はい、早速一話にまとめ切れないと言う事態が発生しました。
予想以上に長くなりそうだったので、此処で一旦投稿させて頂きます。
後編はまた暫くしたら投稿します…多分
それでは、先ずは前編から
「霖之助さーん、コレで最後です」
「お疲れ様。悪いね、本来なら半妖の僕だけでこなすべきなんだけど、如何せん量が多くてね」
最後のガラク…商品を納屋から運び終わった僕は、抱えていたそれを床に置き一息つく。
外の世界の道具は、ぱっと見では何なのか分からない物が多い。
よく見ても何なのか分からないものも多いけれど。
そして、とても重い。
何が詰まっているのか分からないけれど、多分鉄より重い物なはずだ。
幻想郷生まれ幻想郷育ちの僕は、この店の殆どの商品の用途を知らない。
多分、僕で無くても外の世界へ行った事がない者なら同じはずだ。
そんな僕は、この香霖堂の店番を勤めている。
別に人里で働いても良かった。
けれど僕は、外界の物に興味を持っていた。
指先一つで洗濯出来る箱や、夏でも冬でも快適な温度を保てる装置。
話に聞いたどれもこれもが、僕の好奇心を刺激した。
そこで聞いたのは、魔法の森の端に店を構える香霖堂の事だった。
初めて訪れた時、未知の装置に囲まれた空間に一瞬で心を奪われた。
そしてこの店の店主である霖之助さんと意気投合し、気付いたら雇ってもらえていたのだ。
しかし、当然ながら僕は外の世界の道具に詳しく無い。
それを相談すると、霖之助さんはとても商人とは思えない事を言った。
「良いんだよ、どうせお客さんなんて来ないからね。もし来たとしても、その人は外の世界の道具に詳しいから説明する必要はないよ」
どうにも疑問を覚えつつ、なんやかんやで未だに僕は此処で働いている。
外の世界の道具にトキメキを覚えたのも、最初の一ヶ月くらいだったけれど。
霖之助さんの言った通り、実際に殆どお客さんなんて来ない。
一週間に一人来れば良い方である。
そう、お客さんは。
六日に一度は、お目出度い配色の脇出し巫女服を着た女の子が訪れる。
その度に茶葉と和菓子を持って行かれる。
五日に一度は、オセロの様な配色の魔女っ子衣装を着た女の子が、箒と共に訪れる。
その度に商品と食材を持って行かれる。
四日に一度は、道士服を着た妖怪の賢者が、胡散臭そうな笑みと共に訪れる。
その度に霖之助さんは苦い顔をする。
三日に一度は、紅魔館の大図書館の主が、部下に本を運ばせて訪れる。
その度に僕は紅茶を淹れておもてなしする。
二日に一度は、魔法の森の人形遣いが、半自立人形と共に訪れる。
その度に僕は珈琲を淹れておもてなしする。
下三人は客と言えば客だけれど、それは香霖堂へのではない。
時たま古書や生地を買って帰る事はあるけれど、殆ど彼女達は喋りに来ているようなものだ。
でも、彼女達が来てくれるからこそ、僕は退屈する事無くこの仕事を続けていられるんだろう。
カランカラン
入り口のベルが鳴らされ、扉が開いた。
さぁ、今日一番の訪問者は誰だろうーー
「いらっしゃいませ。一応尋ねますけど、今日はお客さんとしてですか?」
一人目の訪問し…お客さんは、七色の人形遣い。
この店の、数少ない常連さんの一人である。
彼女の後ろでは、半自立人形の上海がフワフワと漂っている。
何も買わずに喋って帰るだけの人を常連と呼んで良いのなら、だけど。
「今日はも何も、いつもお客さんに決まってるじゃない。わざわざ来てあげてるんだから」
そう言って人形と共に扉をくぐった彼女は、商品に目もくれずに所定の席へ座る。
うん、分かってましたとも。
僕の辞書には、買い物をする人がお客さんだと書いてあるんだけどな。
来て喋って帰っていく人はただの営業妨害だと思う。
そもそもこの店がちゃんと営業しているかどうかは怪しい処だけれど、僕が居るって事は営業時間なのだ。
「だとしたら、この店にお客さんは一人も来ないでしょうね。人間はこんな所に来ないもの」
「霊夢さんと魔理沙さんは確かに僕も客とは認めませんけど、咲夜さんは立派なお客様ですよ」
「あら、咲夜もこんな所に来るのね」
そう何度もこんな所と言われると、勤めている自分が悲しくなってくるからやめて欲しい。
店が人里の外にあると言う事もある。
けれどそもそも、人里で暮らしている人達は外の世界の道具に興味がないのだ。
興味の無いものしか並べられていない店になど、誰が行こうと思えるだろうか。
当然ながら、霊夢さんと魔理沙さんは客とは言わない。
カテゴリー的には、もはや盗賊に分類される筈だ。
そんな中、咲夜さんは貴重な人間のお客様。
あの館の主は珍しい物好きらしく、外の世界の物が手に入る香霖堂を利用する機会は少なくない。
彼女自身も、ティーカップやソーサーを買っていった事がある。
「貴方も、こんなお店に勤めていてよく飽き無いわね。一日中ぼーっとしているだけでしょう?」
「そうでもありませんよ。結構色んな方が来ますからね…客としてではなく…」
出来れば、喋りにやひったくりに来るだけでなく、何か買って帰って欲しいものだ。
霖之助さんは、別に良いよと、諦めた様な顔で言っていたけれど。
でも、退屈しないと言うのも本当だ。
殆ど毎日、誰かしらが喋りに来てくれているのだから。
一応はわざわざ来てくれたと言う事で、僕は珈琲を彼女へ差し出す。
先日手に入った、インスタント珈琲だ。
コレは…ぶれんでぃって読むのかな?
