さて、これからやるべきことを整理しよう。
まず…ゲヘナの調査これが最優先だ。
現在は鬼怒川カスミに会うための待ち時間。
偽の身分を手に入れるための、な。
次に、頭の中のこいつをどうにかする。ずっと居座られてるようじゃ、あたしの体は狂っちまう。
これはどうにかしなきゃならねえ。
だが、正直何をどう調べて何をすればいいのか…よくわからん。
手詰まりだ。
こいつが頭に入った元凶たる宗教組織はもう潰しちまってる。
そいつらは今頃矯正局の中…会うことはできなくないが限りなく不可能に近い。
どうしたもんか。
「……なぁ、この街ってこんなに静かだったか?」
「なんだ、お前ビビってんのか?」
「ああ、俺の勘がビンビンよ。こういう静けさは………狩りの時間だ。」
「俺らは獣だ。しかも会話は許されない屠殺対象ってやつだ」
さっきあの老人が話してた"学籍のない"生徒を襲う傭兵…ここら一帯の掃除でもしに来たか?
訓練された軍隊のような奴らなら正直めんどくさいな。
陣形と連携が管理され徹底されるような軍隊と戦うのはやりづらい。
穴はあるが、お互いにその穴を監視し…こじ開けるのを阻止してしまう。
あたしといえどそういう相手は骨が折れる。
「足音が4つ、正面だな。」
…警戒する必要は別にない。ただの住人の足音だろうよ。
だが、あたしの体は警鐘を鳴らしてる。強敵に相対したわけじゃない。
だが…ここで戦うのはマズイと、戦ってはいけないと。
あたしの体は警鐘を鳴らしてる。そうだな、別に隠れりゃいいだけだ。
近くの物陰に姿をひそめる。
ただのヘルメット団やスケバンなら別にそれでいい。
ここの住人たちやPMCのような兵隊ならそれはそれでいい。
だが…この雰囲気、感じたことがある。感じた記憶があるぞ。
「今日は大漁だったわね!」
「ん、お肉祭り」
「野菜もちゃんと摂取するようにね"ハウンズ"4」
「お肉っ!お肉〜」
ハウンズ?猟犬…あの装備。
この貧民街は当たり前として、ミレニアムですらあまり見ることはない、軍隊が着るような最新の制式装備だ。
ハウンズ…コードネームで統一されてる軍隊性。
最新鋭の制式装備の数々を全員が使っている統一性。
そしてあの、強者の瞳。
……怪しいな、ゲヘナでも貧民街でもないあたしと同じ外からの存在。
調べる必要がある。
幸い奴らはあたしに気づいていない。
何処へ向かうのか…それぐらいは見に行けそうだ。
あたしがいる場所が死角であることを確認し、上へと登る。
ここらへんは違法建築のオンパレード。家から家をつたうのも容易だ。
…奴らは、ヒノム火山に向かってるのか?
ゲヘナの中心部とは真反対…このまま行けば貧民街すら抜けたほとんど何もない火山。
奴らはそこを拠点にしてるのか?なぜ、んな遠くである必要が?
ここ貧民街でこと足りるはずだし、わざわざ火山に行く必要は?
確かにあそこならほとんど人の手は来ない。
ヒノム火山…ああいう郊外に分類される場所ってのは不便で危険だ。
ミレニアムの郊外があの廃墟地帯、アビドスの郊外が砂漠。
そしてそこには人知では及ばない不可思議なナニカが必ずある。
それはキヴォトス人にとって銃に撃たれても大きな怪我に繋がらないことや私たちが生徒であること、息をしてることのように当たり前で…だから近づかない。
それでも近づくバカは居る。
やつらもただの馬鹿なのか、それともその不思議なナニカを求めているのか。
はてさてどっちなんだろうな。
屋根になってる銅板を踏みしめる。
デコボコしてるせいで歩きづらい、少しでも踏み外せば倒れて音が出ちまいそうだ…。
「…止まれ、この先罠がある」
「…ああ、気づかれたな」
ハウンズは耳がいいのか?気配はちゃんと消してたはずだが…。
ここまでだ、撤退撤退。無理はしちゃならんよな。
さて、こっからどうするか。
あいつらには見つからんだろう遠くまで降りてきた。
どこか適当な空き家で休むか?
