登校班から宇宙戦士へ 作:匿名希望
要塞宇宙船「アルゴ」の自室。
ブランは、姿見の鏡の前に立ち、腕を組んで深刻な顔をしていた。
「……アタシ」
鏡の中には、鮮やかな金髪ショートカットにサファイアブルーの瞳、可憐で引き締まったCカップのスタイリッシュボディを誇る美少女が映っている。
「……アタシは……『アタシ』で……語尾は『~わよ』で……合ってるのか……?」
ブランは頭を抱えてベッドに突っ伏した。
事の発端は、コロニー「ヴァルハラ」に誘拐された直後。
肉体も性別も完全に女の子に変えられ、かつ「登校班の班長」としての威厳も保つため、自分なりに必死に編み出したのが、この「ちょっと勝気なボーイッシュ美少女風の口調(アタシ/~わよ/~でしょ)」だった。
しかし――本来の「明」だった頃の一人称は「俺」であり、語尾も「~だぞ」「~だろ」という普通の男子小学生のそれだったのだ。
「……よし。誰も見てないし……ちょっと試してみるか」
ブランは立ち上がり、咳払いを一つ。
昔の「登校班の班長だった少年」の顔つきを作り、鏡に向かって胸を張った。
「コホン! ……おい、ルージュ! 1年生のくせに泣いてんじゃねえ! 俺が班長として、絶対にお前を守ってやるからな! ……よし、俺に付いてこい!」
バッチリ決まった。
昔のカッコいい6年生の自分そのもの――
「……プッ」
「!!??」
振り返ると、部屋のドアがわずかに開いており、そこから工作員のノワールが八の字眉で必死に笑いを堪えていた。
「ノ……ノワールッ!? いつからそこにいたのよッ!?」
「あ、はは……っ! 『お、俺に付いてこい!』だって……ッ! ギャハハハハハッ!!」
ノワールが廊下で腹を抱えて爆笑し始めた。
「なによその金髪ショートのCカップ美少女の見た目で『俺』とか言っちゃう痛い奴はぁぁっ! ギャップで脳がバグるわよ!!
『ボク』ならまだ可愛げがあるけど、その見た目で『俺』は黒歴史確定でしょ!!」
「~~~~~っっ!! 覗き見すんじゃないわよバカぁぁぁっ!!」
顔面を真っ赤にしたブランは、部屋のドアをバターンッ!! と爆音で叩き閉めた。
「はぁ……はぁ……やっぱりダメよ……」
部屋の中で一人、真っ赤になった顔を冷却スプレーで冷やすブラン。
「見た目が完全に女の子になっちゃったんだから、一人称を『俺』に戻したら……周りから『痛い子』扱いされるだけじゃない……!
かといって『私(わたし)』なんて気取った言い方は恥ずかしくて口が裂けても言えないし……『ボク』なんて言ったらヴェールみたいになっちゃうわよ……!」
葛藤の末に辿り着いたのが、今の「アタシ」という防衛ラインだったのだ。
「『アタシ』なら……女の子っぽさもありつつ、下町っ子みたいな活発さも出せるし……『~わよ!』って語尾をつければ、班長としての強気な指示(命令)もサマになるわよね……!?」
必死に自分の口調の正当性を自己弁護するブラン。
その時、コンコンと静かにドアが叩かれた。
「……ブラン。……入るよ」
自動ドアがスライドし、狙撃手のシアン(元5年生女子・杏奈)が、温かいお茶の入ったマグカップを二つ持って入ってきた。
「……ノワールが、廊下で転げ回ってた。……何かあったの?」
シアンは無感情のまま、ブランにマグカップを差し出した。
「な、なんでもないわよっ! あのバカ工作員が勝手に一人でツボに入ってただけよ!」
ブランはお茶を一口すすり、フンと鼻を鳴らした。
「……ブラン」
シアンはブランの隣にチョコンと腰掛け、ブランの横顔をじっと見つめた。
「……ブランは……今の話し方……『アタシ』って言うの……無理してるの……?」
ギクッ……!!
ブランの肩が跳ね上がる。
「む、無理なんてしてないわよ! アタシはパイロットのブランよ!? この口調が一番しっくりきてるんだから!」
「……そう?」
シアンはマグカップを両手で包み込み、遠い目をした。
「……昔のブランちゃんは……『俺が班長だぞ』って、いつも胸を張ってた。……カッコよかった」
「~~~~っ!」
「……でも」
シアンはブランの方を向き、そのサファイアブルーの瞳を優しく覗き込んだ。
「……今のブランが、『アタシに任せなさい!』って叫んで操縦桿を握る姿も……すごく……かっこいい」
「……え?」
「……『アタシ』でも……『俺』でも……明ちゃんは明ちゃんだし、ブランはブランだから。
……無理に昔に戻らなくても……今のブランの話し方……私、すごく……好きだよ」
「~~~~~~~~~~っっ!!!!(炉心溶融)」
純度100%の直球ストレート(不意打ちデレ)。
「あ……あ……あ……」
ブランの顔面がリンゴを通り越して真っ赤に沸騰した。
元6年生男子のメンタルと、Cカップ美少女の身体が同時にキャパオーバーを起こす。
「シ……シアンあんたねぇぇっ! なんでそういう恥ずかしいことを平然と言うのよぉぉっ!? アタシ……アタシ……もうどういう顔して良いか分からなくなるでしょーがぁぁぁっ!!」
パニックになったブランは、立ち上がって身振り手振りで叫んだ。
「だ……だいたいねっ! 俺……じゃなかった、アタシは班長なのよ!?
俺が……じゃなくて、アタシがしっかりしなきゃ、1年生のルージュ)とかヴェールが……俺の背中を見て……あっ! 一人称が混ざったわよ!!
『アタシは俺で俺はアタシ』になっちゃったじゃないのよぉぉぉっ!!」
「……ふふ」
一人称と語尾が完全にバグってパニックになるブランを見て、シアンは昔のように、小さく優しく微笑んだ。
「……うん。……やっぱり、ブランは……そのままが一番可愛い」
「『かっこいい』から『可愛い』にシフトすんじゃないわよぉぉぉっ(涙目)!!」
結局、ブランが「アタシ」と「~わよ」を捨てられないのは、女の子としての羞恥心と、元・班長としてのプライド、そして何より「そう言っている時の自分を、シアンが気に入ってくれているから」という、最大の理由があったからなのであった。