「あら、ありがと。悪いわね、毎回毎回」
本当にそう思っているなら、何かしら買って行ってくださいよ…
幻想郷の女性は図太い人が多いけれど、彼女も例に漏れずなかなかいい性格をしていると思う。
最初に会った時は、もっと常識人でお淑やかな女性だと思ったんだけどな…
「あら、その印象で間違って無いわよ。と言うか、なら今はどう思ってるのよ」
「はいはいお淑やかですよ。少なくとも魔理沙さんや霊夢さんよりは」
「…褒められてる気がしないわね」
当然ながら、褒めていないからである。
女性を褒める時に他の女性を引き合いに出すのは良く無いらしいけど、多分大丈夫だろう。
彼女達の事を女性として認めてないと言うか訳ではなく、そんな事を気にする様な人達じゃ無いって事だからね?
だからすみません、上海人形が取り出したカミソリみたいなのしまわせて下さい。
「まったく、相変わらず貴方は減らず口が減らないわね。よくそれで接客なんて…あ、お客さんなんて来ないんだったわね」
減らないからこそ減らず口なんだけれど。
ついでに、さり気なくこちらの心を抉りにくるのは辞めて頂きたい。
雇ってもらっている身でありながらただ喋っているだけと言うのも気が引けるので、僕は商品を軽く拭いてまわる。
全く売れないので、ドンドン埃が積もってしまうのだ。
まぁ、全く売れないからこそ、こんな掃除をする意味も無いんだけど。
「それにしても結構なペースで来てますけど、魔法の研究とかはいいんですか?」
「別に大丈夫よ。魔法使いには、寿命なんてあってない様なものなんだから」
それは羨ましい限りだ。
相変わらず僕とは住んでる世界が違うと思わされる発言である。
確か魔法使いって、食事も睡眠も必要無いんだっけ。
それなら、日々をぐーたら過ごしていても生活していけるんだろう。
生活費の殆どがかからないんだから。
あれ、それならお金余ってるんじゃないだろうか。
それなら是非とも、何か買って行って
「残念ながら、そうでもないわよ。色んな材料を買うから、貯金なんて殆ど無いわ」
「さいでしたか…。あ、でもインスタント珈琲くらいはどうです?こんなに飲みに来るって事は、結構気に入ってるんじゃないですか?」
「……」
無言で睨まれた。
僕今何か気に障る様な事を言っていたのだろうか。
あ、はい、謝るんで上海人形もカミソリ構えるの辞めて下さい。
「まったく、君達の会話は何度聞いても飽きないね」
店の奥から、店主の霖之助さんが出て来た。
呆れたような笑ったようなその顔は、向けられていて気分の良いものでは無い。
そして、その台詞の意味を紫さんと会話している時の彼にそっくりそのまま返してあげたい。
紫さんもあれだけ頑張ってアピールしているのに全く気付かれないなんて、少し同情してしまう。
まぁ、はたから見たら空回りしまくって霖之助さんに迷惑を掛けているだけだから、擁護は出来ないけれど。
「何を言っているのか分からないけど、確かにこの珈琲は好きよ。手軽で便利だし、買って帰ろうかしら」
「悔し紛れなら辞めておくといい。彼は多分商品が売れて喜ぶだけだ」
話の主軸であった筈の僕を差し置いて会話を進めるのは辞めてほしい。
いや、確かに久し振りの売り上げは嬉しいけれど。
「そうでしょうね…私もそんな気がするから辞めておくわ。あと店主さん、私なんだか妖怪の賢者を此処に呼びたく成ってきたのだけれど」
「分かった、僕が悪かったよ。お邪魔虫はとっとと退散させてもらうとするよ」
そう言って霖之助さんは奥へ引っ込んでしまった。
そんなに紫さんの事が苦手なんだろうか。
…苦手なんだろうな。
僕だって、好き好んであの人と喋ろうとは思わないし。
「で、珈琲は買って行きますか?僕としてはその方が嬉しいんですけど」
「そう?なら買わないわ。何方にせよ此処へ来ればタダで飲めるのだし」
