東方短編恋愛録   作:笠原さん

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恋愛小説の投稿って…こんなに緊張するんですね。
書いてる方、しかも連載してる方、心から尊敬します。

 
 
 


人形の様な貴女へ

 息を整え、心を落ち着け、覚悟を決める。

 

 コンコンコン

 

 僕は勇気を振り絞り、見慣れた扉をノックする。

 何度やっても、やはり緊張するのもだ。

 

 ガチャ、と。

 

 ノックして直ぐ、扉が開く。

 そして中から、彼女が姿を現した。

 

「あら、いらっしゃい。早かったわね」

 

「ウチは即日配達が売りですからね。基本的にはその日中にお届けしますよ」

 

 顔を見ただけで、舞い上がってしまう。

 それを隠し、あくまで店員と客の距離を意識して受け応えする。

 

「お疲れ様、少し上がっていったら?」

 

「お言葉に甘えさせて貰いますね。おじゃまします」

 

 何度も来ているけれど、未だに入る瞬間は緊張してしまう。

 まぁ、最初の宅配で来た時よりはマシに成っているはずだけれど…

 

 大量の糸や生地を詰め込んだダンボールを抱え、扉をくぐる。

 部屋の中を覗けば、いつもの様に人形達が忙しなく動き回っていた。

 

 霧雨道具店の宅配サービス。

 僕がこの仕事に就いてから、二ヶ月が経っている。

 つまり、彼女と出会ってからも二ヶ月経っているということだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 元々は外の世界で大学生をしていた僕は、ひょんな事からこの幻想郷に来てしまった。

 ひょんな事と言っても、山を歩いていたら道から外れ、気付けば幻想入りしていただけなんだけど。

 

 当然、最初は何が何だか分からなくてパニックになり、助けてと叫びながら森の中を走った。

 どんどんと奥へ迷い込んでしまったらしく、携帯を開けば圏外になっていた。

 

 気が付けば、体の様子がおかしい。

 少しずつ、体の端から力が抜けて行くような虚脱感に襲われた僕は、遂には座り込んでしまった。

 

 後から知った事だけど、僕が迷い込んでしまったのは魔法の森だった。

 瘴気の立ち込めた魔法の森は、普通の人間には害しか及ぼさない。

 

 段々と意識を保つ事すら難しく成って来た僕の心は、後悔で満たされて行った。

 

 何で、こんな処へ迷い込んでしまったんだろう。

 何で、高尾山に一人で来てしまったんだろう。

 何で、大学生に成ったのに彼女が出来なかったんだろう。

 

 考えれば考える程、思い残す事しか見つからなかった。

 それでも、そんな思考すらも薄れていく。

 

 あぁ、僕は死ぬのだろうか…

 ネロももしかしたら、こんな風に何かを悟りながら逝ったのかもしれない。

 あ、でもならせめて犬に寄り添って貰いながら天に召されたかった。

 でも、僕は猫派だからな…

 

「ちょっと、貴方大丈夫!?」

 

 あ、そう言えば家の金魚に一週間位餌あげて無い。

 多分、もう死んでるよな…

 ゴメンよお前ら、飼い主の僕がこんなにも不甲斐なくて。

 安心してくれ、僕も直ぐに逝くから。

 

「ねぇ、大丈夫!?生きてるわよね!?」

 

 何か、声が聞こえてくる。

 とても可愛らしい声が、僕を呼んでいる様だ。

 

 あぁ、成る程。

 僕はもう死んだのか。

 僕に呼び掛けているのは天使だろうか。

 つまり此処は天国か。

 

 一目見たいけれど目蓋が重くて開かない。

 相手の事を見ずに話すのは良くないけど、天使が話し掛けてくれてるんだからせめて返事はしないと。

 

「ご心配無く。もう死んでますよ」

 

「生きてんじゃない!立てる?歩ける?」

 

「え、生きてるの!?金魚って一週間何も食べなくても生きれるもんなの!?」

 

「馬鹿言ってんじゃないわよ!ウチまで運ぶからジッとしてなさい!」

 

 何だかよく分からないけど、僕は生きていたらしい。

 ここで、一度僕の意識はシャットダウンした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に僕が目蓋を開けた時、一番最初に目に入って来たものは綺麗な洋室の天井だった。

 

 …天井…はっ!

 

「知らない天井だ」

 

「あら、起きたの。起きて早々何言ってるのよ…」

 

 言わなきゃいけない気がした。

 目覚めた僕は、家の主であろう女の子に話し掛けられた。

 

 それにしても、綺麗な部屋と女の子だな。

 お人形さんみたいだ。

 

「起きたのなら着いて来なさい。状況を説明してあげるわ」

 

 言われるがまま彼女に着いて行った僕はリビングへと到着。

 そこで、僕が今置かれている状況について教えられた。

 

 曰く、此処は幻想郷と言う異世界であると言う事。

 曰く、僕は偶々迷い込んでしまった外来人であると言う事。

 

 最初は、お前は何を言っているんだ?と言う感想しか持てなかった。

 介抱してくれた事に対しては感謝してもし足り無いけど、意味分から無い事並べられても混乱しか出来ない。

 

「そうね、百聞は一見に如かず、だっけ?」

 

 そう言った彼女がフッと指を動かすと、彼女の後ろから小さな人形が現れた。

 …え、浮いてる!?

