何回やり直してもお嬢様が救えない~今度のお嬢様は、なぜか私を離してくれない~   作:名もなきそば付き

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三章の表紙イメージです。AI画像ですのでご注意ください。
また作中に挿絵が1枚あります。そちらもAI画像ですのでご注意ください。


第三十六話☆聖女との買い出し

 大聖堂の裏口で、フィオナが二つの籠を持って待っていた。

 診療室の布を届け終えた俺へ、一つ差し出す。

 

「今日は私のほうが先でした」

「お待たせしました。何を買うのでしょうか」

「薬草と、包む紙です。それから皆さんのお昼の分を少し」

 

 買い出しの紙を受け取る。

 教会の調達を済ませたあと、帰りにパンを買うことになっていた。フィオナは学園の授業がない日も、ここで仕事を続けている。

 俺も通学の時間に合わせ、先生方と診療の担当を分けていた。

 

「紙は前のお店でよいのですね」

「はい。薬草は橋の向こうです。今日は乾いたものが届く日なので」

 

 フィオナが道を示す。

 以前にも一緒に歩いた道だったが、今日は彼女が仕入れの時間まで確かめていた。

 俺は渡された籠を持ち、横へ並んだ。

 日が差す通りには、荷車と買い物客が行き交っている。角を曲がる前に荷車を通すと、フィオナも足を止めた。

 

 

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「ノエルさん、朝は授業でしたか」

「はい。歴史の授業を受けてきました」

「難しかったですか」

「教本に載っていない話がありました。先生が西の街を訪ねたときのことです」

 

 覚えていた授業でも、話す人が変われば中身は違う。

 以前の先生は港の話をなさった。今の先生は、西の街に架かる橋と、その通行料について話された。

 その橋がどの街道につながっているのか気になり、授業中に街の名前を帳面へ控えておいた。教会へ戻ったら地図で位置を確かめようと思っている。

 

「私もそういうお話は好きです。知らない町に、どんな店があるか想像できるので」

「お店ですか」

「おいしいものが違うかもしれません」

 

 フィオナが笑う。

 教師が話した税や交通の話から、そこまで考えが伸びていたらしい。

 橋の手前には焼き栗の店が出ていた。彼女は一度見たが、買い出しの紙を確かめて歩き続ける。

 

「お帰りに寄りますか」

「お仕事の分を全部買ってからでもいいですか」

「もちろん」

 

 あとで忘れないよう、俺は角の位置を覚えた。

 

     ☆

 

 薬草屋では、束ごとに違う布が巻かれていた。

 湿ったものと乾いたものを別の棚へ置き、店主が紙を読んで籠へ移す。

 俺は葉の裏と茎の折れ口を確かめた。

 店主は嫌な顔をせず、次の束も手渡してくれた。

 

「こっちは昨日の夜に干し終えたものだ。強く握ると崩れるよ」

「では、この上へ紙を置かせていただきます」

 

 フィオナが柔らかい布を広げた。

 籠の底に敷き、束を並べる。運ぶ間に袋同士が擦れないようにしてから、残りの数を数えた。

 

「こちらは別の袋へお願いします。診療室ではなく、実習に使う分なので」

 

 店主が札をつける。

 俺の籠に診療用、彼女の籠に実習用を入れることにした。

 袋の重さが偏らないところまで揃え、代金を払う。

 店主がフィオナへ小さな葉を一枚見せた。

 

「学園でも習うんだろう。見分けてみるかい」

 

 フィオナは受け取り、明るいほうへ向ける。

 葉の縁を見てから、答えた。

 店主が正解だと言うと、嬉しそうに俺を見る。

 

「この前、先生に見せていただいたものと似ていました」

「裏側も確かめたほうがよいですね。似た葉がありますから」

「ここですね」

 

 彼女は葉を返し、目立つ筋を示した。

 教わったことを覚えている。それを確かめて、俺は次の袋を籠へ入れた。

 

 店を出る前に、店主が次の入荷の話をした。

 同じ薬草でも、今月の終わりには採れる場所が変わるらしい。

 俺は使う量を伝え、教会へ知らせておくべき日を聞いた。

 フィオナは小さな紙へ日付を書き、束につける札も確かめる。

 

「こちらは、新しい場所から来た分なのですね」

「そうだよ。葉が小さくなるが、使うところは同じだ」

 

 店主が別の束を見せた。

 俺たちは診療室で確かめてもらうため、見本を少しだけ預かることにした。

 フィオナは見本へ紙を巻き、受け取った場所を書いた。

 

 フィオナは籠へ見本を入れたあと、帰ってから先生へ見せる順番を俺と確かめた。

 パンを渡して、薬草を棚へ運ぶ前に知らせる。

 それなら、忙しい診療の途中へ急に割り込まずに済む。

 紙屋へ着くと、包む紙の厚さを二人で選んだ。

 湿った布を置いてもすぐ破れず、折りやすいもの。診療室の棚に収まる大きさへ切ってもらう。

 店員が作業している間、フィオナは小さな帳面の棚を見ていた。

 

「一冊、買ってもよいでしょうか」

「ご自分のものなら」

「はい。買い出しで聞いたことを書くのに使いたいです」

 

 教会の伝票とは別に、店ごとのことを書いておくつもりらしい。

 俺は籠を足元へ置き、彼女が選ぶのを待った。

 表紙を開いたフィオナが、俺へ一冊見せる。

 

「こちらとこちら、紙が違いますね」

「厚いほうなら、両側へ書いても透けにくいと思います」

 

 店員に試しの紙をもらい、フィオナが自分の名前を書く。しばらく待って裏へ向け、厚いほうを選んだ。

 自分の財布から代金を出すと、その帳面を袋へしまう前に、最初のページへ薬草屋の名前を記した。

 