そんなことを考えていたときだった。
「がっぁ!?…あ゛だまがっ!」
ドクターに会いに行ったときと同じ…頭に登ってくる強烈な痛み。
立つのすらままならねえ。
なんとか壁に寄りかかり…ゆっくりと座る。
「どうやら、お前の体に思った以上の負荷があるらしいな」
「そりゃ2人の人間の情報があって…しかも同時に稼働してると来たもんだ。」
すーはー…と大きく息を吸って、吐く。
そうすると少しだけ痛みが和らぐのを感じる。
大丈夫…酸欠の強化版みたいなもんだ。ちょっと意識を失いかける程度の…な。
何も問題はない。ゆっくり精神を整えて、落ち着いて体を平常に戻すんだ。
「どうした?美甘ネル。不調か?」
「ああ、てめえのおかげで最高潮だ」
不味いな、意識が途切れちまう。
こんなところで倒れるわけにゃいかないっ。
「はーっ、はーっ……こレはいつまで続くんだよ…。」
「残念なことに特発性だ、意識をつなぐことにだけ集中しろ」
呼吸を整えて、ただただ意識を保つことだけを考える。
頭が割れそうな痛みが終わりゃしねえ…まだだまだ…ただ意識を保て。
「ふーっ…ふーーーっ………クソったれが。」
痛みが引いていったのを感じる。
やっと…やっとだ。頭が割れそうな痛みは消え、意識が鮮明に戻ってくる。
今のはヤバかった。引き際だったから良かったが…追跡中に発症してたら…クソみたいなコンディションで接敵することになる。
はぁ…ほんとイヤなもんにかかっちまったよ。ほんとにな。
「またドクターのところにでも行くか?」
「あー、そうしたいのは山々だが…遠くに来ちまった。そこら辺の廃墟でもう寝ることにする」
意識は保てたとはいえ、体にキツい負荷がかかったせいで疲れた。
明日にこの負荷を持ち越すわけにゃいかねえからな。
脚を引きずりながら人気のなさそうな家を探す。さすがに誰かが住んでるのを無理矢理奪うってのはしたくない。
「この家…良さそうだな」
寂れて人の気配が感じられない裏路地の一角の家。
ここなら行ける、そう確信を持って中へと入っていく。
…電気は通ってない。光があった形跡一つない。当たりだな。
「…随分きれいだな。」
「電気は通ってなかった。つい最近空き家になったか」
「他の誰かが住んでる」
出会った場合はあたしが出ていくか。
無為な戦闘はなるべく避けるのが鉄則だ。警戒は怠れないな…快眠もできないだろう。
それでも休まるだけ感謝するべきか…。
「ちとベットが小せえな。二人で寝るのはきつくないか?」
「お前は別に寝る必要ねえだろ」
とりあえず椅子に座る。
こいつにベットを占領されてるのは気に食わないが…あとでどかせばいいか。
「あいつらは結局どこに向かってたんだか」
「なぁ、美甘。こんな話知ってるか?」
「知らん。」
「
───
むかしむかし、とある神の領域があった。
むかしむかしより少し先のむかしに、とある人間が神の領域を開墾した。
神はたいそうお怒りになり男と開墾してできた村に次々と災いを降らせた。
困った村の人々は怒り狂うた神に対抗できる善神の来訪を願い捧げものと共に祈りを捧げた。
10つの日が回った頃、天から神が降ってきた。
神は村を更地にすること、年瀬と旧正月に血を捧げることを代償に山に住まう
─────────
「地主様だ」
「んで、それが何なんだ?お前はその物語の地主神だとでも言うのか?」
「残念なことにそんな伏線は張ってないんでな。俺が言いたいのは地主神の棺の話だ」
「あれは確かに存在している。ミレニアムで1体観測したからな」
「あたしゃ見たことないぞ。」
「そりゃ私が生きてるときに"対処"したからな。」
神の魂を入れた棺。
随分、冒涜的だ。んで…なんでそんなものをいきなり話した?
いや、答えは明々白々。あたしの"あいつらがどこに向かってたか"という問いに対してこの話を出した。そして棺にフォーカスした。
「お前ってストレート投げられるんだな。」
「あの先に棺があるんだな?」
「んでもって、それがあいつらの目的なんじゃないかと考えてる。」
神の魂が入った棺。ずいぶん冒涜的な話だな。
奴らがそれを求めてるのかはわからないが…郊外なんて何もない場所だ。
ほほ確定でそれだと思っていいだろう。
だが、探す理由はなんなんだ?神の力でも欲してるのか?
「言っとくが、分けられた地主神の力を手に入れようなんて考えるなよ」
「神の力は人知に及ばない理の外だ。"力や願いには代償が伴ってこそだ」
「あたしゃそんなつもりねえよ。あいつらがそういうつもりなんじゃないか?ってのを考えてるだけだ」
今現在の情報量じゃそうとしか考えられないが。
神の力なんてあからさまなにヤバそうなモノを狙う理由がやっぱり分からん。
…というか、こいつ。ミレニアムの棺は対処したつったよな?
