時間が空いてしまってすみません。
またもや一週間…
それでは、どうぞ
三月十四日。
この言葉にトキメキを覚えるのは、その一ヶ月前に勇気を出した女の子だけ。
勇気を出せなかったり失敗した女の子と、そもそも受け取る事の無かった男の子には関係の無い日。
愛と勇気とその他諸々を込めた甘い甘いチョコレートを、リボンで可愛くラッピング。
それを意中の人に受け取って貰えた女の子が、そのお返しを期待する日。
貰って無くても何かを渡す男の子だっているし、チョコレートを貰ったお返しをする女の子だっているけれど。
そう言うのは、今は関係無い。
大事なのは、今日私は期待する側だと言う事。
二月十四日、三月十四日、七月七日、十二月二十四日。
一年の内に数度ある、勇気を出す人の背中を押してくれる日。
今日は、その内の一日だった。
二月十四日は、私も想いを向ける人にチョコレートを渡した。
想いを綴った手紙を添えて。
二日前から何度も練習し、失敗を重ねてようやく出来たチョコレート。
徹夜して何度も書き直したラブレター。
バレンタイン当日は、鏡の前で鏡の自分と睨めっこ。
外の世界に居た頃はオシャレに気を遣ったけれど、生憎此方では巫女服しか無い。
あるっちゃあるけど、セーラー服…
髪を整え、息を整え、いざ出陣。
…っと思った矢先、彼は神社を訪れた。
それは神の奇跡か、私の奇跡か。
普段は普通に会話出来ている私も、流石にこの日は少し違う。
目が合うと、何だか頭がこんがらがってしまった。
胸がドキドキなんて生易しいものじゃない。
冗談抜きにバクバクして死ぬかと思った。
多分少しパニックになって涙目になってたと思う。
ニコニコしながら私の言葉を待ってくれた彼に、私はたどたどしい言葉と共にチョコレートと手紙を渡した。
本当はその場で応えを貰いたかったけれど、私が弱虫なのと彼にも用事があるだろうと思い先延ばしに。
そしてそれが、一ヶ月後。
つまり、今日。
私は、彼から返事を貰う。
「諏訪子様、神奈子様、行って参ります!」
元気に行ってきますと伝え、私は神社を飛び出した。
元気が良いね、とよく色んな方に言ってもらえるけれど、実の所私には元気しかない。
外の世界では若干ハブられていた感のある私は、コミュニケーション能力がそこまで高く無かった。
だから、こっちに来てからは元気と勢いで誤魔化す様になった。
折角今までの私をしる人が居ない世界に来たのだから、少しは変わってみたかった。
でも、自分を変えると言うのは思った以上に難しい事。
それでも元の世界の頃の私を認めたくなくて、元気に明るく振舞っていた。
そして彼は、応援してくれた。
そんな私に、頑張れと言ってくれた。
ならば、明るく元気に笑顔で振る舞うしかない。
せめて、彼の前だけでも元の世界とは違う私でありたい。
境内に散らばった落ち葉を、飛び上がる時の風で更に撒き散らす。
掃除は帰ってきてからやればいい。
どうせ私の仕える二柱は、掃除なんてやってくれないだろうから問題無い。
本当は彼が神社まで来てくれる方が嬉しいし来てくれると願いたかったけど、どうにも私は待つ事が出来なかった。
自分で先延ばしにしておいて言うのも難だけど、やっぱり早く応えが欲しかったから。
一ヶ月後に返事を下さい、なんて言った私を殴りたかった。
でも、やっぱり少し怖い。
これで断られたら、これで諦めなきゃいけなくなったら。
私はどうすればいいんだろう。
そうなると、返事をもっと先にしても良かったかもなんて思えてしまう。
だってその方が、片想いながらも幸せな思いを出来るのだから。
断られてしまっては、片想いですらいられなくなってしまう。
でも、きっと。
弱気な私を、彼は好きになってはくれない。
だから私は勇気を出した。
大丈夫、大丈夫。
今日一日は、強気で元気な私だから。
きっと、彼も私の事を…
