登校班から宇宙戦士へ 作:匿名希望
侵食率100%。要塞宇宙船アルゴに乗り込み、新しい戦闘用ボディの扱いにもすっかり慣れてきた頃。
「ふふん、もうこの体も完璧に乗りこなしてるわね!」
人間だった頃の癖も抜け、各自が自分の「新しい肉体」を完全に自分のものとして扱い始めた――そう思い込んで油断した瞬間、元・小学生たちの日常に容赦ない物理法則と黒歴史が襲いかかった。
【01. ルージュとヴェール:質量の物理法則を忘れた日】
「ふぅ、ブリッジの定期巡回を完了したぞ」
175cmの長身とFカップの胸元を誇る指揮官ルージュは、凛とした顔で狭いキャットウォーク(通路)を颯爽と歩いていた。
「あ、ルージュちゃんお疲れ様~! 通してね~」
反対側から歩いてきたのは、Kカップの超弩級ボディを持つ衛生兵ヴェール。
2人とも自分の肉体を完全にコントロールできているという絶対の自信があった。
「うむ、横を通り抜けるぞ。……失礼」
「は?い、すれ違うね~」
狭い通路で横向きになり、すれ違おうとしたその瞬間――。
『――バフッ!!!』
「「……ッ!?」」
ルージュのFカップと、ヴェールのKカップが正面から激突。巨大な肉体の質量とクッション性が完璧な反発を生み出し、パンッ!と音を立てて弾け飛んだ。
「きゃあぁぁぁっ!?」
「うわああああっ!?」
ルージュは175cmの長身を折り曲げて後ろへ吹っ飛び、ヴェールは前開きの白衣アーマーをはためかせながら派手に転倒。
「な、なんだ今の現象はっ!? 胸と胸が衝突して衝撃波が生まれたぞ!?」
「あはは……私とルージュちゃんの胸の横幅、通路の狭さを完全に超えてたよ?……」
かつては「小さな1年生と4年生の男の子」だった2人は、自分たちの身体が「2人が並ぶだけで物理的な通行止めになる質量」に膨れ上がっていることを、力技で思い知らされたのだった。
【02. ブラン:身体能力向上による壊し屋の悲劇】
一方、居住区のトレーニングルーム。
「ふははは! 見なさいアタシのこの素早さ! 撃墜王としての反射神経は完璧よ!」
耐Gスーツ姿のパイロット・ブランが、シャドーボクシングをしながらドヤ顔を決めていた。
元6年生男子の明だった頃とは比べものにならない筋力とスピード。
これならどんな敵が来ても余裕だと油断しきっていた。
「ちょっと喉が渇いたわね。ジュースでも買うわ」
自動販売機(アルゴの合成ドリンク供給機)の前に立ったブランは、慣れた手つきでボタンを「軽~く」押した。
『――ドゴォッ!!!』
「ぎゃああああっ!?」
ブランが人差し指で突いたボタンは完膚なきまでに破砕され、供給機の内部メカが爆発。
大量のオレンジジュースが勢いよく吹き出し、ブランの顔面を直撃した。
「ぶはっ!? げほっ! なになに!? なんで壊れるのよ!?」
「……判定完了。加減の失敗」
ハッカーのジョーヌが、ぶかぶかのローブの中から冷ややかな視線を送る。
「……ブランの出力調整、未熟。強化筋肉の加減を忘れてパワー全開で押した。自業自得」
「だ、だって『ちょっと強め』に押しただけじゃない!! 6年生の時の感覚で押したら自販機が爆破するなんて聞いてないわよぉぉっ!!」
頭からジュースを被った撃墜王は、己の無駄に高い肉体スペックに敗北して泣き叫んだ。
【03. ノワールとシアン:服の仕様と可動域のトラウマ】
「ふん、ブランはバカね。あたしレベルになると、このステルススーツを着こなして――」
工作員ノワールが、ドヤ顔でハイキックを繰り出した瞬間だった。
『――ビリッ!!』
嫌な音が、静かな部屋に響き渡った。
「……え?」
ノワールが恐る恐る自分の股元を見下ろすと、ぴったりフィットしていた漆黒のステルススーツの縫い目が、見事に破けていた。
「い、いやぁぁぁぁっ! スーツが! あたしの可動域に耐えきれなくて破けたぁぁぁっ!?」
「……ノワール。……成長期」
狙撃手シアンがポツリと言った。
「……最近、ノワールのお尻、ちょっと大きくなった。……寸法を測り直さないと、また破れる」
「お尻が大きいとか言わないでぇぇぇっ! 乙女のプライドが死ぬわよぉぉっ!!」
顔を真っ赤にしてお尻を隠すノワール。
その横で、シアンは静かに自分のEカップの胸元を見下ろした。
「……私も、昨日。ライフルを構えた瞬間、ボタンが弾け飛んで……ブランの額に当たった」
「それどんな殺人コントロールよ!?」ノワールが突っ込む。
「……弾道計算は完璧だったけど……服の布地が負けた。……油断は大敵」
【04. 敗北した「慣れ」】
その日の夜、サロンに集まった6人。
「……結論として」
ルージュが、胸元に湿布を貼りながら神妙な面持ちで語りかけた。
「私たちは『大人の女の体』や『兵器の身体機能』に慣れた気でいたが、まだまだ自分たちの質量・筋力・寸法の変化を完璧に把握しきれていなかったのだ……」
「そうだねぇ~。うっかり壁に胸をぶつけて、部屋のドアノブ壊しちゃったし~」(ヴェール)
「自販機の修理代、アタシ持ちって言われたわよ……」(ブラン)
「あたしは新しいスーツが出来るまで、このダサい体操着で過ごさなきゃいけないのよ!?」(ノワール)
かつて小学生だった頃は、「ちょっと背が伸びた」「服が小さくなった」程度で済んでいた成長痛。
しかし、コロニーの狂った技術によって一瞬で書き換えられた彼女(彼)たちの肉体は、油断するとすぐさま「物理的な事故」を引き起こすトラブルの塊だった。
「ほら、反省したらみんなでストレッチするよ。……サイズ感覚を体に叩き込まないと」
シアンが手際よくヨガマットを敷き詰め、メンバーたちに指示を出す。
「「「「はぁ~い……」」」」
幾多の激戦を潜り抜けた猛者たちは、今日も「自分のデカすぎる胸」や「強すぎる筋力」に振り回されながら、ドタバタと微笑ましい日常の修行を続けるのだった。