答え合わせ的な回です。
是非是非楽しんで下さい。
サブタイ通り、幸せになって欲しいです。
では、どうぞ
眠い。
もう、ずっと眠っていたい。
このまま布団にくるまり、幸せだった頃の夢を見続けていたい。
疲れた。
まだあの時の思いから抜け出すどころか昨日の疲れすら抜けきっていないのに。
また疲れる一日に自分から向かわなきゃいけないなんて、本当に嫌。
日々の疲れにより、私は精神も身体も弱り切っていた。
朝なんて、来なければいいのに。
私がどれほど願おうが、当然ながら朝はくる。
健康の源である太陽の光と共に、私にとっての苦しみの時間がやってくる。
どんなに越えようが、また同じ朝がやってくる。
掃除、洗濯、炊事等一通りの家事に加え、姫様の暇潰しや師匠の手伝いをしなければならない。
イタズラ好きな同僚や大して役に立ちやしない奴等のなか、一人だけ頑張っているのが馬鹿みたいだ。
いや、その程度の事だけだったのなら、ぐちぐち言いながらも私はこなせていただろう。
けれど、残念ながら私の苦しみはその程度ではなかった。
私は毎日、師匠より早く起き、師匠を見続け、師匠より後に眠らなければならない。
でなければ、師匠に見せ続けている幻影が消えてしまうから。
でなければ、私は月の追っ手に見つかってしまうかもしれないから。
私は、月から逃げ出してきた月の兎。
本来だったら逃亡者の一匹や二匹など、月の技術を以ってすれば捕獲して連れ戻す事などわけは無い。
そしてもしそうなった場合の末路など、考えるまでも無かった。
しかし、師匠と姫様の張った結界があれば、また話は違ってくる。
彼女達の能力と叡智の結晶である結界は、外からは確認できず、中の歴史を進まない様に出来る。
要するに、追っ手の目を完全に欺く事が出来たのだ。
けれど。
私にとっては忙しくもあり大変でもあり平和でもあり幸せだった日々は。
私が最も信頼した師匠と。
最も…
いや、彼は悪くない。
兎も角、師匠自身の所為で、失われる事となってしまった。
ある一件により、師匠は心を壊してしまった。
まぁ仕方のない事だろう。
恋人である彼が居なくなる事を恐れ、彼に蓬莱の薬を飲む事を勧め。
突然師匠が迫って来た事に驚いて彼は永遠亭を飛び出し、心を落ち着けて決心を固めようとしていた処で妖怪に襲われ亡き者となったのだ。
あの時の師匠の表情は忘れられそうに無い。
大切な人を失う事を恐れてしまったせいで、大切な人を失ってしまったのだから。
姫様が今まで見た事無い程必死に師匠を慰めていた。
それからしばらくの間、師匠は部屋から出て来なかった。
姫様がそっとしておけと言っていたし、師匠は蓬莱人なので食事は必要無いので、誰も師匠の部屋の扉を開けなくなった。
師匠だって子供じゃない。
時間は掛かってもいつかは立ち直るだろうから、それまで待とう。
それが姫様が決めた方針だった。
しかし、私は気付いてしまった。
師匠が放心しているせいか、何か別の事に集中しているせいか、永遠亭を護る結界の維持が難しくなっている事に。
このまま何も手を打たずにじっとしていては、いずれは結界が解除され、月の追っ手に見つかってしまう事に。
それだけは嫌だった。
あんな場所には戻りたく無い。
それに、私はこの永遠亭を離れたく無かった。
私は姫様に相談した。
何とかして師匠を元に戻さなければ、今以上に大変な事になってしまう。
何か、出来る事は無いか、と。
姫様は暫く考えた後、口を開いた。
「ひとつだけ手はあるわ。けれどそれは、貴女にとってとても辛い事になる。だから、本当に危機が迫っている時までは、別の手を考えましょう」
姫様にしては珍しく私を心配した様な発言。
薄々、私は気付いていた。
私の能力で師匠を騙せ、と言っている事を。
そしてそれは、本当の本当に最終手段であり其の場凌ぎでしか無い事を。
それから一週間。
段々と結界に綻びが見え始め、姫様一人の能力では明らかに維持が大変になっている。
寧ろそこまで持った事の方が驚きだった。
師匠の為を、永遠亭の事を思った姫様が必死に努めた結果、何とかここまで維持してこれたのだ。
しかし、流石にもう持たない。
何とかして、師匠を説得するしかない。
もし月の追っ手に捕らえられてしまっては、彼が居たこの星と別れなければならないのだ、と。
貴女と彼の思い出であるこの永遠亭と別れなければならないのだ、と。
それだけは絶対に避けなければいけない、と。
姫様と私は、長らく開けていなかった師匠の部屋の襖を開けた。
おそらく眠り続けているか放心し続けているであろう師匠を目の当たりにする事を覚悟して。
しかし。
「あら、何をそんなに焦っているのかしら?」
師匠は、前までと変わらない表情で椅子に座っていた。
…あれ?何故?