 

「どう?信じたかしら?」

 

 魔法と言われてもピンとこなかったし、ある程度の事は手品だと流せた。

 しかし、現代の技術では仕掛け無しに人形を宙に浮かせて踊らせる事なんて出来ない。

 それも、五体同時になんて。

 

「これは…信じるしかないね。兎も角、助けてくれてありがとう」

 

 深く頭を下げ、僕は彼女にお礼を言った。

 まだ脳の処理が追い付いていないけど、それは化学の教科書を開いた時だってそうだった。

 つまり、そう言うものなんだと認識するしかない。

 

 改めて、僕を助けてくれた彼女の顔を見る。

 

 フワッとした金髪のショートヘアに、赤いリボンの様なカチューシャ。

 全体的に青・白で構成された服は、見れば見るほどお人形さんみたいと言う感想を持たせる。

 整った顔をみれば、その感想は更に強くなった。

 

「どういたしまして。まぁ、結構慣れてるからね」

 

 どうやら、結構な頻度で僕みたいな遭難者が此処へたどり着いているのだろう。

 そんなニュース、聞いた事無いけど。

 

「あ、そう言えばまだ自己紹介して無かったわね。状況説明してたせいで忘れてたわ」

 

 あ、確かにそうだ。

 助けてくれた相手に、僕もまだ名乗っていない。

 

「私の名前はーー」

 

 それが、僕と彼女が初めて出会った日の出来事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの時は本当何かと思ったわ。いきなり金魚なんて言い出すんだもの」

 

 紅茶を飲みながら、彼女との出会いの日を笑いながら思い出す。

 確かに、アレは酷かった。

 まぁ、瘴気と疲労でマトモな思考が出来なかったからなんだけれど。

 

「でも、もうコッチの生活も大分慣れた見たいね。霧雨のおじさんも、貴方の事褒めてたわよ」

 

「まだまだミスしてばっかりですけどね。こないだも配達先を間違えてーー」

 

 こんな風に、彼女と談笑する時間がずっとずっと続けばいいのに。

 決して口に出す事はないけれど、そう思わない日も無かった。

 

 彼女に介抱された次の日から、僕は人里での生活を始めた。

 霧雨道具店と言う大きな店が今度から宅配サービスを始めると言う事で、土下座して雇って貰ったのだ。

 

 本当なら、博麗の巫女に頼めば元いた世界に戻れるらしかった。

 しかし、かと言ってあの世界に戻ってもやりたい事なんて特に無い。

 強いて言うなら金魚に餌をあげたかったけれど。

 

 それよりも、僕は彼女にお礼がしたかった。

 彼女にとっては慣れている事でも、僕にとっては命の恩人なのだから。

 

 もう一度、出来れば何度も彼女に会いたかった。

 

 思えば、一目惚れだったのかもしれない。

 命の危険を感じている時に一目惚れなんて吊り橋効果のせいだと言われるかもしれないし、実際にそうだったのかもしれない。

 

 それでも、宅配で彼女の家を訪れる度に、この思いは強くなっていった。

 

「それに、こうして僕が頑張れているのも貴女の応援があってこそ、ですよ」

 

「え、えぇ…ありがとう」

 

 僕がこうしてこの仕事を続けられているのも、彼女の応援があってこそ、なのだ。

 

 何も無かった僕の家に家具を貸してくれたり。

 何時も同じ服を着ていた僕に、人里で着ていても目立たない服を仕立ててくれたり。

 

 本当に、幾ら感謝してもし足り無い。

 

 彼女が霧雨道具店で買い物をすると、店長は何時も僕に届けに行く様に指示する。

 おそらく店長は、僕が彼女へ思いを馳せている事に気付いて、気を利かせてくれているのだろう。

 わざわざ僕に、瘴気除けの札を渡してくれるくらいなのだ。

 

 他の店員達も、少しニヤニヤしながら僕へ包装した商品を渡す。

 恥ずかしいけれど、いろんな人に応援されるともっと頑張ろうと思える。

 

 僕は、良い出会いに恵まれているな。

 

「でも、幻想郷へ来て翌日から一人暮らしなんて凄い話だわ。辛かったら何時でも相談してくれていいんだからね?」

 

「ありがとうございます。今の処問題も不満もありませんよ」

 

 まさか、貴女と暮らしたいです、なんて言える筈がない。

 僕にそんな勇気は無いし、言った処で冷たい目で見られるのがオチだろう。

 今の関係が壊れてしまっては、僕はもう何のために頑張っているのか分からなくなる。

 

 この家へ来る時は、毎回思いを伝えようと決意して店を出る。

 今日こそは、今日こそはと心に決め、どう思いを伝えるか言葉を選びながら森を歩く。

 まぁ、既に二ヶ月も経っている事から、どういう結果に終わったかなんて考えるまでも無く出るのだけれど。

 

