登校班から宇宙戦士へ   作:匿名希望

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【Day 1:侵食率 10%】――奪われたランドセルと、忍び寄る「違和感」

 

改造手術の直後。冷たいメタルフロアの集中治療室で目覚めた6人は、自分たちの身に起きた異常な変化にパニックを起こしていた。

 

肉体はすでに再設計され、衣服も防護スーツや軍服へと変えられている。

だが、頭の中はまだ「さっきまで黄色い帽子をかぶって学校へ向かっていた小学生」のままであり、精神侵食の初期症状である「声の調子の変化」と「思考の突発的な歪み」が散発し始めていた。

 

「……痛い……なにこれ、腕が重いよぉ……っ」

 

隆二が、胸元に抱え込んだ自分の手を見て泣きじゃくった。

だが、その声は幼子の甲高い声ではなく、低く凛とした成人の女性の声として室内に響き渡る。

身長は一気に175cmを超え、軍服の袖から伸びる手足はすらりと長い。

 

「僕、1年生の隆二だもん……! なんでお母さんの服より大きな服着てるの!? おうち帰る! 班長、おうち帰ろうよぉ!」

 

「泣くな……! 泣いてる場合じゃないだろ!」

 

明が叫ぶ。

しかし、その威勢のいい声とは裏腹に、声のトーンは高く可憐な少女のものに変わっていた。

体格は班の中で最も小さく圧縮され、ピッチリとした耐Gプラグスーツに包まれている。

 

「俺がみんなを……っ、アタシが、安全に学校まで送り届けるって約束したんだ! だから、泣くな……!

 ッ、な、なにこれ……頭の中に、ヘリコプターみたいな機械の動かし方が勝手に浮かんでくる……!?」

 

「班長、落ち着いて……っ。大丈夫、大丈夫だから……」

 

杏奈が、小柄な少女兵の体で班長を引き寄せようとする。

だが、その腕には人工筋組織が組み込まれ、背中には彼女の身の丈を超える無骨な長距離ビームライフルが重々しく鎮座していた。

 

「あたしが……みんなを守るから。大丈夫、みんなの傷、あたしが見てあげる……」

 

「……傷なら、手当てしてあげるね?」

 

茂が、白衣風アーマーのポケットから金属製の医療器具を取り出し、ほんわかとした笑みを浮かべた。

急成長させられた女性の体躯を揺らしながら、狂い始めた指先でメスをカチカチと鳴らす。

 

「切り傷も、打撲も、骨折も……ぜんぶ綺麗に縫い合わせてあげる。……ふふ、血を流すと体温が下がっちゃうから、保温ドレープを掛けなきゃね。

 ……あれ? ボク、なんでこんな難しい言葉知ってるんだろ……?」

 

「やめてよ……触らないで……!」

 

小春が、白衣の手に恐怖し、壁の隅へ後退った。

大人の女工作員へと引き伸ばされた脚を抱え込み、漆黒のステルススーツのフードを深く被り直す。

 

「……どうせ、みんな自分のことしか考えてないくせに! 班長だって、あたしのこと置いて逃げるつもりでしょ!? いいよ……誰も信じない。一人で帰るもん……!」

 

「……ノイズ、うるさい」

 

順子が、膝をついたまま動かなくなった。

ぶかぶかの戦術ローブの隙間から覗く後頭部には、データポートが痛々しく埋め込まれている。

喜怒哀楽の激しかった顔立ちからは感情が急速に脱色され、光の消えた瞳でただ床の一点を見つめていた。

 

「……脳内メモリ領域、パケットオーバーフロー。……『登校班』の検索結果、破損中。

 ……ドッジボールのルール、10%消去。……代わりに、敵防衛網の暗号鍵構造が、自動ダウンロード……中」

 

「みんな、しっかりしろよ!!」

 

最年少の少女兵へと縮められた明が、自分の頭を両手で強く殴りつけながら叫ぶ。

 

「アタシが班長だ! 登校班の班長なんだ! ランドセルはどこ行った!? 黄色い帽子は!?

  ……くそっ、なんでアタシの手、こんなに小さいんだよ! これじゃ、みんなの手を引っ張って走れないじゃないか……っ!」

 

「あ……ぁ……」

 

最長身の軍服を着た隆二が、班長の言葉を聞いて、大粒の涙をボロボロとこぼした。

大人びた凛々しい美女の顔立ちのまま、子供のように声を上げて泣く。

 

「班長ぉ……怖いよぉ……ランドセルがないと、先生に怒られちゃうよぉ……! お母さんに、会いたいよぉ……!」

 

「……泣くな。泣くなよ……!」

 

明は耐Gスーツの胸元をぐっと掴み、必死に自分の名前と地球の記憶を反芻しようとした。

 

だが、施設のスピーカーから冷酷なアナウンスが響き渡る。

『――対象者6名、精神侵食シークエンス、フェーズ1完了。戦闘OSの定着を開始します』

 

「う、あぁぁぁぁっ――!?」

 

6人の叫び声が、冷たい金属の部屋に木霊した。

地球の小さな通学路で育まれた絆が、コロニーの兵器として書き換えられていく、最初の夜だった。

 

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