人間の里も、今日はなんだか何時もと違う。
バレンタインデー程ではないものの、やっぱりどこか浮き足立っている様な印象。
こっちの世界はこう言ったイベントに対して積極的だから当然なのかもしれないけれど。
元の世界では、想いの人だけにチョコレートを渡す事なんて周りの目を気にして出来なかった。
想いを伝えるなんて、尚更。
寧ろ女子は、全員に渡さなきゃいけないみたいな雰囲気だった。
それに、断られたら余計私に居場所が無くなってしまう。
そんな弱気な私が元の世界で勇気を出せた事は、無かった。
でも、この世界は違う。
今までの私の常識を壊すかの様に、この世界は全てを受け入れてくれた。
周りに縛られる事なく、自分自身であろうとする事が出来た。
まぁそれでも最終的に勇気を出せるかと言えばまた違ってくるけれど、やっぱり元の世界よりは格段に出し易かった。
町角には、私と同じくらいの歳の女の子がソワソワと誰かを待つ様に立っていた。
何度も何度も腕時計を確認している。
あの子もきっと、私と同じ状況なのかな。
もしかしたらもう既に返事を貰い、ただ単にお返しを待っているだけかもしれないけれど。
寺子屋の中を窓から覗けば、生徒達の机の上にはお菓子が乗っていた。
あの優しくお人好しな半妖教師の事だから、多分生徒全員に配ったんでしょう。
バレンタインデーにチョコレートを渡していようがいなかろうが、子供と言うのはイベント毎に何かを欲しがるもの。
貰えない子がいると問題が起きるからバレンタインデー等を禁止しろなどと言い出す親がいる元の世界と比べ、やっぱりこの世界は大らかなものだ。
ふと先程の女の子が立っていた場所を見れば、もう既にそこには誰も居なかった。
既に男の子と合流出来たんだろう。
それともこれまた私と同じ様に、時間まで待てずに意中の男性の家へと向かってしまったのか。
どちらにしても、良い結果になるといいね。
そうだそうだ、私も早く彼の所へ向かわないと。
これで入れ違いになってしまっていたら大変だ。
何のためにわざわざ神社での業務を置いて人里まで来たのか分からなくなる。
また少しずつ、不安が湧いてきた。
足取りが少し重くなる。
これでもし、受け入れて貰えなかったら…
これでもし、別の女性の名前を出されたら…
一旦帰ってしまおうか。
別に私から出向く必要も無いんじゃないか。
少しでも長く、片思いでいた方がいいじゃないか。
いや、それこそわざわざ出向いた意味が無くなってしまう。
こうやって明るく元気ハツラツな女の子でいた方が、彼に良く思って貰えるかもしれないのだし。
そもそも、神社で待っていたって結果は分かってしまうのだし。
「…よしっ!」
パンっと、両手で頬を叩いて喝を入れる。
弱虫の自分とは一旦御別れ。
ここからは、この幻想郷の人達がよく知る元気で明るい風祝。
少し強く叩き過ぎて紅くなった頬をまだ肌寒い風が撫でる。
まだお昼頃ではあるけれど、桜にはまだ少し早いこの時期の気温は何もせず外に立っていれば手がかじかむ程。
不安を抑える意味も込めて両腕を抱き、ゆっくりと彼の家へ歩き出す。
落ち葉を飛ばし吹く風は、まるで私の背中を押す様だった。
大丈夫、大丈夫。
風も私を応援してくれているんだから。
きっと、大丈夫。
コンコンコン。
家の前の通りで約十分、家の扉の前で約十分。
息を整え髪を整え、伝える言葉と覚悟を決めて、ようやく私は扉を叩けた。
でも、当の本人を目の前にしたら。
やっぱり用意した言葉も整えた脈も全部とんじゃうんだろうな。
せめてパニックにだけはならない様に。
受け入れて貰えなくても泣かない様に。
彼に、面倒な女の子だと思われたく無いから。
…………
待てど暮らせど、応答は無い。
どうやら家主である彼は居ない様だった。
もしかして、やっぱり入れ違いになっちゃってたかな?