…まぁ、何処ぞの白黒や紅白みたいに、勝手に持っていかれないだけマシと考えよう。
こんな考えを出来る様に成ってしまうなんて、僕もかなり毒されているな。
それにしても、そろそろ三時になるのか。
喋っていると、気付かぬうちにに時間が過ぎていってしまうな。
三時と言えばオヤツの時間。
昨日来た魔理沙が盗って行っていなければ、確かカステラがあったはずだ。
僕がわざわざ、人里で人気のお菓子屋に列んで買って来たものだ。
これで無くなっていたら、次来た時御茶入りタバスコでも出してやろう。
食べ物の恨みは怖いって事を教えてやらなければ。
僕の心配は杞憂に終り、カステラはまだ戸棚の中にあった。
…いや、食器の配置がかなり変わっている。
一度漁られたみたいだな。
一番上の棚の奥に隠して置いて良かった。
霖之助さんはあまり甘い物が好きじゃないし、お皿とフォークは二人分でいいだろう。
ついでに、自分の分の紅茶も淹れていこう。
「あら、それ確か人里の…よく手に入ったわね」
「昨日、朝早くから一時間列んでなんとか買いましたよ。凄い人気ですね」
売り物であるテーブルの上に、食器とカステラを並べてゆく。
先程拭いたばかりだから、テーブルにもイスにも埃は積もっていない。
「私まで悪いわね。今度何かお礼をするわ」
「そこで何か買って帰るって言う選択肢が出てこないあたり流石ですね。幻想郷の女性って感じがします」
当然、褒め言葉ではない。
それにしても、流石人気店のカステラだ。
お皿に取り分けた時から、もうドキドキが止まらない。
匂い、見た目の二つだけで僕を此処まで昂らせているのだ。
そこへ味が加われば、一体僕はどうなってしまうのだろう。
ほんと、魔理沙さんにバレなくて良かった。
フラグみたいだけれど、彼女の訪問周期的に今日は来る筈がない。
この勝負、貰った。
さぁ、頂こうーー
カランカラン
本日二度目のベルの音が響き、香霖堂の扉が開けられた。
このタイミングで来客か…
っていやいや、僕は店員なんだからそんな事を考えちゃいけないな。
「いらっしゃいませ。今日はどんな御用で?」
カステラを一度思考の外へ叩き出し、接客モードに切り替える。
今程誰かが訪れたのを憎んだ時は無い。
本日第二のお客さんは、動かない大図書館とその司書だった。
いや、やっぱり客ではないな。
相変わらず暑そうな格好をして、胸には本が抱えられている。
その後ろで重そうな本を何冊も抱えている小悪魔を見ると、もうそれも持たせておけば良いのにとも思ってしまう。
「こんにちは、本の続きを持って来てあげたわよ」
「持って来たの私…いえ、なんでもありません。私は先に戻ってますね」
うん、やっぱり客では無い様だ。
わざわざ続きを持って来てくれるのはとてもありがたいけれど、たった二日であの量を読むのは僕には無理だって気付いて欲しいな。
本人に直接言うのも憚れるし、次来た時小悪魔さんにさり気なく伝えるよう頼もう。
「いらっしゃいませ。わざわざ有難うございます」
「気にしなくていいわ、私も此処の雰囲気が気に入っているから」
気に入っている一番の理由は、人が滅多に来なくて静かだからだろう。
彼女も結構な頻度で、この香霖堂を訪れる。
その度に何か買うでもなく、ただ本を読むために…
彼女曰く、邪魔が入らず無理を吹っかけられず紅茶の出るこの店は絶好の読書スポットらしい。
彼女の住む紅魔館には、無邪気に気儘な我儘吸血鬼が暮らしている。
そして、時たま図書館に現れては、ぶっ飛んだ無理難題を吹っかけられる。
だから、そもそも吹っかけられるのを回避する為に、此処へ避難して来るのだ。
そして、外の世界の物が沢山手に入るのがこの店、香霖堂だ。
つまり、紅魔館以上に豊富な種類の紅茶が飲めるのである。
咲夜さん程ではないけれど、僕だってそれなりには上手に御茶を淹れられる。
