登校班から宇宙戦士へ 作:匿名希望
二つの月が浮かぶ異世界の旅を終え、要塞宇宙船「アルゴ」を取り戻し、幾多の時空と次元を渡り歩いた『登校班』。
何世紀とも何千年とも知れぬ漂流の果て、艦のメインコンソールが突如として凄まじい警告音を鳴り響かせた。
『――時空連続体に緊急歪みを検知。座標:太陽系第三惑星「地球」。事象:コロニー「ヴァルハラ」重力炉の空間異常励起』
ブリッジの庭園で微睡んでいた6人の動きが、一瞬で固まる。
「……地球」
175cmの圧倒的な長身と金糸の軍服を纏うルージュが、軍帽の庇を深く引き下げた。
ハッカーのジョーヌが、ぶかぶかのローブの袖から小刻みにキーボードを叩く。
「……解析完了。……かつて私たちが連れ去られた『あの日、あの瞬間』。コロニーの重力炉実験が失走し、地球のセクター7へ位相干渉を起こそうとしている」
「……阻止するわよ」
漆黒のステルススーツを着たノワールが、暗視バイザーを下ろして即座にナイフの柄を握りしめた。
耐Gスーツを着たブランも、華奢な胸元を叩いて不敵に笑う。
「当たり前じゃない! アタシたちの人生を狂わせた理不尽な実験なんて、アタシの手で撃墜してやるわ!」
「あはは……みんな、準備はいい~?」
衛生兵ヴェールがナノマシンシリンダーを構え、狙撃手シアンが無言でビームライフルの安全装置を解除した。
【01. 重力炉の破壊】
大気圏外、歪んだ時空の裂け目。
そこには、過去の地球から自分たちを拐おうと次元の触手を伸ばす、コロニー「ヴァルハラ」の未完成な重力炉の暴走エネルギーが渦巻いていた。
「主砲アルゴ・エクス・マキナ、同調率100%」
ルージュの手が、静かに発射シークエンスのレバーにかかる。
「かつての私たちを……そして、これから奪われるはずだった未来を……ここで断ち切る!」
「――全門、放てッ!!」
閃光が宇宙を切り裂いた。
終わりの海を越え、異世界の試練を潜り抜けた6人の全火力は、空間異常の核を一瞬で穿ち、重力炉の励起反応を跡形もなく消滅・無力化させた。
次元の歪みが、何事もなかったかのように静かに塞がっていく。
歴史のバグは修正され、「子どもたちが消失するはずだった事件」は、この世界線から永久に消去された。
【02. 07:30 AM の通学路】
青い海と緑の陸地が広がる、平和な地球の朝。
アルゴは光学迷彩を極限まで展開し、日本のとある地方都市の上空、雲の切れ間にひっそりと静止していた。
メインブリッジのモニターには、街の通学路の映像が映し出されている。
7時30分。
踏切の警報機が鳴り、朝日が眩しく街を照らす。
そこへ、黄色い帽子をかぶり、色とりどりのランドセルを背負った「6人の小学生たち」が、元気よく歩いてきた。
「……あ」
ブランが、モニターに顔を近づけて息をのんだ。
先頭を歩いているのは、日焼けした顔で歩く、6年生の男の子――かつての自分。
その少し後ろを、大人しくついていく5年生の女の子。
やんちゃに走り回る4年生の男の子。
機械の玩具をいじる3年生の女の子。
寂しそうに下を向きながら歩く2年生の女の子。
そして、一番後ろで大きなランドセルに背負われながら、お母さんに手を振って登校班を追いかける、1年生の泣き虫な男の子。
彼らは誘拐されることもなく、肉体を壊されることもなく、侵食率に怯えることもなく――ごく普通の、どこにでもある「放課後」へ向かって歩いていた。
【03. さよなら、私たちの原点】
「……助かったのね。あの子たち」
ノワールが、暗視バイザーを上げてポツリとつぶやいた。
「ええ。あの子たちはもう、兵器になることも、女子トイレで絶叫することも、胸の重さに頭を抱えることもないわ」
ブランがどこか誇らしげに、でも少し切なさそうに胸を張る。
「ふふ、みんなちゃんと元気に学校へ行けるねぇ~」
ヴェールがほんわかとした笑みを浮かべ、シアンも無表情のまま、静かにモニターの中の「5年生の女の子」を見つめていた。
「……満足か、ジョーヌ?」
ルージュが尋ねると、ぶかぶかのローブを着たハッカーは、小さく頷いた。
「……肯定。……過去の自分たちの生存ログ、正常に継続中。……私たちの『下校プロトコル』、これにて完全終了」
ルージュは175cmの長身を伸ばし、金糸の軍帽を軽く押し上げた。
彼らはもう、元の体にも、元の小学生にも戻れない。
侵食率100%の女性兵士としての肉体と、数多の世界を巡った絆を抱えて、これからも生きていく。
だが――自分たちの「奪われたはずの未来」が、あの街で確かに眩しく輝いているのを見届けた。
それだけで、十分だった。
「……アルゴ、時空跳躍エンジン起動」
ルージュの凛とした声がブリッジに響く。
「進路、未知なる次元の彼方へ。……総員、出航準備!」
「「「「「了解(アイ・アイ・サー)!!」」」」」
下校する6人の子供たちが一瞬だけ空を見上げたその上空で、一筋の透明な光が弾け、要塞船アルゴは静かに次の世界へと旅立っていった。
青空の下、踏切の音がカンカンと鳴り響き、子供たちの楽しそうな笑い声が、どこまでもどこまでも続いていった。