登校班から宇宙戦士へ 作:匿名希望
防衛区画の薄暗い作戦会議室。
精神侵食率は80%を超え、かつての幼い記憶はほぼ「機能不全を起こした破損データ」として脳の最深部に追いやられていた。
6人はすでにプロの軍人として会話を交わし、寸分の狂いもない戦術プロトコルに従って動いていた。
しかし、だからこそ――残された20%の「登校班の残滓」が、兵器としての冷徹な思考と異常な形で融合し始めている。
「……明日1400、敵第三艦隊がコロニー外郭に接触する」
175cmを超える長身の指揮官が、軍服の袖口を揃え、重厚で美しい声でホログラムマップを指し示した。
かつて最後尾で泣いていた少年の面影はなく、完璧な威厳がその立ち姿を包んでいる。
「作戦目標は敵主力の完全撃滅。……ただし、作戦名に変更がある」
「作戦名?」
漆黒のステルススーツを着た元2年生(工作員)が、暗視バイザーを押し上げ、斜に構えた冷ややかな視線を向ける。
「……『オペレーション・下校』。そう呼称する」
指揮官の言葉に、一瞬だけ室内がしんと静まり返った。
「下校……?」
小柄な少女兵へと作り変えられた狙撃手が、無機質に呟いた。身の丈を超える長距離対物質ビームライフルを膝に抱えたまま、感情の消えかけた瞳を指揮官に向ける。
「……その単語、照準器のデータベースには存在しない。……でも、私のメモリの最下層で、強い同調反応(シンクロ)が起きている」
「ふん、くだらない」
耐Gスーツを着たパイロットが、ヘルメットをコンソールに叩きつけ、不敵に鼻で笑った。
最年少の華奢な体躯に押し込められた強烈な撃墜衝動が、その瞳に宿っている。
「作戦名がなんだろうと関係ないわよ。アタシが前線に出て、邪魔な敵機を片っ端から細切れに撃ち落とす。アタシは最強のパイロットなんだから……誰にも、アタシたちの邪魔はさせない」
「……誰にも、ね」
ぶかぶかの戦術ローブを着たハッカーが、光のない瞳のまま無感情にキーボードを叩いた。
後頭部のデータポートが静かに青く点滅する。
「……コロニー幹部、およびAI『オーディン』のメインフレームへの潜入率、81%。……幹部たちは私たちを『忠実な兵器』と誤認中。
……ふふ、バカみたい。私たちの『家』を奪ったシステムなんて、全部クラッシュさせてあげる」
「あはは、ハッカーちゃんも言うようになったねぇ」
白衣風アーマーの衛生兵が、ほんわかとした笑みを浮かべながら、医療用スカルペルを指先で遊ばせていた。
急成長した女性の姿を揺らし、おっとりとした声で続ける。
「幹部のおじさんたちの神経系は、私が麻酔ガスで優しく眠らせてあげるね。……誰も死なせないし、誰も逃がさない。だって、私たちは全員で『帰る』んだから」
「……帰り道なんて、もうどこにもないくせに」
工作員が冷たく言い放った。
だが、その声には以前のような悲壮感はなく、冷酷な決意だけが宿っていた。
「地球の家族も、学校も……今のあたしたちを見たら化物扱いするわよ。……だから、あたしたちの居場所は、あたしたち自身で奪うしかないの。
……フン、他人に頼るのは嫌いだけど、あんたたちとなら……コロニーごと乗っ取るのも悪くないわ」
「……肯定だ」
長身の指揮官が静かに頷いた。
かつて1年生だった彼は、お母さんの顔も、自分の本当の名前も、もう思い出せなくなっていた。
脳の8割は冷徹な戦術AIと軍事データで埋め尽くされている。
だが、残された2割の「登校班の絆」が、彼をコロニーの忠実な犬ではなく、「コロニーを狩る第三勢力の首領」へと変貌させていた。
「我らはもはや、誰の命令も受けない。……コロニーを制圧し、この戦争そのものを利用する。……全機、明日の『オペレーション・下校』に備えよ」
「「「了解(レーザー)」」」
5人の声が、寸分の狂いもなく重なった。
侵食率80%。
彼らは地球の子供に戻ることを諦め、兵器としての完璧な冷酷さをもって、自分たちの居場所を奪い取るための反逆へと舵を切った。