(更新速度が)サラマンダーよりはやーい!
…ごめんなさい。
口調や雰囲気が分からず悪戦苦闘しておりました。
それでは、どうぞ
「桜、もう散っちゃったわねぇ」
四月中盤、まだ寒さの抜け切らない雨の日のお昼前。
ふと、君はそう呟いた。
つい先日までは見渡せば一面桜色だった白玉楼の木々も、既に仕事は終えたと言わんばかりに色を変え切っている。
それでも散った花弁が地面を鮮やかに彩っていた昨日だが、今日の雨のせいでとても綺麗なモノとは言えなくなってしまっていた。
あれじゃあ妖夢も掃除が大変だろうな、と台所で奮闘しているであろう庭師を慮る。
桜の花の寿命は一週間弱。
四月に入る前から既に咲いていたから、今年は例年よりはもった方だろう。
ここから桜の樹木は、翌年の春へ向けて再び養分を蓄え始めるのだ。
「まぁ、儚い美が桜の良さとも言うからな。それに、俺は葉桜も嫌いじゃないよ」
珍しく溜息なんかついて外を眺める君を見て、最適解を思い付かず当たり障りの無い返事を述べる。
まぁ俺自身は本当に満開の桜よりも葉桜の方が好きだったりする。
ちなみに葉桜は、桜の花弁が散って若葉が見え始める頃から、樹木全体が若葉覆われるまでの事。
それ以降のただ葉に包まれているだけの桜を葉桜とは言わない。
桜色の透き通った髪を少し揺らし、しかし顔を外へ向けたままの君。
君にとってあの桜の花弁は身体の一部だったのかもしれない。
そう思わせる程、今の君には元気が足りなかった。
「貴方は気楽なものね…」
儚い美、心の美を表す桜に関しては、君の方が俺なんかよりよっぽど知に富んでいるだろう。
薄っぺらな言葉に何かしらの指摘が飛んでくるだろうと身構えていたが、予想に反して君はまた一つ溜息の数を増やすだけだった。
ひと足早い五月病だろうか。
それにしても、ここまでブルーになっている君って言うのも珍しい。
普段はフワフワと何処か掴み所の無い笑顔で外を眺めているのに、桜が散っただけでこんなに凹んでしまうなんて。
あと何故か気楽者扱いされたけれど、貶されてるわけじゃないと信じたい。
だけで、は流石に失礼かもしれないが、お昼ご飯の匂いが漂って来ているのに表情が変わらない君を見るのは初めてだった。
せっかく昨日わざわざ筍を採ってきたと言うのに、これでは何となくつまらない。
出来れば君には笑顔で食事をして欲しいものだ。
「ほら、元気出せって。溜息の数だけ幸せが逃げてくぞ」
元々は一体誰が言い始めた言葉なんだろうか。
そもそも溜息だって本来は気持ちを落ち着けさせる為のものだったのに、何故かマイナスなイメージがついてしまったのはこの言葉のせいだろう。
あり得もしない迷信で励まし、何と無く君へ手を伸ばす。
「…ふふっ。貴方、そんな迷信を信じているの?」
少し、笑ってくれた。
枝垂れ桜の様に、淑やかでふんわりとした笑顔だった。
まるで子供扱いされている様で恥ずかしいが、それで君の気分が少しでも晴れるなら構わない。
「そう言うわけじゃ無いさ。随分と君が落ち込んでるみたいだったからな」
ならもう少し他の分かりやすい言葉を選べば良かったかもしれないが、生憎俺は今の君を笑顔にさせられる様な言葉を思いつけなかった。
せめて憂鬱そうな表情にだけはならない様にと思って言ったのだが、結果としては正解だった様だ。
ついでに言っておくと、俺だってそんな迷信を信じている訳じゃない。
「でも実際、そんな凹んでちゃ良い事あっても気付けないだろ。ほら、そろそろ昼ご飯だ。沢山食って元気出そうぜ」
台所から漂う美味しそうな香りが空腹を刺激する。
今更ながら自分が空腹な事気付いたのか、君は少しお腹を押さえて目を瞑りお昼ご飯の予想を立てる。
少ししてから俺も居ることに気付き、恥ずかしそうに微笑んだ。
伸ばした手を取り、微笑む君。
先程までの憂鬱そうな表情は、もうそこには無かった。