じゃぁ…その中にある魂は?
「なぁ、ミレニアムの棺の神の魂はどうした。」
「……。誰か来たぞ」
「おい、話は終わって…!」
クッソっ!誰も来てねえじゃねえかよ。
人に神の力に手を出すなとかグチグチ言っておきながら自分は使ったのかよ。
そうかよ。クソが、神の力探してやるよ。
あたしは使わねえ。あいつらの目的も気になるが。こいつの過去も暴いてやるよ。
もう寝るか。
明日は朝から郊外の探索だ。すぐに見つけられるとは考えれない…時間が足りないな。
食いもんと水は多めに用意しておかにゃな。
───翌日.A.M.6:30───
「んぁ?はぁ…朝か。」
体を起こす。
ボロボロのベットではあったが、寝るのには十分だったな。
体を伸ばす。ボキボキと骨の鳴る音と共に体がスッキリになるのを感じる。
腕や脚、目や脳…どこにも一切異常を感じない。
「ずいぶん体を気にするんだな。今のうちにメディカルサービスの電話番号でも固定しておくか?」
「任務中に表の病院にゃかかれないんだよ」
荷物をまとめて、扉の方に向かう。
もう戻ってくることもないこの家に別れを告げる。んじゃ、行くか…郊外に。
───ゲヘナ郊外・ヒノム火山山麓───
「こりゃずいぶん…ひどい場所だ。」
焼け付けるような暑さ…いや熱さにプラスして火山灰で足場が悪い。
元々はバラック地帯の一角だったようで、捨てられた家が確認できる。
足跡がある…あいつらはここを通っているのか?1つや2つどころじゃない。
20…40いや、もっとたくさんだ。ずいぶん長い間ここに居たと見受けられる。
「ここはずいぶん入り組んでるな。戦うには如何せん不利になる」
「戦う気はない。出会ったら逃げるつもりだ。」
「相手は見るからにプロだ。逃げれると思ってるのか?めでたい頭だ」
「あたしゃ
「返還した称号だろ」
「…っと、分かれ道か。しかも狭い」
バラックが近く多くなってる。室内とほぼ変わらない狭さだ。
左は大量の足跡がある。一方右は1人分だけの足跡がある
どちらも誘ってるように見えるな。大量の足跡はもちろん一人分だけってのがあからさますぎる。…どっちに行くべきだ?
「俺なら右に行く」
「なら左だな」
左の道を進む。足跡の上をゆっくりと進む。
どっちの道でも接敵の可能性は十二分にある。
腰にしまっていたサイドアームを持ち、C.A.Rシステムに構える。
なるべく壁を背にゆっくり、ゆっくりと前へ進んでいく。
こういう時、アスナでも居てくれたらいいんだが……あいにく私一人の任務だ。
いやまぁ、これは任務とは関係ない個人的な興味なわけだが。
「運がいいな。こっちは当たりらしい」
「そうだな、クレイモア対人地雷にバラックに隠されたブービートラップ。」
「この先に隠したいものがあるらしい」
それにしてもずいぶん…煩雑に散らかってる。
ここはあいつらが探し物をしてた方ってところか?
奥の方になにか目当てのものがある可能性も…まだ探してる途中の可能性もある。
どちらにせよ、何かあるからこそのこのトラップだ。ここは後回しにしよう。
来た道を戻り、今度は一人の足跡しかない方を進む。
狭いのに変わりはないが…何もない。
こっちには何もない…というよりはまだ未探査なのだろうか?
いや、未調査というよりこっちは居住スペースってところだな。
きれいに整頓されて、火山灰も見るからに少ない。
多分、クレイモアなんかの道はカモフラージュ…実際はこっちからあの奥に行くんだろう。
…さてどうするか。この先に行くのは危険だ。
だが目的はまだまだ奥にある。…バラックの屋根から行くか?
