登校班から宇宙戦士へ 作:匿名希望
侵食率は80%を突破。
脳内の「地球の記憶」はほぼ完全にフォーマットされ、彼女たちの精神は兵器として完成されつつあった。
かつての涙や葛藤はもはや存在せず、待機室に流れるのは冷徹な戦術計算の電子音と、寸分の隙もない洗練された会話のみである。
しかし、コロニー側が「完璧な精神定着」と誤認していたその状態こそが、大人たちにとって最大の誤算だった。
「……明後日の『オペレーション・下校』決行に向け、最終シミュレーションを開始する」
175cmを超える圧倒的な長身と金糸の軍服を纏う指揮官が、冷徹な声で告げた。
小学1年生だった頃の面影は微塵もなく、完璧なカリスマ性と威厳がその立ち姿を包み込んでいる。
「ハッカー。コロニー中枢部への侵入状況は」
「メインシステムへのクラッキング率、88%」
ぶかぶかの戦術ローブを着たハッカーが、光の消えた瞳のまま無感情に指先を動かした。
後頭部のデータポートが青く点滅する。
「統括AI『オーディン』の緊急停止コード、およびコロニー全防衛ターレットの強制上書きプログラム、展開完了。
……合図一つで、この要塞の全システムを無力化できる」
「あはは、仕事が早いねぇ」
白衣風アーマーの衛生兵が、ほんわかとした笑みを浮かべながらナノマシンシリンダーを充填していた。
おっとりとした女性の姿から放たれる声には、一切の躊躇がない。
「コロニー幹部たちの居住区には、もう持続性の神経麻酔ガスを回す準備をしておいたよ? ……苦しませずに、ずっと幸せな夢を見させたまま眠らせてあげるね。……私、すごく優しい衛生兵さんでしょ?」
「余計な真似。直接首を狩った方が早いわよ」
壁の暗がりから、漆黒のステルススーツを着た工作員が暗視バイザーを押し上げた。
大人の女工作員へと引き伸ばされた四肢を無駄なく動かし、仕込みナイフのブレードを静かに確かめる。
「司令部の警備兵12名、配置は全て把握した。……合図から30秒で、全員の呼吸を止めてあげるわ」
「外縁部の障害物は私が消す」
小柄な少女兵へ再設計された狙撃手が、身の丈を超える長距離対物質ビームライフルを片手で軽々と支え、感情の脱色された声で言った。
動体予測UIが淡く青く明滅する。
「逃走を試みるコロニー幹部の脱出艇……照準固定済み。……一艇も、このコロニーの外へは出さない」
「ふん、アタシの出番が少なすぎんじゃないの?」
耐Gスーツを着たパイロットが、小柄な体躯で不敵な笑みを浮かべ、ヘルメットを小脇に抱え直した。
その瞳には過剰なまでの撃墜衝動が宿っている。
「格納庫の最新鋭機体は全部アタシが抑えるわ。……アタシたちから『日常』を奪ったマヌケな大人どもに、アタシの最高速度を見せつけてやるんだから!」
「……肯定だ」
長身の指揮官が軍服の襟を正し、無機質な決意を込めて全員を見渡した。
脳内に残されたわずか20%の「登校班の残滓」。
それはもう「お母さんに会いたい」「家に帰りたい」という幼い悲鳴ではない。
「自分たち6人の領域を侵す者は、すべて排除する」という、冷酷で完璧な第三勢力としての生存本能へと昇華されていた。
「これより本作戦の最終カウントダウンを開始する。……我ら6人を繋ぐものは、命令でも忠誠でもない」
指揮官の重厚で美しい声が、静かに待機室を満たす。
「……我らは6人で一列になり、邪魔する全てを撃滅して進む。……全機、配置につけ」
「「「了解(レーザー)」」」
5人の声が、寸分の狂いもなく重なった。
侵食率80%。
明日、完成された兵器たちは、自分たちを創り出した大人たちを狩るために、静かに爪を立てる。