登校班から宇宙戦士へ 作:匿名希望
あてのない航海の果てに、要塞型宇宙船「アルゴ」が辿り着いたのは、どの星図にも記載されていない宇宙の最果て――幾何学的な結晶の星々が静かに煌めく、果てのない「終わりの海」だった。
追撃してくる敵勢力はとうの昔に絶え、全宇宙を震撼させた「登校班」の伝説も、過ぎ去った時の中に埋もれつつあった。
「……全スラスター、停止。これより本艦は、恒久的な停泊モードへと移行する」
中央の艦長席。175cmを超える長身の指揮官――ルージュは、軍服の襟を正し、静かに目を閉じた。
数無き戦いを潜り抜けてなお、その佇まいには絶対的な威厳と美しさが宿っている。
「目標地点への到達を確認。……ここが、我々の旅の終着点だ」
「……演算終了」
ぶかぶかの戦術ローブを着たジョーヌが、キーボードから手を離した。
光の消えた瞳で、後頭部のデータポートから這うコードを静かに引き抜く。
「もう……誰も追いかけてこない。通信ログ、完全クリア。セキュリティレベル、ゼロに設定」
「あはは、やっと落ち着いて『お薬草園』が作れるねぇ」
白衣風アーマーのヴェールが、ほんわかとした笑みを浮かべ、抱えていた注射器やスカルペルをテーブルの上に優しく置いた。
急成長した大人の女性の体を揺らし、心底穏やかに言う。
「もう誰も怪我しないし、誰も死なない。……私の『外科的処置』も、これで本当におしまい」
「……フン。あたしの仕事も、すっかりなくなっちゃったわね」
漆黒のステルススーツを着たノワールが、暗視バイザーを外して胸元に掛け、あくびを噛み殺した。
仕込みナイフの刃を仕舞い、壁に深く背をもたれかける。
「誰かを警戒する必要もないなんて……なんだか調子が狂うわ。でも……悪くはないわね」
「アタシの撃墜スコアも、これで永久凍結かぁ!」
耐Gスーツのヘルメットをコンソールの上にぽんと置いたパイロット――ブランが、腕を組んで不敵に笑った。
最年少の華奢な体躯に宿っていた撃墜衝動は静まり返り、満足気な瞳が窓の外の綺麗な星々を映している。
「全宇宙で一番強いのは、最後までアタシだった! 文句のある奴は誰もいないわよね!」
「……誰も、いない」
小柄な少女兵の姿をしたシアンが、身の丈を超えるビームライフルを壁に立てかけ、ゆっくりと防弾ポンチョを脱いだ。
「照準器を覗く必要も、もうない。……この綺麗な星空を、ただみんなで見つめていればいい」
ルージュは艦長席から立ち上がり、ゆっくりと5人の元へと歩み寄った。
侵食率100%。地球の名前も、家族の顔も、ランドセルの手触りも、すべては歴史の彼方へと消し去られた。
肉体も、性別も、年齢も、二度と元の子供たちの姿に戻ることはない。
けれど――彼女たちが創り上げた絆と、6人で一列になって歩み続けた航路だけは、紛れもない真実としてここに残っていた。
ルージュは胸元から、かつて配給食堂で折った古い折り紙のイチゴを取り出し、テーブルの中央にそっと置いた。
「全機……これより、長制作戦行動を終了する」
ルージュの声が、重厚で美しい響きとなってブリッジを満たす。
「……長い下校時間だった。……みんな、よく頑張ったな」
その言葉に、5人は顔を見合わせ、軍隊式の敬礼ではなく――かつて放課後の教室で見せていたような、それぞれの穏やかな微笑みを返した。
宇宙の最果て、静寂に包まれた要塞船の中で。
兵器へと変えられた6人の少年少女たちは、永遠に終わることのない「放課後」を、どこまでも睦まじく寄り添い合いながら暮らし始めていった。