何度も何度もケチをつけられる度に、少しずつ上達したのだ。
「客じゃないなら放っておきなさい。さ、早く頂きましょうよ」
既にカステラを口にしている人形遣いは、僕へ食べる様勧める。
いや食べたいんだけど、わざわざ来てくれた人を放っておくわけにもいかないさ。
それと、さり気なく自分の事を棚上げしていた気がする。
「あら、美味しそうな物食べてるじゃない。私も頂いていいかしら?」
「構いませんよ。今準備しますね」
そう言って、僕は一度奥へ引っ込む。
そうだ、彼女の分の紅茶も淹れないといけない。
「これでーー接キーー」
「残念ーーまだ彼ーー」
店の方から、不思議な会話が聞こえてくる。
途切れ途切れで良くわからなけれど、関節がどうかしたのだろうか。
「お待たせしました。って、ここは喫茶店じゃ無いんですけどね」
そう言って、もうワンセット食器を並べる。
淹れた紅茶はアッサム。
本来ならダージリンの方が相性が良いらしいけど、僕的にはこっちの方が好きだった。
ついでに、彼女のお気に入りでもある。
「ありがと。ほんと悪いわね」
「いえいえ、僕も本を貸してもらってますから」
「…随分私と対応が違うじゃない」
そりゃそうでしょう。
ただ来て喋って行く人と、本を貸してくれる人。
何方をより丁重にもてなすかなんて、考えるまでも無い。
ただ、最近ジャンルが偏り過ぎている気もする。
ここ一ヶ月は、恋愛ものしか持って来てくれていないのだ。
借してもらっている手前、チョイスに文句は言えないからちゃんと読むけれど。
さて、漸く僕もカステラにありつける。
少し紅茶が冷めちゃったかもしれないけど、二杯目から温かければいいか。
…あれ?
「誰か、僕のカステラ食べました?」
何故か、僕のカステラが一口分減っていた。
そして、フォークにはカステラが少し付いている。
…いや、それこそ考えるまでも無いか。
僕のカステラを食べたって事は、自分の分が出て来るまで待ち切れなかったんだろう。
「ふふっ、卑しい女ね。しかも自分ひとりで舞い上がって勘違いだなんて」
「…うるさいわね、早く食べたかったのよ。一口くらいいいじゃない」
僕も少し弄ろうと思い…やめた。
なんだろう、二人の目がガチだ。
そんなにテーブルマナーを気にする人達だっただろうか。
「やった!コレでーーだわ!だったっけ?」
沈黙。
そして殺気。
どう考えても、のんびりと楽しむべき午後のお茶会が発して良い雰囲気ではない。
何があったのか分からないけど、取り敢えず二人とも殺意を収めて欲しい。
ついでに魔道書と人形も引っ込めて欲しい。
「ふん、まぁいいわ。私が口付けてしまったから、其方を貴方が」
こんな雰囲気の時は、気にせずに居るのが一番。
せっかくの紅茶が冷め切ってしまうのも嫌なので、僕は二人を無視してカステラに手を付けた。
おお!美味しい!
列んだ甲斐があったなぁ…
何故か、二人が僕をガン見している。
なんだろう、顔に何かついているのだろうか。
そうなら言って欲しいものだ。
というか、さっきから殺伐とし過ぎなんじゃないだろうか。
二人とも早く食べたらいいのに。
「…そうよね、貴方はそう言う人だったわ」
「なんか、羨ましい筈なのにそうと思えないわ」
不思議な会話が、二人の間で展開される。
なんかよく分からないけれど、カステラが美味しいからどうでもいいや。
因みに、時折ジト目で此方を見てくる二人の会話は、買って来たカステラを彼女達が全て平らげるまで続いたとか続かなかったとか。
あらすじに書いてありますが、キャラクターの登場回数は偏りがあります。
好きなキャラクターを何度も出したいと思うのは仕方ない事だと思うんですよ。
決して、ボキャ貧な訳ではありません(必死)
誤字脱字、コメント、アドバイス、何時でもお待ちしております。
気軽に話し掛けて下さい。
ではまた、後編もお付き合い下さい