登校班から宇宙戦士へ 作:匿名希望
コロニー「ヴァルハラ」を完全に破壊し、戦争そのものを幕引きへと追いやった6人は、最新鋭の要塞型宇宙船「アルゴ」のブリッジに集まっていた。
もはや地球の場所を指し示す航路データは存在しない。
彼らの頭脳に刻まれた高度な戦闘OSも、故郷の記憶だけは「ノイズ」として消去し尽くされていた。
ブリッジ中央の指揮官席。
175cmを超える圧倒的な体躯と金糸の軍服を纏う長身指揮官は、脚を組み、静かに艦長窓の外を見つめていた。威厳に満ちた声で、低く呟く。
「……全システム、巡航モードへ移行。針路、極星領域。……目標は指定しない。我々が進む道こそが航路だ」
「了解、指揮官」
ぶかぶかの戦術ローブを着たハッカーが、無感情な瞳でホログラムコンソールを操作する。
肉体年齢を10歳で固定された小さな手足が、超光速航行のプログラミングを淡々と処理していく。
「あてのない旅……演算効率としては最低。でも……この船のセキュリティ領域には、誰の侵入も許さない」
「あはは、どこに行ってもいいなら、私の薬草園を作りたいな」
白衣風アーマーの衛生兵が、ほんわかとした笑みを浮かべながら注射器のメンテナンスをしている。
おっとりとした女性の姿に急成長した彼女は、狂気的なほど穏やかに言った。
「旅の途中で傷つく人がいたら、全部わたしが『改造』してあげる。……みんながずっと健康で、死なないようにね」
「余計な真似したら、背後から撃ち抜くわよ」
物陰の暗がりから、漆黒のステルススーツを着た工作員が姿を現した。
暗視バイザーを上げ、皮肉めいた冷笑を浮かべる。
「一匹狼のあたしが、なんでこんな船に乗り続けてるのかしらね。……まあ、他に行くあてもないし、あんたたちの監視役くらいはやってあげる」
「ふん、強がり言っちゃって」
耐Gスーツを着たパイロットが、ヘルメットを小脇に抱え、不敵に笑い飛ばした。
最年少の華奢な少女姿に縮められた彼女は、誰よりも瞳を輝かせている。
「どこへ行こうが関係ないわ! どんな未知の敵が来ても、アタシがこの船の艦載機で全部返り討ちにしてあげるんだから! アタシが一番強いんだからね!」
「……パイロット、操縦特性の慣性制御、0.2%ズレてる」
小柄な少女兵へと作り変えられた狙撃手が、身の丈を超える長距離対物質ビームライフルを抱え、冷徹な声で指摘した。
光学的迷彩ポンチョの隙間から、無表情な瞳が窓の外の星空を映している。
「外れていく星々を、ずっと見ていた。……狙撃のスコープ越しじゃない星空を見るのは、久しぶり」
ふと、ハッカーの手が止まり、コンソールの隅に保護されていた古いデータファイルを呼び出した。
画面に浮かび上がったのは、文字化けした「登校班」というラベルと、黄色い正方形のアイコン。
「……ねえ、指揮官。このデータの解析、実行する?」
長身の指揮官は、軍服の襟元に触れ、ゆっくりと首を横に振った。
「不要だ。……我々はもう、あの日常には戻れない。名前も、顔も、帰るべき場所も、すべてこの戦いの中で失われた」
指揮官は立ち上がり、ブリッジに集う5人の顔を一人ひとり見渡した。
肉体も、性別も、年齢も、性格も、すべてを戦争の都合で書き換えられた6人。
「だが……我々には、この船と、互いの存在がある。……これより本艦は、未知なる星系へと進路を取る」
指揮官の威厳ある宣言に、5人が同時に、寸分の狂いもない軍隊式の敬礼を返した。
ランドセルを奪われ、兵器へと変えられた少年少女たちは、かつての通学路の代わりに無数の星々が散らばる銀河を、新たな「下校ルート」として進み始める。
どこへ辿り着くかもわからない、永久の旅路へ向かって。