「忘れないうちに」

 

 俺は受け取った包みを籠へ載せた。

 

     ☆

 

 橋へ戻る頃には、焼き栗の店に列ができていた。

 フィオナは列の長さを見て、教会へ戻る時間を確かめる。

 

「お昼のパンは、先に買ったほうがいいですよね」

「はい。こちらはまだ少し続けるようです」

 

 店主に聞くと、用意した栗がなくなるまでは店を開けているという。

 俺たちは先にパン屋へ行った。

 診療の合間に食べる分なので、手を汚さず分けられるものを頼む。店の奥から運ばれたパンを、フィオナが紙へ包んだ。

 俺の籠は薬草で埋まっていた。パンは彼女の籠へ、重い実習用の袋をこちらへ移す。

 

「その袋も私が持てます」

「こちらのほうが、薬草を潰さず入りますので」

 

 置き方を見せると、フィオナはうなずいた。

 焼き栗の店へ戻り、二人分だけ買う。

 俺が代金を出そうとしたら、フィオナが先に銅貨を置いた。

 

「前にご案内したいと言ったのは私なので」

「それでしたら、次は私が」

「はい。次はノエルさんが好きなものを教えてください」

 

 栗を受け取り、橋の脇の空いた場所へ行った。

 籠を石の低い縁へ置き、通行人の邪魔にならないよう横へ立つ。

 熱い殻を指先で開くと、柔らかい中身が出てきた。

 フィオナはまだ熱そうに指を離し、栗を持ち直している。

 

「少し冷ましてから」

「はい。急ぎすぎました」

 

 笑って息を吹きかける。

 俺は殻を紙袋へ入れ、栗を食べた。

 砂糖をつけていないのに甘い。彼女が案内したくなるのも分かった。

 

「おいしいですね」

「よかった。季節が変わると、別のものも焼くんですよ」

「次は何でしょうか」

「りんごです。丸いままではなく、切って薄い生地で包むんです」

 

 店で買えるものなら、いずれお嬢様にもお持ちできる。

 俺がそう考えていると、フィオナは次の栗を割った。

 殻がうまく開かず、少し中身を崩してしまう。それを見せながら、食べるときには変わらないですねと言った。

 先にこちらへ手を伸ばして渡したり、勝手に俺の栗を割ったりはしない。

 自分の分を食べながら、隣で話す。

 

「学園で、一番困るのは何ですか」

 

 彼女が聞いた。

 俺は栗を飲み込んでから答えた。

 

「教会へ行く日の、授業の書き取りでしょうか。あとで見せてもらう約束はしていますが」

「私の分も使ってください。字が読みにくいところは聞いてくだされば」

「ありがとうございます。フィオナは?」

「言葉です。お店でなら普通に言うことも、皆さんへ同じように言ってよいか分からなくなることがあります」

 

 殿下たちと食べた昼食を思い出しているのだろうか。

 あの返事に問題はなかった。

 ただ、身分が違えば言葉の受け取られ方も変わる。親しくしたつもりでも、その距離へ入りたいと思う者がいる。

 

「分からないときは、先に尋ねてもよいと思います」

「誰にですか」

「相手によりますが……私に聞いてくださっても」

 

 言ったあと、少しだけ考えた。

 この方の行動をすべて預かるつもりではない。お嬢様の安全に関わるところを見ている。その目的は今も変わらなかった。

 フィオナは嬉しそうにうなずいた。

 

「では、また相談してもいいですか」

「ええ」

 

 俺は紙袋の口を閉じた。

 包みの中では、まだ栗が温かかった。

 

     ☆

 

 戻る道で、道端に落ちた荷物を拾っている人を見かけた。

 袋が破れ、木の実が転がっている。

 フィオナが立ち止まり、籠を抱え直した。

 

「拾うのをお手伝いしましょうか」

 

 まず相手へ尋ねる。

 荷物の主は顔を上げ、助かると言った。

 俺たちは籠を邪魔にならない場所へ置き、木の実を集める。割れたものは袋へ混ぜず、端へ寄せた。

 フィオナは木の実を一つずつ渡し、袋を支えてよいか聞く。

 相手がうなずくのを待ってから、破れたところを持った。

 俺は紙屋で余分にもらった包み紙を広げた。

 

「一時的なものですが、こちらへ移せます」

 

 荷物の主が礼を言う。

 店まで運ぶつもりではなく、この角で待ち合わせる相手へ渡す分だという。事情が分かれば、必要な手助けも短く済んだ。

 袋の持ち方を整え、俺たちは籠を取りに戻った。

 フィオナが手の埃を払い、俺を見る。

 

「少し遅くなりましたね」

「まだ、お昼には間に合います」

 

 教会の時計塔が見えた。

 以前なら、この程度の手助けでも、その先の用事まで自分から引き受けたのではないか。

 今日は相手の返事を聞いて、頼まれた分で終えていた。

 俺は歩きながら、昨日帳面に書いた言葉を思い出す。

 今回、何が変わったのか。

 同じ言葉をかければ同じことが起きるとも、もう考えられない。

 それでも、手を伸ばす前に声をかけた彼女の行動は確かだった。

 

「ノエルさん」

 

 呼ばれて顔を向ける。

 

「私の栗も、まだ一つ残っています。教会でお茶をいただくときに食べませんか」

「仕事のあとになりますが」

「私もです」

 

 当たり前のように言って笑った。

 俺はうなずき、大聖堂の裏口を開ける。

 フィオナが先に籠を持って入り、診療用のものをどちらへ置くか尋ねた。

 




挿絵のぼけ部分は決して窓に!窓に!とかの存在ではないです。
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