またもや遅くなってしまい申し訳ありません。
今回もリクエスト回です。
では、どうぞ
「咲夜が冷たい、ですって?」
紅魔館地下に存在する図書館に、間の抜けた声が響く。
外の光が指さない本に囲まれた空間で、二人はティーカップを傾けながら会話していた。
その声の発信源は、この図書館の主である大魔法使い。
今日も相変わらず読書に勤しんでいた彼女は、右手に魔導書を、左手にティーカップを構えながら気の抜けた反応を示していた。
出来れば、人と会話する時は本を置いて欲しいものである。
そしてそんな彼女の反対側に座り、相談をしているのが紅魔館の執事である俺。
休憩がてら、暖かくて話し相手の居る図書館へ来ていた。
紆余曲折あって紅魔館で働く事になり、現在メイド長である咲夜と付き合っている。
大事な事だからもう一度言おう。
俺は咲夜の恋人だ。
俺が此処で働き始めて、直ぐに彼女の事が好きになった。
何度も何度もアプローチと玉砕を繰り返し、ようやくイエスを貰えたのだ。
当然、交際が決まった時は飛び上がって喜んだ。
ベタだけれど、夢かと疑って頬が腫れ上がるまで引っ張った。
勢い余って人里で暮らす親に手紙を出し掛けた。
…のだが。
「反応とか色々と素っ気無いんだよな…時々恋人って認識して貰えてるのかどうかすら怪しくなってくるぜ」
咲夜は、俺が予想していた以上にクールでドライな女性だった。
いや、付き合いだす以前から何と無く分かってはいたのだけれども。
まず最初に、目を合わせてくれない。
目を合わせ様とすると、スッと視線を逸らされる。
最初のウチは恥ずかしいのかな?とも思っていたが、流石に恋人同士に成って二ヶ月が経つのにこれは流石におかしい。
あれ、俺何かやらかしたかな、と自問自答した日も少なくない。
次に、名前で呼んでもらえない。
あの咲夜の事だから覚えていない筈が無い。
だと言うのに未だに一度しか名前で呼んで貰った試しが無いのだ。
これまた最初は恥ずかしいのかとも思ったが。
そして未だに、何の進展もない。
さっきも言ったけど、二ヶ月だ。
交際が決まってから二ヶ月が経ち、尚且つこの紅魔館に一緒に暮らしていると言うのにキスどころかデートすら無いのだ。
週一位でデートに誘ってみても、全てすげなく断られている。
あれ、もしかして俺って実は好かれて無いんじゃない?と。
そう思ってしまうのも仕方の無い事だろう。
「今日だって、書類渡す時に手が触れたんだけどさ。バッ!って離れられて気付いたら居なくなってたんだよ」
酷過ぎないか?
菌扱いされるとか、寺子屋に居た時以来だ。
逃げるのにすらも能力を使うって…
俺、本当は嫌われてるんじゃない?
最近は、俺が仕事をしようとしてその場に向かうと高確率でその場に咲夜が居て全て済ませている。
偶々かもしれないけど、能力使って先回りされているような気もする。
仕事の腕すらも信頼されていないんだろうか。
関係無いけど、咲夜って何故かツンデレなイメージがある。
うん、ツンデレなら仕方ない。
構わないから。
お願いです、デレを下さい。
「それに、このあいだのバレンタイン。俺結局貰えなかったんだけど…」
世界中の男どもが気持ち悪くも胸をときめかせる二月十四日。
例に漏れず、俺もニヤニヤしながら一日を過ごしていた…のだが。
結局、俺は咲夜からチョコレートを貰えなかった。
いや、あれだよ。
きっと仕事で忙しいんだよ。
そう自分に言い聞かせ、十四日の午前零時から十六日の午前零時までまるまる四十八時間ずっと起きて待っていたのに咲夜は来なかった。
当然泣いた。
泣きながら他の奴に貰ったチョコレートを食べた。
しょっぱかった。
「あ、やばい。思い返してたら涙出てきた」
「あー泣かないの。まったく貴方達は…」
そんな俺に、紫色のハンカチを渡してきた。
心遣いが心に染みる。
あ、ほんとに涙出てた。
割と心が弱ってるのかもしれないな。
「まだまだ他にも色々あるんだけどさ…」
「はいはい、聞いてあげるから落ち着きなさい」
ありがた過ぎて余計に涙が出そうになる。