「貴方くらいよ、私が魔法使いだって言っても全く態度を変えなかったのは。魔法使いって聞くと、皆に少し距離を置かれちゃうのよね…」

 

「まぁ僕は、魔法使いだって言われても怖い者なのかどうか分かりませんからね。知っていても変わらなかったと思いますけど」

 

「えっ?それってどう言う…」

 

 ここで、例え君が何者だって僕の思いは変わらないよ、なんて言えたらカッコいいのかもしれない。

 当然、僕にそんなキザな事をいう勇気は無い。

 

 なんだかんだ、僕はヘタレなのだろう。

 女の子の家の中へ招いて貰っていながら、緊張を抑えながらいつも通りに話す事しか出来ない。

 自分でも情けないなと思う。

 

 まぁ、家へ上がらせているからと言って、彼女が意識しているとは限らないのだ。

 と言うか、慣れていると言っていたし、男性を家へ上がらせる事に抵抗は無いのだろう。

 

 …はぁ、なに一人で緊張しているんだろう。

 初めの頃よりは大分マシになったけど。

 

「それに、何時も何時も運んで来てくれてありがとう。結構重たいのに大変でしょう」

 

「いえ、このくらいはなんてことありませんよ。もっと重い荷物を運ぶ事もありますからね」

 

 貴女に会えるなら何度だって来ますよ。

 

 僕にそう言える勇気があればいいのに…

 こう何度も何度もチャンスを逃していると、何だか虚しくなってくる。

 

 いや、まだだ。

 まだ陽がくれるまで時間はある。

 それまでに、なんとか勇気を降り絞ればーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、もう夕方になっちゃったわね…どうする?」

 

「そうですね。夕飯も食べないといけませんし、帰るとしますか」

 

 楽しい時間と言うのは、往往にして早く過ぎていくものだ。

 気付けば、窓の外は綺麗なオレンジに染まっていた。

 

 よく考えたら、そもそも店を出たのが午後に成ってからだった。

 翌日の午前から彼女の家に居ればもっと長く話していられるのに。

 即日配達が此処で枷になるとは…

 

 まぁ、そんなに長くいたら彼女の迷惑になってしまうか。

 二・三時間が迷惑にならない丁度いいラインだろう。

 

「お邪魔しました。では、霧雨道具店配達サービス、またのご利用をお待ちしております」

 

「ええ、また近いうちに行くわ。暇があれば、仕事じゃ無くても来ていいわよ」

 

 この言葉で舞い上がるのは恋愛初心者のやることだ。

 社交辞令をそうと見抜けない奴は、必ず恋愛で痛い思いをする。

 多分そう…僕も初心者だけど。

 

 それでも内心少し舞い上がってしまうのを抑えつつ、僕は帰路へ着く。

 振り返れば、彼女はまだ此方を見て小さく手を振っていた。

 

 夕陽に照らされた彼女の表情を見れば、もうお人形さんみたいだなんて感想は抱かない。

 

 素敵な笑顔だな、と思いつつ、僕は店へ帰っていった。

 勿論、今回の反省と次回への決意をかためる事も忘れない。

 

「はぁ…よし!次こそは!」

 

 このセリフも、もう二ヶ月言い続けている。

 

 願わくば、次回の僕がもう少し勇気を持てますように。

 

 願わくば…彼女が少しでも、僕の事を意識してくれていますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…またダメだったわ…」

 

 折角彼が来てくれたのに、今回も想いを伝える事は叶わなかった。

 こう何度も何度もチャンスを逃していると、何だか虚しくなってくるわね…

 

 彼の事を意識し始めたのは、いつからだっただろう。

 

 出会った当日かもしれないし、霧雨道具店で再会した時かもしれない。

 兎も角、それからというもの、彼が私の心を占める割合はどんどんと増えていった。

 

 しかし、なかなかアプローチに気付いて貰えない。

 

 家に上げるのだって凄く勇気を出したのに、彼は動揺もせずに入って来るし。

 私、全く意識されてないのかしら。

 

 本当は夕飯を食べていって貰いたいし、一緒に暮らしたい。

 でも、それを伝えたら今の関係が壊れてしまうかもしれない…

 それは嫌だわ。

 

 でも、そろそろ勇気を出さなきゃいけないわよね。

 

 霧雨のおじさんも、私が彼に想いを馳せている事に気付いて気を利かせてくれているし。

 他の店員さんも、協力してくれているし。

 

「…よし、次こそは!」

 

 次回こそ、彼に料理を振る舞おう。

 次回こそ、新しく仕立てた服を渡そう。

 

 少しでも彼に、私の事を意識して貰うために。




どうも、笠原です。
いかがでしたか?
何か急に恋愛小説を書いてみたくなって、勢いで完成させてしまいました。
これからも、ふと思い立ったら書いていくつもりです。
ちなみに、投稿するとき凄く足をバタバタしてしまいました。

誤字脱字、アドバイス、コメント、お待ちしております。
次はこのキャラ出して、等も承ります…出来そうなキャラなら…

あ、今回のメインヒロイン。
分からなかった方なんていませんよね?
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