモモンガは場所を変えることにした。

 

「我々にふさわしい場所へ行こう」

 

 第10階、玉座の間。

 諸王の玉座に腰掛けるモモンガ。

 階段下に跪く守護者たち。

 上下関係はあるが、横に並ぶ存在だ。

 その整然と跪く様子に、かつては「こいつらガチだ……」とドン引きしていたモモンガは今、シモベたちの献身的な愛情を感じていた。

 

「改めて、第4回『ギルメンが戻ってきた時に怒らないだろうか』会議を開催する。

 進行役は今回もセバスに任せよう」

 

「かしこまりました。

 ではまず、第3回会議以降の動きを、ざっくりとおさらい致しましょう」

 

 セバスは指折り数えるように列挙していく。

 国境線を定めるため帝国・王国を訪れ、ザナック王と友人になった。

 冒険者を勧誘するため帝国へ密入国して、武王を殺して蘇生し、配下にした。

 ドワーフの国へ行き、クアゴアを撃退して屈服させ、ルーン工匠を招致した。

 亜人たちを征服して、聖王国を救った。

 王国は存続し、モチャラス一家は爵位を失って路頭に迷った。

 

「帝国、王国、ドワーフの国、クアゴア、聖王国、亜人……同盟は順調に拡大していんすね。

 さすがはモモンガ様でありんす」

 

「冒険者も武王もルーン工匠も招いて、魔導国はますます発展しますね。

 おめでとうございます、モモンガ様」

 

「お、おめでとうございます」

 

「武王殺害ト、モチャラス一家没落……御方々ニゴ不興ヲ買ウトスレバ、ソノアタリカ」

 

「武王は蘇生させたのだし、殺害を前提とする勝負に合意した上でのことだ。

 モチャラス一家に至っては、あれほどの罪を犯せば処罰しないわけにはいかない。

 お叱りを受けるほどの事ではないだろうと思うよ」

 

「そうね。同盟を軽んじられては、さらなる犠牲が出てしまうわ。

 モチャラス一家の没落は仕方がない事よ」

 

「以上でございます、モモンガ様」

 

 会議は速やかに終わった。

 え? 終わり? とモモンガは戸惑ったが、反論する部分は見当たらない。

 魔導国とそれが提案する同盟は、順調な滑り出しを見せている。

 

「では今後の予定だが。

 近場でまだ同盟に参加していない国々は、評議国、都市国家連合、竜王国、法国、それとエルフ王国だったか」

 

 ツアーはまだ動かない。

 原作では鎧を動かしてパンドラズ・アクター扮する魔導王の前に現れたが、その理由はおそらく「黒き豊穣への貢」だ。

 王国の腐敗や、法国の積極的な亜人殺しに対しては動かないツアー。殺した数が問題ではなく、使った力の強さが問題なのだろう。それは超位魔法ならアウトという基準ではない。アニメ第2期でリザードマンたちに第2陣の出撃を告げるとき湿地を凍らせるのに使った「天地改変」は超位魔法だが、ツアーが鎧を動かしたのは「黒き豊穣への貢」の使用後に当たる第4期だ。つまり「天地改変」は、ツアー的にセーフなのだろう。

 

「順に同盟を広げていきんしょう」

 

「どこからやるか、だね」

 

「て、手分けして、全部同時にやる、とか、どうかな? お姉ちゃん」

 

「兵ハ拙速ヲ尊ブ、トイウヤツダナ」

 

「戦いに行くわけではないし、国境を接しているわけでもないから、万一敵対されても対応は間に合う可能性が高いだろうね。もちろん油断は――」

 

「油断は禁物よ、デミウルゴス。

 東の巨人やフロストドラゴンの王みたいな愚物が、力だけ持っていて敵対してくる可能性はあるわ」

 

「アルベド様の仰る通りかと。

 八欲王や六大神はプレイヤーだった様子。もしかすると強力なアイテム……たとえばワールドアイテムが存在するかもしれません」

 

「セバス、今乗っかっただろう?」

 

「はて、何のことですかな?」

 