兎も角先ずは心を落ち着ける。
めげるな、俺。
そんなんじゃ何時まで経っても咲夜に認めて貰えないぞ。
いや、既に恋人なんだけどさ。
…ふー
「でさ、バレンタインの二日後にーー」
「ーーと。まぁこんなもんだな」
「あら、もう紅茶完全に冷めちゃってるわね…」
いやぁ、喋った喋った。
愚痴って言うのは、話し始めると止まらないもんだな。
この図書館は、管理人である彼女によって防音の魔法が掛けられているから外へ声が漏れる事が無い。
扉の開く音がすれば止めれば良い。
咲夜は時間停止の能力と元の静けさが相俟って、凄く神出鬼没だから此処以外だとおちおち愚痴れないのだ。
「悪いな、長々と愚痴っちゃって」
「いいわよ、別に。気にしないで頂戴」
ふー。
やっぱ愚痴るとサッパリする。
聞いて貰うだけでも楽になれるとは言うが、それは相手が聞き上手だった場合だ。
俺のこんな長い愚痴に付き合って貰えて感謝しなきゃな。
「あ、今更だけど、チョコレートありがとな。凄く美味しかったぜ」
「そう、それは良かったわ」
仕事が忙しくて、なかなかお礼を言う機会が無かったからな。
結構遅くなったけど、ようやく言えたよ。
さて、そろそろ俺も仕事に戻らないと。
これでまたサボってると思われるのは御免だからな。
「じゃ、後で紅茶淹れに来るよ」
「ええ、また後でね」
そう言って俺は、図書館の扉を開く。
ブォッと、冷たい空気が流れ込んで来た。
既に三月に入っているが、まだまだ幻想郷は寒い。
この暖かい空間とも一旦お別れか。
そう言えば、今月の十四日はホワイトデーだ。
紅魔館の色んな人から貰ったし、御返しを準備しておかなければ。
特に図書館の主と館の主にはちゃんとしたものを渡さないと。
片方には普段からお世話になっているお礼。
片方にはイチャモン付けられてネチネチ言われないように。
…貰えて無いけど、咲夜にも何か渡そう。
悲しい決断を胸に、素早く図書館から出て扉を閉じる。
折角の暖気を逃がしてしまっては申し訳ない。
さて、と。
取り敢えずまた、デートにでも誘ってみるか。
パタン、と。
彼が出て行ってから約一分後、再び図書館の扉が開かれた。
流石にこんなに早く彼が戻って来れる筈は無い。
とすると…
「失礼します。紅茶をお持ちしました」
やはり、訪れたのは件のメイド長である十六夜咲夜だった。
相変わらず、ピンとした姿勢に凛々しい表情を浮かべている。
…浮かべているのだけれど。
「一応聞くわ。私って貴女に紅茶を頼んだかしら?」
「いえ。偶々彼が此処から出て行くのを見かけまして、紅茶を取りに行った様でしたので私が先に済ませてあげようと」
偶々、ね。
四六時中能力使って引っ付いてる奴が良く言うわ。
どうせ彼の仕事を代わりに済ませてあげて褒めて貰いたいのでしょう。
微妙にニヤけているわよ?
「彼の行動パターンを把握したのは良いけど、貴女の意図を教えてあげないと彼に勘違いされるわよ?」
「直接伝えるなんてそんな…私にそんな恥ずかしい事は出来ませんよ」
ストーカーが頬を赤く染めてモジモジしながら何を言ってるのかしら。
恋人なんだから、貴方の為に仕事を終わらせてあげたわ褒めてーくらい言いなさいよ。
彼、貴女に仕事の腕を信頼されてないって悩んでたわよ?
彼は知らないみたいたけれど、咲夜は物凄い恥ずかしがり屋だった。
職場の環境的に男性と触れ合う機会が少なかった為、男性に対しての免疫がまったくと言って良い程無かったのだ。
しかし、内心テンパっていても表面だけはクールに取り繕をうとする。
結果、冷たいと勘違いされてしまうのだ。
「私は、彼の前ではクールな女性でありたいですから」
そうね、大丈夫よ。
一周回って冷たい女だと思われてるから。
確かに彼は貴女の冷静な処にも惹かれてたのでしょうけれど、もう少し貴女は自分に素直になっても大丈夫よ?
「それに貴女、彼に触れられて逃げ出したみたいじゃない」
「あ、あれは不可抗力です!いきなり指が触れたら危ないじゃないですか…」
何が危ないの?
彼の指先には何かあるの?
