登校班から宇宙戦士へ 作:匿名希望
果てしない「終わりの海」で、穏やかな永遠の放課後を過ごしていた6人。
その静寂を破ったのは、何千年も前に死滅したはずの「アルゴ」の深層アクチュエータが吐き出した、一筋の緊急警報だった。
「……警告。外部時空連続体に異常な歪みを検出。位相空間の折りたたみが限界に達します」
ずっと沈黙していたジョーヌの頭部データポートが、何千年もぶりに青い火花を散らした。
光のない瞳がコンソールへ向けられる。
「……これ、アルゴのエンジン事故じゃない。外側の空間そのものが……『巻き戻って』いる?」
「え……? 巻き戻るって、どういうこと……!?」
ブランが目を見開いた直後、庭園の空間がガラスのようにひび割れた。
星々の光がぐにゃりと歪み、6人の体を眩い純白の光が包み込む。
「みんな、私の後ろへ……っ!」
ルージュが175cmの圧倒的な体躯で5人を庇うように腕を広げる。
しかし、光は彼女たちの存在そのものを分解するように飲み込んでいった。
「痛くない……痛くないからね、みんな……!」
「手……離さないで……っ!」
ヴェールの叫びと、ノワールの求む声。
シアンが最後に見たのは、自分たちが過ごした「アルゴ」が光の塵となって消え去る光景だった。
【見知らぬ天井と、戻らない身体】
「――っ、はぁ、はぁっ!?」
冷たい硬質床の上で、ルージュは飛び起きた。
呼吸が荒い。手を見る。……175cmの長身、金糸の軍服。肉体は兵器の姿のままだ。
周りを見渡すと、ブラン、シアン、ヴェール、ノワール、ジョーヌの5人も、それぞれの「兵器としての姿」のまま倒れていた。
「……みんな、無事か!?」
「う……うん。なんとか生きてるみたいだけど……」
ブランが華奢な体を起こし、耐Gスーツのヘルメットを拾い上げる。
「ここ、どこよ……? アルゴのブリッジじゃないわ」
そこは、見渡す限り青い結晶と幾何学的な高層建築が立ち並ぶ、見たこともない異世界の都市――その中央に聳え立つ、崩れかけた大聖堂の跡地だった。
頭上の空には、地球の太陽とも、ヴァルハラの人工光とも違う、「二つの月」が浮かんでいる。
「……環境データ照合不可」
ジョーヌの後頭部ポートが微かに点滅する。
「データアクセス……この世界、電気通信プロトコルが存在しない。代わりに、未知の『高濃度エネルギー粒子』が大気中に充満中」
「……魔法、みたいなものかしらね?」
ノワールが暗視バイザーをカチリと下ろし、舌打ちした。
その時――。
大聖堂の残骸の向こうから、地鳴りのような咆哮が轟いた。
出現したのは、全身が黒い結晶で覆われた、体長十メートルを超える巨大な異形(モンスター)の群れ。
その背後には、ボロボロの鎧を着たこの世界の原住民と思われる人々が、絶望的な表情で追い詰められている。
「助けて……神様……!」
悲鳴が、二つの月が浮かぶ夜空に響いた。
【新たな放課後、新たな戦場】
6人は顔を見合わせた。
「……ねえ、ルージュ」
ブランが操縦デバイスを起動し、不敵な笑みを浮かべた。
「アタシたちの『下校ルート』、また邪魔者が立ち塞がってるみたいだけど?」
「……ターゲット、固定」
シアンが長距離対物質ビームライフルを構え、動体予測UIを起動する。
「あはは、あの怪獣さんたちも、怪我させたら『外科的処置』が必要かな?」
ヴェールがナノマシンシリンダーをチャージし、ほんわかとおっとり笑う。
「……フン、どこへ飛ばされようが、やることは変わらないわね」
ノワールが影の中に姿を消す。
「……周辺空間の『粒子濃度』、ハッキング完了」
ジョーヌの指先が虚空を叩き、未知の魔法エネルギーを戦闘プロトコルへと強制変換した。
ルージュは軍服の襟を正し、175cmの圧倒的な威厳をもって、軍靴の音を響かせて一歩前に出た。
地球の記憶も、宇宙の伝説も、過去の彼方。
だが、この6人が一列になって進む限り――世界がどこへ変わろうとも、物語は終わらない。
「全機、第一戦時体制。……あの異形どもを撃滅し、この世界の『通学路』を確保する」
「「「了解(レーザー)!!」」」
幾千年の時を超え、異世界という新たな舞台で。
最強の6人の少女兵(登校班)による、新たな【伝説】が幕を開けた。
二つの月が照らす異世界の夜空に、鮮烈な青と赤の光線が奔った。
「オペレーション『下校』、フェーズ1――開始!」
最前線を疾走するのはブランだ。
華奢な身体からは想像もつかない爆発的な機動力で空中を跳躍し、高振動ブレードが一閃。
異形の黒い結晶獣の巨体を、コクピットを穿つような正確さで一瞬にして両断する。
「あははっ! 宇宙のモンスターだろうが、異世界の化け物だろうが関係ないわ!
