登校班から宇宙戦士へ   作:匿名希望

37 / 43
【おまけシナリオ】――世界一どうでもいいPTSD

侵食率100%。

幾度となく戦場を乗り越えてきた「アルゴ」の猛者たち。

過酷な戦場を生き抜いた兵士には、等しく「戦場のトラウマ(PTSD)」が刻まれるという。

 

だが、彼女(彼)たちが抱えるフラッシュバックは、宇宙の平和とは何の関係もない「地球の小学生時代の、世界一どうでもいいトラウマ」だった。

 

【01. ルージュ(元1年生男子・隆二)の「あのメロディ」】

 

ブリッジに、緊迫した作戦警報……ではなく、アルゴの定時内部環境環境チェックの「チャイム音」が響いた。

 

『――ピンポンパンポーン♪』

 

「ヒィッ……!? す、すみませんでしたぁぁっ! 忘れてました! 意図的ではありませんっ!!」

 

175cmの圧倒的長身を誇る総司令官ルージュが、突如として頭を抱えてメインコンソールの下に丸まった。

Fカップの豊満な胸元を震わせ、金糸の軍帽をポロポロと落としながら怯えている。

 

「どうしたのルージュ!? 敵襲!?」

耐Gスーツのブランが即座に操縦桿を握りしめる。

 

「ち、違うのだ……! 今の音……『給食の返却時間』を告げる校内放送のチャイムなのだ……ッ!」

 

ルージュは涙目で顔を上げた。

 

「1年生の時……牛乳を飲むのが遅すぎて、このチャイムが鳴るたびに給食当番のお兄ちゃん・お姉さんに『早くしてよ~』って冷たい目で見られた恐怖が……ッ! チャイムが鳴ると、喉がキューッと詰まって牛乳が飲めなくなるのだぁぁっ!」

 

「1年生の給食の居残りを宇宙戦艦のブリッジでフラッシュバックさせないでよ!!」

 

【02. ヴェール(元4年生男子・茂)と、ノワール(元2年生女子・小春)の「あの授業」】

 

その時、アルゴの自動工作アームがウィーンと音を立て、先端から「細長いプラスチック製のノズル」を突き出した。

 

『――パーツ補修プログラム、開始』

 

「「ギャアアアアアアッ!!!???」」

 

悲鳴を上げたのは、ヴェールとノワールの2人だった。

 

「嫌だあぁぁぁっ! 『鍵盤ハーモニカ(ピアニカ)のホース』だあぁぁぁっ!!」

ヴェールが超弩級の胸元を揺らして激しくのたうち回る。

 

「あのホースの蛇腹のところに溜まった『唾液(つば)』をパンパンって机に叩きつけて抜く時間が、汚くて大嫌いだったんだよぉぉぉっ!!」

 

「あたしも嫌ぁぁぁっ!」

ノワールもナイフを放り出して耳を塞いだ。

 

「音楽の時間に……吹いてないのに息だけ入れてフフ~って誤魔化してたら、となりの男子に『あの子吹いてませ~ん!』ってセンセーに言いつけられた恐怖が思い出されるのよぉぉっ!!」

 

「トラウマのレベルが低すぎるわよ!!」

ブランが頭を抱えて叫んだ。

 

【03. クール組のしょーもない恐怖】

 

「……浅はか」

 

ハッカーのジョーヌが、ぶかぶかのローブの中から光のない瞳で溜息をついた。

 

「……本当のPTSDとは、こういうものを言う。……見て」

 

ジョーヌがホログラム画面に映し出したのは――「三角定規の、真ん中に開いている丸い穴」の画像だった。

 

「……3年生の算数。……あの穴に鉛筆の芯を突っ込んでグルグル回していたら、抜けなくなって芯がポキリと折れた。

 ……あの瞬間の、世界が終わったかのような絶望感……。……今でも丸い穴を見ると、指先が冷たくなる」

 

「ただの自業自得じゃないのよ!!」

 

「……私は、これ」

小柄な狙撃手シアンが、無表情のままポッケから「半分に折れた赤青鉛筆」を取り出した。

 

「……5年生の時……赤鉛筆を削っていたら、中の芯が中で折れていて、削っても削ってもボロッと取れて、最終的に親指くらいの長さになった。

 ……あの無力感。……今でも、ロングレンジ・ライフルを装填するとき、中の弾頭が折れてるんじゃないかと震える」

 

「ライフルと鉛筆の芯を一緒にするな!!」

 

【04. 班長の「最大のトラウマ」】

 

「はぁ……はぁ……どいつもこいつも、くだらないトラウマに怯えやがって……」

 

全員のくだらないPTSDをツッコミ倒した天才パイロット・ブラン。

彼女(彼)は誇り高き元・登校班の班長として、腕を組んで冷笑してみせた。

 

「アタシを見なさい! 過去のくだらないトラウマなんて、とっくに克服して――」

 

その時、アルゴのメインコンソールに、異世界セクターからの通信データが届いた。

ファイル名は――『Rikureeshon_Protocol.pdf』。

 

画面に大きく表示された日本語のテキスト。

 

『――本日のレクリエーション:全員で「ドッジボール」を行います』

 

ピクッ。

 

ブランの顔から、一瞬で血の気が引いた。

 

「……あ」

 

「ブラン……? どうしたの……?」シアンが覗き込む。

 

ブランの華奢な体が、ガクガクと震え始めた。

額から大量の汗が吹き出し、膝から崩れ落ちる。

 

「ど……『ドッジボール』……ッ!」

 

「え? ブラン、ドッジボール嫌いなの?」

 

「嫌いとかそういうレベルじゃないわよぉぉぉっ!!」

 

ブランは床に突っ伏して叫んだ。

 

「6年生の体育の時! 相手チームの外野にいた球の速いクラスメイト(※野球部)の投球が! アタシの顔面にダイレクトヒットして!

 鼻血を噴き出しながら倒れて保健室に運ばれたのよ!!」

 

「運動神経いいキャラだと思ってたのにダサッ!?」

ノワールが指をさす。

 

「しかも……しかもその時! 保健室まで付き添ってくれたのが……気になってた女子だったのよぉぉぉっ!!

 鼻血出しまくって泣いてるダサい姿を……好きな女子に見られたあの日の絶望……ッ!

 これ以上のPTSDがこの宇宙に存在すると思うかぁぁぁっ!!」

 

「「「「「…………」」」」」

 

ブリッジに、深々とした沈黙が流れた。

 

「……あ」

シアンはポンと手を打った。

 

「……思い出してみれば……ブランちゃん、あの時鼻にティッシュ詰めながら『俺、本当はあのボール避けて反撃するつもりだったんだ』って見栄張ってたね」

 

「ギャアアアアアアッ!!! 思い出させないでぇぇぇぇっ(吐血)!!!」

 

宇宙の存亡をかけた戦いを越えてきた6人の兵器たちは、今なお「小学生時代のくだらない黒歴史とトラウマ」に完膚なきまでに敗北し続けているのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。