登校班から宇宙戦士へ 作:匿名希望
元男子組(指揮官、パイロット、衛生兵)が訓練室で「胸部重量問題」やら「女子トイレ」やらで絶叫していたその裏で。
元女子組の3人――工作員(元2年生)、ハッカー(元3年生)、狙撃手(元5年生)は、防衛区画の隅にある物資保管庫で、静かな「元女子会」を開いていた。
【01. 隠れ家と非常食】
「……あいつら、またトイレで叫んでるわね」
漆黒のステルススーツを着た工作員(元2年生)が、物資コンテナの上に腰掛け、暗視バイザーを押し上げて呆れたように息を吐いた。
大人の女工作員へと引き伸ばされた長い足を組み、軍用の高カロリーチョコの包装を器用にナイフで破る。
「『立ったままできない』とか『毎月血が出る』とか……男子って、どうしてあんなに大騒ぎするのかしら。最初から分かってたことじゃない」
「……肯定」
コンテナの陰で体育座りをしているハッカー(元3年生)が、ぶかぶかの戦術ローブの裾から顔を出した。
光のない瞳で合成いちごミルクのパックをストローでちゅーちゅーと吸っている。
「元男子組のパニック指数:平均87%。……特に指揮官。175cmの長身で『お母さん助けて』は、ログの無駄遣い」
「……あの子は、1年生だったから」
壁に背をもたれかけ、長距離対物質ビームライフルを膝に抱えた狙撃手(元5年生)が、感情の脱色された声で言った。
小柄な少女兵の姿のまま、配給用の乾パンを小さくかじり取る。
「いちばん小さかった子が、いちばん大きくなっちゃった。……混乱するのも、仕方ない」
【02. 失われた『女の子の日常』】
「……ねえ」
工作員がチョコを一口かじり、ふと自分の引き伸ばされた手元を見つめた。
しなやかで長い指先、ステルススーツの黒い生地、暗殺用のナイフ。
「あたしたち、昔……どんな服着てたか覚えてる?」
「……ピンクのワンピース」
狙撃手がスコープを磨く手を止めずに答えた。
「フリルのついた靴下。……日曜日に、お母さんと一緒に買いに行った」
「あたしはね、クマさんのヘアゴム」
工作員が少しだけ目元を緩める。
「2年生の時、登校班にいく前に髪をくくってもらうのが好きだったの。……でも、今のあたしの髪、長すぎて邪魔だから切り落としたいわ」
「……記録参照」
ハッカーが後頭部のデータポートを微かに明滅させ、ホログラムの小さな画面を二人にだけ見せた。
そこには、フォーマットされかけた破損ファイル――「おみせやさんごっこ」「シール帳」「リボン」の検索履歴。
「……セクター7の残存データ。かつて『女子小学生』だった頃の行動ログ。……もう、戻れない」
「戻らなくていいわよ」
工作員はナイフを指先でくるりと回した。
「フリルの服を着たって、この体じゃ似合わないし。……それに、あのバカな男の子たち3人を守ってあげられるのは、あたしたちしかいないでしょ」
【03. お兄ちゃん(元男子組)たちの世話焼き】
「ふふ、確かにね」
狙撃手が珍しく、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「パイロット……6年生で一番大きかったのに、今は私よりちっちゃい。操縦席で足をバタバタさせてる」
「威張ってるけど、初潮の時いちばん泣きそうだったわね、あの班長」
工作員(元2年生女子)がクスクスと笑う。
「指揮官も、175cmもあるくせに暗いところが怖くて、あたしの影の中に隠れようとするし。……まったく、体だけ大きくなって中身はそのままなんだから」
「……衛生兵も」
ハッカーがいちごミルクを吸い終わり、パックを小さく折りたたんだ。
「……自分の胸の重さで前転しそうになってる。戦術的欠陥。……後でスポーツブラの予備、静かに置いておいてあげる」
「優しいわね、ハッカー」
「……効率化のため。……あいつらが倒れると、下校プロトコルに支障が出る」
そう言いながらも、ハッカーの後頭部の光はどこか温かみのある青色に明滅していた。
【04. 永遠の登校班】
「――おい! 工作員! ハッカー! 狙撃手! どこにいるんだ!?」
廊下の向こうから、175cmの長身指揮官の大声と、パイロットの足音が近づいてくる。
「また胸のベルトのバックルが外れなくなったんだよ! 助けなさいよ工作員!!」
「あはは、ボクのお茶も沸いたよ~。みんなで飲む??」
物資保管庫のドアが開き、元男子組の3人がバタバタと雪崩れ込んできた。
工作員はため息をつきながらコンテナから飛び降り、仕込みナイフを鞘に収めた。
「はいはい、騒がないの。今外してあげるからじっとしてなさい、班長」
「あたしを子供扱いするな……って、痛い痛い! 優しく外しなさいよ!」
「指揮官、お茶こぼれてる。……拭いてあげる」
狙撃手が防弾ポンチョの端で、長身指揮官の袖口をトントンと叩く。
「うむ……か、感謝する、狙撃手……」
「……全員、傾注」
ハッカーがぶかぶかのローブを揺らし、無感情に宣言した。
「……おやつの時間、終了。……次の訓練プロトコルへ移行」
肉体が変わり、性別が混ざり合い、兵器へと変えられても。
かつて通学路で手をつないでいた「登校班」の空気は、この暗い要塞の中で、元女子たちの密かな優しさに支えられながら、今日も静かに保たれていたのだった。