素直に神社で待ってるべきだったかな?
いやいや、案外その辺りに出ているだけかもしれない。
今日がホワイトデーだからと言って、他に全く用事が無いとは言い切れないのだし。
よし、少しその辺を探し歩きながら彼を待とう。
そして一時間経っても見つからなかったら神社へ戻ればいいか。
そうと決めたら、行動開始。
早速私は歩き始める。
特にあても無く、彼の家から離れ過ぎ無いようにブラブラと私は歩いた。
もし彼が戻って来た時に気付けない又は気付かれない様じゃ意味が無い。
彼の家の前の通りから曲っても一本の通りまでを、風景を見ながら進んでは戻る。
彼は毎日、こんな風景を見て生活しているのか、と。
まるで彼により近付けた様な感覚になりながら、道にある店を見ていった。
ありきたりな名前の八百屋。
少し寂れた畳屋。
お昼時の為に少し混み合った甘所。
道行く人に声を掛けている魚屋。
そのどれもがありふれた光景。
元の世界でも此方の世界でも変わらない光景。
けれど、普段彼が見ている光景なんだと思うと、また違ったものとなった。
あぁそうだ、確か神社の障子が一箇所破れていたから貼り直しておかないと。
早く元通りにしておかなきゃ、諏訪子様がその事を持ち出して私の分のお菓子を食べてしまうかもしれない。
でも私苦手だから…っていやいや、別に今それを思い出さなくてもいいじゃない。
折角の日なんだから、少しは仕事から解放されなきゃ。
いや、でも。
もし彼と共に暮らす事となったら、やっぱり障子貼りも完璧にこなせる女にならないと。
頼りになる、と思って貰いたいし。
それ以外は完璧な筈だわ。
神社の家事を全て私一人でこなしているくらいには、私は家事に長けている。
掃除に炊事に値切り。
多分そんじょそこらの女性には負けない。
あ、そう言えば。
夫婦になったら夜は…うーん。
外の世界で恋人がいた経験なんて無いから、どうすればいいのか分からない。
残念ながら、偉そうに体験談を語ってくれる友達もいなかったし。
まぁなるようになる。
大丈夫、多分。
と言うかそもそも、それは彼が私の事を受け入れてくれたらの話。
一体何を何処まで妄想して、私は舞い上がっているんだろう。
でも、彼との未来を思い描いている間、私はとても幸せな気分になれた。
簡単な女だなんて思っちゃいけない。
恋する少女はみんなそうな筈だ。
そしてそんな簡単な幸せの行方も、あと少しで決まる。
二分の一で私はその幸せを現実のものにできる。
二分の一で私はそんな幸せすらも失う。
恋愛をそんな風に確率で考えていいものではないけれど、私からしたら二者択一なのだ。
選ぶのは私では無いけれど。
…ふぅ、と一息。
そう悲観的になっちゃいけない。
そんな悲観的な事を考える女の子を好きになる男の子なんて居ないよ、と。
そう自分を戒め、笑顔に戻して来た道を戻る。
行きと帰りで見える景色は大分違う。
そしてこれもまた、彼が家へ帰る時に眺める光景。
まるで彼の生活をなぞっているみたい。
そう思うと、不思議と心が温まる。
パタパタとブーツが土を鳴らし、居場所はまたもや彼の家の前。
もう帰って来てるかな?
流石にまだまだ帰って来てないかな?
