登校班から宇宙戦士へ 作:匿名希望
侵食率85%。
高度な戦術思考と兵器としての肉体が完成し、コロニー「ヴァルハラ」の合成栄養カロリーブロック(※味のしない灰色のペースト)を無感情に飲み込む日々が続いていたある日。
補給艦から「旧地球の味覚再現データベース」が奇跡的に発掘され、アルゴの調理用スロットに投入された。
その結果――脳内の「生活記憶セクター」が刺激され、6人の「小学生時代の強烈な好き嫌い」が完璧に爆発・復活してしまった。
【01. 衛生兵の悲劇】
「……あはは、私、これダメなやつだぁ~……」
普段はおっとりと部隊の母として包容力を発揮している衛生兵が、配給トレーの前で青ざめていた。
Kカップの圧倒的な胸元を縮こまらせ、涙目で凝視しているのは――「ゴーヤとピーマンの炒め物(地球再現レシピ)」である。
「どうしたの衛生兵? 栄養バランスは完璧よ?」
パイロットが不思議そうに覗き込む。
衛生兵は口元を両手で覆い、プルプルと震えた。
「苦いよぉ……! ピーマンもゴーヤも苦いよぉぉ……! ボク、4年生の時も給食でこれ残して、掃除の時間まで机に残されて怒られたんだよぉぉ……っ!」
「昔の記憶をそんなところで思い出さないでよ!!」
大人の女性の豊満すぎる肉体を誇る衛生兵が、ピーマンひとくちに怯えて泣きじゃくるという地獄のような光景。
「はいはい、衛生兵ちゃん泣かないの~」
小柄な狙撃手がトボトボと歩み寄り、ヴェールのトレーからピーマンをヒイヒイと自分の皿へ回収してあげた。
「……お姉ちゃん……っ!」
「……私はもう狙撃兵だけど、ピーマンくらい食べられるよ。……ほら、残さず食べなさい」
こんな原因でかつての世話焼きお姉さん気質が復活した狙撃兵に頭を撫でられ、超弩級ボディの衛生兵が「うぅ……」と小さくなって頷いていた。
【02. 175cm司令官の給食トラウマ】
一方、テーブルの反対側では、175cmの圧倒的長身と金糸の軍服を纏う指揮官が、スプーンを握りしめたまま氷のように固まっていた。
「……指揮官? 作戦計画の確認中か?」
パイロットが声をかける。
指揮官の前に置かれていたのは、一見すると美味しそうな「牛乳と、しいたけの入った八宝菜」だった。
「……し……」
「し?」
「しいたけが……ぬるぬるしている……っ! そして、牛乳と一緒に口に入れると……っ!」
175cmの美しき女性司令官の額から、滝のような冷や汗が吹き出す。
「私……1年生の時……給食の八宝菜のしいたけが噛みちぎれなくて、無理やり牛乳で流し込もうとして……全戻し(嘔吐)した恐怖のログが……っ!!」
「やめなさいよ!! 食事中に最悪のフラッシュバックを起こさないで!!」
指揮官は長身を丸めてテーブルに頭を叩きつけた。
「嫌だ……! しいたけのグニグニした食感が怖い……! お母さん……! お母さん私の八宝菜からしいたけ除けてぇぇぇっ!!」
「威厳が暴落してるわよ指揮官!!」
【03. クール組の偏食事情】
パニックに陥る元男子組を横目に、元女子組の3人は淡々と自分の好物を口に運んでいた。
「……ふん。相変わらず男子は子供ね」
工作員が、ドヤ顔で自分の大好物である「イチゴのショートケーキ(合成品)」を一口食べた。
「あたしは2年生の時から、甘いものさえあれば生きていけるの。
ネギとニンジンは嫌いだけど、ノワール(工作員)だから残さずに暗殺者の胃袋へ放り込めるわ!」
(※実はネギをシークレットポケットに隠して捨てようとしているのを、横のハッカーに見られている)
「……検出」
ハッカーは、ぶかぶかのローブの中から光のない瞳で、「プレーンの食パン(耳なし)」だけを黙々と噛んでいた。
「……小学生プロトコル。……おかずの味が混ざる食べ物、全般的に嫌い。
……単一のカーボン(炭水化物)のみを要求。……イチゴジャムの塗布、バグとして拒否」
「ただの超・偏食家じゃないのよハッカー!!」
【04. 班長の責任感と、ナス】
「まったく……! どいつもこいつも我が儘ばっかり言って!!」
パイロットが、班長としての責任感を爆発させて立ち上がった。
「アタシたちは兵器なのよ!? 要塞の防衛を背負ってるのよ!? 好き嫌いなんて言ってる場合じゃ――」
説得を試みようとしたパイロットだったが、自分のトレーの中央に鎮座する「ナスの煮浸し」と目が合った瞬間、言葉を失った。
ピクッ……。
パイロットの華奢な体が硬直する。
(な……ナスだ……。あの、噛むとジュワッと出てくる紫色の悪魔……! 6年生の時、どうしても食べられなくて放課後まで残された、アタシの天敵……っ!)
「どうしたの? ナス、食べないの?」
狙撃兵が不思議そうに覗き込んでくる。
かつて密かに意識していた「好きな女子」の視線。
ここで「ナスが嫌い」なんて言ったら、班長としてのプライドも、元男子としての尊厳も完全に崩壊する――!
「た……食べるわよ!! このくらいのナス、撃墜王のアタシにかかれば一飲みに――」
パイロットは震える手でスプーンを握り、目を固く閉じてナスを口に放り込んだ。
『――ジュワッ』
「……ッッ~~~~~~~~っっ!!!!(無言の叫び)」
顔面を真っ青にし、涙をボロボロとこぼしながら、ナスを噛まずに飲み込もうと悶絶するパイロット。
「パイロットちゃん!? 大丈夫!? 吐いちゃダメだよぉ~!」
「お母さんぁぁぁっ! ナスが口の中で暴れてるよぉぉっ!」
改造され、幾多の死線を潜り抜け、大人の女性や少女の戦闘ボディを手に入れた「登校班」の6人。
しかし、旧地球の懐かしい味覚を前にした彼女(彼)たちは、結局のところ、給食のピーマンやナスやしいたけに泣かされていた「あの頃の小学生」のままだったのである。