登校班から宇宙戦士へ 作:匿名希望
肉体改変と初期プログラムの注入から丸一日。
改造施設の粗末な待機室で、6人は急激に変貌した己の身体と、頭の中に直接流れ込んでくる軍事データの奔流に打ちのめされていた。
昨日まで背負っていたランドセルも、黄色い帽子もどこにもない。
「登校班の子供たち」としての記憶は確かに残っているものの、脳の4分の1が戦闘OSへと書き換えられたことで、言葉の語彙や思考の回路に明らかな「バグ」が生じ始めていた。
「……痛い……お兄ちゃん、手が……手が変なの……っ」
2年生だった寂しがり屋の女の子が、自分の両手を見つめて震えていた。
大人の女工作員へと無理やり引き伸ばされた四肢はしなやかで長い。
漆黒のステルススーツの袖口から伸びる指先は、彼女の記憶にある「2年生の小さな手」では断じてなかった。
「あたし、こんなに背が高くないもん……! お兄ちゃん、どこ……? 置いていかないでよぉ……っ!」
「泣くな! 泣いたってどうにもならないだろ!」
6年生の班長だった男の子が怒鳴りつける。
だが、その叫び声は高口調で可憐な少女のものだった。
最年少の華奢な体躯へと圧縮された身体を激しく震わせ、ピッチリとした耐Gスーツの胸元をむしり取るように掻きむしる。
「アタシが班長だ! アタシが……っ、く……頭が割れそう……! なんだよこれ、『インコム誘導兵器の並列処理手順』って……!?
アタシは、登校班の班長なんだよ! 邪魔する奴は……全員、アタシの戦闘機で細切れにしてやる……ッ!」
「班長、落ち着いて……! 息を吸って……!」
5年生の面倒見が良かった女の子が抱きしめようと手を伸ばす。
しかし、再設計された彼女の小柄な腕には人工筋組織が組み込まれ、背中には重厚な長距離ビームライフルが固定されていた。
彼女が動くたび、ポンチョの隙間から青いインターフェース光が漏れ出す。
「大丈夫……あたしが、みんなを守るから……っ。照準補正、風速0.4……違う! あたしは、みんなの傷の手当てを……!
痛い、頭の中に数字がいっぱい入ってくる……!」
「手当てなら、ボクがやってあげるよ?」
4年生のやんちゃだった男の子が、どこか虚ろな笑みを浮かべて近づいてきた。
急成長した豊満な女性の姿をゆらりと揺らし、白衣風アーマーのポケットからナノマシン注射器を取り出す。
「熱が出てるのかな? 大丈夫、ボクが痛くないように『処置』してあげる。
……ふふ、壊れた部品は取り替えて、動かなくなった臓器は切り落とせばいいんだよね……?
あれ、ボク、なんでそんなこと知ってるんだろ……」
「触らないで……っ! 気味が悪いよ……!」
元2年生の工作員が悲鳴を上げて壁の隅へ縮こまる。
「……通信ノイズ、増熱中」
3年生の活発だった女の子は、体育座りのまま動かない。
ぶかぶかの戦術ローブから覗く後頭部のデータポートが、パチパチと小さな火花を散らしていた。
光の消えた瞳で暗い床を見つめたまま、無感情な声で呟く。
「……昨日まで歌ってた校歌の歌詞データ、セクター4から消去完了。……代わりに、コロニー防衛線の暗号コード、更新中。……ねえ、みんな。『放課後』って、なんのこと?」
「うぁぁぁぁん……! お母さん……お母さんぁぁぁっ!」
部屋の最奥で、最も激しく泣き崩れていたのは、175cmを超える圧倒的な長身と金糸の軍服を纏った1年生の男の子だった。
完璧なスタイルの美しき女性司令官の姿のまま、子供のように床に伏して拳を叩きつける。
「僕、1年生だもん! 一番後ろを歩いてただけだもん! なんでこんなおっきい体になっちゃったの……っ!
ランドセル返してよぉ! 黄色い帽子返してよぉ……っ!」
「泣くなと言っているだろ!!」
元6年生のパイロットが、耐Gスーツの拳で壁を殴りつけた。金属の壁に小さな凹みが勝つんと音を立てる。
「アタシたちが……アタシたちがしっかりしなきゃ、家に帰れないんだよ!
ランドセルなんてなくても、アタシが……アタシの操縦で、こんなコロニー速攻でぶち壊してやるんだから……っ!」
「……でも、班長。僕、こわい……」
「黙れ! 『班長』って呼ぶな……ッ! アタシは……アタシは……ッ!」
自分が「登校班の班長」なのか、「コロニーの天才パイロット」なのか。
急激に侵食していく戦闘OSの波に飲まれながら、6人はまだ互いの服の端をつかみ合い、消えゆく「地球の自分たち」を繋ぎ止めようと必死にもがいていた。