アタシのスピードについてこられる奴なんて、この世界にも存在しないのよ!」
「……ブラン、射程ラインを空けて」
遥か後方の瓦礫の上。
シアンが、身の丈を超える長距離対物質ビームライフルを構えていた。
動体予測UIが青く発光し、大気中に充満する未知の「魔法粒子」の屈折率を瞬時に演算。
放たれた超高熱の閃光が、ブランの脇をすり抜け、後方に控えていた巨獣3体をまとめて一直線に貫通・消滅させた。
「風速、粒子干渉……補正完了。ターゲット、全機沈黙」
絶望の淵にいた異世界の騎士や人々は、突如現れた「異形を圧倒する6人の乙女たち」の姿に言葉を失い、呆然と立ち尽くしていた。
「あはは、怪我をしている人がいっぱいいるねぇ」
ほんわかとした笑みを浮かべて降り立ったのは衛生兵・ヴェールだ。
彼女が掲げたシリンダーから放たれたナノマシン粒子が、傷ついた騎士たちの体を優しく包み込む。
瞬時に塞がっていく傷口に、人々は「神聖魔法……!?」と戦慄の声を上げた。
「大丈夫だよ、痛いの痛いの飛んでけ~。……でも、私たちのお邪魔をする悪い子には、もっと痛い『お注射』をしちゃうからね?」
「……安心しなさい。逃げ道はあたしが全部塞いでおいたわ」
暗がりからぬっと姿を現したのは工作員・ノワール。
暗視バイザーの下で冷たく口元を歪め、影から影へと跳び移りながら、敵の指揮個体の急所を無音で切り裂いていく。
「通信……じゃなくて、『魔力経路』のバックドア開設」
ジョーヌは、ぶかぶかの戦術ローブの裾を揺らし、虚空に浮かぶ魔法陣(データ領域)を光のない瞳で見つめていた。
指先が空を叩くたび、敵の黒い結晶獣たちの動きがガタガタと狂い、同士討ちを始める。
「……この世界の法則、ハッキング完了。……システム・オールグリーン」
そして、崩れかけた大聖堂の頂。
175cmを超える圧倒的な長身と金糸の軍服を纏う指揮官・ルージュが、二つの月を背に立っていた。
かつて泣き虫だった1年生の面影はなく、宇宙を渡り歩いてきた完璧な司令官の威厳が、異世界の人々をも平伏させるほどの圧倒的な圧力となって漂っている。
「全機、残敵を掃討せよ。……我らの歩む道に、立ち塞がる者を残すな」
「「「了解(レーザー)!!」」」
5人の声が、完璧なハーモニーとなって夜空に響き渡った。
――かつて、地球の小さな通学路を黄色い帽子をかぶって歩いていた子供たち。
コロニーの大人たちに肉体と精神を切り刻まれ、兵器へと変えられた彼女たちは、絶望を跳ね返し、自らの手で運命を奪い取った。
宇宙の果てで永遠の時を過ごし、そして今、新たな世界へと降り立った。
本名も、家族の顔も、地球の夕焼けも……記憶のすべては遥かな時の彼方へ消えた。
だが、肉体が変わろうと、世界が変わろうと、彼女たちの絆が消えることは絶対にない。
6人は一列に並び、背中を預け合い、笑い合いながら、どこまでも進んでいく。
世界を救う英雄としてではなく。
ただ、6人で一緒に「安全に帰る」ための、終わりなき旅路を続けるために。
『オペレーション・下校』――その物語は、永遠に終わらない。