そう突っ込みたい気持ちをグッと抑える。
普通触れた瞬間にばっと離れられたら傷付くものなのだけれど、そんな簡単な事も分からないのかしら。
と言うか、二ヶ月も付き合ってて目も合わせられないってどうなのよ。
名前で呼ぶのは仕方ないにしても、幾ら何でも恥ずかしがり過ぎじゃないかしら。
「デートを断っている理由は?」
「誘って貰えて嬉しいんですけど…恥ずかしくって、つい…」
成る程、ついときたか。
この様子だと、返事をする前に能力使って逃げ出してそうね。
よくもまぁ彼はそんな反応をされても愛想を尽かさずにいられるものだ。
下手したら心折れるわよ。
この調子じゃ、キスなんて当面は不可能でしょうね。
そもそも真っ正面から向き合えていないんだもの。
「バレンタインも、チョコレート頑張って作ったんですよ。作った…んですけど…」
渡せなかった事はさっき彼から聞いたわ。
彼、かなり落ち込んでいたわよ。
「あの人が寝たら枕元かテーブルに置こうとしたんですよ。なのに、何故か全く眠ってくれなくて…」
…うん、成る程ね。
もう言いたい事が多過ぎて言葉もないわ。
なんでそこで勇気を出さないのよ。
バレンタインに勇気を出さずして何時出すというのよ。
と言うか、貴女も少しは恥ずかしがってないで彼の気持ちを考えてあげなさいよ。
せめて、自分の気持を素直に伝えられる様になりなさいよ。
…なんて。
私は、彼と咲夜の事をとやかく言える立場ではない。
私に出来るのは、話を聞いて相談に乗ってあげる。
ただ、それだけ。
「結局、作ったチョコレートは自分で食べたわ。しょっぱかったです…」
何貴女まで泣いてるのよ。
泣きたいのは彼の方だったでしょうに。
いや、現に彼は泣いたみたいだったけど。
はぁ…
これで二ヶ月続いてるって言うんだから不思議なものね。
「ま、咲夜もそろそろ覚悟を決めなさい。彼が告白した時は、貴女以上に色々と覚悟していた筈よ」
彼がどれだけ苦労していたかは、私が一番良く知っている。
私が、ずっと彼の一番近くで見守ってきたのだから。
だからこそ咲夜には、臆病になって欲しくない。
恥ずかしいなんていう気持ちを感じないくらい、彼の事を想ってあげて欲しい。
「…そうですよね。ホワイトデー、今度こそ渡してみようと思います」
本来ホワイトデーはバレンタインにチョコレートを受け取った男性が御返しをする日だけれど、そんな事は関係無い。
幻想郷では常識に囚われてはいけないし、此処紅魔館では特にそうだ。
まぁ多分彼は、貰って無くても咲夜に何か渡すつもりだったでしょうね。
分かってしまう自分が嫌になるけれど。
「ありがとうございました、相談に乗って頂いて」
「いいのよ、慣れてるから。ほら、そろそろ咲夜も仕事に戻りなさい」
彼が来ちゃうわよ、とは言わない。
まぁおそらく、言葉にしていなくても伝わっていると思うけれど。
「はい。失礼しまし
ガチャ、と。
図書館の扉が開かれた。
誰が来たのかは、考えるまでも無い。
タイミングが悪いわね…
…でも。
「じゃ、咲夜。頑張りなさい」
「えっ、あ、あの…」
勇気を出すって決めたんでしょ?
なら、それが十三日早くなっただけだと思いなさい。
「おーい。お、咲夜じゃないか」
相変わらず、貴方は元気ね。
立ち直りが早いったらありゃしないわ。
それに対し、オドオドしている咲夜。
能力を使って逃げ出そうとしなかっただけ、幾分変わったのかもしれない。
さて。
お邪魔虫はさっさと退散しないとね。
馬に蹴られるなんて嫌だもの。
「私は少し、外の空気を吸って来るわ」
珍しく私は図書館の外へ出た。
パタン、と。
またもや扉の閉まった音がする。
今日は開閉の多い日ね。
そしてそのうちの一人に私がなるなんて思いもしなかったわ。
そんな関係無い事を考えながら、それでもやはり図書館に残した二人の事が気になった。
果たして、お互いのすれ違いは解消されたかしら?
咲夜、勇気を出せるといいわね。
あの人には幸せになって欲しい。
だから、少しでも彼の支えになれるように相談に乗っているのだ。
咲夜にも幸せになって欲しい。
だから、私は…
すれ違っている二人を見ていたら、何だか笑いそうになる事が何度もあった。
当人達は大変なのでしょうけれど、はたから見たら空回りっぷりが面白かった。
方や素直過ぎて。
方や素直になれずに。
まったく。
世話の掛かるカップルだ。
ほんっと。
泣きたいのは、私の方だって言うのに。
如何だったでしょう。
何時までバレンタインネタやるつもりだ、と言うツッコミはやめて下さい。
咲夜さんが素直に成れない話を、との事でしたので僕なりに書いたらこれですよ、はい。
一話完結じゃないじゃん?聞こえませんなぁ…ごめんなさい。
なんとなくですが、リクエスト回はサブタイを英語にしようと思います。
ちなみに、前回のも今回のも造語です。
ラブストーリーじゃ味気ないと思いこっちを使いました。
日刊、週刊ランキングについに乗りました。
応援して下さった方々、本当に有難うございます。
誤字脱字・アドバイス・コメントお待ちしております。
気軽に話し掛けて下さい