そう思い再び扉を叩く。
今回は、先程みたいに時間は掛からず行動出来た。
しかしやはり、返事は無い。
まだ彼は戻っていない様だ。
まぁまだ時間はある。
と言うか私が戻って来るのが早過ぎた気もする。
今度は道のもう一方へ歩いてみよう。
彼の生活をなぞる為に。
それにしても、随分気が楽になったものだ。
気付けば足取りも軽い。
彼との未来に想いを馳せて夢を見るだけでこんなに心が変わるとは。
あ、そうだ。
どうせなら彼の家の中を少し覗いてみようかな。
彼の普段の生活を、より近くなぞる為に。
彼との未来の想像を、よりしっかりとしたものにする為に。
人通りも多くないし、この世界なら通報される事もないし。
彼もまだ帰って来てないし、大丈夫かな。
もし運悪く帰って来て覗いているところで鉢合わせしたら大変だけど、そんなに私は不運じゃない。
これだって神の端くれなのだから。
家の周りをぐるりと回ると、幾つかの窓のうち一つのカーテンが少し捲れているのを見つけた。
これまた幸運な事に、その窓は通りに面していない。
通行人からは気付かれない位置。
これも女神の奇跡かな?
あ、私が女神でしたね。
そんな馬鹿な事を考えながら、私はその窓の元へ向かった。
大丈夫、何か悪さをする訳じゃない。
やましい事をするつもりも無い。
ただ少し、彼に近付きたいだけなのだから。
罪悪感が無いわけではないけれど、それ以上に好奇心と欲が大きかった。
自分に言い訳を言い聞かせ、窓の桟とカーテンの隙間から中を覗いた。
そして、私は見てしまった。
先程の女の子と彼が、唇を重ねているところを。
最初に浮かんだのは疑問符。
何が何だか、分からなかったのだから。
なんでその子が家に?と。
なんでその子とキスを?と。
次に浮かんだのは感嘆符。
驚き以上に、その事実を認めたくなかったから。
何故その子なの!と。
何故私じゃないの!と。
最後に浮かんだのは、私自身。
全てを理解しきる前に、その場所を一刻も早く離れたかったから。
いや、理解は大方出来ていた。
それでもやっぱり、認めたく無かった。
涙が溢れる前に空へ跳び上がり、私は人里を離れた。
しかし直ぐに視界は歪み、真っ直ぐな飛行が困難になる。
私は近くの森に着地せざるを得なかった。
気持ちは抑えられなくても、心は波打ち続けても。
頭ではしっかりと、全てを理解してしまっていた。
何故私は、あの女の子が上手くいく事を祈ってあげてしまったんだろう。
あの時私が何も思わなければ、あの家で彼と唇を重ねていたのは私だったんじゃないか。
もしかしたら私の能力のせいで、奇跡が起きてしまったのかもしれないのだから。
…私は、何を…
なんでそんな、まるであの女の子に不幸を願うかの様な事を…
私は現人神、人々と仕える二柱の幸せを願う者。
そんな私がそんな事を考えていい筈が無い。
そもそも奇跡なんて関係無く、彼はあの女の子に想いを馳せていたのかもしれない。
私の能力関係無く、あの二人は結ばれる未来だったのかもしれない。
もしかしたら、元からあの二人は恋仲だったのかもしれない。
自分の恋愛の結果を、起きたかどうかも分からない奇跡の所為にしていいわけが無い。
だけど、それじゃあ私は…
想いを馳せた女の子として、彼には迷惑を掛けたく無いし、明るい女の子だと思っていて欲しい。
人々の幸せを願う現人神として、あの女の子には幸せになって欲しい。
けれど、私は…
私の思いは…
思考の渦は止まらない。
後悔の念も止まらない。
涙が止まる様子もない。
誰もが気付かぬ静かな森で一人静かに。
私はーー
如何だったでしょうか。
楽しんで頂けたら幸いです。
楽しい話じゃないですけれどね。
投稿日であるホワイトデー、その前日に他の作者仲間の方々と
「自機五人のうち1.2キャラ選んでホワイトデーの話を書こう」
となりまして、僕はこの人物を選んだわけであります。
変態様、来翔様、AUO...#様の三人は、またそれぞれ別の人物で別のストーリーを作り上げております。
急な企画で、御三方にはかなり迷惑を掛けてしまったと思います。
是非、其方も目を通してみて下さい。
ホワイトデー企画、と検索すれば出てくる筈です。
誤字脱字、コメント、アドバイスお待ちしております。
次回は割とすぐに投稿出来そうです。
またお付き合いください