「ソノクライニシテオケ。御方ノ御前ダ」

 

「失礼しました、モモンガ様」

 

 デミウルゴスは謝った。食って掛かったからだ。

 セバスは黙って頭を下げた。軽くいなしたからだ。

 

「まあ、仲良きことは美しきかな、と言うからな。

 だが仲間同士で遠慮しすぎるのも良くない。

 適度な喧嘩ならば、私は一向に構わん。

 だが、他国が相手だと『適度』では済まなくなる可能性がある。ゆえに、全部いっぺんに手を出すのは、やめておく方が良いだろう。

 順番に行くぞ。まずはどこから手を付けるべきか――」

 

「アルベド様ぁ、失礼いたしますぅ」

 

 地表部の小屋で当番をしているエントマから「伝言」で連絡が入った。

 

「失礼します、モモンガ様。

 どうしたの、エントマ?」

 

「竜王国からぁ、使者が来ておりますぅ。

 同盟に参加するのでぇ、救援を送ってほしいとのことですぅ」

 

 受けた連絡をそのまま報告するアルベド。

 それによって、モモンガのみならず、その場にいる全員に情報が共有された。

 そしてモモンガは即座に決断する。

 

「決まりだな。

 向こうから同盟を望んできた第1号だ。すぐに取り掛かろう。

 我々の同盟に参加すればどれほどの恩恵を受けられるか、示してやろうではないか」

 

 

 ◇

 

 

 ある日――

 モモンガは自室で独り、焦りまくっていた。

 アンデッドなどが持つステータス異常無効のスキルは、精神攻撃が効かなくなるという特性がある。精神攻撃というのは恐怖・混乱・魅了などのことで、それらはステータス異常でもあるから無効化されるわけだ。

 だが、そんなスキルを無効化するアイテム――完全なる狂騒。

 アンデッド「など」が持つスキルだが、アンデッドに「しか」効かないという微妙な代物だ。使い所がないのでモモンガも使ったことがなかった。

 なおモモンガがいてアルベドとプレアデスが勢揃いした上に、完全なる狂騒が8個あると、自動的に真の効果が発動し、アンデッド以外のあらゆる種族に効果を発揮するのだが、ここにはプレアデスもアルベドも居ないので安心だ。

 

「まさか間違って自分に使ってしまうなんて!

 いつもは強制的に安定するはずの精神がそのまま!

 久しぶりにテンパってる感覚……! この感覚が普通なんだよぉ……!

 いきなり異世界に飛ばされて『まずは状況を把握だ』とか……! 俺、冷静……! 冷静すぎ!

 まさかこんなにテンパっちゃうものだとは……!」

 

 怒涛のように押し寄せる、これまでの記憶。

 まずは遠隔視の鏡で周囲を偵察しようとしてカルネ村の惨劇を発見し、即座に見捨てると判断したこと。

 

「いや普通に人でなし……! まあ、あの時点では相手のほうが強いかもしれないと思っていたから慎重になるのは仕方ないけどさぁ……! だったらセバスの言う通り、相手の強さを見極めるための偵察はするべきだよなぁ! あのまま観察を続けて隠密偵察っていう手もあったし、コキュートスやアウラを呼んで一緒に見たら、相手の強さに見当がついたかもしれないのに……あ、それならセバスでも分かるかな? とにかく、いきなり『見捨てる』は無いだろ……! 結局セバスの献策で威力偵察したから、結果的には救ったけどさ……!」

 

 陽動部隊を殺害し、陽光聖典を殺害し、死を撒く剣団を殺害し、ブレインを吸血鬼に変え、クレマンティーヌとカジットを脱獄させ、リザードマンの集落では事前調査なしで土地開発をおこなって生態系に影響を与えたかもしれず、八本指を掌握して洗礼を施し、同時にそれは法の裁きから逃がす事にもなり、ゲヘナ作戦では負傷者や建物の被害をたくさん出して、エルヤーを殺害し、「フォーサイト」を訓練で何度も殺して、帝国へ密入国して、武王を殺して、クアゴアをボコって、亜人連合を分からせ、フィリップ1人の犯罪にモチャラス一家を巻き添えで処罰して……。