いや、ここは一帯バラックで上に隠れるほど高くない。
居ないことを確信できないこの状況。どうするべきか。
「おいおい、何迷ってんだよ」
「このまま行けば接敵もあるんだ。慎重にもなるだろ」
「
「ああ、そうかよ。行ってやるよ。」
一歩、また一歩踏み出す。火山灰を踏みしめる自分の足音しか聞こえない。
C.A.Rシステムも辞め、ズカズカ進む。
それでも手にはしっかりと握りしめて、警戒は緩めない。
恐怖もなんもない。ただ一つ慢心もない。曲がり角…ゆっくりと自身の死角と銃の射角を一致させ、クリアリングする。
この角には何もないな…まだ居住スペースらしきものも見えない。
さすがに入って数分もしない場所にゃ、ないよな。
「棺はこんな麓にはない。あいつらは…別の物を探してるのかもな」
「…どうだか、ただ虱潰しに探してるだけかもしれねえ。」
「いいや違うね。やつらは見たくないだけなんだよ。俺にはわかる、棺のおぞましさも恐怖も全部だ。」
「見たくないだ?見たことないあたしたちに恐怖がわかるかってんだよ」
「……お前見えてないのか?」
「あ゛?なんだよ。スピリチュアルに目覚めたか!?自称太陽王がよ!目覚めるんなら肉体があるときに目覚めとくんだったな!」
見えてないのかだって??バカバカしい。今はまだただの火山だ。
郊外に分類されちゃいるが、熱くて足場が悪いだけだろ。不可思議なナニカもない。
見えるとかんなんけないんだよ。くっそ、イラついちまった。
息を整えろ。……足音が聞こえる。
あたしのじゃない。4人だな。十中八九あいつらだ。
物陰に息を潜める。居住スペースは近そうだ。あいつらが奥へ行ったらそっちを見てみるか。
「行ったみたいだな。」
「居住スペース、何かあると思うか?」
「弾と寝袋がありゃいい方ってところだろ」
「期待はできないな」
あいつらが進んでいった方とは逆に向かう。
ある程度進むと、他より小綺麗な生活感のあるバラックを見つける。
わかりやすく当たりだな。これぐらいわかりやすいとありがたいもんだな。
扉を開ける。中は雑多な生活感がある反面…もう一つは
「調査記録か。」
「地図と調査済みの場所の記録。その下にゃ日記か?ずいぶん本格的なんだな」
山麓は半分ぐらい調査済みか。
下の日記は記録書かのうち適当に気になったものを手に取る。
───◯月✕日───
入山12日目
このバラック小屋にも慣れてきた。
ここは熱い調査もなかなか上手くはいかない。
山麓にめぼしいものは見えないが、大切な情報がたくさん落ちている。
火山灰の下には過去がそのまま残っているらしい。
その中で、気になるものはいくつか記録した。なんでもここは呪われた地らしい。
───■への■■■──
山■裏に■、■■くこと■■れ■い。
■■くと■せ■せと■が■■える■とだろ■。
■を■■ばいいのか、■通の■にはわ■■な■だろう。
その■に■るの■は■を■■たタ■ダ■■がいら■し■る■
■■■の■に■■たとき■性を■い、■のないの■■を■■な■ため■■ら■り■■■のだ。
もし、■■裏に■■くのであれば■を■納せよ。
───────────
破れてんのかよく読めないのが多かった。
まだこの街にはこういった紙が遺されてんのかもしれないな。
───◯月△♢日───
入山18日目。
山麓の調査が半分を終えたあたりから、調査が進まない。
まるでそこだけ過去の大噴火に囚われているようになっており、先に進むことが困難な状況になっている。時々、"返せ返せ"そう声が聞こえる。
私は大丈夫ですが、隊員たちは気が滅入ってしまっており、現在残り半分の調査は中断中
何を返せばいいのだろうか。
返すものを探すために手前をもっと入念に探そう。
───────────
「なるほどな。」
手がかりは確実にさっきののぼろぼろの紙だ。
もっときれいな状態のアレを見つければなにか、ヒントになるはずだ。
「……棺は裏に、いや"裏の裏か"」
「どうした?中二病ごっこしたいなら後にしてくれ」
「いいや、真面目な考察だ」
他にも見たいものはたくさんあるが、奴らの活動時間はまだ不明瞭だ。
ここいらで終わりにしておくべきだな。欲張るとろくなことにはならないからな。
窓から外を確認して、誰もいないことを確認する。
扉を開け、来た道を戻る。幸いまだ調査中で、接敵することはなかった。
と…なるとだ。次に探すべきはあの破れた紙の破れてないバージョン探し。
だが…あいつらが活動中じゃ見つかる可能性が高い。夜…寝静まった時間帯にひっそりとやるべきだな。
起きてるとどうしてもイレギュラーってのは発生する。
だが…時間が惜しいな。12時間以上待機することになるかもしれない。
明日になればゲヘナ本校の調査だ。少しでもこっちの調査を進めたいのだが…。
「あいつらは今、"返すもの"とやらを探してるんだろ?なら山麓裏にはいけるんじゃねえか?」
「…一度、実体験してみるか。返せって声とうまく進めない現象を。」
裏を見に行くだけなら山麓近くを通る必要はない。大回りで向かえば安全に行けるか?
…達成可能なラインだな。