寝込んでいるか、最悪譫言を呟き続けているくらいは覚悟していたのに、思ったより傷付いて無い?
目には光が灯り、声には生気が有った。
隣を見れば、姫様は先程まで以上に焦った表情をしている。
一体何が起きているのか、私には全く分からなかった。
「お、お久しぶりです師匠。元気そうでなによりです」
「ええ、心配掛けてしまってごめんなさいね。大丈夫よ、もうすぐだから…」
微妙に会話が成り立っていない気もするが、正気を失っている訳でも無い様だ。
ただ、ニコニコとしている師匠と言うのは見たことが無かったからかなかなか不気味だった。
言えば何の実験台にされるか分かったものじや無いから口にはしないけれど。
「それより師匠。永遠亭に張られた結界が消滅しかけているんです。辛いとは思いますが…」
「大丈夫よ、もうすぐだから。ええ、大丈夫…」
一度全て忘れ、結界の維持に務めていただけますか?と。
そう続けようとしていた私は、師匠の言葉に遮られた。
「ねぇ永琳。貴女、キチンと現実を見てる?辛い事だとは思うけど、どんな者の死も受け入れなければならないのよ。それが、私達の罪に対する罰なんだから」
それは、蓬莱の薬を口にしてしまった事だろう。
永遠の命を手にした代償は小さくない。
けれどそれは、貴女も蓬莱の薬を飲んだ時に覚悟した事でしょう?と。
姫様はそう言っていた。
けれど…
「…何を言っているの?彼は少し出掛けているだけだわ。大丈夫よ、もうすぐ戻って来るのだから」
師匠の心は、その現実を受け入れられていなかった。
このまま師匠が彼の帰りを待ち続けてしまっていては、本当に永遠亭は大変な事になってしまう。
それでも、私と姫様は、師匠に能力を使う事を決意し切れず。
何とか言葉で説得しようとした。
「…な、なら、彼が帰って来るのでしたら尚更、結界を修復しないといけませんよ」
そもそも、彼の死を受け入れていないなら尚更、結界を保とうとするべきだ。
何か別の事に集中し過ぎているんだろうか。
「大丈夫よ。もうすぐ帰ってくるんだから。貴女も姫様も、心配する必要は無いわ…」
明らかに大丈夫では無いと言うのに、何が大丈夫なのか。
ふと姫様の方を見れば、姫様は師匠の机を凝視していた。
正確には、机の上に乗せられた記録書の方であるが。
私もつられて、そちらへ目をやる。
まだ半分程しか書かれていないページ。
その一番上に書かれていた単語は…
「っ!え、永琳…貴女、正気なの?」
「何を言っているの?彼が出掛けてしまっているのなら、連れ戻してあげるのは恋人の役目でしょう?」
確かにそれはそうかもしれない。
そこだけ聞けば、優しい世話焼きな恋人のようにも聞こえる。
戻って来れなくなった彼氏を連れ戻しに行く、優しい彼女の様にも聞こえるかもしれない。
ただしそれは、禁忌を犯そうとしていなければ、だ。
たとえ可能でも、それだけはやってはいけない。
それは、不老不死と同等かそれ以上の禁忌。
「永琳…それだけは駄目よ。それだけは、私も認められ無い。命を弄ばれるのは、私だけで充分だわ」
「弄ぶなんて失礼ね。私はただ、彼を連れ戻すだけよ」
もはや会話なんて成り立っていない。
そもそも私達の言葉が今の師匠に届いているとは到底思えなかった。
師匠とおそらく一番永く一緒に過ごしていた姫様の言葉ですら、全く届いていないのだから。
ふふっと笑う師匠は、とても怖かった。
「もうすぐ帰って来るわ。ふふっ、帰ってきたら叱ってあげないといけないわね。私を放っぽって出掛けるなんて、まったく…」
「…もう、ダメね」
隣の姫様が、哀しそうな声を出した。
その意味と決意が分からない程、私は馬鹿ではない。
それと同時に自分の決意を固められない程、私は弱くはない。
…やるしか、無いのね。
泣きそうになる気持ちを叩き出し、能力を発動。
私からしたら苦痛以外のなんでもないけれど、かと言って何もしなければそれこそ終わり。
どっちにしろ私には、まともな選択肢は残されていなかった。
師匠に見せるのは、彼が何ともなく無事に帰ってきた世界。
反魂術を組み上げる必要も無く、結界を維持する為に気を割く事が難なく可能な世界。
蓬莱の薬を飲む事は残念ながら拒絶されたが、そのかわり死ぬまで一生師匠の隣に彼が立ち続ける事を誓った世界。
そして…
私の最も大切な人が別の女性と幸せに暮らし続ける、拷問の様な世界。
その日から、私の心は磨り減り続けた。
睡眠時間も大してとれず。
