ホルト様のリクエスト
アインズとジルクニフ、ザナックが少しだけ仲良くなるような話が読みたいです。
帝国と王国の話し合いにアインズが調停役に頼まれ同席する。主題の話し合いが終わり親交を深める為の雑談をしようにも、それぞれへの警戒心から話が盛り上がらない。
控えていたセバスが話題を振ることにより話が盛り上がり、最終的に「王としては警戒しないといけないが、一人の男として見れば結構話が合う」みたいな関係になる。そんな感じの話がみたいです
日時:2026年10月07日(水) 17:58
◇
王国はまだまだ問題だらけだ。
大きな問題は2つ。
①資源開発の遅れ。国内に豊富な資源があるのに、それを活用できていない。
②魔法技術の遅れ。相変わらず魔法をナメている。
なのでザナック王は、どちらも推進しようと貴族たちに働きかけているのだが……
「どちらも、うまく行かない。
まず資源開発だが、妹が言うには、資源開発に必要なのは人口増加だから、魔導国からアンデッドを農夫として借りたらどうかと。
そもそもアンデッドに農業なんて、そんな事が可能なのか?」
ザナック王はモモンガに尋ねた。
「可能だぞ。あとで貸し出しの契約書を用意しよう。
すでに魔導国ではスケルトンを農夫として利用している。
帝国でも研究はしているのだろう?」
モモンガはジルクニフ皇帝に尋ねた。
実際のところは、すでにフールーダから聞いている。
「研究はしているが、大規模に制御する方法がないからな。
魔法省で実験的にやっている程度だ。収穫量を期待する段階ではないな。
どうやって実現を? いや、魔法の技術的な話は分からんが、鍛えたらできるようになるとか、そういう話なのか? 爺があれだけ苦戦しているのを見ると、そもそも人間に可能なのか疑わしく思えてな。それとも特殊な儀式とかアイテムとかが必要なのか?」
ジルクニフ皇帝は直接見ていないが、カッツェ平野での「天地改変」やアンデッド軍団のことは報告を受けている。
ジルクニフ皇帝自身は魔法の技術的な話にはついていけないが、フールーダから「教わるチャンスを獲得してくれ」と請願――いや嘆願というべきか――をされている。
確かに魔法省の仕事として正当な請願ではあるが、あれは絶対に私情が入っている。ジルクニフ皇帝はそう確信していた。頼むぅ~お願いじゃよぉ~という、なんだかネチャ~っとした振る舞いは、昔から苦手……げふんげふん、帝国の重鎮としてふさわしくない。
「そうそう。ふたつめがそれだ。
魔法技術の開発には、独自開発よりも指導者が居たほうが良い。剣術でも同様だから、とガゼフ戦士長も言っていた。
実は、これについては魔導国よりも帝国に頼むべきじゃないか、と思っているんだ。魔導国の魔法技術は、なんというか、王国にはまだ早すぎるだろう? 赤子に政治の話をするようなものだ」
乗っかってザナック王が言った。
さらっと魔導国より帝国のほうが格下と言われて、ジルクニフ皇帝は面白くない。事実だけど。
王国はもっと下、と言うので我慢してやる。
「魔法に対する理解の仕方というのかな……体系化の方法、理論立てる道筋……そういうものが、魔導国と帝国では違う。
ゆえに魔導国の方法を帝国に教えても、帝国がそれを真似することは難しいかもしれん。というより、私としては帝国には帝国の方法を発展させていってほしいと思っている。それを魔導国の方法へと塗りつぶすような真似はしたくない。
魔導国では空の飛び方を研究しているが、帝国では泳ぎ方を研究している、といったような感じだな。
どちらが優れているという事ではない。現に、一般的な羊皮紙に第3位階の魔法を込めるなんて技術は、魔導国には無いものだ」
教えろと言われても、レベルを上げて選択するだけだし……とモモンガは困り、帝国を持ち上げて逃げることにした。
方向性が違うのだ、帝国のほうが優れている部分もある、と言われてジルクニフ皇帝は機嫌を良くした。
アンデッドのくせに、こういう心理的なフォローがうまいのは何なんだろう? とも思ったが。
「それで言うなら、王国は王国で独自の魔法技術を開発するほうが良いのではないか?
