登校班から宇宙戦士へ 作:匿名希望
運用に最低限必要な人員だけでも数百人、最大で数千人規模の収容を可能とする巨大要塞宇宙船「アルゴ」。
その深部、第7ドローン・プラントと呼ばれる巨大な自動製造ブロックでは、今日も今日とて青白い溶接の光と、カンカンカンという冷徹な金属音が響き渡っていた。
本来この区画は、長旅の途中で乗員が戦死・病死といった不測の事態に見舞われた際、艦の運用維持に必要な最低限の人員(操舵、整備、警備、医療)を迅速に補充するために設計された「超非常用パーツ・ドローン製造ファクトリー」であった。
しかし、この仕様は、元・小学生の子供たち6人だけで構成された反乱グループが、想定運用人員の数百分の一という狂気の規模でアルゴを強奪・出港させた瞬間から、本来の想定を完全に逸脱した稼働を強いられることになった。
数百人分の人的リソースを前提とした保守・戦闘システムを、わずか6人の肉体改造された戦術ユニットだけで回しているのだ。
欠けた人員の穴埋めどころか、人員が欠けていないところを数えた方が早いという状況下で、日々の艦内インフラ維持、防衛網の展開、そして彼女たちの突飛な気まぐれに付き合うための雑用まで、ドローンたちは文字通り休む暇なく生産ラインをフル稼働させられている。
「……エラー、警告。素材供給レートが規定値を30%超過。追加の金属資源を投入してください」
中央コンソールに浮かび上がる冷ややかな電子音声に対し、誰もいない天井に向かってノワールの怒号が響く。
彼女は現在、艦内通路のセキュリティ網を強化するため、護衛用小型ドローンを大量に建造させていた。
「うるさいわね! 勝手に動いてるナノマシンが足りないって言うんだから、そっちでリサイクル炉の出力上げてよ!」
ノワールが吐き捨てる横で、コンベアの上を流れていくのは、およそ戦闘用とは思えないものたちだった。
光学迷彩機能付きの索敵ドローンに混じって、「ルージュの髪が絡まった時に強制切断するための特殊超硬質シザーアームを搭載したメンテナンス・ドローン」や、「シアンの淹れた紅茶をこぼさずに高速運搬するためのホバー式サービストレィ・ドローン」など、本来の軍事機密からかけ離れた専用機が次々とラインオフしていく。
もはやプラントのAIは、6人の少女たちの生活インフラ維持装置と化していた。
プラントの巨大なクレーンが唸りを上げ、天井のハッチから「汎用型作業ドローン(通称:ピコット)」の量産型がザラザラと床に吐き出される。
頭部にパトランプ状のセンサーをピカピカと点滅させながら、直径50cmほどの丸っこいボディを持つドローンたちが一斉に起動した。
「ふあぁ……、また新しいのが大量発生してるねぇ」
そこにフラフラと現れたのは、Kカップの超弩級爆乳を揺らすヴェールだ。
彼女は適当にAIにセットさせたこだわり絶無の日替わりヘアスタイル(今日はなぜか縦ロールのツインテール)を優雅に揺らしながら、足元をちょこちょこ這い回るピコットの一匹をひょいと持ち上げた。
「あ、これ昨日ブランちゃんの訓練に巻き込まれてバラバラになったやつだ。ちゃんと修復されて戻ってきたんだね~、偉い偉い」
「おいヴェール! 勝手にドローンをペット扱いするな!」
奥の通路から、オレンジの耐Gスーツに身を包んだブランが血相を変えて走ってきた。
彼女は今朝、艦内トレーニングルームで格闘プログラムの負荷を上げすぎた結果、射撃訓練用標的ドローンを全損させてしまった。
その補充要請をこっそり出した張本人である。
「だって可愛いじゃん。あ、そうだ、この子に『ボブ2号』って名前つけよっと」
「ドローンに名前をつけるな! どうせ明日には別の個体と入れ替わる消耗品だぞ!」
「え~? でもアルゴの自動製造ラインって、素材さえあれば無限に湧いて出てくるから、ある意味エコだよね」
気楽に笑うヴェールと、頭を抱えるブラン。
そのやり取りを、天井の死角から無数のカメラアイを持った親機ドローンが静かに見下ろしている。
艦内の別の区画では、ダウナー系ハッカーのジョーヌが、ドローンの制御中枢に直接ケーブルを接続していた。
「……コード、接続完了。……こいつの思考ルーチン、少し書き換える」
「……ジョーヌ様、ソレハ非推奨デス。機体制御ニ異常ヲ来ス可能性ガ――」
「うるさい。……このドローン、お掃除ロボットのくせに私の足元を踏んだ。罰として、全室の床を秒速200メートルで雑巾がけするように再プログラミングする」
「ギッ……! ソレハ過負荷デ回路ガ焼ケマス――!」
ジョーヌの淡々とした冷酷な実験によって、今日もどこかの通路で限界突破した超高速お掃除ドローンが音速の摩擦熱を上げて暴走し、それを止めるために別の防衛ドローンが出動するという、無駄に高度な内紛が繰り広げられていた。
唐突にルージュの無線が、艦内ネットワークに響く。
「ええと……各員、ドローンの稼働状況を報告せよ。……って、こらヴェール、勝手にプラントで寝転がるな!」
狂ったように優秀なドローン・プラントの支えと、バラバラな元・小学生たちの騒がしい日常によって、アルゴの航海は今日もハイテンションのまま銀河の海を突き進んでいくのだった。