起きてる間は能力を常時発動していなければいけず。
想いを向けていた人が、別の女性と幸せに暮らす幻を見せ続けなければいけなかったのだから。
時折師匠が真夜中に目覚め、彼が居なくなったと恐慌状態に陥る晩もあった。
基本的には姫様が夜中はずっと起きていて、そう言う事があると私を起こしに来る。
そして直ぐに駆け付け、師匠に幻術を掛ける。
何度も、辞めたくなった。
けれど、そんな事をしてしまっては今度こそ師匠の心は壊れ切ってしまう。
それだけは、何としても回避しなければならい。
何度も、逃げ出したくなった。
けれど、逃げる先なんて無い。
地球で私が知っているのはこの永遠亭だけだし、そもそもこの永遠亭から出てしまえば、月の追っ手に直ぐ捕らえられてしまう。
何度も、後悔した。
もっと、ずっと彼の側に私がいてあげられたなら、彼は死なずに済んだのに。
だが、師匠の意に歯向かうなんて、私には不可能だったのだ。
だから、私は潔く引き下がるしかなかった。
何とかして、彼に蓬莱の薬を飲ませようとする師匠を諦めさせた。
もしそうなってしまえば、本当に永遠に彼の幻を見せ続けなくてはいけなくなるのだから。
私にだって寿命はある。
私が死んでしまえば、誰が師匠の心を支えるのだ。
私にとってのゴールは、師匠の心を折ること無く、彼が天寿を全うする幻を見せる事。
人間の寿命は八十年だが、師匠の作った栄養剤等を飲んでいる事になっているため、百年以上は生き続ける(筈だった)だろう。
そしてその間に、師匠がキッパリ諦められる様にしなければならない。
何度も、命を絶とうとした。
もし死ねば、私はこの苦痛の日々から解放され、彼の元へと行けるのだから。
そして其処に師匠が来る事は、絶対に無い。
私にとっての最終的なゴールは、其処になるかもしれない。
けれど、怖かった。
自らの命を絶つ事が。
その後の永遠亭の事が。
下手したら、私が死んだ後に師匠がまた反魂術で彼を蘇らせようとしてしまうかもしれない事が。
今私が逝く訳にはいかない。
そもそもそんな勇気も無いのだけれど。
何としても、百年掛けてでも、最低限彼を蘇らせようとなんてしない様に説得してからでなければ。
その為に、また今日も、彼と師匠の幸せな日常を送る夢を見させなければならない。
また今日も、目の前で、結ばれたかった相手と苦しみの根源の幸せな関係を続けさせなければならない。
また今日も…
ふぅ、と一息。
さて、そろそろ本当に起きなければ。
あと一時間もしない内に師匠が起きてしまう。
それまでには朝食を作り終え、師匠の目を見にいかなければ。
体調だって良くは無い。
能力をずっと酷使し続けているのだから当然だ。
そもそも、こんな気分で体調が良くなる筈も無い。
それでも、やらなければいけない。
あと百年は、この朝をこなさなければならない。
果たして私の身体は、耐えられるだろうか。
果たして私の精神は、堪えられるだろうか。
いや、出来るか?じゃない。
するんだ。
しなきゃいけないんだ。
私と彼が死後の世界で結ばれる為には。
重い体に鞭を打ち、無理やり台所へ赴かせる。
なに、毎日やってきたんじゃない。
今日だって、出来るわよ。
あと百年くらい、出来るわよ。
ふふっ、と。
気付けば私は、笑っていた。
それは、あまりにも辛過ぎて、あまりにも苦し過ぎて、笑うしかなかったからか。
それとも、全て終わって彼と私が結ばれた後の生活へ想いを馳せたからか。
兎も角、私は頑張り続ける。
身体も精神も壊さず、この日々を続け続ける。
そしたら、彼も褒めてくれますよね?
私の想いを、受け入れてくれますよね?
えへへ。
笑いが止まらない。
グルグルと、お玉を回し続ける。
いつか、きっと私にも。
幸せな日々が…
ふふっ、ふふふっ。
ふふふふふふふふふふふふふふふーー
如何だったでしょうか。
前回の続きとなっております。
自分の描写不足、描写力不足、あと若干壊れてる方を視点してしまったせいで前回は意味が分かり難い話となってしまいまして…
一話完結なんて言いつつも、また連続回となってしまいました。
エブリデイで日々、日常。
ドリームで夢、思い、願い。
エブリで全て、殆ど。
デイドリームで白昼夢。
題名と今回の話を結びつけて、成る程と思って頂けると嬉しいです。
誤字脱字、コメント、アドバイスお待ちしております。
鬱回が続いたので次はハッピハッピハッピーなハートフルストーリーを…
次回も是非お付き合い下さい