うん、その方がいい。
「ほら、やっぱり迷信じゃないの」
そう言って君はまた笑う。
立ち上がり、和服の裾を伸ばして此方を向く君。
残念ながら、何がやっぱりなのかは俺には分からなかった。
「そりゃ迷信だろうけどさ。何がやっぱりなんだ?」
分からない事があったら聞く。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。
前にそんな事を妖夢が言っていた様な気がする。
確かその後に、聞く事は恥じゃないと君に教えられていたみたいだけれど。
「ふふっ、なんでだと思う?」
分からないから聞いていると言うのに…
いや、そのくらいの事は君だって分かっているか。
自惚れで無ければ、俺に考えを理解して欲しいのだろう。
生憎俺は覚り妖怪では無いから他人の心を読むなんて事は不可能だけれど、少しばかり頭を回してみる。
…当然ながら、分からない。
恋人なら相手の考えている事が全て分かるなんて、それこそ迷信だろう。
空いている片手を挙げて降参の意を示す。
「…もうっ。お昼ご飯の間の宿題ね」
再び溜息。
難しい問題だ。
頬を膨らませて外方を向かれてしまう。
どうやら君はどうしても俺に分かって欲しかったみたいだ。
握った手を放さないあたり、そこまで不機嫌と言う訳では無いみたいだけれど。
「分かりましたよ、お姫様。ま、元気が戻った様で何よりだ」
「いただきます」
テーブルの上に並べられた料理と作ってくれた妖夢へ向かって手を合わせ、箸を取る。
些か以上に多過ぎる気がしなくもない程の料理だが、君がいるから残る心配はしなくても大丈夫なんだろう。
あと関係無いけど、白玉楼の食費はいったい何処から出てるのだろうか。
「いつもいつもありがとな、妖夢。一人に家事全部任せちゃって」
見た目はまだまだ幼い少女だけれど、妖夢だって人間の俺に比べればかなり長い時間を生きている。
それでもやはり少し足りない妖夢を見ていると、何だか申し訳なくなってくる。
何か手伝いたいが、この量の食事を作るなんで俺には出来ない。
洗濯なんて言うまでも無いし、買い物も冥界に一人で出歩くなんてそれこそ死にに行く様なものだ。
「それが私の使命ですから。あ、出来ればもう少し食費を…」
「何か言ったかしらぁ?」
「い、いえ…」
笑顔が怖い。
さっきまでの沈んだ様子は完全に吹き飛び、いつも通りの君に戻ってくれていることに安堵する。
そしてやっぱり、エンゲル係数が大変な事になっている様だ。
まぁ、毎日三食これだけ食べてればな…
「そう言えば、この筍は貴方が採りに行ってくれたのだったかしら?」
「うん、まぁ藍さんに連れてって貰ったんだけどな」
「…ふぅん…」
おかしい、流れ的に有難うって言葉が続く筈なのに。
なんで此処で俺がハイライトの失われた目で見つめられなくちゃいけないんだ。
怖くて箸を動かす手が止まってしまった。
いや、これは俺が迂闊だったかもしれない。
妖夢以外の女性と俺が二人きりで出掛ける事は許容出来ない様だ。
それが例え、大親友の式神である八雲藍だったとしても。
と言うか今の君は下手したら紫さんや妖夢ですらも赦してくれなさそうだな。
「で、出来れば里で鰊を買って来たかったんだけどな。流石に売ってなかったよ」
「…そう」
空気が重い。
妖夢は我関せずと箸を進めている。
まぁ多分妖夢が今助け舟を出すと逆に悪化しそうだから正しい判断かもしれない。
っていやいやいや、幾ら何でも沈み過ぎだろう。
流石に少しネガティブ過ぎやしないだろうか。
確かにブルーになり易い時期なのかもしれないけれど、そのくらいは赦して頂きたい。
じゃないと俺一人じゃ碌に出歩け無いのだから。
重い空気と鋭い視線に耐えられず、俺は無理やり話題を変えようと箸を動かした。
昨日の俺の成果が、シンプルな煮物となって口へ入ってゆく。