 

「んぐぅぅぅ……! けっこう色々やらかしてるぅ……! こんなの皆になんて説明すれば……いや、一応全部説明できるけど……! それにしても、この数! 理由があったら殺してもいいよねっていう人数じゃないよなぁ……! ていうか理由があっても人殺しは駄目だよ、普通は……!」

 

 もだえるモモンガ。

 だが同時に、ふと気づく。

 セバスの献策で威力偵察した結果カルネ村は救われ、セバスの献策で死を撒く剣団を無事に始末して逃がすこともなければシャルティアが暴走することもなく、セバスの献策で冒険者役をソリュシャンに任せた結果いろいろとうまく行った。ナーベラルのままでは、あれほどうまく行かなかっただろう。

 ゲヘナ作戦の大幅な変更もセバスの献策によるもので、戦争で1人も殺さずに済んだのもセバスの献策。クアゴアの大量殺害を止めたのもセバスの献策で、聖王国での作戦でも劇的に死者数を抑えたのはセバスの献策。そうしてみるとザナックと友人になれたのも、ランポッサが協力的になったのも、ガゼフと少し親しくなりつつあるのも、すべてセバスの影響といえる。

 ある時期からシャルティアが全然言い寄ってこなくなったのも、聞けばセバスの行動が原因だったし、アルベドの暴走はセバスの提案に乗ったおかげでどんどん落ち着いている。

 

「……いや、セバス有能すぎるじゃない……?」

 

 何か褒美を取らせるべきでは?

 とモモンガは思った。

 だが、その時々のシーンを思い出してみると、どれも取り立てて「功績を上げた」と言えるほど大きな事をしたわけではない。ただちょっと意見を述べただけだ。

 きっとセバスも「普通に働いていただけで褒美などいただくわけには」と遠慮するだろう。

 だから、これがセバスの普通なのだ。

 セバスは執事なのだから。

 

「たしかセバスのフレーバーテキストって……」

 

 転移前に名前だけ見た。

 長らく第10階層を訪れていなかったから、そこに待機させた執事やメイドたちの名前を覚えていなかった。

 その名前を確認する程度のつもりで。

 サービス終了の時刻が迫っていて、細かな設定など見ようと思える時間はなかったが。

 思い出した。

 

『たっちさん、NPCの設定それだけで良いんですか?』

 

『ええ……。

 警察官やってると、見ただけで犯罪者っぽい人って分かるようになるんですよね。

 行動が姿に表れるというか……。

 なので、この姿を見てると、余計な説明は要らないかな……って。

 役割だけ書いておく事にしました』

 

 創った者の責任として、居場所だけは用意してあげないと。

 たっち・みーはそう言って、設定画面を閉じた。

 そこには、たった一文だけ――

 

 セバス・チャンは完璧な執事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空間の品格を保ち、時間を創り出し、ご依頼者が本当に大切なことに集中できる環境そのものを整える――それが執事の本分です。

 執事の第一の技能は、掃除でも給仕でもなく「観察」です。あらゆる情報から次に必要なことを察し、言葉にされる前に動きます。頼んだことをこなす人ではなく、頼む前に整っている状態をつくる人。それが執事です。

 ご依頼者の一日、一週間、一年を見渡し、生活の質が最も高まるように差配する。この統括性こそが、他の職種にない執事の独自性です。

 ――全日本執事協会のウェブサイトより。




ここまでのお付き合い、ありがとうございました。
続きは? という声はあるかもしれませんが、セバスが完璧執事だったら? という思考実験の作品なので、このセバスならこう動くというのが十分に固定された今、これ以上は必要ないと思いました。
誤字報告をくださった方々、感想をくださった方々、評価をくださった方々、お気に入り登録をくださった方々、ここすきをくださった方々、そして読んでくださった方々、ありがとうございました。

誤字報告をいただきました。
tino_ue様
ありがとうございます。
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