登校班から宇宙戦士へ 作:匿名希望
侵食率70%。
コロニーの中枢シミュレーター室にて、6人は「対艦戦闘・VR戦術シミュレーション」の真っただ中にいた。
「敵の重巡洋艦、右翼より接近! パイロット、迎撃軌道に入れ!」
175cmの長身指揮官が、軍服を揺らしながら冷徹な指示を飛ばす。
「任せなさい! アタシの撃墜スコアを更新してやるわ!」
耐Gスーツを着たパイロットが操縦桿を激しく倒したその瞬間――。
『――警告。シミュレーター・コアに予期せぬ量子位相エラーを検知。一時的セクター巻き戻しを実行します』
コロニーのホログラムアナウンスが響き渡った直後、ブリッジ全体が眩い紫色の光に包まれた。
【01. 突然の「元の姿」への巻き戻し】
「――っ!? なんだ、システムダウンか!?」
指揮官が叫んだが、自分の声の高さに違和感を覚えた。
声が……若い。
いや、幼い。そして、長身だったはずの視界が、急激に床へと近づいていく。
「え……? あたしの手……? これ……」
パイロットが自分の手を見た。
耐Gスーツの中でガバガバになっていた袖口から飛び出していたのは、大人の女性の手ではなく、見慣れた――いや、かつて見慣れていた、「小学6年生の、少し日焼けした男の子の小さな手」だった。
「ちょっ……まっ……! なによこれ!? アタシの胸は!? アタシの豊満なボディはどこに行ったのよぉぉっ!?」
「パイロット、お前、声が……!」
指揮官が振り返る。
だが、そこに立っていたのは175cmの美しい女性司令官ではなく、「ランドセルを背負っていそうな、気の強そうな小学1年生の男の子(ぶかぶかの軍服を纏った姿)」だった。
「私も……!? 私の軍服が地面を引きずっている……っ!?」
指揮官は頭を抱え、自分の頭を撫でた。
あるはずの金糸の軍帽の下から、見知った「丸刈りに近い1年生の短髪」が飛び出している。
「あはは……?? 私の白衣も、なんかすごく大きいよ??」
隅っこで、衛生兵衛生兵が自分の姿を確認していた。
彼女(彼)の姿もまた、「少しおっとりとした小学4年生の男の子」へと巻き戻されていた。
豊かな胸元は消え去り、白衣風アーマーはまるでテントのようにぶかぶかになって地面に垂れ下がっている。
【02. パニックに陥る元男子組】
「うわあああぁぁぁっ!! 体が戻ってるぅぅぅっ!!」
1年生の姿に戻った指揮官は、VRのシミュレーター室の床を転げ回って絶叫した。
「重力がない! 胸が揺れない! 初潮が……初潮が消えたぁぁっ!! ……いや、嬉しいけど! 嬉しいけど、この急激な変化はメンタルに悪すぎるぞお母さぁぁぁん!!」
「ふざけんじゃないわよ! アタシの撃墜スコアが、このチビの腕力じゃ維持できないじゃない!!」
6年生の姿に戻ったパイロットが、自分の小さな拳を握りしめて地団駄を踏む。
「立つだけで用が足せる……っ! いや、そんなことよりアタシの女性としての尊厳がぁぁっ!!」
「ふふ、ふたりとも、なんだかすごく小さくて可愛いよ~」
4年生の姿になった衛生兵が、のんびりとした笑顔でパチパチと手を叩いた。
「ボク、久しぶりにランドセル背負いたくなっちゃったなぁ。ねえ、みんなで一緒に登下校しよっか?」
「誰が登下校するかぁ!! 服が脱げる! 裾を引きずる! 歩きにくい!!」
【03. 冷静(?)な元女子組の検証】
一方、シミュレーションの別の区画にいた元女子組の3人(工作員、狙撃手、ハッカー)も、同様にエラーの直撃を受けていた。
「……私の、ビームライフルが持てない」
小柄な少女兵から、さらに小さな「小学5年生の女の子」に戻った狙撃手が、身の丈を超えるライフルを見上げて無機質につぶやいた。
筋力が当時のものにダウングレードしたため、銃を支えるだけで精一杯である。
「ダクトに……! ダクトに挟まらないわ……っ!」
2年生の姿に戻った工作員は、自分の手足をパタパタと動かして歓喜の涙を流していた。
「胸が邪魔にならない! 工作員としての機動力が完璧になったわ! ……まあ、精神的にはちょっと複雑だけど!」
そして、ハッカーは、光のない瞳のまま、ぶかぶかの戦術ローブの中でポツリと言った。
「……計算結果。このVRバグ、肉体のデータは完全に当時の小学生のものに逆行。……ただし、戦闘OSのメモリだけは現在のまま維持されている」
ハッカーの小さな指先が、空中にホログラムキーボードを叩き出す。
その頭部ポートからは、なぜか小学生らしいパニック状態を示すエラーコードがチカチカと明滅していた。
【04. バグ解除と、残された後味】
「――くそっ、ハッカー! 早くこのバグを解除しろ! このままじゃカッコつかないだろ!!」
1年生の姿で軍服を引きずりながら、指揮官がハッカーの元へ走ってきた(が、足が短くなったせいで盛大に転んだ)。
「……了解。位相空間リセット・プログラム、実行」
ハッカーが小さな指でエンターキーを押した直後――。
『――システム正常化。肉体データを最新プロトコルへ再同期します』
紫色の光が再び弾け、6人の身体は一瞬で「175cmの長身司令官」「豊満な衛生兵」「華奢な撃墜王」の大人・少女の戦闘ボディへと強制送還された。
「……はぁっ、はぁっ……!」
指揮官は175cmの長身を床に投げ出し、荒い息を整えた。
胸元のボリューム、軍服の重み、そして長くなった手足。すべてが元の「兵器の肉体」に戻っている。
「……戻った……」
パイロットも自分の胸元を触り、「あ、おっぱいがある……」と、なんだか少し複雑そうな、でも安心したような間抜けな声を漏らした。
狙撃手はビームライフルを軽々と担ぎ直し、工作員はダクトの入り口を横目で見つめ、ハッカーはローブのファスナーを閉め直す。
全員、無言で顔を見合わせた。
「……今の一件は」
1年生の小さな声の記憶を必殺の威厳でかき消しながら、指揮官が立ち上がり、軍服の襟を正した。
「……作戦記録には一切記載しない。……いいな?」
「「「「「了解(レーザー)」」」」」
元男子組の圧倒的な黒歴史と、元女子組の少し切ない懐かしさが入り混じったVR訓練のバグは、誰の口にも登ることなく、暗いデータベースの底へと闇に葬られたのだった。