よく鰹節が効いていて美味しい。
妖夢が本当に庭師として雇われているのか疑問に思える程だ。
「た、筍美味しいな妖夢」
「そ、そうですか。それはよかったです…」
二人して君の顔色を伺いながら無理やり話題を作る。
視線が凄く痛いが、此処で折れたら空気を戻すのは不可能となる。
なんとか明るい食卓を取り戻すため、このまま会話を続けて…
今更になって、そもそもこの会話は長続きするものじゃない事に気付いた。
…よし、仕方ない。
こうなったらもうヤケだ。
「なぁ、折角だしあーんってやってみないか?」
「…え?」
どうやら手応えはあった様だ。
一瞬キョトンとした顔をしたが、しかし直ぐにいつも通りの笑顔に戻った。
最近の君は表情がコロコロ変わって可愛らしいな。
箸で筍を摘み、軽く汁を落としてから君の方へ向ける。
妖夢がまるで甘ったるいケーキをミルクココアで食べた様な顔をしているが、そんな事は気にしてられない。
安心して欲しい、俺だって実はかなり恥ずかしいんだ。
「えぇ、いいわよ」
そう言って髪を耳にかけ口を開き、目を瞑る君。
妖夢がまるで新婚二日目の甘々なカップルを見たかのような表情で顔を背けていたが、そんな事も気にしてられない。
目を瞑ったまま待たせる訳にもいけないので、恥ずかしさやドキドキその他諸々色んな思いを投げ捨てて箸を君の口へ向ける。
「ふふっ、やっぱり美味しいわね」
咀嚼し、飲み込み終えた君が此方へ向いて微笑む。
此方は今更になって間接キスだと言う事に気付いて若干また恥ずかしさがぶり返していると言うのに。
流石に初心過ぎるかもしれないし、何をその程度の事で、と言われるかもしれないがそれとこれとは話が別なのだ。
別に味は変わらないだろ、なんて野暮な事を言うつもりは無い。
ここでそんな事を言ったらどうなるか分かったモノでも無い。
それにやっぱり、恋人から食べさせて貰えると美味しく感じるものなのだろう。
そして。
もちろん、この後の流れは分かっている。
「はい、あーん」
…まぁ、そうなるな。
分かってますとも。
もう妖夢が今どんな顔をしてるか想像に難くない程の現象がこの茶の間で起きている。
かと言って此処で今更やめようとしたら、それこそ先程以上に君は沈んでしまうだろう。
俺に逃げ道は無いのだ。
「あ、あーん…」
恥ずかしい現実から逃げるかの様に俺は目を瞑り、来たるべき時を待つ。
あーん、をする時何故皆んな目を瞑るのか不思議だったけれど、今その謎が明かされた。
世のカップル達は皆この恥ずかしさを味わってきたのか。
口に何かが入った感覚がする。
舌から伝わる感触が、それは筍と昆布だと言うことを教えてくれた。
なんだ妖夢、隠し味に昆布まで入れていたのか。
どうりで鰹節だけでは出せない程のダシが出ていると思ったよ。
現実逃避を一旦止め、目を瞑ったまま現実を見る。
口から箸が抜かれないせいで咀嚼出来なくて困っているのだが、何時になったらこの箸は俺の口から出て行くのだろう。
薄っすら目を開いてみると、ニコニコとした表情の君が俺の口元を見ていた。
「んんー」
喋る事が出来ないので、喉を鳴らして箸を抜くように促す。
しかし、中々抜き出されない。
視線で訴えかけても、君はニコニコとわらうだけだ。
十数秒経ってから、ようやく君は手を引いた。
その箸でそのまま食事を続ける君を恥ずかしくて直視出来ず、逃げる様に俺はご飯をかきこんだ。
妖夢はまるで何も見なかったかの様に普通に食事を続けている。
まぁ君の元気が戻ったし、良しとしよう。
ただ、食事と一緒に口へ入れた箸は味わう必要が無い事は教えておいた方がよさそうだ。
「で、答えは分かったかしら?」
完全に機嫌の直った君が、食器を片付ける俺の元へと向かって来た。
妖夢だけに全てを任せるのは申し訳無いと先程の食事で改めて思ったので、出来る事だけでも手伝いたいのだ。