もともと魔法に頼らないで国を運営してきたのだから、魔法を『肉体の補助』と位置づけ、たとえば戦士を強化する魔法に特化するとか。『火球』を撃ち込んでも耐えて突撃してくる戦士がいたら、魔法詠唱者にとってはかなり脅威だと思うぞ」
暗に教える気はないと言うジルクニフ皇帝。
ザナック王は、ここから交渉を始めようと試みるが、その「暗に」を読めないモモンガは、戦術的な価値を検討した。完全にゲーマーのノリだ。
「確かに、強化魔法と武技を重ねがけしたガゼフ戦士長なら、補助魔法なしで相手をするのは私でも難しいかもしれないな。
それに、王国はもともと農民を徴兵したり魔法に頼らなかったり『広く浅く』が土壌だ。指揮官を育てて集団にバフをかける人材を育成するのも良いかもしれん。戦士だけでなく馬を強化して突撃力を上げたり、通常では引けない強力な弓を使えば、攻撃魔法に頼る必要はない。
強化魔法が普及すれば、補給物資の運搬に必要な兵士や馬の数も減らせるだろう。そして、それは平時の荷運び……物流全般にも応用できる。
王国が進むべき道としては、そういう方向も面白いかもしれないな」
するとジルクニフ皇帝は「なんてことを言ってくれやがるんだ、この骨は」という顔をした。王国がその方向に進んで成果を上げた場合、指揮官系の能力という厄介なものを相手にしなければならなくなる。同盟国同士で争うことは禁止だが、元王国軍の指揮官だった盗賊が部下を率いて暴れる……などという事態は、起きるかもしれないのだ。対策しなければならない。
ジルクニフはそれを表には出さないようにしたが、わずかに目の色が変わったのを、ザナック王は見逃さなかった。精神の異形種ラナーを妹に持つザナック王は、その正体を知って以来、メキメキと「相手の演技を見抜く能力」が育ちつつあった。
「指揮官を育てて集団にバフ……というのは、そのような事ができるのか?」
寡聞にして知らないのだが、とザナック王が尋ねた。
するとモモンガはあっさり答えた。
「できるぞ。
私のかつての仲間にも居たし、今いる仲間たちの中にも居る」
「人間にも真似できるようなものだろうか?」
「可能だとも。
実際、魔導国の一部になったカルネ村の村娘……今は村長だが、彼女が指揮官系の能力を持っている。
彼女は今や、5000体のゴブリンを使役する将軍だ。
意外と無自覚に指揮官系の能力を持っている人物は、何人も居るんじゃないか?」
「ふーむ……」
ザナック王は考え込んだ。どうやって育成しようか。誰が適任か。そもそも貴族たちは指揮官系の能力を持っているのではないか? あるいは経験のない村人に管理職をやらせて、指揮官として特化した経験を積ませるほうが良いのだろうか?
ジルクニフ皇帝も考え込んだ。指揮官に特化して育てれば、自分自身は戦闘能力を持たない。そのような人材を育てて、軍師として各軍団に配備する……やれば出来るだろうが、同時に暗殺や懐柔といった工作への対策が必要になる。指揮官だけ育てれば良いという話ではない。それに皇帝たる自分がそのような能力を持たないのだから、軍事的な指揮官は軍人の指揮を経験しなければならないのだろう。逆を言えば、軍事以外では指揮能力を発揮しないという事になるのではないか。
黙ってしまった2人。考え込む様子に、モモンガは邪魔しないように黙っていた。
だが5分たっても思考の海から戻ってこないので、だんだん気まずくなって沈黙に耐えかねてきた。
「モモンガ様、紅茶を淹れ直してもよろしいでしょうか?」
セバスが尋ねた。
ザナック王とジルクニフ皇帝は飲み干して、今日の当番を務めるリュミエールが何度も紅茶を注いでいるが、飲めないモモンガは置いたままだった。
「うむ」
モモンガが答えると、リュミエールが紅茶を淹れ替えた。
ふと気になって、ザナック王が口を開く。
「飲めなくても紅茶は楽しめるものなのか?」
「もちろんだ。
紅茶だけでなく食事全般、楽しいぞ。
もちろん私には味を感じる舌がないわけだが、そもそも人間の舌は5種類かそこらの味しか分からない。
一方、匂いなら私にも分かる。知っているか? 人間の鼻は数千種類の匂いを感知する。甘い水を飲んで、ただの砂糖水と思うか、何らかの果実水と思うかは、舌ではなく鼻で判断しているのだよ。
まあ、作らせるだけ作らせて食べずに捨てるのではもったいないから、アルベドに食べてもらっているがね」
「何か好みの味……もとい匂いはあるのかね?」
ジルクニフ皇帝も尋ねた。
匂いだけで楽しむ食事に、好き嫌いがあるのだろうか? という単純な興味だ。野菜を嫌う子供は多いが、それは苦味や油っ気のなさ(味らしい味を感じないとか青臭いとか)が原因であることが多く、サラダの匂いを嗅ぐだけでは感じ取れないものだ。匂いは匂いでも、口の中で咀嚼してようやく分かるものである。
「何でも好きだぞ。
だが匂いしか楽しめないので、料理らしい匂いが好きだな。
たとえばサラダの匂いなら、観葉植物や森林浴でも同じようなものだ。
料理人の工夫が詰まったドレッシングや香辛料の配合、あるいは肉が焼ける匂い、スープの芳醇な香り……好みの匂いは、そういったものだな」
「フルーツの香りもお好みでいらっしゃいますね」
セバスが言った。
単純に回数が多いからだ。
アップルパイとかではなく、カットフルーツが多い。
「あれはアルベドの匂いと合うからで……って、何を言わせるのだ」
「「ほぉーう……?」」
ニタァ~……。
ザナック王とジルクニフ皇帝の声が重なった。
「お熱いですな~」
「羨ましいことだ」
「私など、まずは相手が居ないというのに」
「私など、唯一政治に口出しを許している愛妾には、やたら冷たくあしらわれるというのに」
「羨ましいことですな~」
「お熱いことだな」
口々に言うザナック王とジルクニフ皇帝。
モモンガは何度も沈静化された。
「や、やかまし……あっ、落ち着いてきた。
ふっ……男としての器の違いというやつかな」
「「うっざ!」」
笑い合う三者。
国家元首同士の会談は、あり得ないほど和やかに終わった。
ザナック王は与えられた知恵を王国へ導入し、これ以降、王国は戦士の国として隆盛していく。
ジルクニフ皇帝は、モモンガの「王としての顔」と「個人としての顔」がまるで違うことを理解した。
「単なる友人として出会っていれば、本当に心の友になったかもな……骨だけど」