登校班から宇宙戦士へ 作:匿名希望
決行まであと数時間。コロニー最深部の暗い弾薬庫には、冷たい機械音と緊張感だけが漂っていた。
脳内の「地球の記憶」は残り5%。家族の顔も、通学路の風景も、自分たちの本名すらも思い出せない。
しかし、その残された5%の領域には、「6人全員で、何があっても一緒に行く」という狂気的で絶対的な執着が凝縮されていた。
「……ハッカー。AI『オーディン』への最終オーバーライド、準備は完了しているか」
175cmを超える圧倒的な長身と金糸の軍服を纏う指揮官が、重厚で美しい声で問う。
その立ち姿には完璧な威厳が満ちていた。
「肯定」
ぶかぶかの戦術ローブを着たハッカーが、光の消えた瞳でホログラム画面を操作する。
後頭部のデータポートが静かに明滅していた。
「統括AIのメインコア、およびコロニー幹部全個体の生体IDカードキー……すでにクラッキング完了。
私たちが合図を出した瞬間に、この要塞の全システムは私たちの『下校ルート』として再構成される」
「フフッ、準備万端だねぇ」
白衣風アーマーの衛生兵が、ほんわかとした笑みを浮かべながら、高濃度の睡眠ガスシリンダーを腰のベルトに装着した。
急成長した大人の女性の体を揺らし、狂気的なほど穏やかに言う。
「幹部のみなさんには、痛みのない最高に幸せな夢を見せてあげる。……私たちが奪われた『普通の日常』の代わりにね」
「あたしは幹部共の脱出用小型艇の通信線を切断したわ」
暗がりから漆黒のステルススーツを着た工作員が、暗視バイザーの下から冷ややかな笑みを覗かせた。
「ネズミ一匹、逃がさない。……あたしたちを兵器に変えた報い、たっぷり受けてもらうわ」
「外縁部の防衛ターレットも、全てこちら側に同調済み」
小柄な少女兵へ再設計された狙撃手が、身の丈を超える長距離ビームライフルを撫でながら淡々と言い放つ。
「外部からの救援信号もすべて遮断する。……私の射撃ラインに立ち塞がる者は、全て貫く」
「あはは! 最高の気分ね!」
耐Gスーツを着たパイロットが、ヘルメットを抱えて不敵な笑い声を上げた。
最年少の華奢な体躯に宿る圧倒的な撃墜衝動が、操縦OSと同調して青い光を放っている。
「アタシたちが前線を突破して、このコロニーごと宇宙へ飛び出してみせるわ! アタシが一番強いんだから、全員ついて来なさいよ!」
「……全員、傾注」
指揮官が静かに手を挙げると、全員の口がすっと閉じた。
指揮官は軍服の襟を正し、5人の顔を一人ひとり見つめた。
身体を縮められた最年少のパイロット。
冷酷な射撃手へと変えられた少女。
大人へと急成長させられた衛生兵。
感情を消された幼いハッカー。
孤高の工作員へと引き伸ばされた少女。
二度と元の姿には戻れない。
お母さんの声も、黄色い帽子の色も思い出せない。
だが、今の彼女たちには「6人だけの特別な絆」と、世界をも滅ぼしうる「圧倒的な力」があった。
「我らは明日、コロニーへの『絶対の忠誠』を装い出撃する。そして――大人どもが油断したその瞬間に、この要塞を我が物とする」
指揮官の声が、重厚な決意となって待機室に響き渡る。
「オペレーション『下校』――開始は明日0600。……全員、無事に『帰り』の時間を迎えよ」
「「「了解(レーザー)」」」
5人の声が、寸分の狂いもなく完全に重なった。
侵食率95%。
地球の子供たちの記憶をほとんど失った6人の兵器は、明日、自分たちを創り出した大人たちを狩るため、最後の静かな夜を明かそうとしていた。