食べ終えた食器を流しまで運ぶ。
それだけでも妖夢が少しは楽になれると信じたい。
さて、先程の宿題の答えは、当然ながら出ていない。
しかし此処でまた分からないなんて言ってしまえば、君のテンションが急降下するのは目に見えている。
かと言って分からないものは分からないのだから、答えようも無いのだけれど。
「うーん、何だろうな…教えてくれないか?」
「ふふっ、なんでかしらね?」
どうやら君はかなり機嫌が良い様だ。
重さを感じさせない程軽やかに、隣に寄って腕を組んでくる。
食器を落としては危ないので、近くにあった棚へ。
正直また沈まれる事を覚悟していたが、それも杞憂に終わった。
「そうね、キスしてくれたら教えてあげるわ」
「了解っと」
「えっ、少し待って
俺が即答するとは思ってなかったのだろう。
慌てた俺を見ようとしていたが逆に慌ててしまった君の唇を唇で塞ぐ。
初めてのキスは筍の煮物の味となってしまった。
別に初めてじゃないけれど。
唇を重ねるだけの軽いキスだけれど、それでもこれ程心が温まるから不思議なものだ。
恥ずかしさなんて感情はもう完全に消えている。
暫く二人きりの世界を堪能し、何方からとも無く少し離れる。
腕は組んだままだけれど。
「…もうっ。ズルいわ…」
口を窄め、そっぽ向こうとして、それでも腕は離そうとしない。
頬を赤く染め、それでも口元がにやけてしまっている君の顔を見れば、此方もまた口元が上がってしまう。
「君が言ってきたんだぞ?ズルいも何も…」
続く言葉は、君の唇に遮られた。
完全に油断してしまっていたが、そう言えば本来の君は確かに積極的だったなと思い返す。
そして改めて思った。
キスはするよりされる方が恥ずかしい。
「ふふっ、どうだった?」
「どうって…まぁ、びっくりしたな」
そして凄く恥ずかしかった。
心の準備の偉大さを改めて思い知らせてくれてありがとう。
仕返しは後でにしておこう。
「…で、答えは教えて貰えるか?」
頬を叩いて煩悩を振り払い、本来の目的だった答えを冷静な顔をして尋ねる。
顔の赤さは、叩いたからだと誤魔化せるだろう。
別に誤魔化す必要も無いが。
「…さっき私が溜息を吐いてたら、貴方が心配して声を掛けて、手を差し伸べてくれたでしょう?」
当然だろう。
自分の大切な人がブルーになっていたら、慰めたい、励ましたいと思うのは自然な事だ。
碌な言葉を思いつけず、よく分からない迷信しか言えなかったけれど。
「溜息を吐いても、貴方は私から離れず、より近付いてくれたのよ?」
…少しにやけそうになってしまうが、なんとか真顔を保つ。
自惚れで無い事は、現在証明された。
なんだ、君も俺と一緒だったのか。
まったく、そんな簡単な事に俺は気付けて無かったなんてな。
「溜息を吐いたら幸せになれるなんて、誰も教えてくれなかったわ」
咲く様な笑顔の君。
なんだ、まだ残ってるじゃないか。
また俺は、気付けずにいた様だ。
思わず、笑みが溢れてしまう。
「…どうかしたかしら?」
「いや、まあね」
君も気付けずにいるんだろう。
なら、教えてあげなくちゃ。
「桜。まだ咲いてたな、ってさ」
如何だったでしょう。
二話連続で甘い話に挑戦してみた笠原です。
大学入学式に雨が降り、桜が散ってしまったので悔しくて書きました。
入学式から一週間掛けて少しずつ書いていたらかなり間隔が空いてしまい申し訳ありません。
そう言えば今回のメインヒロインは今まで書いた事が無かったので雰囲気や口調が凄く心配です。
尚且つバッドエンドにするとファンの方に呪われそうなので、若干メリーさん度(変態度)高めにして無理矢理明るくしました。
鰊と筍、これで分かる方もいたんじゃないかな?
ヒント:縁起
誤字脱字、コメント、アドバイスお待ちしております。
それでは、次回もお付き合い下さい